【京都】初夏の散歩は「画聖・雪舟展とゆかりの地」で

5/12 11:32 配信

ダイヤモンド・オンライン

 風薫る5月は京都散歩のベストシーズン。今月のイチオシは、日本絵画史のレジェンド「雪舟」でしょう。京都国立博物館だけでの開催です。雪舟ゆかりのスポットとて併せて、この機会に“画聖”のすべてに触れてみましょう。(らくたび、ダイヤモンド・ライフ編集部)

● 必見!巡回なしの京都限定特別展 

 日本絵画史を語る上で欠かせないキーパーソンが雪舟です。同志社大学今出川キャンパスに接する京都五山第二位の相国寺(臨済宗相国寺派)で修行し、明に渡り中国の画法を学び、多くの水墨画を描いた室町時代の画僧です。

 その影響力は甚大で、戦国、安土桃山から江戸へと時代が移ろっても、長谷川等伯や狩野探幽など当代を代表する著名な絵師たちがこぞってリスペクト、雪舟の画風や筆づかいを学び、今でいう“推し活”に励みました。

 京都国立博物館で5月26日まで開催中の『雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―』では、雪舟の国宝絵画全6件(一人の画家としては最多!)をはじめ、雪舟に憧れ、オマージュをささげた後世の絵師たちの作品が一堂に会します。他エリアへの巡回展がない、京都だけのスペシャルな展覧会です。

 全7章構成のこの展覧会、魅せ方がとにかくユニークなのです。第1章「雪舟精髄」では、荒々しく力強い線やジグザグの視点誘導が印象的な代表作「秋冬山水図」をはじめ、「破墨山水図」「山水図」「四季山水図巻(山水長巻)」「天橋立図」「慧可断臂図(えかだんぴず)」と、国宝6件が集結します。第2章「学ばれた雪舟」では、後世に影響を及ぼした作品、無款のため伝雪舟となっている作品などが並び、雪舟をまとめて堪能できる貴重な機会となっています。

 水墨画は、その名の通り墨の濃淡で表現されるものですが、じっと眺めていると、色彩が浮かび上がってくるような感覚に。建物の屋内に人物が描かれていたりして、目を凝らすほどに作品の情景に引き込まれていくことでしょう。

 第3章は雪舟の画風を継承した長谷川等伯や雲谷等顔が、第4章では雪舟を神格化した狩野派へ……。後世の絵師たちの視点を通して雪舟の魅力を輝かせ、俯瞰できる仕掛けとなっています。「あれ?この構図、ついさっきも見たような……???」そんなデジャヴも楽しめます。

 1897(明治30)年、帝国京都博物館として開かれた京都国立博物館は、特別展のほかにも見どころが満載。南門入り口から向かって右手に見える赤レンガ造りの建物は、日本建築界の草分けで宮廷建築家として活躍した片山東熊が設計を手掛けた「明治古都館」。表門(西門)や、西門から南門に至るまでの袖塀も同時期の赤レンガ造りで、いずれも重要文化財に指定されています。

 噴水の前には、フランスの彫刻家ロダンの代表作「考える人」のブロンズ像も。世界に複数残るこの像の中でも、初期に鋳造されたものといいます。西の庭には平安京の石材、豊臣秀吉が築いた方広寺大仏殿の敷石や鉄輪、秀吉が鴨川に架けた三条大橋や五条大橋の橋脚や橋桁などの野外展示が点在し、京都の歴史に触れられる穴場的スポットとなっていますので、併せてご覧ください。開館時間は9時~午後5時30分で、5月13日と20日の月曜は休館日となっています。

● 水墨画ではなく立体作品! 雪舟作の名庭へ 

 ここで、雪舟の生涯について少々。室町時代の1420(応永27)年、備中(現・岡山県)に生まれ、幼くして地元にある宝福寺(総社市)という禅寺に預けられます。修行よりも絵を描くことに夢中の少年時代を過ごしたといい、江戸時代以降語られるようになった、こんなエピソードが有名です。

 ある日、和尚が修行をおろそかにして絵を描いていた雪舟を叱り、お仕置きとして柱にくくりつけました。夕方、縄をほどこうと戻ったところ、雪舟の足元にネズミが……!!

 和尚はギョッとしますが、よく見るとそれは、頬を伝ってこぼれ落ちた涙で雪舟が描いた絵だったのです。あまりのリアルさに感心した和尚はその日以来、雪舟が絵を描いていてもとがめず、見過ごしてくれたそうです。

 やがて雪舟は、京都の相国寺に入り、国宝「瓢鮎図」(妙心寺退蔵院蔵)で名高い如拙(じょせつ)や、その後継者である周文に絵を学びます。周防(現・山口県)に下がり、守護大名である大内氏の庇護のもと描き続けていた48歳の時、遣明使節に加わり約2年滞在して腕を磨きました。帰国後は再び周防を主な拠点とし、旅をしながら絵を描き続けたのです。

 そんな雪舟とゆかりの深い寺院が、京都国立博物館最寄りの京阪本線「七条」の隣駅、JR奈良線・京阪本線「東福寺」駅から徒歩10分ほどの所にあります。京都五山第四位に列した東福寺の塔頭(たっちゅう)の一つ、芬陀院(ふんだんいん)がそれで、雪舟寺とも呼ばれます。元亨年間(1321~24年)、関白・一條内経により創建されて以来、一條家の菩提寺となりました。修行した地元の宝福寺が東福寺の末寺だった縁もあり、雪舟は東福寺を参詣した際、芬陀院に宿泊したといいます。

