「1粒1000円」超高級イチゴがバカ売れする納得の理由

5/2 7:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 スーパーで1粒1000円のイチゴが売られていたら、あなたは買いますか? 多くの人は、高すぎると思うでしょう。しかし、ある会社では1粒1000円のイチゴがヒット商品となり、バカ売れしているのです。一体、どうしてでしょうか?

※本稿は、川上徹也『高くてもバカ売れ! なんで? インフレ時代でも売れる7の鉄則』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。
● 1粒1000円のイチゴが誕生した訳

 想像してみてください。もし、スーパーで1粒1000円のイチゴが売られていたとしたら、あなたは買いますか? 多くの人は、高すぎると躊躇(ちゅうちょ)するでしょう。

 しかしそんな1粒1000円のイチゴを売って、ヒットさせている会社があります。それが「ミガキイチゴ」を販売する宮城県山元町にある農業生涯法人株式会社GRAです。

 創業者の岩佐大輝(ひろき)さんは1977年に山元町で生まれ、大学在学中にITベンチャーを起業し、現在は日本およびインドなどで複数の法人のトップを務めています。

 起業して10年近く経った頃、東日本大震災が起こりました。故郷である山元町も津波で甚大な被害を受けます。岩佐さんは地元に戻り、がれき撤去のボランティアをしました。「何とか故郷を復興させたい」と考えたときに、岩佐さんの頭には、町の特産品だったイチゴのことが思い浮んだのです。

 山元町は宮城県内有数のイチゴの名産地でしたが、津波でハウスの95%以上が流失するという大打撃を受けていたのです。多くのイチゴ農家も廃業の危機に直面していました。

 「自分の得意分野であるITを生かして、ビジネスとして新しい農業を確立することができたら、イチゴ産業の復興にもなるし、地元の雇用創出にも繋がるのではないか?」と考えた岩佐さんは、農業生産法人株式会社GRAを設立しました。震災からわずか4カ月後の2011年7月のことでした。

 岩佐さん自身はまったく農業経験がありませんでしたが、匠(たくみ)の技をもつ地元のベテラン農家と協力しながらイチゴ栽培のIT化に取り組みます(このような農業の形態を「スマート農業」と呼びます)。

 こうして温度や湿度の管理など、これまで勘や経験に頼っていたものを数値化して、誰もが高品質なイチゴを栽培できるようにしたのです。

 ただし、いくら高品質のイチゴを育てても、そのまま売るだけでは利益が上がりません。スマート農業には、さまざまな初期投資や固定費が必要となってきます。それを回収するためには価格を上げることが不可欠なのです。

 しかしイチゴは品種によっておおよその相場が決まっています。GRAで育てているのも「とちおとめ」「よつぼし」「ハナミガキ」といった既存の品種です。栽培したイチゴのポテンシャルを上げるには、「品種」以外の要素でブランディングをして高価格で販売する必要があります。

 そこで熟度、色、形、糖度、大きさなどの基準を満たしたイチゴを厳選し、ダイヤモンドの原石を磨き上げる作業に例えて「ミガキイチゴ」と命名することにしました。さらにレギュラー、シルバー、ゴールド、プラチナと4段階のグレードに分けて販売したのです。「プラチナ」に選ばれるのは、約500粒のうち1粒程度。

 希少性は十分です。だからといって、それだけで買ってくれるでしょうか?

 そこで考えたのが、商品コンセプトを「自分で食べるもの」から「人に贈るもの(プレゼント用・贈答用)」にすることでした。

● 「おしゃれ」「美しい」という感情的価値を重視

 今回の「高売れキーワード」は、「プレゼント」です。似た内容の商品であっても、「プレゼント用」「贈答用」にすることによって、買う人の判断基準は大きく変わってきます。

 自分のために買う時は、味や価格という「理性的価値(コスパ)」が優先されます。しかし誰かにプレゼントするために買うときには、パッケージのおしゃれさや商品を開いたときの美しさなどといった「感情的価値」が優先されるようになるのです。

 あなたも、きっと覚えがあるでしょう。自分用の食べ物だと「おいしくて安い」が最優先だけど、改まった贈答用には「おいしさ」もさることながら、「見た目のおしゃれさや美しさ」が優先され、「それなりの値段」であることも重視されるということを。

 実際、ミガキイチゴは、1粒ずつ丁寧に緩衝材に包まれ、宝石のロゴマークをあしらった化粧箱に収められています。売り場も、普通のイチゴとの差別化を図るためにスーパーなどではなく、東京都内の高級デパートに狙いを定めました。

 このように「贈答用」に絞ったマーケティング戦略で、高価格を実現することができたのです。最上級の「ミガキイチゴ・プラチナ」のお値段は、なんと1粒1000円。まさに「食べる宝石」ですね。

 2013年度には、農作物の付加価値を高めることに取り組んだ点などが評価され、グッドデザイン賞を受賞しました。

 「ミガキイチゴ」は確かに高価ですが、完全に“真っ赤”になるまで待って収穫したデリケートな完熟イチゴ、しかも形の揃ったものが立派な箱にきれいに並べられた様子を見ると、贈られた人は思わず笑顔になるでしょう。

 複数品種のイチゴを「ミガキイチゴ」という地域ブランドとしたことも、独自化に大きな役割を果たしています。

 それに加えて、震災被災地での生産活動という情緒に訴えかけるストーリーも、「ミガキイチゴ」を「高くてもバカ売れ」するブランドに育てた要因のひとつであることは間違いありません。

 つまり「ミガキイチゴ」は、消費者の理性ではなく感情を動かす「贈答用イチゴ」としてのストーリーを生み出すことで、1粒1000円という驚きの価格づけを成功させたのです。

● 1000円の超高級品をプチギフトに

 「プレゼント用」「贈答用」というと、数千円から1万円程度の値付けをすることが一般的です。

 しかし、もともとが安価な商品である場合、1000円程度の価格であっても高級品です。それでもちょっとしたギフトとして喜ばれる商品にすることができます。

 ここ数年、密(ひそ)かにヒットしているのが高級ティッシュというジャンルです。各社から出ていますが、クリネックス(日本製紙クレシア)から販売されている至高シリーズ「極(きわみ)」はその代表格です。

 一般的なティッシュペーパーが1箱あたりにすると100~200円前後なのに対し、「極」は1箱1000円という超高級品です。

 原材料は針葉樹パルプと広葉樹パルプを黄金比率で配合、極めて薄く仕上げた紙を4枚重ねにして、独自の特殊加工を施し、ふっくら・やわらかな肌ざわりを実現した商品になっています。

 パッケージは「金襴/KINRAN」と「黒硯/KUROSUZURI」の2種類。いずれも、金箔押しのオリジナルロゴ「極」を用い、「金襴」は金色をベースカラーに大小の紋様を組み合わせたデザイン。「黒硯」は黒色をベースカラーに細かい伝統紋様をモチーフに配列したデザインです。どちらも高級感あふれるラグジュアリーなパッケージになっています。

 このような高級ティッシュは、引っ越しの時の挨拶品、パーティーの引き出物、花粉症の友人へのプレゼントなどのギフト需要が多いのです。

 自分ではなかなか買えないけど、もらうと嬉しい品になっているということでしょう。このあたりにも、「高くても売れる」ヒントがありますね。

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最終更新:5/2(木) 7:02

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