水原一平氏、ESPN取材の「発言撤回」はやっぱり失敗だった…ここにきて大谷翔平に浮上する「新たな危機」

3/26 7:02 配信

マネー現代

ふたりの信頼関係が崩壊した

(文 春川 正明) 「一平さ~ん!」

 ドジャースが宿泊していたソウル市内にあるホテルのロビーに、日本人ファンの歓声が上がった。今回、韓国で初めて開催されたMLB(メジャーリーグ)開幕戦出場のために大谷翔平選手が球場に向かうバスに乗り込んだ後、すぐ後ろを歩いていた水原一平通訳が一緒にバスに乗らずにロビーに残った。

 その時、筆者は水原通訳の顔を久しぶりに見て、痩せて元気がないなと感じた。そして歴史的な開幕戦の翌朝に、目を疑う様な衝撃的なニュースが飛び込んで来た。

 2018年のメジャーデビュー以来、専属通訳としてだけでなく球場の送り迎えや練習中のキャッチボールの相手なども務め、献身的に大谷選手を支え続けて来た水原通訳が、違法賭博に関与していた疑いでドジャースから解雇された。

 「お世話になったのは、やっぱり一平さんじゃないですか」

 大谷選手が初めてのMVPに輝いた2021年に、手術や苦難を乗り越えた時にお世話になった人として記者会見で名前を挙げるほど、二人の信頼関係は強固なものだった。

 アメリカの複数のメディアによると、水原氏はカリフォルニア州では違法のスポーツ賭博で多額の借金を抱えていた。大谷選手の口座からブックメーカーと呼ばれる賭け屋に向けて少なくとも450万ドル(約6億8000万円)が送金され、日本の国税庁にあたるIRS(内国歳入庁)が違法賭博の疑いで水原氏と賭け屋に対する捜査を始めているということだ。

 アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNは、ソウルでの開幕戦の後に水原氏がチームメイトに対し違法賭博の件とギャンブル依存症であることを自ら説明し、大谷選手はこの時になって初めて事態を把握したと伝えている。

 水原氏はESPNの取材に対し、当初は『(大谷選手が)助けてくれた』と話したが、翌日に一転して発言を撤回し、大谷選手は賭博に関与していないと答えた。大谷選手の弁護士は『ショウヘイが“大規模な窃盗”の被害に遭っていることが分かり、当局に問題を引き渡した』との声明を出す事態となっている。

 この問題は今後、どう展開して行く可能性があるのか。法律的な観点からカリフォルニア州の弁護士に聞いた。

大谷にとっての「最悪なシナリオ」

 「州法の違法賭博で起訴されるのは通常元締めで、賭ける人を起訴するようなことはあまり無いので、水原氏も大谷氏も違法賭博で起訴される可能性は低いのでは。

 罪として可能性が高いのは、連邦法上の違法送金や脱税です。違法行為のために銀行送金を使用した、IRSに通知をしなかったなどの違反です。もともとマフィアや今はテロリストを起訴するための法律で、例えば、自分がテロ行為をしていない場合でも、そのような団体に送金しただけでも罪になる可能性があります。

 違法送金の場合は、最高刑は20年、罰金25万ドル(約3750万円)で、窃盗の場合はカリフォルニア州では実刑1~3年、罰金1万ドル(約150万円)ですが、違法送金の罪でギャンブル依存症の人に厳しい罰を課す可能性は低いと思います」

 大谷選手が刑事責任を問われる可能性はあるのだろうか。

 「水原氏が司法取引で自供をした場合や、元締めの証言により大谷氏の関与が出てきた場合など、または大谷氏が自分で送金をした証拠(パソコンの送金時刻など)が出てきた場合はあると思います。

 ただし、仮に大谷氏がギャンブル依存症の人を助けたとすれば、違法送金などの罪でわざわざ刑事責任を追求するかなと思います。

 最終的には、窃盗の有無がもっとも重要です。大谷氏にとって最悪なシナリオは、水原氏が裏切って何らかの形で大谷氏に責任をなすりつけるような形です。元締めの証言なども関係してくると思います。

 元締めも何の保証もなしに水原氏に何億円も貸したとは思えないので、大谷氏が関与していたという話でも不思議ではありません。すなわち、大谷氏が借金を肩代わりしたということですが、さらに最悪なシナリオは、大谷氏と一緒にギャンブルをしていたというような話です」

発言を翌日に撤回した理由

 大谷選手への当局の事情聴取の可能性はあるのだろうか。

 「事情聴取に応じるとすれば、大谷が100%お金を盗まれた場合だけです。水原氏が窃盗をしたと認めた場合、どのように送金したのかを説明する必要があります。

 億単位のお金を大谷氏の許可なしで送金できたのか、最終的にはこの一点です。水原氏が大谷氏の許可を取っていれば窃盗ではなく違法送金ですが、その場合、大谷氏も同罪かどうかです」

 一連の報道を見ていると、幾つか気になる点がある。水原氏はそもそもなぜESPNの取材を受けたのか。なぜ当初の発言を翌日には撤回したのか。この点についても聞くと、個人的な見立てとした上で次の様に話してくれた。

 「9回も50万ドル(約7500万円)ずつ送金されたそうですが、IRSに目をつけられるので元締めが『50万ドル以上1回で送金するな』とか、指示したのかもしれません。

 50万ドルの大谷名義の送金について連邦政府が調査していることが(地元紙の)ロサンゼルス・タイムズとESPNにリークされ、ESPNの記者が、3月18日に大谷氏の代理人事務所にインタビューを申し込んだ。

