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意外?納得?入学志願者数の減少が止まらない「薬学部」の実態 人気復活のカギは就職先か、「起業」する薬剤師も

3/7 9:32 配信

東洋経済オンライン

 国内の薬学部への入学志願者数が減り続けている。特に私立大学でその傾向が顕著だ。

 一般社団法人日本私立薬科大学協会の調査によると、2023年度の私立薬科大学(薬学部・6年制・4年制)の入学志願者数は7万4826人(前年に比べて1799人減少)。8年ぶりに増加した前年度から再び減少に転じた。

■志願者数が10万人を超えた時期も

 薬学部はかつて受験生に人気のある学部だった。

 2008年9月に発生したリーマン・ショックを背景とした就職難で、手に職がつく仕事として薬剤師人気が高まり、2011年から入学志願者数が急増。2013年から2017年の5年間は入学志願者数が10万人を超えていた。

 ほかの学部も加えた私立大学全体の入学志願者数の推移と比べると、この時期に薬学部人気が急激に高まったことがわかる。

 しかし、薬学部は2014年の12万1431人をビークに減少傾向が続く。私立大学全体の入学者数が2020年に始まるコロナ禍まで増加していることと比べると、受験生が薬学部を避け、別の学部を選ぶ傾向が進んでいることが見て取れる。これに伴い、入学定員の充足率が2019年から2021年までの3カ年平均で80%以下になった大学は約3割に達した。

■なぜか薬学部の新設は続いている

 その一方で、薬学部の新設は続いている。

 医学部や歯学部などとは異なり、大学の判断で自由に新設や定員を増やす申請ができたこともあり、2003~2008年の6年間で28学部が新設。さらに2018~2021年の4年間で5学部が増え、現在は77大学79学部となっている。2024年4月には順天堂大学と国際医療福祉大学成田キャンパスで薬学部が開設予定のため、学部間の競争はさらに激しくなる。

 学生争奪戦が激しくなるなか、各大学は薬剤師国家試験(国試)の合格率アップに力を入れる。

 特に、留年せずに薬学部を卒業して国試に合格する、いわゆる「ストレート合格率」にこだわる。それが受験生や保護者へのアピール材料になり、入学志願者数が増えると信じているからだ。

■問題は「ストレート合格率」ではない

 だが、こうした動きに異を唱える学長がいる。日本薬科大学の都築稔氏だ。

 「もちろん合格率が高いのに越したことはないが、ストレート合格率と入学志願者数にはさほど相関関係はない。それよりも、キャンパスの立地や競合校の影響のほうがはるかに大きい。合格率ばかりを気にするような状況が続けば、この国の薬学部の未来は先細る一方だ」と言い切る。

 都築氏が大学運営で最も大切にしているのは、薬学部生の多様な就職先や新たな活躍の場の確保だ。

 一般社団法人薬学教育協議会の調査によると、6年制の薬学部を2023年3月に卒業した学生は9629人で、就職先は保険薬局が2758人、ドラッグストアの調剤部門が1894人、医療機関が1998人。薬学部生のほとんどは、保険薬局、ドラッグストアの調剤部門、医療機関のいずれかに就職していることがわかる。

 薬学部生は、卒業後の進路を決めるにあたり、5年生のときに参加する病院・保険薬局での実習を参考にする。そこで薬剤師として働く意義ややりがいを見出し、就職先を決める学生がいる一方で、実習先の環境や業務になじめず、薬剤師になるモチベーションを下げる学生もいる。

 「従来の就職先が合わない学生に、ほかの選択肢を提示できなければ、薬学部で学ぶ魅力を伝えきれない」というのが都築氏の考えだ。

 実際に新たな道で活躍を始めた卒業生もいる。

■起業を選ぶ薬剤師も出てきている

 2017年に同大を卒業した高林拓也氏は、横浜薬科大学を卒業した保田浩文氏とともに、ドラッグストアで勤務する傍ら薬剤師の職能を生かせるビジネスを模索、2019年6月に株式会社HealthCareGateを設立し、「オンライン薬剤師」というサービスを開始した。

 起業のヒントは青森県の医師がX(旧Twitter)でつぶやいた、「在宅医療の現場に処方箋のチェックをしてくれる人がほしい」という一言だった。

 ドラッグストアでの経験から、薬剤師が持つ職能をさらに発揮すれば、医師の負担を減らせると考えていた保田氏は、すぐにダイレクトメールを送り、青森へ。医師のかばん持ちとして、在宅医療の現場を見て回った。

 「青森の医師は、往診をしたり、処方箋を出したりするだけでなく、書類作成やほかの医療職との情報共有など、医師がやらなくてもいいような仕事も行っていた。そういった業務の一部を薬剤師が担うサービスを提供できれば、ビジネスになると気が付いた」と、保田氏は振り返る。

 オンライン薬剤師は、在宅医療の現場と薬剤師をオンラインでつなぎ、これまで医師が行っていた患者情報の照会や処方薬の検討などを、薬剤師が代行するサービスだ。医師からは「診療に集中できる」と好評だ。

 このような新しい視点を持つ学生を育てるためにはどうすればいいのか。

 都築氏に聞くと、「国試合格のために机に向かって勉強するだけでは育たない、学生のうちに国内外の多種多様な他者と交流することが大事だ」と話す。

 都築氏は副学長時代から、企業や自治体、国内外の教育機関との連携協定を積極的に進めてきた。その数は全部で116(2024年2月現在)。学内に地域連携室を設置し、学生の学びの場の創出とビジネス的な価値を生み出すことにこだわっている。

 例えば、東京都を中心に海外にも店舗展開している麺屋武蔵とは、「花粉症対策ラーメン」を共同開発した。日本薬科大学のさいたまキャンパスがある埼玉県伊奈町出身の矢都木二郎社長に、都築氏が「健康ラーメンを作ろう」と提案したことがきっかけだった。

 学内募集に応じた学生や教員が、「薬膳」や「生薬学」の知識を生かし、鼻の通りを良くするためにハッカや菊の花を使ったラーメンを提案。1000円で販売したところ、テレビや新聞で取り上げられるなど好評で、広告効果が高かったことから、同社との取り組みは現在も続いている。

 連携協定の背景には、自治体であれば地域活性化、企業であればマーケティングや人材確保、CSRといった狙いが必ずある。そういったニーズに対して、学生たちが学んだ薬や医療、健康といった知識を掛け合わせることで、付加価値を生む取り組みをする。

 「これはまさにビジネスそのもので、学生をこういった活動に参加させれば、卒業後も自分たちの強みを生かした“薬学×○○”という発想が生まれやすくなる」と、都築氏は強調する。

 急速に進む少子化は薬学部にとっても他人事ではない。将来的に薬剤師が供給過剰になるという指摘もある。厚生労働省によれば、薬剤師の総数は2045年に43.2万~45.8万人となり、病院や薬局で必要な人数(33.2万~40.8万人)を最大で12.6万人上回る。

■文科省は新設・定員増を認めない方針

 こうした状況を受け、文部科学省は2025年度以降、原則として大学の6年制薬学部の新設や定員増を認めない方針を決め、定員割れの大学に対する助成金の減額や不交付など、入学定員の適正化に向けた動きを進める。

 薬学部を取り巻く環境が厳しさを増し、少子化で他学部との競争も激しくなるなか、薬学部が“選ばれる学部”になるためには、受験生や保護者はもちろん、社会全体から見ても魅力的な学部であり続ける必要がある。

 そのためには従来のやり方に留まらず、薬学部生の新たな活躍の場を開拓するなど、薬学部全体が変わることが求められている。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/7(木) 9:32

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