老後の資産形成を支える制度として注目を集めるiDeCo(個人型確定拠出年金)が、今後の制度改正でより利用しやすくなる見込みです。2025年6月に「年金制度改正法」が成立し、私的年金制度の充実も組み込まれているのはご存知でしょうか。
現行の制度では、働き方や加入区分によってiDeCoに加入できる年齢の上限に差があることが課題とされてきました。この改正では、この上限を法律公布から3年以内に「70歳未満」へ引き上げることが決まりました。
今回は、こうした制度改正の背景を踏まえながら、現行のiDeCoのしくみや加入者の実態、掛け金の状況を最新データにそってわかりやすく解説します。
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iDeCoのしくみ、どんな税制優遇がある?
iDeCo(イデコ)とは、自分で決めた金額を積み立て、その資金を自分で運用し、原則60歳以降に受け取ることができる私的年金制度です。
iDeCoの最大の魅力は、次の3つの税制優遇にあります。
・掛け金が全額所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減される
・運用益が非課税になる
・受け取る際も、公的年金等控除や退職所得控除の対象となる
これらのしくみにより、節税しながら効率的に資産を増やすことができます。
iDeCoは「確定拠出年金法」に基づく任意加入制度で、掛け金とその運用益を合わせた金額を将来の年金として受け取ります。
原則として60歳まで資産を引き出すことはできません。現行制度では、原則として60歳未満まで掛け金の拠出が可能ですが、国民年金の任意加入被保険者など、特定の条件を満たした人は65歳未満まで拠出が可能です。また、加入できるのは、20歳以上60歳未満の公的年金の被保険者(国民年金任意加入被保険者など特定の条件を満たせば65歳未満)です。
続いて、iDeCoに加入しているのはどんな人が多いのか、加入者の構成比を見ていきましょう。
iDeCoの加入者375万人以上、どんな人が多い?
iDeCoの加入資格は、国民年金の被保険者種別によって細かく分かれています。令和7年9月末時点の最新情報に基づき、加入者の構成比と被保険者の種類を確認しましょう。
・第1号加入者:自営業者とその家族、フリーランス、学生など、20歳以上60歳未満の国民年金の第1号被保険者です。2025年9月末時点の加入者数は38万6323人です 。構成比は、全加入者数(375万5780人)に対する割合で約10.3%です。ただし、国民年金保険料の納付を免除されている方(障害基礎年金受給者等を除く)や農業者年金の被保険者は加入対象外です。
・第2号加入者:会社員や公務員など、厚生年金に加入している国民年金の第2号被保険者です。2025年9月末時点の加入者数は320万5939人です 。構成比は約85.4%で、iDeCo加入者の大多数を占めます。第2号加入者のうち、企業年金未加入者が最も多く、次いで共済組合員、企業年金加入者となっています。
・第3号加入者:厚生年金の被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者です。2025年9月末時点の加入者数は15万1110人で、構成比は約4.0%になります。
・第4号加入者:国民年金の任意加入被保険者(60歳以上で年金資格期間が不足している人や海外居住者など)という特定の条件を満たす人に限定されるため、他の区分と比べて加入者数は少ないです。2025年9月末時点の加入者数は1万2409人で、構成比は約0.3%になります。
加入者の8割以上が会社員や公務員といった第2号加入者であることがわかります。
なお、どの被保険者種別であっても、iDeCoの老齢給付金を受給している方や、老齢基礎年金などを繰り上げ受給している方はiDeCoには加入できません。
iDeCoの加入者、どんな人がいくらまでの掛金?
