人生には「変えたいのに変えられない状況」がある。どうにかして一歩を踏み出したい、でも怖い……そう悩みながら、動き出せない人も多いだろう。そんな行き詰まった状況を変えるためのアドバイスを送り続けているのが、中国の名門大学・北京大学出身の心理カウンセラー、リ・ソンウェイ氏だ。今回は、彼のもとに寄せられた人生相談を紹介する。
● 【相談】「社会復帰したいのに、一歩目が踏み出せません」
(※本記事は、『5%の変化――自分を変える「小さな実験」』(リ・ソンウェイ著)からの抜粋です)
先生、こんにちは。
私は5〜6年ほどうつ病と不安障害を患っていましたが、今は回復し、比較的健康に過ごせています。今でも自分を責める声が浮かぶことはありますが、以前ほど振り回されることはありません。
ただ、社会復帰しようと思う一方で、怖さが拭えません。1、2年前に仕事を辞めた原因が病気だったこともあり、また職場に戻れば再発するのではないかと不安になるのです。
思い返すと、以前やっていた営業職が病気の引き金になったのかもしれません。
私は内向的で、職場になじめず、営業職も好きになれませんでした。意味を見いだせないまま無理に続けた結果、心が限界を迎え、退職して療養することになりました。
本当は早く次の仕事を見つけたいのに、どうしても行動に踏み出せず、他にやることを見つけては現実逃避してしまいます。
「この本を読み終わったら履歴書を書こう」と思っていたのに、読み終わると「このバラエティ番組を観終わったらやろう」、バラエティ番組を観終わったら「ドラマを観てからにしよう」……そんなことの繰り返しです。
自分が逃げているのはわかっています。でも、以前の職場の強いストレスを思い出すと怖くなり、同じ環境に戻ればまた病気がぶり返す気がするのです。
かといって、自分に向いている仕事が何なのかもわかりません。人生が途中で止まってしまったように感じています。
実家が裕福だったら、仕事なんてどうでもよかったのかもしれません。最悪、親の脛でもかじっていればいいわけですから。
現実は、実家は決して裕福ではありませんし、両親は日々年老いていきます。それなのに私は30歳にもなって自立できていないなんて……。
もしかすると認知行動療法を応用すれば、こんな心理状態にはならないのかもしれません。けれど生活上の問題が解決しないまま心の問題だけを整えても、また限界に達したときに再発するのではないかと不安になります。
● 【リ・ソンウェイ先生からの回答】
リ・ソンウェイ
1985年生まれ、中国・四川省出身。北京大学臨床心理学博士。2007年より北京大学校医院心理カウンセリングセンターおよび北京大学学生心理健康教育カウンセリングセンターでカウンセラーを務める。認知行動療法と家族療法が専門。現在はフリーの心理カウンセラー、作家として活動するほか、清華大学をはじめとする各大学で心理学講座を受け持ち、人気講師として名高い。著書に『5%の変化――自分を変える「小さな実験」』がある。
こんにちは。まずは回復されたとのことで、何よりです。
ただ、症状が落ち着いたからといって、すぐに仕事を再開できるとは限りません。職場に戻るには、「自分ならできる」という感覚──自己効力感をもう一度高めていく必要があります。
実際、仕事探しを始めれば自己効力感は少しずつ回復していきます。しかし同時に、厄介なことも起こります。
「また職場に戻ったら、あのときのように壊れてしまうのではないか」
そんな恐れが強くなり、行動しようとする力を打ち消してしまうのです。その結果、あなたは第一歩を踏み出せなくなります。
では、どうすれば第一歩を踏み出せるのでしょうか。
方法は簡単です。2つの条件を同時に解決すればよいのです。つまり、行動することで自己効力感を高めつつ、「本気の就活」はしないのです。具体的には今週、次のことをやってください。
毎日少しの時間を使って履歴書を書いてください(これであなたは自己効力感が高められます)。1日30分ほどで十分です。
そして、出来がどうであれ、書き終わったらすぐにデータを削除してください(これであなたは仕事を探せません)。1日1回、毎日これを繰り返してください。
7日後、この体験で何を感じたか教えてください。
