ヤマワケエステート償還延期で投資家騒然、人気の不動産クラファンに何が《楽待新聞》

3/13 19:00 配信

不動産投資の楽待

個人投資家らの投資先の1つとして注目を集めている「不動産クラウドファンディング」(以下、不動産クラファン)。

1口数万円から「不動産投資」を始められる気軽さに加え、10%以上の高利回りを謳う商品もあることなどから、支持が広がっている。

ところが先日、ある不動産クラファンが償還日の前日に突如、数カ月の「延期」を発表したことが、SNSなどで物議を醸している。

話題となっているのは高利回りのファンドが多いことで知られる「ヤマワケエステート」の商品の一部。サッカー元日本代表の本田圭佑氏がオフィシャルアンバサダーを務めるなど、広告も積極的に展開している。

不動産クラファンは、個人投資家から集めた資金で事業者が物件を購入し、一定期間運用。賃貸収入や売却などで得られた収益を投資家に分配する仕組みだ。

運用期間は数カ月から数年程度が一般的で、運用が終了すると投資の元本と運用益が投資家に返金(償還)される。償還が延期となることはさほど珍しくはないが、今回は延期発表のタイミングが償還予定日の前日であったことから、投資家の間で話題となっている。

不動産クラファンは、その気軽さゆえに、リスクをよく認識せずに投資をする個人もいるとみられる。不動産クラファンにはどのようなリスクがあるのかを探った。

■ヤマワケエステートで何が?

ヤマワケエステートは、2023年9月にサービスを開始。以来、毎月平均10件以上のファンドを募集している。2025年1月時点での登録会員数は3万人を超え、募集金額は390億円、応募総額は1091億円にのぼる。

前述の通り、不動産クラファンでは通常、運用期間の終了時に投資元本等が投資家に償還される。まとまった金額を投資していた投資家にとって、手元に償還されるはずだった現金が手に入らないとなれば、心中穏やかではいられないだろう。

そんなヤマワケエステートでの償還延期をめぐり、現在明らかになっている情報を、以降で整理していきたい。



今回償還の延期が公表されたのは、「札幌市宮の森 隈研吾&Knight Frank社」シリーズというファンドだ。

同ファンドが投資対象としているのは、建築家の隈研吾氏が設計を担当した集合住宅「プロスタイル札幌宮の森」である。

山沿いの斜面に低層の全20戸が配置されたデザイナーズ物件で、竣工は2022年8月、間取りは1LDK+Sから3LDKの高級レジデンスだ。

ヤマワケエステートでは、同物件全20戸のうち13戸を取得し、4回のシリーズのファンド(1st~4th)に分けて募集を実施。全シリーズ総額23億900万円を募り、想定利回りは13~18.4%を掲げていた。

4つのシリーズのうち「1st」については、2025年の1月31日に償還を迎えている。今回償還日が延期となったのは、2nd~4thのファンドだ。

3月7日付でヤマワケエステートから「運⽤終了後の償還延期に関するご説明」が発表され、2nd~4thの償還期限が延長されることが明らかになったのである。

(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)

ただし、投資家にこのことが伝えられたのは2025年2月27日。「2nd」に投資した投資家にとっては、償還予定日の前日に延期を聞かされた形となり、SNSなどではその対応について疑問視する声があがっている。

同シリーズはいずれもすでに運用期間自体は終了している。償還期日を延期することになった理由について、ヤマワケエステートは「本件取引において想定し得なかった事態が発⽣し、換価処分が完了しなかったため」と説明している。

加えて、運用終了時に「購入予定者が強い購入意思を示し、売買契約締結まで至らずとも購入の意思表示を証する書面を受領していた」(同社)ため、償還予定日までに償還が可能と判断したものの、契約条件の調整や必要書類の準備に時間を要し、結果的に売買契約の締結に至らなかったことが、償還日の延期につながったとしている。

この件について、楽待編集部はヤマワケエステートの親会社であるWeCapitalに質問状を送り、契約締結に至らなかった具体的な理由を尋ねたが「契約に関しましては、相⼿様との事情となり、ヤマワケエステート社と相⼿様との秘密情報の対象となるため弊社から明確な理由をお伝えすることができかねます」との回答だった。

また、償還予定日の前日に延期を通知する事態になった理由については、決済の準備を進めていた1⽉以降に、以下のような事情の変化があったと説明した。

「購⼊検討者が本物件のメゾネットタイプに対して、部屋の使⽤⽤途が限られることから良い反応を⽰さなかったため、メゾネットタイプを含めた全部屋を売却することを⽬的として、包括的に販売していく⽅向へ運⽤計画を変更することとなりました。そのため、ヤマワケエステート社としては、運⽤計画の変更に伴い、確定情報をお伝えできなかったと聴取しております」

