25日に払います、が地獄の始まり…家賃保証会社の月末督促ドキュメント《楽待新聞》

10/9 19:00 配信

不動産投資の楽待

私は元・家賃保証会社の管理(回収)担当者。十数年間働いて去年、辞めた。現在まったく無関係な仕事なのかと言えば、そうでもないのだけど。

2024年2月8日の記事では、延滞1カ月目の入居者に対する督促業務──「初期督促」について取り上げた。今回はその終盤、25日から月末最終日までについて書いてみたい。本連載も、もうじき最終回。つまり、月末付近である。ちょうど良かろう。

そういうわけで、読者諸賢に乞う。もうじき終わる連載なので、本稿にもし不愉快な箇所があったとしても、どうかご寛恕いただきたい。

■25日に支払約束が集中する理由

給料日が25日の人は多い。だから初期督促では、延滞客との支払約束日は25日に集中しがちだ。

大抵の人は仕事を1つしかしていないし、カネが入る日に払ってもらいたいから、自然とそうなる。もっとも、年金生活者は偶数月の15日、生活保護の受給者は次の支給日にしかカネが入らなかったりするけれど。

家賃保証会社の管理(回収)担当者には、「数字」がある。延滞発生額の◯◯%以上は月末までに回収しなさいとか、そういう、会社が設定する目標数字。

目標数字のカウント方法や締切日は、会社によってマチマチだろう。が、月末が締切日のケースは多いのではないだろうか。

ここで、25日に支払約束が集中する理由が、もう1つ生まれる。仮に、延滞客の多くが月末の支払いを希望してもだ。

なぜか?

月末の支払約束が不履行であれば、確実に今月の数字にならないから。25日なら、リカバリーする時間が一応ある。そのため一旦は、少し無理矢理にでも25日での支払約束へ誘導しがち。

しかし25日の支払約束。もし不履行なら……リカバリーの時間があるとは書いたが、仮に31日が月末最終日であっても、あと6日しかない。月末が土日祝日なら更にタイトになる。

朝も夜も土日祝日も休まず働けばいいじゃない?

家賃保証会社って、単なる民間企業なのだ。どこの会社とも同じように、労働法の規制がある。

確かに家賃保証会社の管理(回収)担当者は、自社の経営陣からすら「他に行く場所なんて無いサラ金崩れだろう、お前らは」と見下されることもある。「仰る通り!」と答えるしかない。管理(回収)業務しかできないような中高年男性も多い。

武士の刀の如く、枕元に社用スマホを置いて、寝起きしている年配の同僚がいた。真夜中でも延滞客から連絡があれば、対応できるように。妻子と出かけた夢の国で、シンデレラ城を眺めながら退去交渉をした僚友もいた。

そういう無給の奉仕も存在するが、一応は会社員なので、生意気にも労働法に庇護される立場ではあるのだ。完全オフとは言い難い部分はあっても、休日や振替休日も普通は取得できる。

ただでさえ高ストレスの職場だ。それくらいはしないと社員が辞める。以前にも書いたが、私は仕事のストレスからED(勃起不全)に成り果てた。



話を戻そう。己はEDだと認めるしかなかった、在りし日の悲しい気持ちを思い出したから。

25日に支払約束日が集中する理由を前述したが、突き詰めれば結局、担当件数が多いからでもある。どういうことか?

最初の段階では事情を深くは聞けず、安易に支払約束を取得してしまうのだ。数が多すぎていちいち深く状況を聞けない。SMS(ショートメッセージサービス)でやり取りする際は、特にそうだ。

延滞客が条件反射的に「25日に払います」と希望したら、頷いてしまう。目標数字をあまり意識する必要がない、アルバイトや派遣社員が電話を受けることも多い。

それはかまわない。繰り返しになるが、じゃあ全件詳しく事情や状況を聞けといわれても、時間的に困難だからだ。

問題は約束の25日に支払えなかった延滞客である。そこから、言い訳を聞いていくことになる。

そして、やはり、もはや25、26日。時間的猶予がさほどない。だからこそ、その言い訳がアタマに来る。

ここから先は、延滞客との電話を、日付順に紹介していこう。

私から電話をかけた、受けた、どちらの場合もある。ほとんどは25日の支払約束を守れなかった延滞客たち。そして、それまで連絡が取れなかった、あるいは、話だけはできても支払いはできない、そういうものも含めている。

