「骨の強さは骨密度で決まるからカルシウムが大事」は今の医学ではもはや時代遅れの理由

11/30 14:32 配信

東洋経済オンライン

「強い骨」とは何でしょうか。「骨密度」や「カルシウム」が頭に浮かぶかもしれませんが、それだけが決定打ではありません。
骨が衰え、もろくなる「骨粗しょう症」をはじめ骨代謝の診断・研究・治療の世界的権威が、100年健康に生きるための骨の真実を明かした『100年骨』より一部抜粋、再構成してお届けします。

■「骨の強さ」を決める2つの要素

 2022年2月、「骨」にまつわる興味深いニュースが科学専門誌に掲載されました。

 「呼吸器に疾患があったことを示す証拠を骨に残す恐竜の化石が見つかった」という驚くべき論文が有名学術誌「Scientific Reports」に発表されたというのです。恐竜が生きていたジュラ紀は、今からおよそ1億5000万年も前のこと。そんな気の遠くなるようなときを超えて、骨は自分のからだに起きた異変を後世に伝えたということでしょうか。

 すべての臓器を包み、支えている骨は、私たちヒトを含む脊椎動物が生きて、活動していく上で最も重要な屋台骨。強く、太く、頑丈で長持ちしてほしいと願います。

 しかしながら、そもそも“強い骨”とはどんな骨なのかを知っている人は、残念ながら少数派と言えるでしょう。まして、健康長寿の要である、骨の健康を守るための知識は、ほとんど知られていません。

 骨、と聞くと真っ先に「カルシウム」「骨密度」という言葉が思い浮かぶ方も多いでしょう。実際、骨の体積の約半分はカルシウムやリンを主体とするミネラル成分でできています。でも、骨の成分はカルシウムだけではありません。残りの半分は、タンパク質の一種であるコラーゲンです。

 「硬い骨の半分がコラーゲンでできている?」と多くの方は驚かれますが、骨の中でコラーゲンはとても大切な役目を担っています。

■2010年「骨質」が骨の強さにかかわると解明

 骨の構造を理解してもらうために、私はよく、鉄筋コンクリートの建物にたとえてお話しします。

 コンクリートに相当するのがカルシウムで、鉄筋はコラーゲンにあたります。通常、鉄筋コンクリート製の建物は大きな地震が来ても簡単には崩れ落ちませんが、これは鉄筋がしなって、地震の衝撃を吸収してくれるおかげです。

 骨も同様で、カルシウムなどのミネラル成分とコラーゲンの分子が粘り強くつながり合うことで、骨の強度を保っています。

 骨に存在する無数のコラーゲン分子は、棒状のタンパク質です。建物でいうところの鉄筋1本がコラーゲン分子1本で、「架橋」(かきょう)と呼ばれるものが「梁」(はり)の役割を果たして、隣り合う鉄筋同士(コラーゲン同士)をつなぎとめています。

 この無数のコラーゲンが骨に粘り強さ、「しなり」を与えます。コンクリート(=カルシウム)だけの建物は瀬戸物のように粘り強さがなくパリンと割れてしまいますが、鉄筋(=コラーゲン)が足りない骨も、まさにこれと同じです。強度が足りず、弱く劣化しやすいというわけです。

 コンクリート=カルシウムなど=骨密度(骨量)

 鉄筋=コラーゲン=骨質

 という関係性です。骨の強さは、カルシウムだけでなく、コラーゲンが影響しているのです。

 人の骨密度は、生まれてから20歳くらいにかけて一気に上がり、40~50歳くらいから低下します。結果として、10代の子どもの骨密度と80代の高齢者の骨密度は同じ程度です。ですが、骨折するときの「折れ方」はまったく違ったものになります。

 子ども特有の骨折に「若木骨折」というものがあります。その名の通り、骨が若木のようにしなりながら曲がってしまいます。ポキッとはいかない折れ方です。

■かつてのガイドラインとは隔世の感

 子どもの腕や足などの細く長い骨(特に腕の骨)に生じやすく、強く手をついて転倒するなど、細く長い骨の縦方向に力が加わることによって起こります。若木骨折は、基本的に大人がなることはありません。

 同じ骨密度であっても、高齢の方の場合、ポキッと硬くてもろい骨折になるのは、コラーゲンが劣化し、骨質が低下していると、強度は保てないということの証と言えるでしょう。

 「骨を強くするにはカルシウムで骨量を増やすだけでなくコラーゲンの質を高めて骨質を高めることが必要だ」ということを発見したのは私たち慈恵医大のチームです。

 1993年にWHOが示した骨粗しょう症の定義には、「骨の強さは骨密度で決まる、だからカルシウムが大事」とあり、当然ながら骨質のこともコラーゲンのことも書かれていません。

 コラーゲンの重要性など、「骨質」が骨の強さにかかわるメカニズムが解明されたことで、世界の骨の常識はがらりと変わり、骨粗しょう症のガイドラインも改訂され、治療も大きく前進することになりました。

 かつてのガイドラインと現在とでは、まさに隔世の感がありますが、私たちはその後も、骨の常識を塗り替える発見や発明を積み重ねています。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/30(土) 14:32

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