加入区分と企業年金の有無によって、月々の掛金の上限額が以下のように設定されています。
●第1号被保険者(自営業者など)
月額6万8000円(年額81万6000円)が上限です。
●第2号被保険者(会社員・公務員など)
企業年金の加入状況によって異なり、月2万円から2万3000円までの範囲で設定されています。
例えば、企業年金がない会社員や専業主婦(夫)などは月額2万3000円が上限、企業型DC(企業型確定拠出年金)とDB(確定給付企業年金)のような確定給付企業年金の両方に加入している会社員や公務員は月額2万円(年額24万円)が上限となります。
●第3号被保険者(専業主婦/夫)
月額2万3000円(年額27万6000円)が上限です。
掛金は月々5000円から1000円単位で自由に設定でき、上限額の範囲内でいつでも変更可能(年1回限り)です。
ただし、企業年金加入者や公務員は、掛金を年に数回まとめて拠出する「月別指定(年単位)拠出」は選べず、毎月定額拠出のみ可能です。
iDeCo加入者の掛け金、みんなは「いくらぐらい掛けてる?」
iDeCoの毎月の掛金額の分布は、各加入者種別の上限額の違いや、税制優遇を最大限活用しようとする加入者の行動によって、顕著な傾向の違いが出てきます。
iDeCo公式サイト「iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況」にて令和7年3月末時点の「加入者別の掛金額の階層別分布図」をみてみましょう。
※掛金額の層は1万円から5000円刻みで集計されています。
●第1号被保険者(自営業者など)
平均掛金額2万7669円です。
第1号加入者は、掛金上限額が最も高い(月額6万8000円)区分であるため、掛金額の分布は二極化の傾向にあります。最も掛金の多いボリュームゾーンは少額の9000円未満の層で、約23.8%を占めています。
一方で、上限額に近い6万5000円以上の層は約19.9%となっています。
●第2号被保険者(会社員・公務員など)
第2号加入者は、企業年金の有無によって掛金上限額が異なりますが、いずれの区分も上限額付近を拠出する人が半数前後を占めています。
・企業年金未加入者(上限2万3000円)2万円~の層が最も多く、58.3%と過半数を超えています。平均掛金額は1万6677円です。
・企業年金加入者(上限2万円)1万円~の層が49.5%とボリュームゾーンです。平均掛金額は1万3186円です。
・共済組合員(上限2万円)1万円~の層が53.3%と最多で、半数以上が上限額付近まで拠出しています。平均掛金額は1万3673円です。
●第3号被保険者(専業主婦/夫)
平均掛金額は1万4408円ですが、上限額が月額2万3000円の第3号加入者も、上限額に近い水準を拠出する人が多い傾向です。ボリュームゾーンは上限額に近い2万円~の層が46.2%と、最も大きな割合を占めています。
●第4号加入者(任意加入被保険者など)
平均掛金額は4万6375円と、全加入者種別の中で最高額で、第4号加入者は加入者数が少ないものの、全区分の中で上限額に近い額を拠出している割合が最も高いのが特徴です。
ボリュームゾーンは上限額に近い6万5000円~の層が48.8%と、約半数を占めています。
第2号、第3号、第4号加入者のほとんどが、それぞれの掛金上限額に近い金額を拠出することで、iDeCoの税制優遇を最大限活用しようとする強い傾向が明らかになりました。
これは、特に上限額が低い区分(第2号・第3号、上限2万円~2万3000円)において、節税メリットを意識した行動が明確に現れていると言えます。
まとめにかえて
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛け金が全額所得控除となるなど強力な税制優遇があり、第2号・第3号加入者を中心に、多くの人が上限額近くを拠出して節税メリットを最大限活用しています。
また、今後は加入可能年齢の上限が「70歳未満」に引き上げられる見込みであり、より長く老後資金を準備できる制度となります。
iDeCoを始めるには、まず運営管理機関のウェブサイトなどで情報収集し、無理のない掛金額と運用商品を選定することが大切です。自分に合った運用商品を選び、資産形成をはじめてみてはいかがでしょうか。
参考資料
・厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
・iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)の特徴」
・iDeCo公式サイト「iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者数等について」
・iDeCo公式サイト「iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況」
・iDeCo公式サイト「iDeCoパンフレット」
村岸 理美
最終更新:11/12(水) 16:20