なお、2024年2月8日の記事で紹介した「言い訳」と似た、というか、ほぼ同じものも登場する。それだけ頻出するからだ。

当たり前だが、延滞客とは、それぞれ違う背景と人格をもった別個の人間である。1人として同じ人間はいない。あなたと私が別人であるように。にもかかわらず、まるでクラウド上に置いた同一人格かと錯覚する程、同じ言い訳を使う。

そのため今回は、延滞客の性別や年齢を省く。意味や必要がない。それほどに、よく聞くセリフばかりだから。

気になるなら、各々勝手に適当な年齢・性別を割り振ってほしい。大体それで当たってるはずだ。

■X月25日

「仕事先が変わった。給料日が25日だと思っていたが、月末だった。だから、今日は支払えない」

普通、給料日なんか間違えるか?

「インフルエンザに罹った。動けるようになるまで支払いを待ってくれ」

インフルエンザと診断されたのなら、病院には行けたのだろう? 食べ物だって買えたのだろう? それなのに、動けない?

こういう手合いは大抵、実はカネを使ってしまっていた……などと後日に自供する。

インフルエンザが流行るシーズンには、彼らは嬉々として「インフルエンザで寝込んでいる」と口にする。O157が流行れば「O157で外出できない」。コロナ真っ盛りであれば「コロナで起き上がれません」だ。

言葉の端から「だから支払いに行けるわけがないでしょう?」という傲岸を滲ませて。

インフルエンザやO157、そしてコロナ。それで亡くなる方々が、この世には確かに存在するのに。未来ある幼い子供を含めて。

罰当たりめ。1日くらいは支払いを待つから、せめて本当にその病気に罹患してくれ。

「給料日が今月から月末に変わった」

当日に給料日が変更になる会社って、どんなんなの?

■X月26日

「兄が病気でカネを貸した。だから(昨日)払えなかった」

普通、自分の家賃まで貸すか? あなた、もしかして「幸福な王子」なの?

「取引先がカネを払ってくれなかった」

自営業者に多い。これは、嘘か本当かわからない部分がある。私は会社員しか経験したことがないから。本当だったら仕方ないと多少は思う。

ただ、それほどに不安定なら、もっと安い家賃の部屋に引っ越せば? とも思うが。

「親戚が病気で青森まで行かねばならなかった」

生活保護受給者ですらこの言い訳を使う。家賃まで使って、他人の見舞いに行くか?

安易に25日の支払約束を取得してしまう我々にも非はあろう。

しかしほとんどは、延滞客が「25日までには支払える」と答えたから、その約束を取得してもいるのだ。全員に対して、それほど疑って話はできない。とにかく最初は効率良く捌かねばならないから。

■X月27日

「忙しくて支払いに行けない」

全盛期のカニエ・ウェストですら恋愛する時間があったのだ。30代の生活保護受給者が、支払いに行けないほど忙しいわけがないだろう?

「やっぱり今月払えない。来月の5日に払いたい。必ず払う。逃げも隠れもしない」

逃ゲモ隠レモシナイ。延滞客から頻繁に飛び出るワード。地球の裏側まで逃げたって咎めないから、今日さっさと払ってくれないか?

■X月28日

前日の27日はクレジットカード等の引落しが多い。

「昨日、他の会社の引落しがあり、口座からカネがなくなった」──だから、来月25日に支払いたい。

なぜ口座にカネが入っていたの? どうしてさっさと滞納賃料を払っていないの? 他社の引落しが発生することは、わかっていただろう? なぜ、むざむざ引落しされるの?

