仕事できない「勉強熱心な人」が驚くほど多い理由 「丸暗記」ばかりの“フレームワーク信者”は不要

5/16 7:02 配信

東洋経済オンライン

「数字に弱く、論理的に考えられない」
「何が言いたいのかわからないと言われてしまう」
「魅力的なプレゼンができない」
これらすべての悩みを解決し、2万人の「どんな時でも成果を出せるビジネスパーソン」を育てた実績を持つビジネス数学の第一人者、深沢真太郎氏が、生産性・評価・信頼のすべてを最短距離で爆増させる技術を徹底的に解説した、深沢氏の集大成とも言える書籍、『「数学的」な仕事術大全』を上梓した。

今回は「フレームワーク」について取り上げ、フレームワークにとらわれない、独自の発想ができるビジネスパーソンになる方法を紹介する。

■フレームワークを知っていても「使えない」

 突然ですが、今から2つの質問をします。よろしければお付き合いください。

 Q1 あなたはビジネスで使うフレームワークをどれくらい知っていますか? 

 Q2 そのうち実際にあなたが使っているものはどれくらいありますか? 

 念のため、フレームワークの定義をご説明しておきます。フレームワークとは、目標達成や経営戦略、課題解決に役立つ思考の枠組み、あるいは骨組みのことです。

 質問の答えはまとまったでしょうか。

 私の経験から推測すると、多くの方は「Q1」の答えは思いつくけれども、「Q2」の答えを出すのが難しかった、あるいは、答えられなかったはずです。

 私はビジネス数学教育家という仕事柄、頻繁にビジネスパーソンに思考法やコミュニケーションを指導しています。そのような現場で上記の質問をすると、やはり「Q1」ではたくさんのフレームワークを答えることができるのに、「Q2」になると答えに窮してしまう方が驚くほどたくさんいらっしゃるのです。

 つまり、彼らの多くは、フレームワークの「知識」はたくさんあるけれども、実際の仕事には使えていないのです。

 それにもかかわらず、ビジネスパーソンのみなさまは、さらに完成されたフレームワークの「知識」を欲しがります。みな勉強熱心で、ノウハウはたくさん知っているはずなのです。

 でも、実際には行動に反映できていない。ここから、次の結論が導き出されます。

 フレームワークの名称を頭で覚えただけで、それをする際の動作を身体が覚えていない。

 私が指導現場で大事にしていることは、「知っている」と「できる」の橋渡しをすることです。そのためには名称を覚えさせるような指導ではなく、動作を身体が覚えるような指導をすることが極めて重要になります。

 なぜそのようなスタイルにたどり着いたのか、事例を用いて説明します。

■フレームワークは「あてはめるもの」ではない

 かつて、問題解決をテーマに、ロジックツリーやSWOT分析といった思考のフレームワークを解説したことがありました。

 ロジックツリーとは、さまざまな問題を分解の木として原因や解決法を発見する際に活用できるひとつの課題解決フレームワークです。SWOT分析とはStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)、という4つのカテゴリーを視点にして、経営戦略や事業計画の現状分析を行うためのフレームワークです。この2つは非常に有名なフレームワークのため、ご存じの方も多いでしょう。

 研修後、ある2名の受講者が私に次のような質問を投げかけました。

 「深沢さん、ロジックツリーが使えないときは、何ツリーを使えばいいのでしょうか?」

 「深沢先生、SWOT分析はマーケティング部門の人しか使えないものですよね?  ワタシは経理部なんですけど、経理部では何分析をすればいいのでしょうか?  SWOT分析の経理版を教えてください」

 私はドキッとしました。率直に申し上げれば、これはマズイと思ったのです。明らかに彼らはフレームワークを「あてはめるだけのもの」と捉えています。数学のテスト直前に教科書に書かれた公式を必死に暗記しようとする学生と本質的には同じです。

 たしかに、ビジネスで使うフレームワークは、まるで数学の公式のように枠組みにあてはめさえすれば、とりあえず正解(らしきもの)を導出してくれます。

 では、ビジネスパーソンのみなさまもそのような態度でいいのでしょうか? 

