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なりすまし広告蔓延、「デジタル押し売り」にはもううんざりだ~ネット時代の最善のマーケティング戦略は広告からPRへ

5/6 5:02 配信

マネー現代

やたらに増えたネット広告

(文 大原 浩) 電通調査レポート 2月27日「2023年 日本の広告費」によれば、日本の総広告費は7兆3167億円(前年比103.0%)と過去最高を記録した。巨大な市場である。

 そして、総広告費のうちインターネット広告費は、3兆3330億円(前年比107.8%)であり、45.5%と全体の「半分」に迫る勢いである(2021年の2兆7052億円から増加)。

 それに対して、新聞・雑誌・ラジオ・テレビメディアの(既存)「マスコミ四媒体」の広告費は、2兆4538億円から2兆3161億円へと減少している。

 総広告費も2021年の6兆7998億円から2023年の7兆3167億円へと増加しているが、その牽引役はインターネット広告であることは間違いない。

 実際、私がネットを使用していて感じるのは、「広告がやたらに増えている」ということであり、同じように感じる読者も少なく無いのではないかと思う。

 もちろん、既存四媒体などと同じように、ネット媒体もその収益の多くを広告に依存しているから、ネット媒体が繁栄するに伴って広告の量が増えるのも当然だ。だから、それ自体はメディアビジネスとしての必然である。

 だが、ネット特有の問題もある。それは「押し売り機能」である。

「デジタル押し売り」が蔓延!?

 基本的に新聞、雑誌の場合はこのような機能は無い。また、テレビ・ラジオのコマーシャルは「避けがたい」という観点からある意味「押し売り」的な側面もある(ただし、録画・録音した場合はスキップできる)。だが、こちらの個人情報を握って「戸別訪問」されるような不気味さとは無縁だ。

 それに対して、ネット広告は、「押し売り」を超えて、「まるでストーカー」のように追いかけてくる。

 確かに、最近はクッキーなど個人情報収集に関する機能に関して世間の目が厳しくなった。だが、私のように企業のHPなどを(研究のために)頻繁に訪問する人間にとっては、それらに対応して「クッキーの選択をどうしますか?」と、その都度確認されるのは非常に煩わしい。

 それでも、クッキーを全面的に受け入れる場合にはそれほどの手間はかからないが、拒否する場合には細かな設定が必要なケースも多く煩雑だ。

 また、ニュースサイトでも、本文が殆ど隠れるほど広告があふれているような状況には当惑する。

 ところが、それほど広告を掲載してもインターネット広告は単価が安いから、ネットメディアの経営は決して安泰では無い。むしろ経営的な困難を抱えているメディアが多いといえよう。

 確かに、既存四媒体と比べて、「人々の時間消費の多くがネットに費やされている」「広告効果の測定が容易」、「機動的な広告戦略が可能」など多くの利点を持ったインターネット広告の優位性は、はっきりしている。だから今後もネット広告市場は拡大が予想されるが、現在のように「質を伴わない、消費者に敬遠される広告」があふれると、「インターネット広告の『信頼性=効果』が薄れ、さらに大量の広告をより安価で出さなければならない」という悪循環に陥る。つまり、「ネット広告(メディア)の『媒体価値』」が減少するということだ。

 浴びせるような大量の広告で新規顧客を獲得できれば、「他のネット・ユーザーの不快感」など構わないという企業もあるだろう。特に、短期的な売上げだけを追求する企業にこの傾向が顕著だ。

 だが、長期的・永続的に企業を繁栄させようと思えば、「市場にいるすべての人々が『潜在顧客』」であると考えるべきである。

 また、ネット広告の「媒体価値」が減少して、安売り合戦が激しくなれば、結果として「いくら広告を大量に打っても、(広告主は)思ったような効果を得ることが出来なくなる」のだ。

 このような長期的観点から考えた、「ネット広告のあるべき姿」とはどのようなものであろうか? 

