「ドローン急襲」想定しない日本のヤバい防衛体制 「いずも」上空から撮影ができてしまう事情

5/15 9:02 配信

東洋経済オンライン

 海上自衛隊は米英海軍に並んで世界三大海軍を自称しているが、大戦後も実戦を重ねてきた米英海軍に比べて実戦に対する甘さがある。自分の都合の良い戦いを夢想し、近年最も警戒すべき自爆テロやドローンによる攻撃に対する近接防御を軽視している。このため停泊地で奇襲を受けて全滅する可能性すらある。

 3月下旬に神奈川県横須賀市に停泊中のヘリコプター護衛艦「いずも」の飛行甲板上空をドローン(無人機)が飛行した動画が中国の動画共有サイトなどに投稿され、その世間では識者含めて真偽が議論されていたが、9日防衛省は記者に説明会を開き、これをフェイクではなく実際の映像である可能性が高いと認めた。

 防衛省が事実を認めるまでに1カ月以上かかったのは防衛省、自衛隊の情報分析能力、危機管理能力、公報能力の低さが原因といえよう。X(旧ツイッター)ではマニアが2月24日に件のドローンがいずも上空を飛行している写真を撮影している。

■ドローンだけではなく無人艇による攻撃にも無力

 実は海上自衛隊の根拠地である横須賀や呉などの重要拠点に防空システムは存在しない。ドローン探知用のレーダーも、対ドローン用の妨害システムだけでなく、通常の対空兵器も存在しない。無論護衛艦などには対空兵装があるが、エンジンの火を落としている護衛艦は即座には反撃できない。

 今回の出来事は戦時であれば、開戦劈頭にドローンのスウォーム(群衆)攻撃で護衛艦隊や潜水艦隊は戦わず撃滅されることを意味している。また空を飛ぶドローンだけではなく無人艇による攻撃にも無力だ。

 これは海上自衛隊が長年自衛艦隊は外洋に出て正々堂々敵艦隊と戦う自分たちの都合がいい「かっこいい艦隊決戦」のみを想定しており、根拠地が急襲されることを想定していないからだ。まるで昭和の帝国海軍が日露戦争の日本海海戦のような艦隊決戦を夢想して現実を無視して第二次大戦で無様な敗北を喫したのことに軌を一にしている。

 海自に限らず陸空自衛隊でもドローン対策は遅れている。これは自衛隊のドローン導入が遅れており、自分たちが使って経験が少ないので脅威を感じていないことも大きな原因だ。自衛隊は無人プラットフォームの導入では先進国はもとより、中国、パキスタン、トルコ、UAE、シンガポールなど多くの中進国、途上国よりも遅れている「昭和の軍隊」なのだ。

 ドローンの導入や対ドローン用の妨害、迎撃システムの導入が遅れているもうひとつの原因は防衛省、自衛隊に割り当てられている電波の周波数帯が軍用の通信に適していないからだ。いわゆる防衛3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)でも周波数帯の見直しは謳われているが手つかずだ。筆者は過去歴代の防衛大臣に会見でこの件を質問し、また昨年担当部署である整備計画局情報通信課に取材したが現状運用はまったく問題ないとの見解だった。

■高い値段で低性能に改造する日本

 しかし実態は違う。他国では開発、実用化されている対ドローン用ジャマーなどの多くは自衛隊の周波数帯では使えないので輸入して使用できない。また無人機にしても本来長距離での運用に必要な海外で使用されている5.8~2.4GHzの範囲の周波数帯が使用できない。陸自が採用したボーイング社のスキャンイーグルも仕様を5GHzから2.4GHzに変更されている。このため性能は大幅に落ちている。わざわざ金をかけて、高い値段で低性能に改造して採用している。

慶応大学SFC研究所の部谷直亮上席研究員がWedge2023年3月号に寄稿した「『有事』に無力な日本の電波法ドローン活用に必要な覚悟」では以下のように述べている。

 「米軍が運用する米国製ドローン『Skydio2+』の通信距離は最大6キロメートルとされるが、これを日本の電波法に適合した形で運用するとたった300メートル程度しか飛行できなくなってしまう」。また対ドローン機材を扱う企業の社長の言葉として「電波法の出力規制によって、対ドローン機材の有効射程距離は100メートル程度にまで低下する」

 他国ではすでに港湾のパトロールや防御用に武装した無人艦艇を導入している国もあるが、海自にはそのような装備はない。仮に導入しても前記のような周波数帯の問題で能力は低くなるだろう。

