トヨタ3.9兆円!驚異の最高益でも楽観できないワケ「厳しい販売環境」で苦戦する市場とは?

11/21 7:32 配信

ダイヤモンド・オンライン

● トヨタが過去最高益の見通し 好調決算に潜む課題は?

 11月10日までに自動車メーカー各社の2024年3月期(23年4月~24年3月)の上期決算が出そろった。なんといってもトヨタ自動車が通期の業績見通しを上方修正し、営業利益が前期比65%増の4兆5000億円、純利益が61%増の3兆9500億円で、最高益を更新する圧倒的な数字を出してきたことが話題になった。

 これは、過去最高の22年3月期の純利益2兆8501億円を大幅に上回る驚異的な数字だ。トヨタの宮崎洋一副社長CFOは「長年の収益構造改善が着実に進んできた結果と受け止めている」と評価し、「将来に向けた投資を推進できる、強固な財務基盤につなげられた」(宮崎CFO)と総括した。

 「トヨタの稼ぐ力、最強」という評価が高まった決算発表だったが、実は上場している自動車メーカ9社(乗用車7社、商用車2社)のうち、エンジン不正訴訟対応を抱える日野自動車を除く8社がいずれも営業利益を上方修正している。

 トヨタだけでなく、マツダ、スズキ、いすゞ自動車なども最高益更新の見込みだ。これは日本の自動車産業がコロナ禍を乗り越えて、100年に一度の大変革期における生き残りに向けた大きな改革をしてきたことを裏付ける業績だと受け止められるだろう。

 トヨタ以下、自動車各社の24年3月期通期純利益予想は、ホンダ9300億円(前年比43%増)、日産自動車3900億円(同76%増)、スバル3200億円(同60%増)、スズキ2400億円(同9%増)、マツダ1700億円(同19%増)、いすゞ1650億円(同9%増)、三菱自動車工業1400億円(同17%減)だった。

 なお、三菱自は営業利益では300億円の上方修正をしたが、中国事業の撤退分の特別損失を計上しており、純利益では前期比減を予想。また、日野自が米国集団訴訟和解金340億円を特別損失として計上し、220億円の赤字を予想している。

 エンジン不正問題による対応が最終段階にある日野自を除く日本車全社が、“本業の稼ぐ力”である営業利益を上方修正する好業績を達成した上で、来期24年度に臨むことになるのだ。

 ただし、各社が今期好調なのは、半導体不足の解消に伴う生産体制回復と北米事業の好調による収益増に加えて、円安による為替差益が大きく業績を押し上げたという要因も大きい。

 営業利益の上方修正額のうち、円安の寄与分はトヨタで1兆1800億円、ホンダで2940億円、日産で400億円、スバルで1401億円、スズキで420億円、マツダで798億円、三菱自で398億円となっており、その上振れ分は大きい。

 とはいえ、それでもトヨタは営業利益率10%以上と高水準だ。これは、足元の円安効果だけでなく、豊田章男社長時代の14年間の積み重ねの成果という数字でもあるだろう。

 くしくもこの4月から6月にトヨタをはじめとして、スバル・マツダ・いすゞでもトップ交代が起き、それぞれ新社長が就任した。

 トヨタでは佐藤恒治社長が新体制をスタートさせるとともに、今期最高益をフックに「成長投資を増やして、モビリティカンパニーの新たなフォーメーション作りを目指す」と意欲を見せる。だが、佐藤トヨタ体制のかじ取りは未知数であり、稼ぐ力・成長の恩恵をいかに配分していくか、モビリティカンパニーへの変革の具現化へ課題も多く真価が問われるのはこれからだ。

● 円安効果で増益も 中国事業に暗雲

 一方で、好調な決算に沸いてばかりいられない懸念材料も浮き彫りとなっている。

 それは、各社ともに世界最大の市場として大きな収益源に位置付けていた中国事業が変調をきたしていることだ

 三菱自は、この上期決算発表直前に中国での生産撤退を決断し、20万台の生産能力を持つ広州汽車集団との合弁事業から手を引くことを発表した。三菱自は、日本車メーカーの中でもいち早く(ふそうトラックで)中国現地で合弁生産を実現したが、昨今の中国での販売低迷を受けて3月から新車販売を停止していた。結果的に、販売回復が見込めず再開を断念し、広汽三菱からの出資引き揚げによる特別損失を今期に計上することになった。

 中国事業の苦境は三菱自に限ったことではなく、トヨタなど各社ともに厳しい事態に陥っている。中国では政府によるNEV(新エネルギー車。BEV・PHEV・FCEVの総称)政策の影響から地場メーカーの存在感が強まっており、日本車メーカーは総じて苦戦を強いられている。