メタ(フェイスブック)の大失策

 ネット広告の質の低下の象徴的事例が、TBS NEWS DIG 4月25日「前澤友作さんら有名人を騙った『なりすまし広告』投資詐欺被害 メタ日本法人を提訴 SNS運営会社への提訴は初」である。

 神戸市などに住む男女4人が「フェイスブックなどで実業家の前澤友作さんらの名を騙った『なりすまし広告』を閲覧し、投資詐欺の被害に遭った」として、運営するメタの日本法人に対し、およそ2300万円の損害賠償を求める訴えを神戸地裁に起こしたのだ。

 また、Wedge online 4月23日「【前澤友作氏メタ社を告訴へ】『タダで使わせているから法的責任も負いません』って...なりすまし広告への『利用規約』から見るメタ社の主張、詐欺被害を防ぐには?」にあるように、自分の名前を(なりすまし広告で)騙られた前澤友作氏もメタを提訴する見込みだ。

 この「有名人なりすまし広告」は、今回の騒ぎが起こるまで、私もフェイスブック上で頻繁に見かけた。投資関係の広告が多いようだが、4月3日公開「バフェットの警鐘『ヘビの油売りに気をつけよ』の意味~投資で成功するためには『自分の範囲』を見極めることだ」で述べた「ヘビの油売り=悪徳セールスマン」の典型例に思える。

 前記Wedge記事では「Meta社に対して前澤氏は、『自分のなりすまし広告が出続けているので、なりすまし広告を削除してほしい』と申し出たが、Meta社は『AIを使用して広告を審査するなど、なりすまし広告をなくす努力をしているが、全部は無くせないので理解して欲しい』というばかりだという」と伝えられる。

 一般のユーザーの投稿に対しては、コミュニュティ規定違反などでアカウント制限・凍結を平然と行うのに、(少なくとも私から見れば)「一目瞭然」の「なりすまし広告」が大量に流れていることは構わないのであろうか? 
 前述「【前澤友作氏メタ社を告訴へ】『ただで使わせているから法的責任も負いません』って...なりすまし広告への『利用規約』から見るメタ社の主張、詐欺被害を防ぐには?」では、「Meta製品に起因または関連して失われた利益、収入、情報もしくはデータ、または派生的損害、特別損害、間接損害、懲罰的損害もしくは付随的損害について、弊社がそのような損害の可能性について告知されていたとしても、一切の法的責任を負いません」という。

 つまり、「ただで使わせてやっているのだから何の法的責任も負いません」とも解釈できる利用規約を、裁判における「反論」の根拠にすると予想されているのだ。

 しかし、少なくとも日本の法律ではKEIYAKU=WATCH 昨年12月27日「公序良俗とは? 民法のルール・違反の具体例・リスク・無効を回避するための注意点などを分かりやすく解説!」にあるように、「一方の当事者にとってあまりにも不利益な内容の契約などは、公序良俗違反によって無効であると考えられる」のだ。

 前記「前澤友作さんら有名人を騙った『なりすまし広告』投資詐欺被害 メタ日本法人を提訴 SNS運営会社への提訴は初」は神戸地裁への提訴であるから、「公序良俗」の問題がクローズアップされるであろう。

 前澤氏本人の訴訟は米国で起こす予定だが、同様の概念で争うことは可能だと考えられる。

北風と太陽

 もちろん過去、既存四媒体でも「詐欺広告」の問題が存在しなかったわけではない。

 だが、現在の広告ビジネスで圧倒的優位性を持つネットの「コストパフォーマンスの良さ」は、「詐欺師たち」にも大きな恩恵をもたらす。

 例えば、ダイレクトメール(封書、定形郵便物)を送付するためには一通84円(25グラム以下、秋以降は110円の予定)の他に封筒代、紙代、印刷代がかかる。1万通であれば現在でも84万円+アルファであり、秋以降だと110万円+アルファである。