本当に、どうしたらそんなに迂闊に生きられるの? どうして? どうして? 彼らの頭をノックしながら、米津玄師氏が歌う『アイネクライネ』ばりに問いかけたくもなる。

■X月29日

「出張でまだ帰れない。月末までに帰る。キャッシュカードが自宅なので出張先では払えない」

アンタは毎月毎月、よくも都合よく月末付近に出張しているな。

「財布を落とした。カネがない。嘘ではない。部屋に来て(カネがないことを)調べてくれてもかまわない」

「(延滞客は)財布を落としたってよく言いそう」、あなたはそう思うかもしれない。確かにそうだ。しかし後段の「部屋に来て調べてくれても構わない」。これもかなりよく聞く発言である。

わざわざ「カネがないこと」を確認するために部屋に来いと? 家賃保証会社は営利企業だぞ? その訪問の意味は何だ? 「カネがないことを確認してきます」と言って私は社外に出るのか? まことの給料泥棒ではないか。

■X月30日

「実は仕事を変えたばかりで、今月は給料が出ない」──ダカラ今月ハ、払エマセン。

この辺りの日付から、真実を語り始める。文字通り、今更。どうするのだ、今更。

仕事を変えたばかりのため、まだ給料が支給されない。実に、多い。延滞客は本当に、仕事を転々とする。仕事を転々とするから、滞納のサイクルに入るのかもしれないが。

意外に多いのが住民税の差押え。そんなに役所は仕事してるのかと感心する。本当なのだろうか?

日雇いの仕事で、飲食代等に消えてカネが手元に残らなかった。雨で、雪で、台風で、仕事が少なかった。暑くて熱中症になり日雇い仕事ができなかった。ことごとく、多い。ただ、月初の段階からそれを申告しているのなら、仕方ないとすら思う。

しかし、連絡がずっと取れず、訪問。不在。未払賃料の請求通知をポストに投函。その後の30日にかかってきた電話がこれだと、どっと疲労を覚える。

連絡も支払いもないから訪問したのだ。私という社員の人件費だってタダではない。いや、単にもう中年なので、身体が疲れるのだ。

私は延滞客の部屋になんて行きたくない。インターホンを押すと、指が臭くなることもある。それでも仕事だから、訪問している。結果がこれかと。

■X月31日

それまで全く連絡が取れなかったのに、やっと月末に電話をかけてくる、或いはSMSを送ってくる。そういう延滞客はそれなりに、いる。内容が「今日、支払う」ならまだいい。否、万歳三唱である。

だが、「来月の25日に払う」だけのメッセージだったら? もう本当に、頼むから、私に出来ることならやるから、だから──この世から消え失せてくれないか? スマホのディスプレイを睨んで舌打ちしてしまう。

ちなみに31日なら、また新たな家賃滞納が発生してるんじゃないの? と疑問を持たれるかもしれない。答えを先に書くなら、「まだ明確にはわからない」だ。

家賃保証会社が契約者の家賃滞納を知るルートは、大きく分けると2つ。

1つ。不動産会社や家主が「家賃滞納が発生したから立替して」と代位弁済請求してくる。

もう1つ。家賃保証会社が、契約者の銀行口座から家賃の引落をかける、その結果。

なお、家賃のクレジットカード決済は、まだ一般的ではないと思うので除外する。

前者の請求は普通、翌月以降に届く。銀行口座の引落結果が判明するのも、数営業日が必要。どちらも今月内ではない。「どうせ滞納だろうから」と、督促する場合が無いとはいわないが、例外的である。

「頑張ったが借金できなかった」

継続的に連絡が取れていて、これであれば、諦めもつく。本当は何の努力もしていないだろうけど。他人にカネを借りろとは、イマドキ要求しない。匂わせることすらないとは、言わないが。

ちなみに、2024年8月5日の記事で少し触れた家賃保証会社は、数万円の督促のために分娩室まで行く。ドアにカギを取付け部屋から締め出すロックアウトも平然と行う。不在の延滞客を待つために勝手に部屋に入りさえする。そういう旧時代の遺物みたいな連中も未だ存在はする。しかしそんな会社は稀だ。いずれ大きく問題化するだろう。

