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KDDI松田浩路新社長が就任会見で新施策発表、AIマーケット構想と300億円ファンドで通信の先へ挑む

4/14 15:02 配信

東洋経済オンライン

 松田社長は「夢中に挑戦できる会社」をビジョンに掲げ、「つなぐチカラ」を核とした3つの挑戦を打ち出した。

■ KDDIの立ち位置と経営の変遷

 KDDIは国内通信業界「三強」の一角を占める企業だ。auブランドの携帯電話事業を中核に、固定通信、金融、エネルギーなど多角的な事業展開を進めてきた。2024年3月期第3四半期時点の携帯電話契約数は約3200万回線、国内シェアは約31%でNTTドコモに次ぐ2位の位置にある。

 業界は転換点を迎えている。2019年の「値下げ要請」を経て始まった料金競争は激化し、本家auだけでなくUQモバイル、povoといったサブブランドでの顧客獲得が不可欠になった。さらに楽天モバイルとのローミング契約が2026年半ばに終了予定であり、5G基盤整備の巨額投資も続く中、「通信の先」の価値創出が急務となっている。

 2022年以降、KDDIは高橋誠社長(現会長)のもと、「サテライトグロース戦略」を展開してきた。これは、通信事業を「月」に見立て、その周りの非通信事業を「衛星」として成長させる戦略だ。「通信×ライフデザイン企業」への変革を掲げ、金融(auフィナンシャルサービス)、コマース(Pontaポイント、au PAY マーケット)、エネルギー(auでんき)などの分野に事業を拡大。通信料収入依存からの脱却を図ってきた。

 NTTグループがNTTドコモグループ再編と並行して通信と情報処理の融合(IOWN構想)を加速させ、ソフトバンクが宮川潤一社長のもとAI投資に軸足を移す中、KDDIはどのような差別化戦略で挑むのか。松田新社長の打ち出す方向性は、業界におけるKDDIの今後を占う重要な指針となる。

■「夢中」が原点—松田新社長の経営哲学

 「準備万端」「先手必勝」。一見すると守備的な「準備」だが、同社長の解釈は違う。「先手必勝を実現するために、常に先手先手で動き準備万端でいること」と強調する。新たな挑戦を成功させるための積極的な姿勢を表す言葉なのだ。

 松田社長の原点は1985年のつくば科学万博にある。当時中学生だった彼は、山口県から寝台特急に乗って万博を訪れた。「日本の大手企業による最先端サイエンスの展示に待ち時間も苦にならず、すっかり夢中になった」と振り返る。この体験が、後に工学の道へ進み、KDDIの前身である国際電信電話株式会社に入社する契機となった。

 「好きこそ物の上手なれ」と松田社長。自身が「テクノロジーが好きで好きでたまらなかった」ように、すべての社員が「夢中になって取り組める機会」を作りたいと語る。この「夢中」こそがKDDIの原点であり、新たな挑戦、新たな進化への原動力だという。

 2月の社長交代発表会見で高橋前社長は、「次の時代は6Gではなく、AIの時代」と指摘。その中で会社を牽引する人材として、「事業の知見が豊富でグローバルパートナーと対等にビジネス構築できる」松田氏を選んだと説明した。特にApple、Google、Qualcommといった海外大手との関係構築実績と、近年のSpaceXとの提携実現が高く評価されたという。高橋前社長は「AI企業のCEOは皆若い」と述べ、53歳という松田氏の年齢も「AI時代には最適」と評していた。

 就任会見で祝福の言葉を寄せたQualcommのクリスティアーノ・アモンCEOも「20年以上松田さんと仕事をしてきた」とコメントしており、2G(CDMA)技術の時代から技術者として信頼関係を感じさせる。

■ AI戦略がカギを握る

 KDDIは2024年、外部評価期間のOpenSignalから、体感品質が4キャリアで最も優れているという評価を獲得している。このKDDIの通信品質を「あくまでも土台」と位置づける。KDDIの言う「つなぐチカラ」は単に通信を意味するわけではなく、「命を、暮らしを、心をつないでいく、そこに価値を生み出していく力」だと定義する。

 「KDDIはライフ(生活)を支える会社から、ライフ(人生)を支える会社へと進化していく」と松田社長。ユーザーの人生という時間軸の中で常に寄り添い、支えられる存在になることを目指すという。

 松田社長が描く未来のカギを握るのがAIだ。「通信とAIが組み合わさることが重要」と強調し、「5GがAIによってさらに進化していく」と展望する。

 5G✕AIという方向性は、国内外の携帯電話キャリアに共通するスローガンとなっているが、KDDIはパートナー連携を含めた実現のための構想を紹介した。

 まず、AIサービスについては、「AIマーケット」を創設する構想を発表した。AI検索サービスのFeloなどスタートアップ企業を提供パートナーとして集めて、「お客様がAIの世界に一歩踏み出しやすい場」を作る構想だ。松田社長はauが2010年代のスマホ普及期に提供していたアプリストアになぞらえ、「auスマートパスのAI版」と表現した。提供開始の時期は未定だが、松田氏は「そう遠くない時期に」開始を目指すとしている。

 ライバル企業の状況をみると、NTTドコモはAI検索サービス「Stella AI」に出資、ソフトバンクはアメリカのPerplexityと連携してそれぞれ自社の通信サービスとセットで提供するなど、特定のAIサービスを重視する方向性を打ち出している。KDDIはAI検索エンジンの「Felo」とも組むが、多様なスタートアップのAIサービスと連携してプラットフォーマーの立ち位置を目指す点に違いがある。