● 【相談者の実践報告】
先生からの提案を読んだとき、正直、少し戸惑いました。
「え? 履歴書を書いたのに削除する? それって何の意味があるの?」と。
でも、読み直してみて、「先生は『本気の就活はしない』と言っているし、履歴書を書くだけなら難しくないな」と思えました。30分のタイマーをセットして、やってみることにします。
履歴書で一番悩むのは職歴です。どう書いていいかわからず頭が痛くなります。でも、先生がおっしゃった「出来がどうであれ、書き終わったらすぐに削除」という言葉を思い出すと、「どうせ削除するなら適当でいいか」と気持ちが楽になりました。
タイマーが鳴った時点で、まだ書きかけの状態でした。ところが、削除しようとした瞬間、手が止まりました。「本当に削除するの? 数カ月間、書きたくても書けなかった履歴書がようやく半分くらいできたのに……」そう思うと、消すのが惜しくなってしまいました。
でもそのとき、パソコンの「ごみ箱」の利点に気づきました。
「削除したって元に戻せるじゃないか、へへへ……」
それから数日後、パソコンのごみ箱には未完成の履歴書が5部溜まりました。
では、この数日間について、以下にまとめます。
1.履歴書を書く時間は日増しに長くなりました。1日目はタイマーが鳴った瞬間にやめたのですが、翌日からは書きかけの部分だけは終わらせてから終了するようにしました。
2.毎日、いったん白紙の状態から始めました。でも、頭の中には前日までの内容がだいたい残っていたので、作成速度は徐々に速くなりました。最後の日の履歴書は、ほぼ完成と言える出来でした。
3.誇れる職歴はありませんが、それでも見栄えが良くなるよう、何か書けることを無理やり引っ張り出してきて入れ込みました。職歴を整理しながら、「私もそれなりにやれている頃もあったな」とも思えました。他の人ほど優秀ではありませんが、小さくても成果には変わりませんよね。
明日はごみ箱からこの5部を拾ってきます。そこから使えそうな部分を寄せ集めて組み合わせたら、完全版の出来上がりです(拍手!)。
もちろん、これは第一歩にすぎないとわかっています。やはり怖いですし、仕事での経験不足も不安です。「いい年齢なのに結婚も出産もしていない」というだけで門前払いされるのではないか……そんなことまで考えてしまいます。
さらに心配なのは、病気が原因とはいえ、仕事を辞めて2年間のブランクがあるので、面接で何を話せばよいか、ということです。
今はまだ、先生が提案してくださった試みを続けたほうがよいのでしょうか。それとも、履歴書は出しても面接の電話連絡は受けないとか、自己PRを書き上げても削除するとか。あるいは、面接を受けても辞退すると決めておくといいでしょうか(そもそも面接に呼ばれるかどうかですが……ああどうしよう……)。
笑ってしまいますね、考えつくのは全部ずるいことばかりです。
これからどうするかはまだわかりません。でも、とにかく幸運に恵まれるように祈ります。
● 【リ・ソンウェイ先生の解説・コメント】
仕事に恐れを感じるとき、多くの人は「恐れを克服すること」を目標にします。しかし、私はその必要はないと考えます。
恐れは一つの感情にすぎず、仕事の出来不出来を決めるのは感情ではなく行動です。恐れを抱きながらでも行動はできますし、結局は何をやったかが一番重要です。
今回の介入で興味深いのは、何かを始めるとき、必ずしも「現実的な成果」を生む必要はない、ということです。行動そのものが「正のスパイラル」のスイッチになります。
最初の「行動」が動き始めると、自然にやる気が増し、できることも増えていきます。つまり雪だるまが転がるように、最初は小さくても、くるくる回りながら次第に大きくなっていきます。
肝心なのは、まず始めることです。
やりたくないとき、人はたいてい言い訳を探します。
「ほんの少しやったくらいで、何の役に立つんだろう?」
でも、もうわかりましたよね。やり終えたら削除しても構わないのです。
恐れる人よ、まずは「どうでもよいことをほんの少しやる」、そこから始めましょう。
(本原稿は、『5%の変化――自分を変える「小さな実験」』(リ・ソンウェイ著、金山まゆみ訳)からの抜粋です)
リ・ソンウェイ
最終更新:7/9(木) 8:27