東名高速道路の「大和トンネル」(神奈川県大和市)は、渋滞が発生しやすい“名所”として知られます。渋滞を解消するための「救世主」として、側道を走行できる「付加車線」が整備されたものの、効果を発揮したとは言えません。その残念な理由を、自動車ジャーナリストが徹底考察します。(自動車ジャーナリスト 吉川賢一)
● 渋滞の救世主「付加車線」も 大和トンネルでは無力!?
皆さんは「付加車線」という道路をご存じでしょうか。
渋滞緩和を目的に、本線車道の側道などを整備してクルマが走行できるようにしたものです。利用時間帯の規制はないため、無理な追い越しなどをしなければ、どのようなクルマでも通行できます。融通が利くことから、渋滞緩和の「救世主」だと高評価する報道もみられます。
ただし通常の車線とは異なり、付加車線は走行できる区間が限定されています。一例を挙げると、「渋滞の名所」として知られる東名高速道路の大和トンネル付近には、2021年7月に付加車線が設置されました。その長さは「上り線約3キロ・下り線約2キロ」と限られています。
大和トンネルとは神奈川県大和市にある、横浜町田インターチェンジ(IC)と綾瀬スマートICをつなぐトンネルです。全長はたったの280メートルですが、もともと交通量が多かったことに加え、渋滞の原因となりやすい「サグ(下り坂から上り坂に変わるポイント)」であることから、以前から常に渋滞が発生していました。
実際に運転してみると、大和トンネル付近は「丘」のような地形です。上り線では、トンネルの手前から上り勾配が始まり、トンネル内に入ると傾斜がさらに強くなっています。下り線では、トンネルの手前に下り坂があり、そこから上り坂に差し掛かっていきます。
いずれも勾配に気を付けながらトンネルに入るため、ドライバーは事故を起こさないよう減速しがちになるのでしょう。
そんな渋滞多発エリアに付加車線が設置されてから、まもなく3年が経過します。しかし実は、大和トンネル付近の渋滞はあまり解消されていません。
せっかく導入された「救世主」は、なぜ効果を発揮できていないのでしょうか――。
● 「付加車線」導入でも変わらない 大和トンネルの現状とは
本題に入る前に、大和トンネル付近の現状を改めてお伝えしましょう。
まずは、筆者の個人的見解からお伝えします。神奈川県に住む筆者は東名高速をよく利用しますが、やはり大和トンネル付近の渋滞は解消されていないように感じます。むしろ悪化したと感じることもあります。
特に、新型コロナウイルス禍に伴う行動制限が解除された昨春あたりからは、休日だけでなく平日にも渋滞が多発するようになりました。以前は平日ならスムーズに通過できた箇所も、今は移動にかなり時間がかかっています。渋滞解消のために付加車線を導入したのですから、渋滞が減ってほしいものです。
次に、官公庁や、高速道路を管理する企業の公式見解をお伝えします。
国土交通省、神奈川県警、横浜市、川崎市、NEXCO東日本、NEXCO中日本などの関係者が参加する「神奈川県渋滞ボトルネック検討ワーキンググループ(WG)」という会合が、今年3月4日に行われました。そこで使用された説明資料がインターネット上で開示されているので、中身を見てみましょう。
この資料によると、現在の東名高速上り線では、大和トンネル付近をボトルネックとする渋滞は減少している一方で、その手前にある綾瀬スマートIC付近をボトルネックとする渋滞が増えているとのことです(引用元の資料はこちらから)。
位置関係について補足すると、東名高速の上り線は、厚木ICや海老名ジャンクション(JCT)から、海老名サービスエリアを過ぎて綾瀬スマートICに至るまでのエリアが4車線となっています(加速車線が続いているためです)。そこから綾瀬スマートICを過ぎたあたりで、いったん3車線に絞られます。もう少し走って大和トンネル付近に差し掛かると、付加車線を走れるようになります。
このうち、付加車線が設置された大和トンネル付近での渋滞は緩和されたものの、3車線に絞られる綾瀬スマートIC周辺での渋滞が増えた――というのがWGの公式見解です。すなわち、渋滞の位置が「ズレた」ということです。
筆者の個人的見解とは少々異なる結果となりましたが、確かに最近は、渋滞情報を伝えるラジオで「綾瀬スマートIC付近を先頭に…」というフレーズをよく聞きます。
● 東名高速の下り線では 付加車線の「効果なし」
一方で、WGの資料には、大和トンネル付近の下り線について「渋滞回数・ボトルネック位置に大きな差はみられない」と記されていました。下り線においては「付加車線の効果はなかった」と認めているわけです。
先述の通り、下り線ではトンネルの手前にサグがあり、下り坂から上り坂へと切り替わります。ドライバーが勾配に細心の注意を払うため、ブレーキの連鎖が非常に起きやすい場所だと言えます。その特殊な環境下では、付加車線の効果は限定的だったのでしょう。
筆者の見立てでは、大和トンネル付近の付加車線があまり機能していない理由は他にもあります。
例えば、東名高速の横浜青葉ICと首都高横浜北西線が2020年に接続したことで、この付近を行き交う交通量が増えています。東名高速の海老名JCTに接続する圏央道沿道の周辺には、最近になって企業の物流拠点が集まっています。こうした要因による交通量の増加も響いて、付加車線だけでは渋滞を解消できなかったと思われます。
とはいえ、関係各所も手をこまねいているわけではありません。すでに課題解消に向けて動いています。
3月のWGの会合では、綾瀬スマートICを過ぎた先で3車線に絞られる区間(約1.3キロ)にも、新たに付加車線の設置が必要との案が提出されました。下り線に関しては、すでにトンネル手前に付加車線(約2.7キロ)を設置する工事が始まっており、運用開始に期待したいところです。
ただし、このうち上り線のテコ入れ策が奏功するかは微妙なところです。綾瀬スマートIC付近に付加車線を設けると、渋滞の発生ポイントが「さらに手前」に移動し、同じく3車線に絞られる横浜町田ICの手前が混雑するかもしれません。
付加車線を少しずつ拡張しても、渋滞の発生地点が再度「ズレるだけ」で根本的な解決にはならないため、将来的には海老名JCTから横浜町田ICまでの上り線を全て「4車線化」する必要がありそうです。
● 付加車線は道路の左端ではなく 右端に設置すべき
さらに言えば、東名高速の付加車線は、通常の車線の「左端」に位置しているのも課題だと筆者は考えます。すでに渋滞が発生している状況下では、左側に車線変更して付加車線まで移動するのが難しいためです。
道路の左端を走ることに慣れていないドライバーの中には、まるでズルやインチキをして路肩を走っているかのように、違和感や罪悪感を抱く人がいるかもしれません(実際は何の問題もないのですが)。
こうした懸念点を踏まえると、積極的に車線変更をするドライバーが多い「追い越し車線側(右端)」に付加車線を設置したほうが、渋滞緩和の効果が出やすい可能性もありそうです。
実際に、右側に付加車線が設けられた例もあります。
中央自動車道の下り線で、多治見IC(岐阜県)と小牧IC(愛知県)の間にある上り坂区間。このエリアでは2016年3月末、それまで走行車線の左側にあった登坂車線を通常の走行レーンに変更し、その右側に「付加車線」という形で追い越し車線を設けました。すると、各車線の走行量のバランスがよくなったといいます。
東名高速の付加車線に関しても、このような工夫があれば渋滞解消につながるかもしれません。単に距離を延伸するだけでなく、「付加車線を道路のどちら側に設けるか」についても見直されることを期待します。
ダイヤモンド・オンライン
最終更新:4/18(木) 12:02
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