 答えはもちろん、「NO」です。

 少し本質的なお話をしましょう。数学のテスト直前に公式を暗記しようとする学生を例に挙げました。しかし、すでに完成された公式にあてはめて答えを導くことは数学ではないのです。数学とは、完成された公式をベースに、「考える」ことで自ら公式のようなものを見いだすことです。公式を丸暗記することと、真逆の立場であることにお気づきでしょうか。

 フレームワークも数学における公式と同じです。丸暗記するのではなく、自ら主体的に考えなくてはいけません。

 それでは次に、フレームワークをただ暗記することがなぜ問題なのか、説明しましょう。

■フレームワークの暗記が危険な2つの理由

 理由は2つあります。

 ①永遠にフレームワークを求める人間になるから

 もし私が「ビジネスパーソンが仕事で使うフレームワークは全部で100個あります」と言ったら、彼らは平気な顔をしてその100個を覚えようとすることになります。Aという場面ではXを使う。Bという場面ではYを使う。Cという場面ではZを……というように、とにかく正解を出したいのでしょう。しかしこれではキリがありません。

 ビジネスの世界はあっという間に変わります。今は100個のフレームワークを覚えればよくても、すぐに200個必要になったり、あるいはせっかく覚えたフレームワークがすぐに使えないものになったりします。いますぐ役立つものは、すぐに役立たなくなりうるのです。

 私の提唱する「数学的」とは公式に当てはめて正解を導くことを指しません。自ら公式のようなものを見いだすように仕事をすることです。

 そういう意味で、先ほどの参加者たちの質問する内容はまったく数学的ではありません。成果を出し続ける人とは真逆の思想を持ってしまっていることに気づいてもらう必要があります。

 ②みんなと同じ答えしか出せない人間になるから

 もうひとつの問題点は、フレームワークを強く欲し、その効果を信じすぎていると同じ答えしか出せない人間になるということです。

 繰り返しですが、フレームワークは数学の公式と同じです。公式に当てはめれば答えは出せます。しかしそれは(当たり前ですが)誰がやっても同じ答えになります。学生時代ではそれで「◯(マル)」がもらえたとしても、ビジネスの世界ではあまり意味がありません。

 たとえばあなたの職場に、誰もが思いつくような当たり前の提案をする人物がいたとします。あなたはその人物を「つまらない」と思うのではないでしょうか。

 ビジネスではお行儀のよい答えよりも、斬新な発想や答えが求められる場面が多々あります。そしてそんなスキルを持っている人物のほうが重宝されるもの。AI時代において、模範解答やみんなと同じ答えしか出せない人はもう要らないのです。

■フレームワークではなく「動作」を覚える

 ではどうすればいいのか。私の答えは、動作を身体が覚えることです。

 ロジックツリーやSWOT分析といった名称は知らなくて結構です。ただ、結果的にそれらと似たようなものが描けるような動作は必要です。完成された数学の公式を欲するのではなく、自ら公式を創作したり、独創的な答えを作るための身体の動かし方です。具体的なものをいくつかご紹介します。

 「わける」

 「つなぐ」

 「くっつける」

 「逆にする」

 「ずらす」

 これらはすべて人間の動作を表現しています。たとえばロジックツリーは「わける」と「つなぐ」を組み合わせるだけで描けるものです。SWOT分析も2つの軸においてそれぞれ2つに分解し、4(2×2)枠のマトリクスを描いたものですが、実際にしたことは「わける」だけです。

 「くっつける」「逆にする」「ずらす」は何か斬新なアイデアを出したいときにする動作です。コラボ商品は「くっつける」であり、いわゆる目から鱗と呼ばれるものはたいてい「逆にする」であり、いわゆる盲点と呼ばれるものは物事をちょっとだけ「ずらす」ことで誕生するものです。

 私は企業研修などで思考や問題解決系のトレーニングをする際、フレームワークの名称はほぼ紹介しません。どんな場面でもそれに似たものが、その場面にもっともフィットした形で描けるよう、必要な動作を身体に覚えてもらうようにしています。

 そういう意味で、理想のビジネスパーソンとは、記事冒頭の2つの問いの両方に答えられないながら、不思議と成果を出すことができている人物だと思います。この記事をお読みのみなさまはどうか「フレームワーク信者」にならず、正しい努力と訓練をしてスキルアップをしていただきたいと願っています。

 余談ですが、数学とは先ほどご紹介した5つの動作をすることで誰も発見していない事実を探り当てたり、新しいモデルを構築して示す営みです。「わける」は分解であり、「つなぐ」は論理です。問題を解く際のアイデアには「くっつける」「逆にする」「ずらす」がさまざまな場面で使われています。私の提唱する「数学的な仕事術」とはどういうものか、少しだけでもあなたに伝われば幸いです。

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最終更新:5/16(木) 7:02

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