■投資家の反応は

実際にこれらのファンドに出資した投資家は、償還の延期をどのように受け止めているのだろうか。複数の不動産クラファンに投資をしているAさんに話を聞いた。

Aさんは自身で現物の不動産を所有し運営しているほか、5年ほど前から不動産クラファンへの投資を始めた。預金で眠っている資金を小規模な投資に回すことで、少しでも稼げたらと考えたのだという。

Aさんがヤマワケエステートに投資したのは、2024年4月のこと。投資商品への参加が抽選で決まることが多く、Aさんはいくつかの商品に応募をしていた。

「その中で当選したのが『札幌市宮の森 2nd』です。15.9%という高利回りが魅力で、20万円を出資しました」

商品の償還期日は2025年2月28日。投資後は期日を待つばかりだったのだが…。

「期日の前日に突然、ヤマワケエステートからのお知らせが来たんです。償還期日が半年ほど延長されるとのことで…。一番は驚きの感情でしたが、同時に『物件が売れなかったんだな、あるあるだな』とも思いました」

Aさんは過去に金融機関に勤めた経験があり、現在はファンド関連の会社で働いている。同業者の視点から、物件が売れなければ償還期日が伸びることは理解していた。実際に過去にも、別の不動産クラウドファンディングで償還遅れを経験したこともあるという。

ただ、今回はそのリスクを事前に織り込んでいたというよりは、「あれだけ広く事業展開している会社ならきちんとしているだろう、と勝手に信頼していました」と語る。

「商品の特性を考えると『絶対に売れるだろう』と思っていたわけではありません。しかし専門家でもない個人投資家を相手にして商品を売るわけですから、会社側でリスクを考慮して、償還期日はしっかり守るものだろう…と思い込んでいた節はありました」

ただ、延長の発表が前日となったことについて、Aさんは「そこまで重く受け止めてはいない」と言う。

「不動産取引では、直前にちゃぶ台返しというか、契約がひっくり返ることはあり得ると理解しています。ヤマワケエステートとしても、売れるとは考えていたのだと思いますし、売れないと分かってから最速のタイミングでお知らせを出していたのであれば、それ以上どうしようもなかったのかなと感じます」

売買交渉が難航している時点でリリースを出しても不安を煽るだけであり、ある程度内容が固まるまで投資家へ連絡できなかったのではないか、とAさんは言う。

一方、償還期日が半年ほど伸びたことについては「その背景や詳細をもう少し示しても良かったのではないか」と語る。

なぜ半年なのか、今は売却に向けた交渉がどのように進んでいるかなどを投資家に知らせれば、より親切だったのではないかという。

今後については、そもそも自身の投資額が20万円と小規模だったこともあり、それほど不安視はしていないというAさん。有名建築家が手がけた物件ということから、「売れないことはないだろう」と語る。

「ただ、不動産クラウドファンディングの市場全体については、今後信用不安のようなものが広がり、資金繰りに苦戦していくつかの会社が潰れるような事態も可能性としてはあり得るのではないかと思っています。投資家への情報開示などにコストがかかり、全体的に商品の利回りが下がることは懸念しているところです」(Aさん)

同じく、ヤマワケエステートのファンドに投資したことがあるBさんにも話を聞いた。少額から投資でき、運用に詳しくなくても利回りを確保できる不動産クラファンに魅力を感じて、2年半ほど前に投資を始めた。

ヤマワケエステートについては、これまで3つの商品に投資を行い、うち2件がすでに償還済み。残り1件は2月末に運用期間が終わり、償還日を待っている状態だという。ヤマワケエステートへのこれまでの総投資額は400万円ほどだ。

これまで、他の不動産クラファンも含めて償還期日の遅れを経験したことはないというBさん。唯一、別の運営会社のファンドで運用期間の延長を経験したことはあるという。

「私が経験したのは運用期間の延長でしたから、当時も『そうなんだ』ぐらいにしか感じませんでした。運用期間が伸びた分の利益が上乗せされて、むしろ得したくらいです」

不動産クラファンで損をしたこともなく、ヤマワケエステートについても、今後も良い商品があれば投資することを検討していたという。ただ今回の件を受け、「少し考えなくてはいけないのかな、と思っています」と話した。