 周波数帯の変更は、一円も掛けずに飛躍的に防衛力を強化できる。電波の管理は総務省であり、これは政治を巻き込む利権の温床だ。だから手を付けにくいのは理解できるが、それをやらずにドローン導入やネットワーク化を勧めても機能しないガラクタを買って終わることになる。政策官庁である防衛省は本来全力でこれに取り組むべきだ。またこのような政治を巻き込み複数の省庁にまたがる懸案事項は本来NSS(国家安全保障局)が積極的に関与すべき案件であるが、そのような動きは見られない。

 海上自衛隊では拠点だけでなく、護衛艦などの水上艦艇のドローン含めて近接防御に対する危機感が欠如している。先述のように「堂々たる艦隊決戦」以外は戦いでないと思っている節がある。護衛艦などの水上艦艇にも外洋に出れば電波法の規制なしに使えるのだが、対ドローン用のジャマーなどは搭載されていない。

■ドローンに対処するRWSの導入も進まない

 さらにRWS(リモート・ウェポン・ステーション)の導入も進んでいない。RWSとは元来装甲車用に開発された機材で機銃など小火器に暗視装置、ビデオカメラ、レーザー測距儀などを統合したもので、車内にいながら周囲を監視し、射撃できるシステムだ。また安定化装置や自動追尾装置が搭載されていれば走行中に移動する目標も射撃が可能となる。

 2000年にアメリカ海軍のUSSコールが自爆ボートに襲撃された事件をきっかけに軍艦用に海軍型が開発され、各国海軍が急速に採用してきた。これは高速艇など水上の脅威だけではなく、ドローンに対処することが可能だからだ。

 2001年12月22日に海自は海上保安庁とともに北朝鮮不審船追撃という「実戦」も経験している。また2009年3月13日、我が国はソマリア沖・アデン湾における海賊行為対処のための海上警備行動を発令し、翌3月14日、海上自衛隊の護衛艦2隻をソマリアに向けて出航させ、以後も海賊対処の派遣は続いている。このような近接戦闘の重要性を痛感すべき「実戦」を経験しているのにその備えに極めて鈍感である。

 だが海自のRWSの導入は遅かった。海自がRWSの導入を始めたのは2019年、RWSはもがみ級FFM(多目的フリゲート)および、あさひ級DD(汎用護衛艦)二番艦のしらぬいへの搭載からである。これは日本製鋼所が開発した国産RWSで12.7ミリ機銃を搭載しており「水上艦艇用機関銃架(遠隔操作型)」と呼称されている。

 このRWSは平成21~23年度までに技術研究本部(現防衛装備庁)が日本製鋼所を主契約者として陸上自衛隊の車輌搭載用として12億円をかけて研究試作されたものをベースにしているが、陸自は採用しておらず、昨年度から導入が始まった次期装輪装甲車にはコングスバーグ社のプロテクターを選定している。

 今後建造されるイージスシステム搭載艦には中口径のRWSが搭載される予定である。だが既存の護衛艦やそのほかの艦艇に搭載される気配はない。この5年で43兆円という潤沢な防衛費が手当てされていても、だ。

 そして導入されたRWSには重大な欠陥があり、高速艇やドローンへの対処が事実上不可能だ。それは対象との距離を測るためのレーザー測距儀、自動追尾装置がコスト削減のために外されているからだ。これでは高速で移動するハイスピードボートやドローンの射追尾と射撃は困難で、命中は期待できない。

 また、RWSは二基しかないので死角が多く、艦後部はがら空きである。左右2基のRWSでは360度の近接防御は不可能である。これまで海自の護衛艦は近接防御用として20ミリガトリング機関砲を装備したCIWS(Close In Weapon System)を搭載していたならば、これである程度RWSの死角をカバーできたが、もがみ級で採用されているSea RAM(Rolling Airframe Missile)は短距離用ミサイルしか搭載していない。このため後部はほぼ死角となる。

 防衛装備庁はその他の銃器は最上級には搭載しないと説明していたが、筆者が批判記事を書いたせいか、その後海幕は他に機銃を搭載すると説明を変えている。

 防衛装備庁によるとこのRWSの採用はノルウェー、コングスバーク社製のシー・プロテクターとの比較を実施し、国内品は輸入品に比べ、維持整備が容易であること、海自の所要に合致した陸自要求の研究試作品があったこと等を考慮し、国産品を選択したとのことである。だが実態は単に書類審査をしただけだ。

