円乱高下は今後起きることの予兆に過ぎず-激しい動き、より頻繁に

5/1 12:22 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 4月29日の朝、東京で多くの人々がゴールデンウイークの休日を楽しむ中、渋谷にあるトレイダーズ証券のオフィスでは同社の井口喜雄市場部長が厳戒態勢にあった。

既に不安に覆われていた外国為替市場では、34年ぶりの円安水準を付けた円相場を反転させることを狙った市場介入に対する警戒が強まっていた。日本銀行が4月26日の金融政策決定会合で下した決定は予想外にハト派的で、これで為替相場の方向が変わる可能性は低いと考えられていた。円の弱気派は勢いづき、日本の連休で取引は薄くなっていた。

市場歴20年のベテランである井口氏が警戒したのは正しかった。その日の午前10時半ごろ、円は急激に下落した。

1ドル=160円台への急落は、直ちに国内のニュース報道やソーシャルメディアをにぎわせた。警戒を緩めてはならないと連呼していた井口氏は、あまりにもスピードが速く何もできず、「ストップがついてしまったかという心境で『行ってしまったか』とつぶやいていた」と振り返る。

それまでにいわゆるレッドラインと見られていた水準である155円と158円は、押し戻されることなく突破されてきた。当局が動くことはないのだろうかという声も出始めていた。

そして午後、相場は急反転した。数分のうちに円は対ドルで3%近く上昇し、その日の動きを帳消しにする以上の上げが見られた。当局が円を支えるために22年以来の介入を実施したのではないかという観測が市場を駆け巡った。介入はまだ確認されていないが、日銀が4月30日に公表した5月1日の当座預金増減要因の予想値と市場の推計値との差に基づくと、約5兆5000億円の円買い介入が行われたと推定される。

29日の為替介入は5.5兆円規模の可能性、日銀当座預金見通しが示唆

CMEグループによると、4月29日は2016年以降で円のスポット取引が最も活発に行われた日となった。他国との大きな金利差を背景に、かつて「世界で最も退屈な通貨」の一つと呼ばれていた円が最も投機的な通貨の一つへと変貌したことを示している。深い構造的な問題が解決されない限り、当局は介入を繰り返すことを余儀なくされるとの予測は、激しい変動がより頻繁に起きることを示唆し、その影響は日本にとどまらず、幅広く及ぶだろう。円安はドル高を加速させ、他のアジア通貨を不安定にさせるリスクもある。

29日のドル・円スポット取引高は12兆円、2016年以来の大きさ-CME

根強い円売り圧力の背景には、日銀が3月にマイナス金利政策を解除した後、政策金利が最終的にどの水準に落ち着くかとの見通しがある。

日本が他国に追いつくのは難しいというのがコンセンサスだ。米連邦準備制度が年内に大幅な金融緩和を行うという期待は、力強い米経済と米金融当局者の「より高くより長く」の方針によって打ち砕かれた。

日米の政策金利差は5ポイント余り。債務残高の対国内総生産(GDP)比が250%を超える日本が、米国とのギャップを縮めるのは難しい。また、長年追い求めていた持続的な物価上昇の実現に役立った政策を、すぐには放棄したくないと考える当局者もいるだろう。

円急落は自ら招いた結果、為替介入は当面失敗する公算-ブルックス氏

そのため、日本の金利はより高い他国の金利から投資家を引き寄せるには程遠い水準にとどまり、円相場の反発は短期間で終わると予想するトレーダーの投機的な動きを後押しそうだ。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「長期的に見れば、円安はおそらく一時的な現象ではないだろう。日本はそういった現実を受け入れる必要があるかもしれない」と述べた。

連邦準備制度が22年に利上げを開始して以来、円相場は大きく下げており、介入は遅きに失したと主張する声もありそうだ。

円安は一般的に日本の輸出企業を助け、インバウンド観光を後押しするが、実質的な物価上昇に賃上げが追いつかず、日本の家計は圧迫されている。過去数十年で最も高いインフレに直面する消費者は支出に不安を感じ、経済への不満が政治に対する不満に拍車をかけている。4月28日投開票の衆院3補欠選挙では自民党が全敗した。

輸入コストが急増し、個人消費の低迷が国内経済の足を引っ張っていることから、当初は通貨安の恩恵を受けていた人々でさえ態度を変えている。

経団連の十倉雅和会長は4月23日、経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を踏まえれば、現在の円安は行き過ぎだとの考えを示した。日本航空(JAL)の鳥取三津子社長も同月24日、円安が止まらない足元の状況について「かなり懸念」しているとし、1ドル=130円程度の水準が望ましいとの考えを示した。

サクソ・キャピタル・マーケッツの為替戦略責任者チャル・チャナナ氏は「経済界が大きな声を上げ続けるかもしれない。それは注視すべきことだと思う」と述べた。

4月29日の急反発で円相場は一時1ドル=154円台に上昇した。TDセキュリティーズの通貨ストラテジスト、アレックス・ルー氏(シンガポール在勤)は、4月26日に介入がなかったことで安全だと人々が考えていた時の出来事だったと振り返る。

皆がポジション調整に奔走したため、メルボルンのキャピタル・ドット・コムでは円の取引が通常時の約5倍に急増した。その日の終わり、ストラテジストのカイル・ロッダ氏が語ったのは「足をすくわれる出来事はいつでも急激に起こり得る」との結論だった。

「160円」と一斉に叫ぶ声、円乱高下に慌てるトレーダー-祝日も台無し

円は4月30日、1ドル=157円台で取引された。これは2012年の平均の半値程度。このままいけば、今年も主要通貨の中で最悪のパフォーマンスとなる方向だ。

ドル高は既に世界の市場を動揺させているが、急速な円安がその影響を増幅させる恐れがあり、貿易不均衡や自国通貨への影響を懸念する他国の怒りを招き得る。

GAMAアセット・マネジメントのグローバルマクロ・ポートフォリオマネジャーで、市場歴37年のベテランであるラジーブ・デメロ氏(ジュネーブ在勤)によれば、円安は韓国のような日本の競争相手に影響を与える。また、人民元を対ドルで安定させようとする中国の取り組みの妨げにもなる。

人民元を不安定にするようなことがあれば、特に元が地域のアンカーとして見られている新興国市場に非常に大きな影響を及ぼす可能性がある。

「非常に弱い円は世界にとって大きな問題だ。正常の範囲内で円安が進んでいれば問題なかったが、もはや大丈夫ではない」とデメロ氏は話した。

トレーダーらは、介入で円安トレンドが反転する可能性を疑問視しているようだ。

米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによれば、介入の可能性にもかかわらず、ヘッジファンドとアセットマネジャーによる円の売り越しは4月23日時点で18万4180枚と、過去最高だった前週の水準を上回り、データがさかのぼれる2006年以降で最大となった。ティー・ロウ・プライスは1ドル=170円程度まで円安が進む可能性があるとみている。

経済のファンダメンタルズが変わらない限り、円売り再燃の可能性は否定できないと一部の市場関係者は指摘する。

マネックス・ヨーロッパの外国為替分析責任者、サイモン・ハービー氏(ロンドン在勤)は「投資家が価値の保存手段としての円への信頼を失った場合、覆面介入は十分ではなくなるだろう」と指摘。日本の当局は問題の根本原因に対処せざるを得なくなるとの見方を示した。

原題:Yen’s Meltdown and Rebound Are Just a Taste of What’s to Come(抜粋)

--取材協力:Tania Chen、Emily Cadman.

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最終更新:5/1(水) 13:47

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