■関連会社「REVOLUTION」をめぐる動き

不動産クラファンに投資歴のある投資家は、今回のケース以外でも償還延期を経験したことがあるという人もおり、多少の不安は抱えつつも冷静に受け止めているようだ。

一方で、今回の一件に関連して気になる情報が飛び交っている。

ヤマワケエステートを運営するヤマワケエステート社の関連会社であるREVOLUTION社は3月11日付で、株主優待制度の廃止を発表。同時に新藤弘章社長の辞任を発表したことが波紋を呼んでいる。

ヤマワケエステートの償還延期問題との関連は定かではないが、優待廃止の理由についてREVOLUTION社は、同社株を保有していた子会社のWeCapital社(ヤマワケエステート社の親会社)の関係者が株式を大量売却したことにより、優待対象者数が想定を超えて大幅に増加したことを挙げている。

このように、ヤマワケエステートやその関連企業をめぐっては現時点では断片的な情報が出ているが、不動産クラファン運営に今後どのような影響が出るかは予断を許さない状況といえる。今月14日にREVOLUTION社の決算発表が予定されており、今後の動向に注視が必要だ。

■償還延期された残り9戸、売却のめどは?

償還延期が発表されているヤマワケエステートの商品に話を戻そう。

気になるのは、2nd~4thについて、新たな償還期日(2025年8月29日)に償還がされるのかどうか、ということだろう。

そのためには、投資対象の物件が無事に売却される必要がある。現在、これらの物件はどのような状況なのだろうか?

そこで編集部では、札幌のシリーズが投資対象としている「プロスタイル札幌宮の森」について、全20戸の区分の登記情報を調査した。

その結果、取得した登記情報から、全20戸中13戸をヤマワケエステート社が所有中、もしくは過去に所有していたことが確認できた。それ以外の7戸については、シンガポールやフィリピン、台湾、英国領ヴァージン諸島の個人や法人が、2022年から2023年にかけて購入していた。

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13戸がファンドの投資対象となっているが、これまでに売却されてヤマワケエステートから別の所有者に所有権が移っているのは、シリーズの中で唯一償還済みとなっている「札幌市宮の森 1st」の対象物件4戸。

なお、「札幌市宮の森 1st」の償還日は2025年1月31日だが、登記上の所有権移転の時期を見る限り、4戸のうち3戸は、償還後の2025年2月28日に、ヤマワケエステートから、WeCapitalと提携関係にある不動産会社に売買によって所有権が移転している。

上記について、ヤマワケエステートから投資家への通知はあったのだろうか。

WeCapitalは楽待編集部の取材に対し「ファンドの匿名組合契約約款上の売却等の定義では『売却し、⼜は本事業者の固有財産とし、若しくは他の不動産特定共同事業契約に係る財産とする⾏為をいう。』とされているため、対象不動産をファンド出資財産ではなく、ヤマワケエステート社の固有財産として保有した」と説明。その上で「ヤマワケエステート社の固有財産とした旨の通知は、投資家には⾏っておりません」と回答した。

償還後に提携先の不動産会社に売却したことについても「ファンド償還後のものですので、投資家様への通知はしておりません」とした。

一方、償還が延期された2nd~4thの計9戸について、登記上は現時点ですべてヤマワケエステートの所有となっている。今回の延期によって設定された新たな償還期日は、2025年8月29日。残り5カ月強でこれらすべての物件について、売却等が行われることになる。

売却に目処が立たなかった場合、再び償還日が延期される可能性はあるのだろうか。

WeCapitalからは、ヤマワケエステートから聴取した内容として「契約成⽴前書⾯の不動産特定共同事業約款第10条により、延⻑の可能性がございますが、お知らせで掲載致しました2025年8⽉29⽇までに償還できるよう、尽⼒致します」との回答があった。

また、WeCapitalの松⽥悠介⽒が代表取締役を2月に退任した事実を認めた上で、「ヤマワケエステートのファンド償還延期とは無関係」との認識を示した。

■不動産クラファンの「リスク」

ここまで、ヤマワケエステートの償還日延期に関する事実関係を確認してきた。ここであらためて、一般論としての「不動産クラファンのリスク」についても考えておきたい。

不動産クラファンには元本保証がない。元本割れするリスクを考える上で、カギになるのが「優先劣後出資方式」の仕組みだ。

これは、ファンドの運営で損失が出た場合でも、「一定の割合までは事業者側がその損失を負担する」というもの。これにより、出資者の元本割れの危険性が低減される。

例えば、劣後出資(事業者側の負担分)の割合が30%のファンドを組成し、事業者が1億円の物件を購入した後、物件が値下がりするなどして2000万円の毀損が生じたとする。損失額は2000万円だが、劣後出資額3000万円の範囲に収まるため、この損失は劣後出資者(事業者)がすべて負担することになり、優先出資者(投資家)の元本には影響がない。