■競合製品のトライアルもせずに開発経験のないメーカーに発注

 通常このような装備は実際に競合する製品を複数艦艇に搭載して1年程度のトライアルを行い、各種天候での作動や能力、耐久性などが評価されるのが普通だ。RWSの運用経験がない海自ならば尚更だ。だがこの国産RWSは実際に艦艇に搭載して試験も研究も行っていない。にもかかわらず海自はそれをやらずに要求仕様を作り、国産に決定してRWS開発の経験のないメーカーに丸投げして開発させ、それを採用した。

 装甲車向けのRWSはそのまま艦艇用に転用できない。それは海と空しかない海上では陸上と画像の処理が違ってくるからだ。このため画像処理の変更をやらないと目標を的確に捉えられない。さらに陸上よりも耐水、防水性能が求められ、海水による塩害対策も必要だ。採用までの経緯を見ている限りこれらの対処が行われたようには思えない。

 なぜこのような胡乱なことになったのか。これは海自がRWSを主として見張り用であり、また単に遠隔で射撃ができればいい、見張りと機銃の要員を兼ねさせればクルーの数を減らせるという考え方のためだろう。

 実際に海自はRWS導入の理由を「省人化、省力化及び隊員の安全確保の観点から導入した」また「機関銃を自動化したものであり、従来と同等の運用を行う」と説明している。つまりこのRWS導入は近接防御というよりも省力化が目的だったように思える。

 監視要員、機銃の射手と補弾手の3名を1名でこなせるので省力化になるというわけだ。また見張り要員が艦橋横の見張り用の張り出しにでて雨風に耐える必要がなく、ブリッジ内で見張りができるので見張員の負担が軽減できるということだろう。

 コスト削減のためにレーザー測距儀や自動追尾装置を外したというが、そのくせ高い国産機銃を採用している。平成30年度に海自は調達単価660万円で2丁の12.7ミリ機銃を調達している。アメリカ軍調達単価は約1400ドルである。国産品の単価はその4.4倍以上である。輸入コストがかかっても160万円程度、悪くても国産の半額以下程度だろう。まとめ買いをすればコストはさらに下がるはずであり、1丁あたり450万円、実に6割程度のコスト削減が可能になるはずだ。なぜそれをやらないのだろうか。陸自は12.7ミリ機銃の調達を国産から輸入に切り替えている。

 他国の海軍では機銃と中口径機関砲を搭載したRWSを併用するケースも少なくない。中口径機関砲はより射程距離が長く、また電子信管を採用していれば目標付近で爆発させて破片を拡散させることによって、命中しなくても目標を無力化できる。またRWSだけではなく、発射速度の高いガトリングガンを含めた、12.7ミリ、7.62ミリ機銃などを複数搭載して死角をなくす努力をしている。

■5年間で従来の約2倍の防衛費を使うことになるが…

 自衛隊は諸外国よりも火力により攻撃を躊躇う傾向が強い。そうであれば近接戦闘の相手の射撃を困難にする音響兵器やストロボ機能がついたサーチライトなどのノンリーサルウエポンの搭載も検討すべきだったのではないだろうか。一定間隔で点滅するサーチライトは操縦者や射手の照準を妨害するだけでなく、音響兵器同様に三半規管を刺激して気分を悪くさせる効果もある。

 これは大戦中にスイス軍がドイツ空軍の急降下爆撃機に対する対策として開発された技術で、歩兵用のタクティカルライトにも多く採用されている。イスラエルでは暴徒鎮圧用のノンリーサル型RWSにこれらの技術が採用搭載されている。

 また電波の周波数帯の問題が解決する見込みが当分ないならば英国のスカイウォール社などのドローンをネットで捕獲するグレネードを発射するランチャーのシステムなど物理的な方法で捕獲、撃墜する手段もあり、これらを導入を検討するべきだろう。

 政府はオーストラリアの次期水上艦艇にもがみ級をベースにした新型艦を提案するとされているが、現代の水上戦闘艦に不可欠な近接防御を無視してRWSすらマトモに使えない「海軍」の設計思想や実力を疑われるのではないだろうか。

 わが国はこの5年間で従来の約2倍の防衛費を使うことになっている。だが果たしてそれが有効に使われているのだろうか。少々の費用や本来必要な手間を省いて、高価な護衛艦隊が停泊地で全滅するようでは防衛費の有用な使い方とはいえないだろう。

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最終更新:5/15(水) 13:02

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