 翌19日に代理人事務所の危機管理担当がESPNの記者に『大谷が水原の借金を肩代わりした』と伝えた。ということは、この時点で代理人事務所は勝手にそんなことを言わないので、大谷氏に連絡をして本人から事情を聞いているという可能性が高いです。

 代理人事務所の許可を得てESPNは19日に水原氏と90分のインタビューが行われた。ロサンゼルス・タイムズがドジャースと大谷氏の代理人に取材を申し込んで、やっと大谷側の弁護士に連絡が行き、そこではじめて弁護士が窃盗ということを言い出した。

 大谷氏の代理人事務所が大谷本人に相談せずにESPNの記者に適当なストーリーは言わないので、やはり大谷氏が送金していたことを裏付ける証拠になると思います。

 その時の代理人事務所と大谷氏との会話に水原氏が通訳として入っていたはずです。私が検察であれば、この代理人事務所の危機管理担当の証言取りをします」

 なぜ、水原氏の証言は1日で変わったのだろうか。

 「大谷氏が水原氏の借金を肩代わりしたことを代理人事務所に伝えて、それをESPNに伝えた。この時点で、大谷氏も代理人事務所も違法賭博であることを知らなかったか、または送金が違法とは知らなかったか、どちらにしても大谷氏がお金を貸したというストーリーで終わると思っていた。

 大谷氏にとっては、それで問題が解決すればよいし、逆に美談ぐらいになればよいと思ったかもしれません。この時点で、大谷氏の弁護士には連絡が行っていなかった。代理人事務所も大谷氏も水原氏も自分たちで解決できると思った。単純に借金の肩代わりをしたというストーリー。

 その後、ドジャースや大谷氏の弁護士に連絡が行って、大谷氏側が水原氏に証言を撤回させた。弁護士も慌てて『窃盗』にしたが、誰がパソコンから送金をしたかという問題が残る。

 本当に水原氏が自分で送金したのであれば、水原氏は最初から嘘がばれるというストーリーをESPNの記者に話すわけがないので、おそらく水原氏の最初の話が最も信憑性が高く、さらに代理人事務所がESPNに伝えた話も信憑性が高い」

ドジャーズは守ってくれない

 水原氏の証言の撤回には、どの様な問題があるのだろうか。

 「個人的には『大谷はギャンブル依存で困っている友人を助けた。送金が違法とは知らなかった』ということで良かったのではないかと思っています。今更、弁護士が入って、窃盗という話も信憑性がないので。

 私が水原氏の弁護士であれば、『大谷氏から脅されてストーリーを撤回した』という証言をさせると思います。そうなると、共謀罪のようなことにもなりかねません。

 水原氏は弁護士にも相談せず自分の証言を撤回しています。大谷氏に迷惑をかけられないと思ったわけですが、それは大谷氏の罪を隠蔽する行為にもなる可能性もあり、傷口をどんどん広げた形になっています。

 世の中、大谷氏が友人を助けたということであれば、誰も大谷氏を責めないですし、これで起訴する検事もいないので、MLBからの1ヶ月出場停止と罰金ぐらいで終わっていた可能性もあります。世論を味方につけないと勝てないところなのに、逆に『今までお世話になった友人を見捨てた』ということになるかもしれません」

 今回取材したカリフォルニア州の弁護士は、“大規模な窃盗”というストーリーに疑問を呈している。

 「大谷氏の代理人事務所からの最初のESPNへの証言、水原氏の最初のESPNへの証言、水原氏の不自然な証言撤回、銀行口座へのアクセスなどを考えると、本当に窃盗かどうか疑問が残ります。

 水原氏がもしも逮捕された場合、裁判では偽証はできないので、黙秘するか、大谷氏を売るしかありません。さすがに水原氏の弁護士も自分が窃盗したという証言をさせることはしないので、そうなると、最後は司法取引で適当なところで収まる可能性もあります。

 私が水原氏の弁護士であれば、(大谷氏が自分で送金した場合は)大谷氏を売って司法取引します。水原氏が自分で送金した場合は黙秘しかないです。ただ、連邦検事がそこまで水原氏や大谷氏を追求するかどうか分かりません。

 検事も水原氏の窃盗を追求すれば大谷氏の矛盾も出てきますので、その意味ではもしかしたら大谷氏の弁護士が水原氏の責任にしたことが失敗になるかもしれません。

 大谷氏の弁護士は検察に犯罪の調査を請求したわけですが、そうなると逆に検察も取り調べないといけなくなりますが、弁護士は本当に水原氏が窃盗したことを100%確信しているのか、そこが疑問です」

 大谷選手やドジャースの弁護士は大谷選手をどう守るのだろうか。

 「大谷氏には自分の弁護士がいます。ドジャースと大谷氏はいわゆる雇用主と雇われ側の関係なので、最初から利害対立しています。

 ドジャースは自分の身を守るために、違法賭博には関わっていない、また大谷氏や水谷氏を匿ったこともない、逆に知っていれば警察に通報したという立場を取らないといけないのです。

 大谷氏を守る義務もなければ、逆に大谷氏に責任を追求することにもなりかねません。この時点では、水原氏、大谷氏、ドジャース、MLBなどそれぞれ自己の立場を守る体制に入っているので、弁護士もそれぞれの戦略を立てていると思います」

 MLB(メジャーリーグ機構)は22日、この違法賭博疑惑に関する正式な調査を始めた。今後は大谷選手や水原氏への聞き取りを始めることになるだろう。記者会見での大谷選手の発言に注目が集まる。

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最終更新:3/26(火) 12:56

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