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一方、物件価格の大幅な下落などで毀損額が4000万円であった場合、劣後出資額3000万円の範囲を超えることになる。3000万円を超過した1000万円分の毀損は、優先出資者(投資家)の元本に食い込むことになる。

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ファンドの損失が劣後出資分の範囲内であれば、優先出資者である投資家は元本割れしないという仕組みゆえ、「劣後出資の比率」がどの程度であるのかは、投資家にとって極めて重要だと分かるだろう。

■劣後出資比率に下限なし、「0パーセント台」のファンドも

優先劣後の仕組みには、法律上の明確な規定がない。劣後出資の割合について下限が定められておらず、各事業者がファンドごとに任意に設定しているのが現状だ。

ヤマワケエステートの場合、たとえば「札幌市宮の森 2nd」の契約成立前交付書面を見ると、「本契約は優先劣後構造となっており、事業参加者は優先出資を行い、本事業者が 0.1712%以上の劣後出資を行います」との記載がある。

「2nd」の募集金額(優先出資分)は5億5500万円。もし劣後出資割合が0.1712%だった場合、劣後出資分の金額は約95万円になる。

運用や売却で95万円以上の毀損があった場合は、優先出資者である投資家の元本に影響が出てくるということだ(※「満期一括償還型」の場合。定期的に元本の一部が償還される「元本定時償還型」のファンドも存在する)。

ただし、この商品は劣後出資比率が低い分、利回りは15.9%と他社のファンドに比べても非常に高くなっている。高いリターンが得られる可能性がある代わりに、ハイリスクなファンドであるということを理解して投資する必要があるだろう。

なお、劣後出資比率は、運営会社やファンドによってかなりばらつきがある。一般的に劣後出資比率が低いほど、利回りが高い傾向があるようだ。以下に、いくつかの具体例を挙げておく。

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■ハイリスクハイリターン型ファンドの一例
<ヤマワケエステート>
札幌市宮の森 2nd 隈研吾&Knight Frank社/利回り15.9%/劣後出資0.1712%

<Victory Fund>
第33号 宇都宮市プロジェクト/利回り12.0%/劣後出資1.0989%

<SHIODOME funding>
汐留ファンディング15号(川崎市麻生区1棟マンションプロジェクト)/利回り10%/劣後出資11%

■ローリスクローリターン型ファンドの一例
<Rimple>
Rimple's Selection #98/利回り2.7%/劣後出資30%

<えんfunding>
えんfunding 第40号ファンド【博多Belle】/利回り2.9%/劣後出資20%

<ちょこっと不動産>
ちょこっと不動産39号 豊島区高松Ⅰ/利回り4.05%/劣後出資37%
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ファンドごとに劣後出資の割合が異なり、リスクの度合いも変わってくるため、重要事項説明書などを投資家自身できちんと確認することが重要になる。

では、運用期間中に解約することはできるのだろうか。

ヤマワケエステートのサイトには「原則として、途中で解約することはできません」との記載があるが、前述の契約成立前交付書面には「本出資者は、やむを得ない事由が存在する場合には、本事業者に対して書面によって通知することにより、本契約を解除することができます」との記載がある。

また「本事業者又は本出資者は、以下各号のいずれかの事由が生じた場合、本契約を解除することができます」として、以下の項目を挙げている。

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(1)本契約の申込に際し、本出資者の申込事項又は本事業者の説明事項に虚偽又は重大な誤りがあったことが、本事業者又は本出資者において判明し、当該虚偽又は重大な誤りにより本契約を継続することが困難な場合。
(2)本出資者が2024年4月11日までに出資金の支払義務を履行しなかった場合。
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投資家から本契約の解除を申し入れた場合、出資額の3%(消費税別)を手数料とする旨も記載されている。



不動産クラファンは、不動産特定共同事業法に基づいて行われる。この法律はもともと、出資を募って不動産を売買・賃貸し収益を分配する事業の適正な運営や投資家の保護などを目的に1994年に制定されたが、インターネットを活用したクラウドファンディングに対応するため2017年に改正された。

これにより、制度を利用した不動産クラファンは近年急増している。国交省によると、2023年の実績ベースで新規に530件、出資額は1000億円を超える。

不動産クラファンが普及する一方で、商品が増えて複雑化することにより思わぬところで投資家が損失を被るケースも想定される。現状の制度に問題がないかを見直していく必要もあるかもしれない。

言うまでもなく、不動産クラファンは不動産投資や株式投資と同様に潜在的なリスクがある。「応募する」ボタンをクリックする前に、その点を思い出したい。

不動産投資の楽待

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最終更新:3/13(木) 19:00

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