 日産の社長就任直前まで中国事業を現地で統括していた内田誠社長は「中国は新興メーカーの参入も多く、日産にとって厳しい環境が続いている。値引きが厳しく利益を出せる水準にない。中国事業を再び成長軌道に乗せるべく事業構造計画を立て直す」と、中国事業の立て直しを最大課題に挙げた。

 ホンダも北米事業の収益増と円安により営業最高益を予想したものの、中国などアジアの販売台数見通しが7%減と従来計画から下振れすることなどから、「中国の合弁工場の構造改革で固定費を抑制する方向にかじを切る」(青山真二副社長)と中国の課題に言及した。

 最強と称される業績予想を打ち出したトヨタといえども、中国事業では苦戦を強いられている。トヨタと広汽集団の合弁「広汽トヨタ」は7月に約1000人を解雇した。「中国は厳しい販売環境にあり、トヨタとしても足元のシェアを維持していく計画だ」(宮崎CFO)と、中国市場でのシェア維持がやっとというほどだ。

 マツダの毛籠勝弘社長は「中国現地の販売は予想以上に厳しいが、反転攻勢へ」と述べるものの、現地の合弁企業を統合するなどの動きがみられ、戦線は縮小している。

 中国事業に関しては、ダメージを受けていないメーカーもある。スズキはインドに集中投資するため、18年に重慶長安汽車との合弁事業を解消し早々と撤退を決断しているほか、スバルは現地生産を目指し合弁先を検討したものの合意に至らず、進出できなかったことが結果的に幸いした格好となっている。

 いずれにしても、欧米・日・韓国の自動車メーカーがこぞって重視してきた世界最大の自動車市場である中国だが、政府による地場産業優遇の姿勢や中国経済の停滞などによる市場変調が浮き彫りとなり、日本車各社の中国事業が大きな岐路に差し掛かっていることは確かだ。

 「中国は抜けた者勝ち」なのか、それとも残存者が勝利するのか。中国事業の成否次第で、今後の各社の業績にも大きく影響を与えそうだ。

● ホンダは四輪の収益力回復なるか 日産はルノーとの関係が課題に

 中国事業の懸念に加えて、各社の今後の注目論点についてまとめておこう。

 まず、ホンダは営業利益段階で前期比54%増の1兆2000億円と過去最高を更新する見込みで、これにより課題であった四輪事業の黒字転換を果たし、「二輪事業に四輪事業がおんぶに抱っこ」の状態からいよいよ脱するかが注目される。

 ただし、北米と並び“二本柱”となってきていた中国事業の低迷に加え、EV事業での米GM共同開発プロジェクトの解消が今後の電動化戦略にどう影響を与えるのか、不透明な状況となっている。

 日産は、決算発表後の8日に提携先の仏ルノーと、双方が15%ずつの出資とする資本関係の見直しが完了したと発表した。これにより、両社が対等に議決権を行使できるようになり、11月8日付で新たなアライアンス契約を発効した。すでに日産と三菱自は、ルノーのEV新会社「アンペア」にそれぞれ最大で6億ユーロ(約978億円)、2億ユーロ(約326億円)出資することで合意している。

 3社の関係は、ルノーと日産が対等出資する関係となるが、日産が三菱自に34%出資することに変わりはない。当面は3社アライアンスの形を継続するが、今期の日産・三菱自の業績は予想以上に好転している中で、今回のルノー・日産の対等出資に続く変化もあり得るとみられる。

 商用車メーカー再編の動きとしては、いすゞが1650億円と最高益を更新するのに対して、日野自はエンジン不正の米国集団訴訟和解金350億円の特損計上で最終損益220億円の赤字予想を見込んだ。

 日本の商用車メーカーは、いわゆる大型4社として長らく日野自・いすゞ・三菱ふそう・UDトラックス(旧日産ディーゼル)が存在し、20年にいすゞがUDトラックスを買収して傘下に収めたことで、3強体制となっていた。

 しかし、22年春に日野自のエンジン不正が発覚したことで、日野自の親会社のトヨタと、三菱ふそうの親会社の独ダイムラーも含めた4社会談により日野と三菱ふそうの統合が決定された(24年3月に最終契約予定)。

 この結果、日本の商用車構図は、いすゞ+UDトラックスと日野自・三菱ふそうの2強体制に集約されることになる。商用車(トラック・バス)も電動化や自動運転などの新モビリティ移行への投資により業績動向が左右される中で、その方向が注目されている。

 各社、それぞれ課題を抱えており、好調な業績に安堵してばかりもいられない。

 (佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)

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最終更新:11/24(金) 18:16

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