 AI普及の基盤強化も進める。シャープ堺工場跡地で2025年度中の本格稼働を目指すAIデータセンターでは、Google Cloudのデータ分析基盤を組み込んだ先進的なデータセンターとする計画を発表した。GPUへの投資については「(従来計画の)1000億円というスタンスは変えていない」としつつも、「AIのテクノロジーはどんどん進化しており、モデルも軽量化が進んでいる」と述べ、投資内容を柔軟に選択していることを示唆した。

 ソフトバンクが1兆円規模のAI投資を発表していることと比較すると、数字上は慎重な姿勢に見えるが、松田社長は「投資タイミングを見極めながらさらなる投資も検討する」とも述べており、状況次第では投資規模の拡大も視野に入れている。

 同時に、KDDIは生成AIスタートアップへの投資も加速している。2024年3月には東大松尾研発のAIベンチャー「ELYZA」を連結子会社化するなど、外部技術の取り込みにも積極的だ。

■3つの挑戦—松田体制の経営方針

 松田社長は就任会見で、「つなぐチカラ」を生かした3つの挑戦を提示した。

 1.「未来を作る仲間とつながる」

 「自前主義にこだわらず、多くの仲間と一緒に個性を生かしてつないでいけば、より大きな目標をより早く実現できる」という考え方だ。これは高橋前社長時代から続くKDDIの特徴でもある。「KDDI∞Labo(ムゲンラボ)」などスタートアップ支援や、Netflix、Apple、Spotifyなど海外コンテンツ企業との早期提携を実現してきた実績がある。

 高輪ゲートウェイシティへの本社移転はこうした連携戦略の象徴だ。松田社長は高輪を「江戸時代の交流の玄関口」「明治時代には日本初の鉄道が走ったイノベーションの地」と歴史的に位置づけ、「未来に向けた壮大な実験場」とする構想を語った。1万3000人のKDDI社員のデータを活用した様々な実験を通じ、「業界を超えてあらゆるアイデアを集積し、日本からイノベーションを発信していく」場にしたい考えだ。

 2.「つなぐ力を世界に広める」

 グローバル展開について松田社長は「世界で戦えているかというと、まだまだ足りない」と課題を認識しつつも、「日本は社会課題の先進国」と指摘。災害支援のドローン活用などで日本の成功モデルを作り、世界に広げていくビジネスに挑戦する意欲を示した。

 ベンチャー企業支援も強化する。KDDIオープンイノベーションファンドの後続ファンドを組成するほか、AIやディープテック分野における日本起点のスタートアップの成長を目的とした、複数の海外ベンチャーファンドへの出資も決定した。出資総額は300億円規模を予定しており、「日本のスタートアップと共に世界へ出る挑戦」を行う。

 3.「お客様の今とこれからにつながる」

 KDDIが提供する価値の進化として、「auショップがない場所へ伺うauショップカー」や「ローソンとのパートナーシップから生まれる新しいコンビニ」などの構想を披露する。これらは単なる機能提供にとどまらず、「地域の見守りや防災の拠点」「ラストワンマイルをつなぐ配送拠点」など、新しい地域貢献、新しい地域活性を実現する拠点となるポテンシャルがあるサービスだ。

 さらにKDDIはこの日、SpaceXと提携した衛星とスマホの直接通信サービス「au Starlink Direct」の提供開始も発表した。衛星とスマホが直接通信してSMSが送受信できるという、日本初のサービスだ。

 なお、金融事業については2024年に三菱UFJフィナンシャル・グループとの資本提携の見直しがあり、auじぶん銀行を完全子会社化した一方でauカブコム証券を売却するなど一連の整理があったが、松田社長は「自前で銀行をしっかりやりながら、証券をまったくやらないわけではない」と述べ、住宅ローンを強みとしたauじぶん銀行の顧客基盤にあわせてサービスを拡大していく方針を示した。

■順調さゆえの危機感

 松田社長は会見の質疑応答で、KDDIの足元の課題について問われ、興味深い回答を示した。「基盤としてのサテライトグロース戦略はしっかり構築されているが、社内に危機感が欠けている部分がある」と指摘。「準備万端、先手必勝で、待っているだけでなく新しく作り上げていく会社になる」というマインドを醸成したいと語った。

 その一例がモバイル通信業界で世界最大の展示会「MWC2025」への参加だ。KDDIはスペイン・バルセロナで開催されたこの展示会にブースを構え、100名を超える体制で臨んだが、その大半は「自ら立候補した20代から30代の若手社員」だったという。

 松田社長は「世界のトレンドを肌で感じられた」「各国のCEOに直接説明する機会を得られた」という若手社員の声を紹介し、「世界を舞台に夢中で挑戦する場面を、これからもどんどん作り上げていきたい」と述べた。

■「つなぐ力」の次元を上げる

 松田社長は会見の締めくくりで、「先人の皆さんの努力と挑戦の歴史によって『つながって当たり前』と思われるほど、通信は発展してきた」と振り返りつつ、「まだまだです」と力を込めた。

 「ここでまた一つ、通信の力を進化できます。つなぐチカラを新たな次元にアップグレードできます」と松田社長。その原動力となるのが「夢中になること」だという。「失敗を恐れず、新しいことを作り続けていく。準備を怠らず、誰よりも先手を打って、全社員の夢中のパワーで信じるものを形にしていく」――そんな決意を示した。

 通信インフラの高度化と「通信×AI」の未来図に加え、組織としての「夢中」という情熱をどう活性化できるか。松田体制の真価が問われる。

東洋経済オンライン

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最終更新:4/14(月) 15:02

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