ところで、旧時代……ではないが、以前は平日15時以降に振込手続きをすると、次の銀行営業日の着金になっていた。まだ覚えている人も多いと思う。

2018年後半にモアタイムシステム(土日祝や夜間など、銀行の営業時間外にも即時振込を可能にする仕組み)が稼働。ほぼリアルタイムでの着金となった。

もっとも、モアタイムシステム未加盟の金融機関からの振込では以前と変わらず。加盟していても、タイミングによっては翌日以降の着金になるけれど。

ともあれ、管理(回収)担当者の月末対応は大幅に変わった。

なにせモアタイムシステム稼働前は、月末最後の平日15時を過ぎた延滞客からの「いま振込みました」。本当に頭痛がした。

もちろん、振込したとの申告だから「ありがとうございました」と返しはする。客商売のマナーとして当然だ。が、「でも来月付ですね」と付け加える。

翌月付の着金だと、私の今月の「数字」にカウントされないから。

そして、胸中で毒づく。

あのね、何度も何度も「ちゃんと時間内に間に合うなら、31日まで待つ」って、念を押したよね?

確かに月内に着金してくれというのは、コチラの都合。会社員のノルマの問題だ。ヨソから見れば馬鹿らしい限りだろう。それは認める。

だけどね、本当は先月末が支払日の家賃を、ここまで待っているんだ。そこは、ちゃんと、やってくれよ。

他人の期待を裏切り続けて、そんなだから現在の困窮があるのでは? アンタを誰も信用しない。他人との約定を破り続けてただ生きている、哺乳類。アンタに「来月」が必要だとは、私には思えないよ──これがモアタイムシステム稼働前。

いきなり前言を翻すようだが、もしかしたら稼働後も、心理面ではそこまで変わってないかもしれない。19時半を過ぎる頃には最早、諦観に至る。なるようにしかならない。心穏やか。

結局は、払う人間は払う。払わないなら払わない、払えないのだから。

実は、コンビニで支払える用紙も送付している。使用期限内であればそれで支払いも可能だが、同じこと。払う人間は払う。払わないなら払わない、払えない。

延滞客が希望すれば集金にも行こう。そんな連絡が唐突に入ることは稀だけど。

現在の数字と、まだ着金確認ができていない金額を合わせて、着地数字を概算する。

絶対に目標数字が達成しないのであれば、上司が帰るまでは、無意味に延滞客へ架電し続ける程度の「マナー」は必要かもしれない。言い換えれば、もはや今日できることは何もない。やれることはやった。頃合いを見計らって、おうちに帰ろう。

そうして、いつもと変わらず、月末が過ぎる。

毎月毎月、月末はやってくる。十年一日、同じ会話をし続ける。

今月のほとんどの延滞客には、来月も督促をする。なぜなら延滞客のほとんどは、いつからかは知らないが、滞納のサイクルの中に住んでいるから。

先月も、その前も。それこそ1年前、下手をすれば10年以上前から延滞客だから。



2024年8月27日の記事は「家賃保証会社の求人に応募してみようかな」という人へ向けて書いた。

本稿も、管理(回収)担当者の求人へ応募を検討している人が、どんな仕事なのかと読んでくれているのかもしれない。そうであれば、とても嬉しい。

今後、人間の仕事をAIが奪うそうだ。

AIみたいな賢い代物なら、家賃保証会社の管理(回収)業務なんて、半年やれば嫌気がさすだろう。馬鹿馬鹿しくって。

爆弾を自らの担当区域で炸裂させて、賃貸物件そのものをこの世から消滅させるのでは……なんて思ったりするが、実際のところ、なかなか奪われにくいのではなかろうか。

延滞客との交渉では、嫌な質問もせねばならない。嫌がられることもしなければならない。払いたくはなくとも、払ってもらわねばならない。どうしても。

民間企業が、仮にも「お客様」へ使うAIには、不向きな分野ではないだろうか。もっとも、私はAIの専門家でもなんでもない。全く見当外れかもしれないが。

ともあれ、現在ではまだ、AIとやらに取って代わられてはいない。来月も再来月も、まだだろう。管理(回収)担当者は、いつもと変わらぬ月末を迎えるのだ。

管理(回収)担当者の求人に応募を検討している、あなた。あなたはこんな月末を、何度迎えたいだろうか?

永遠無限に何度でも、死ぬまで繰り返したいと願うなら、まさにあなたの天職かもしれない。

元家賃保証会社社員・0207/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待 編集部

関連ニュース

最終更新:10/9(木) 19:00

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

もっと見る

日本株ランキング

注意事項

© LY Corporation