中途採用にはびこる「お粗末な」経歴詐称の実態 立派な実績なのに「仕事がイマイチ」でバレた嘘

4/24 5:02 配信

東洋経済オンライン

組織をより良くするための“黒子”として暗躍する、企業の人事担当。
その裏側を人事エキスパートとして大手・ベンチャー、日系・外資などさまざまな規模や業種の会社で20年以上奔走してきた、現役の人事部長である筆者が、実体験をもとにひも解く本連載。

連載2回目は、中途採用の現場で実際にあった「経歴詐称」、その顛末です。

■アメリカの超名門校卒は本当なのか

 それは私が総合商社の人事部に転職して、間もない頃のことだった。

 財務担当役員から、「直接話したいので、至急来てくれないか」と内線が入った。「入社早々、何かやらかしてしまったか!?」と、おののきながら役員のデスクに向かうと、こう告げられた。

 「萬屋さん、急で悪いんだが、財務部に所属しているAさんの経歴について調べてくれないか」

 「Aさんですか。彼がどうかしましたか?」

 役員は少し口ごもりながら話し始めた。

 「いやぁ、彼って〇〇大(アメリカの超名門校)卒だよね?  しかも前職は超大手メーカーの財務部にいたエリートのはずなんだけど……。

 頼んだ資料のアウトプットはイマイチだし、どうも財務のことをわかっていない感じがするんだよ。もしや経歴詐称してないかと気になってね」

 「えっ。そうだとしたら非常にまずいですね。すぐにAさんに確認して過去の経歴を調べてみます」

 Aさんは、アジア圏出身の外国人男性(40代前半)。私と同じく転職してきたばかりで、いわば同期のような存在だった。

 まさか入社して最初の任務が、同僚の経歴詐称疑惑の解明から始まるとは、想像だにしていなかった。

 本人に「この経歴って本当ですか?」と直接問い詰めても、正直に答えるわけがない。まずはアメリカ超名門校卒の真相をつかむため、「卒業証明書の実物を見せてほしい」と依頼した。

 Aさんは数日後に、証明書を提出。だが、どうも怪しい臭いを感じた私は、本人の了承を取りつけて、大学側に在籍確認を行った。すると、「卒業生にそんな人物は存在しない」とキッパリ。悪い予感は的中してしまった。

 すでにこの時点で「黒」と判定できたが、念のため前職の人事部にも問い合わせると、案の定、在籍の記録はないという。これらの事実をAさんに突きつけると、いよいよ観念し、経歴詐称をしていたことを認めた。

 履歴書や職務経歴書に書き連ねていた、華麗なる学歴や経歴はすべて嘘。大学の卒業証明書は、本人が偽造したものだと判明した。

 まだ試用期間中だったAさんは、即日解雇となった。その後、本国に帰ったのかどうか消息は定かではない。

■経歴について問われ「まさかの」逃走

 私自身、経歴詐称の事案は初めてだったゆえ、少々面食らった。こんな大っぴらな嘘が、一部上場企業の採用現場でまかり通るなんて、信じがたい。

 そこで知り合いの人材エージェントや他社の人事に聞いてみると、意外にも「経歴詐称されるケースは少なくない」というのだ。

 あるエージェントの担当者は、紹介した女性Bさん(30代後半)が経歴詐称をして大変な目に遭ったと教えてくれた。

 有名私立大卒で数々の大企業で実績を上げていたBさん。面接での受け答えもしっかりとしており、企業から即オファーが来て入社に至った。

 だが、実際はまったくもって仕事ができなかった。

 実力を期待して新規プロジェクトのリーダーを任せたものの、一向に仕事が進まない。それどころか、指示したことさえも満足にできなかった。

 「これはさすがにおかしい」と感じた直属の上司が本人に経歴の真偽について問うたところ、突然、自分の荷物を持って逃げ出したのだ。

 会社を出ていったのかと思いきや、どうも社内にある倉庫に逃げ込んでいた模様。倉庫にあった作業服とマスクで変装し、何食わぬ顔で会社を出ていったようだった。

 変装した彼女らしき人物を見たという社員の情報でわかったが、あまりにも稚拙で、奇想天外な行動に上司も同僚スタッフも度肝を抜かれた。言うまでもないが、彼女は二度と会社に現れることはなかった。