 それに対して1万通のフィッシングメールを送付するコストは殆どかからない。

 同じことがネット広告にも言える。クリック型課金の場合は、クリックされない限りいくら広告が表示されても料金が発生しないから、Eメールの大量送付と同じことが可能だ。

 このように、「詐欺師に都合の良いネットの特性」から、「なりすまし」や「フィッシング」のような怪しげなものが少なからず紛れ込んでいるのがインターネット広告の現状である。

 本来広告とは、「消費者に有用な商品・サービスの情報を提供」する「社会的意義のある存在」のはずだ。ところが、インターネット広告では「広告内容の精査」がきちんと行われず、「なりすまし」や「フィッシング」のような「望ましからぬ存在」をきちんと排除できていないように思える。これはメタ社だけではなく、業界全体の問題であると考える。

 少なからぬユーザーが広告表示のブロックを試みるのも、それらがコートで防ぎたい「北風」だからだ。「太陽(光)」のように「全身に浴びたい」と思える有用な情報が、その北風によって邪魔をされているのではないだろうか。

PRという考え方

 「広告」という概念は改めて説明する必要がないであろうが、「PR」という言葉は「広告」と混同されている場合も多い。

 極めて単純化して表現すれば、

 ◎広告は掲載料を払って載せる
◎PRは「広告によらずに世間の話題にする」。「(原則)ただでメディアに取り上げてもらう」

 という点が違いだ。

 もちろん、何もしないで世間の話題になったり、メディアが取り上げてくれたりするケースは多くない。そこでPR会社が「話題になり、メディアに取り上げてもらいやすい企画・コンテンツ」を捻りだすわけである。だから、企業側にとってはPR会社への支払いが当然生じるから、必ずしも安いというわけでは無い。

 だが、インターネットを含む「メディア」に取り上げられるような(広告ではない)「情報」が、「北風」よりも「太陽」に近いことは明らかだ。

 実際、優れた商品は「売りつける」必要が無い。優れた商品の口コミは、インターネットなどの通信の発達によって、以前よりも世の中に広がりやすいのだ。ただし、悪評も同様である。

 だから、「優良な企業(製品・サービス)」であれば、ネットの伝播力を最大限に生かしたPR戦略が最も効果的なはずだ。

 ただし、「優良ではない企業(製品・サービス)」の場合はこの限りではないということは申し添えておく。

 なお、具体的なPR会社については、MARKETING PICKS 2022年3月1日「PR会社の売上ランキング上位7社! 利用するメリットやデメリットも解説」、比較Biz 4月22日「PR会社の売上高ランキング【TOP28社】」、LISKUL 4月3日「【2024年版/比較表つき】PR企業おすすめ15選を比較! 特徴・得意分野などを紹介」などを参照いただきたい。

優れた商品・サービスは「売りつける」必要が無い

 すでに述べたように、優れた商品の口コミは以前よりも広がりやすい。悪評も同様だ。

 当然、大量の広告で「ストーカーのように消費者を追いかけることが正しいか?」という疑問が浮かぶ。

 昨年12月4日公開「金持ちになるためのやり方はシンプルだ~『正確に間違っているより、大雑把に正しい方がましである』」4ページ目「汗ではなく考えることこそが富を生む」と述べた。まさに、(広告ではない)PRは「アイディアの塊」である。

 過去長い間「広告」が消費者に商品を告知する有力な方法であり、企業などの売り手はそれ以外の手段をあまり持たなかった。だが、消費者が成熟し、ネットで多くの情報が手に入る時代に「商品やサービスが押しかける広告」は時代遅れではないだろうか? 
 多くの消費者がそのような広告を「北風」と感じてマントで避けようとする。

 したがって、現在(優良)企業に必要なのは「単純な広告」ではなく、消費者のマントを脱がせる「太陽」のような、「心を鷲掴みにする、練りに練った(PR)企画」ではないだろうか? 
 ・・・・・

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最終更新:5/6(月) 5:02

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