 一條家の当主に亀の絵を依頼された雪舟は、石組の亀島を主役とした庭園を造り上げ、平面ではなく立体で亀を表現しました。庭が完成した夜のこと。庭先で物音がするので、和尚が戸の隙間から庭をのぞいてみたところ、雪舟が造った石組の亀が手足を動かし、庭をはい回っていました! 翌朝、そのことを聞いた雪舟は、亀の甲の上に大きな石を置きました。すると、それ以来亀の石組は動かなくなったという逸話が語り継がれています。

 雪舟作と伝わる庭園は、方丈の南側。白砂の奥、向かって左側に鶴島、右側に亀島の石組を配した苔庭が広がります。二度の火災で荒廃していた時代もありましたが、1939(昭和14)年、作庭家の重森三玲により修復され、現在に至ります。ちなみに、方丈の東には、同じく重森三玲の作による庭園もあり、茶室「図南亭」の丸窓越しに眺めることができます。竹林を借景とした庭と対峙(たいじ)し、耳を澄ませば、葉擦れの音や鳥の声が響き、心静まるひとときが過ごせます。

 芬陀院を訪れたら、ぜひ東福寺へも足を延ばしましょう。ここは京都屈指の紅葉名所。今の季節は、“青もみじ”の名所でもあるのです。爽やかな風が渡る通天橋から一望する新緑は、格別のすがすがしさ! やはり重森三玲による国指定名勝「東福寺本坊庭園(方丈)」もお見逃しなく。

● “雪舟推し”の二大絵師ゆかりの地へ

 次は、雪舟没後に生まれたため師弟関係がなかったにもかかわらず、“雪舟推し”だった二大絵師のゆかりの地を訪ねてみましょう。

 水墨画の最高峰と称される国宝「松林図屏風」(東京国立博物館蔵)を描いた長谷川等伯(1539~1610)は桃山時代の絵師です。等伯ゆかりの寺といえば、京都御所の北西方面に広がる西陣の日蓮宗本山「本法寺」(上京区)です。市バス「堀川寺ノ内」停留所から徒歩3分ほど。墓所には等伯の墓もあります。

 等伯は晩年、自身の作品に「雪舟五代」と記しました。等伯と親交のあった本法寺10世日通上人が等伯の画論を筆録した『等伯画説』(本法寺蔵/国の重要文化財)には、雪舟→雪舟の弟子・等春→祖父→父→等伯へと、雪舟流が継承されていることがつづられています。これをもって、雪舟の五代目としたわけですね。

 一方、等伯とほぼ同時期に活躍した雲谷等顔(1547~1618)は、大内氏の後を継いだ毛利家から、雪舟のアトリエと山水長巻を授かり、雪舟流の正式な後継者をうたいました。雪舟がいかに偉大な絵師であったかがうかがえますね。

 本法寺には、1599(慶長4)年、25歳で急逝した息子・久蔵の七回忌供養のため等伯が描いた「涅槃図(ねはんず)」が所蔵されています。涅槃図とは、お釈迦様が入滅されて(亡くなって)横たわる側で、嘆き悲しむ弟子や動物たちの姿を描いた仏画のこと。本法寺の涅槃図は、縦10m、幅6mに及ぶ日本最大級のスケールで、国の重要文化財に指定されています。

 動物たちをよく見てみると、白いゾウ、ラクダ、トラ、カメなどのほか、ちんまりと座ったモフモフの猫や、大坂・堺の港町で南蛮人が連れて歩いているのを見て描いたともいわれる2匹の凛々(りり)しい洋犬(コリー)もいます。通常展示されているのは複製ですが、3月半ばから約1カ月間の毎年恒例「春の特別寺宝展」では実物が公開されます。実物をじっくり眺めたい方は来年を楽しみに待ちましょう。

 狩野探幽(1602~74)は、室町幕府8代将軍足利義政の御用絵師を務めた狩野正信を祖とする狩野派の絵師で、国宝「洛中洛外図屏風」を描いた狩野永徳の孫に当たります。狩野派の基盤を確立した永徳の再来と称された探幽は、わずか16歳で徳川幕府の御用絵師に。一門のリーダーとして、二条城、江戸城、名古屋城などの襖絵や障壁画を手掛けています。

 探幽も雪舟をリスペクトし、雪舟の作品を基軸として自身の画風を確立したため、その画風は、江戸時代の絵画全般における共通基盤となり、400年にわたって日本絵画界を席巻した狩野派一門の発展にも貢献したのです。狩野家の菩提寺は、等伯ゆかりの本法寺のすぐ北東にある日蓮宗本山「妙覚寺」(上京区)です。1378(永和4)年に日実が開創、墓所には狩野元信や永徳らの墓があります。

 墓前で静かに手を合わせたら、最後に日本最大の禅寺で臨済宗妙心寺派大本山である「妙心寺」(右京区)へも足を延ばしてみましょう。市バス「妙心寺前」停留所、JR嵯峨野線「花園」駅から徒歩5分ほどの所にあります。

 探幽が8年の歳月をかけて、55歳の時に完成させたという法堂天井「雲龍図」は、修復などはされておらず、描いた当時のまま。渦を巻く雲の間から現れた龍は、どの場所から見ても目が合うことから「八方睨みの龍」の異名を持ちます。また、仰ぎ見る場所によって、空へ昇っていくようにも、空から降りてくるようにも見える、不思議なパワーを宿しています。今年の干支でもある龍の姿を、堂内を少しずつ移動しながら見上げてみてください。

【本文で紹介した名所ほか関連リンク集】
雪舟(総社市) 京都国立博物館 東京国立博物館 相国寺 宝福寺(総社市) 京阪本線「東福寺」駅 東福寺芬陀院 本法寺 妙覚寺(八本山を巡る) 妙心寺 ※( )は遷移先のページ

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最終更新:5/12(日) 11:32

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