 エージェントはすぐに代わりの候補者を人選したが、クライアントからの信用はガタ落ち。契約上、後任の候補者の成約料はもらえなかったそうだ。

 「経歴を少しでもごまかしたら即ブラックリストに載せる」

 要注意人物をリスト化しているというエージェントもいた。一度でも危うい人物をクライアントに紹介したら、自社の信用問題にかかわる。もっともだと思った。

 紹介を受ける側の人事としても、候補者を事前に厳しい目でチェックしてくれると助かるのは事実だ。

■開発者を装う「実績詐称」まで登場

 経歴詐称も問題だが、嘘の実績を語ってアピールする、「実績詐称」も厄介だ。

 これは、私自身がとあるベンチャー企業で中途採用をしていたときのこと。経験豊富なマーケティング職を募集したところ、40代男性が応募してきた。

 経験も実績も申し分ない。「これは期待できそうだ」と、早速私と部下の人事2名体制でオンライン面接を行った。

 その男性は、大手メーカーの商品企画部に在籍し、数々のヒット商品を連発。自らを、ヒット商品を開発した一大プロジェクトのリーダーであり、会社に多大な利益をもたらした功労者だと語っていた。

 ただ、こちらからの質問の隙を与えないほどの饒舌な話しぶりが、かえって不自然に感じた。相手の息つぎのタイミングでようやく食い込んだ質問に対しても、浅い答えしか返ってこず、「これは嘘だな」とピンと来た。

 私は彼の話を笑顔で聴きつつも、こっそり画面の下で、部下にチャットを送った。

 「この応募者の名前をネットでサーチしてくれないか?」と。

 すると、すぐさま「検索しても何も出てきません!」との返事があり、やはり睨んだ通りだと思った。ヒット商品の生みの親とも言える人物が、検索して何も出てこないはずがない。

 おそらく商品企画部に在籍はしていたのだろうが、プロジェクトに何らかの形で関わったメンバーの一人にすぎないのだろう。

 面接でアピールするのは、私はいいことだと思うが、嘘を盛り込んでまで実態より大きく語ってもらっては困る。無論、彼の選考はここでストップ。面接時間を予定よりも30分早くクローズした。

 コロナ以降、オンライン面接が中心となり、こうして面談中にリアルタイムで本人情報を調べられるようになった。毎回ではない。怪しい人物だと感じたときだけ実行している。

■経歴詐称を防ぐリファレンスチェック

 こうした経歴詐称や実績詐称を防ぐためにも、「リファレンスチェック」は有効だ。

 リファレンスチェックとは、直訳すると「身元照会」になる。応募者の職務経歴や実績に虚偽がないかどうか、本人の同意を得た上で前職の上司や同僚、部下などに確認できる仕組みだ。

 Aさんの経歴詐称問題から警戒心が一層増した私は、とくに管理職の採用時において、「リファレンスチェック」を導入するようになった。

 部長クラス以上なら、なおさら必須だ。経営はもちろん、社内の士気を左右するほどの重要ポジションだけに失敗は許されない。

 基本的には、リファレンスチェックを行う専門の代行会社に外注し、選考の最終段階で行っている。

 これはあくまで私自身の方針だが、できれば「現職の上司・先輩(同僚)・部下」のうち一人でもいいので、現職の関係者にヒアリングできたらベストだと考えている。

 現職の場合、「転職が会社にバレてしまうので避けたい」と言う人が多いが、さすがに上司や部下は無理だとしても、誰か信頼できる同僚・先輩にどうにか頼み込んで、応じていただきたい。

 現職の会社を最近退職したという元上司や部下でもいい。やはり直近の情報に勝るものはない。その応募者の現在の実力や職場での働きぶりがよくわかる。

 オンライン面接が主流となった今、画面だけでは見えない応募者の人となりを把握するためにも、リファレンスチェックを導入する企業は増えている。

 実際、リファレンスチェックはどのように行われ、そこから応募者の何が読み取れるのか。中途採用の舞台裏について、次回以降、さらに深掘りしたいと思う。

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最終更新:4/24(水) 5:02

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