倒産リスクが高い「危ない会社」の兆候は? 「信用調査会社」記者の日常《楽待新聞》

3/22 19:00 配信

不動産投資の楽待

取引先企業の経営状況や財務の健全性などを把握するための情報を提供する信用調査会社。不動産投資家であれば、新築を建てる際の工務店選びの参考にするといった利用方法もあるだろう。

しかし、信用調査会社がどのように企業情報を収集しているかは、ベールに包まれている部分も多いのではないだろうか。

今回のコラムでは、外部からはなかなか窺い知ることができない「情報記者の日常」とともに、情報収集・分析のプロたちが日夜、どのようにして「危ない会社」に関する情報を掴み、倒産可能性を見極めているのかについて、その一端を紹介したい。

■情報収集の重要ツール「官報」

私が所属する帝国データバンクは、約3300人の従業員のうち、半数の1700人が調査取材部門に所属。独自のノウハウと現地調査により情報収集にあたっている。

筆者は2000年4月、新卒で帝国データバンクに入社した。以来、約24年にわたり一貫して「情報記者」としてキャリアを歩み、「倒産しそうな会社」と「倒産した会社」の個別取材、倒産動向のマクロ分析を手がけてきた。これまでに現場で取材した倒産企業は3000社を超える。

情報記者の朝は早い。8時過ぎ、パソコンを開いて「あるサイト」の更新を確認するところから一日が始まる。

サイトの名は『インターネット版官報』。誰でも閲覧できる無料のサイトなので、ぜひ一度検索してほしい。

日々更新される官報には、「破産」「特別清算」「民事再生法」「会社更生法」といった倒産の確定情報が掲載される。

その中から負債額が大きい案件はないか、話題性・ニュース性のある案件はないか、情報記者が手分けして探し出す。

「◯◯社の負債額、大きいぞ」―。担当記者の一言で、その場の緊張が一気に高まる。

帝国データバンクでは原則、「負債額30億円以上」の倒産を速報発表(マスコミ向けにプレスリリース)しており、基準を満たす案件がその日の官報で見つかったということだ。

すぐに現地取材に飛び出す者、倒産速報の原稿作成に取りかかる者、取引先や知り合いの弁護士に電話をかける者など、記者それぞれが自然と動き出す。

事実確認が取れて速報記事を無事にリリースするまで、一度張り詰めた空気が解けることはない。

官報を定点観測することで、「減資」「合併」「解散」「事業譲渡」など、さまざまな企業情報も入手できる。まさに情報の宝庫だが、情報量が多すぎるのも事実で、慣れるまではその取捨選択にとまどう。

ひとつ注目すべき項目を挙げるとすれば、毎日の官報「号外」の最後に出てくる「会社決算公告」のページ。企業規模を問わず、直近の決算書(ほとんどが貸借対照表のみ)がずらりと記載されており、それだけでも一見の価値がある。

株式会社には原則として決算公告が会社法の規定で義務づけられている中で、きちんと公告を出しているかどうかで、その会社の情報開示姿勢を見ることもできる。

■近年は「SNS発」の情報も端緒に

倒産情報の端緒となるのは、毎朝の「官報」だけではない。むしろ、社内外からの「問い合わせ」が取材のきっかけになることの方が多い。

「帝国データバンク(情報統括部)に聞けば、何かわかるに違いない」―。ありがたいことに、社内外からそのように思っていただいており、自然と情報が集まる。

倒産のXデーが近づくにつれて、問い合わせの数も増えてくるから不思議なものだ。帝国データバンクでは会員向けに情報提供を行っている。気になる会社があったら、「最近の問い合わせ状況」を帝国データバンクに尋ねてみるのも、ひとつの手といえるかもしれない。

ここ数年は「SNS」発の情報をもとに、取材に動くケースも増えた。

会社の悪口レベルのものから内部告発に近い内容まで、まさに玉石混交だが無視はできない。倒産につながりうる情報かどうか、そもそも書いてある内容が本当かどうか、裏付け確認を取るしかない。

なかには、会社の玄関に貼られた告示書や、債権者の元に届いた通知書の写真をそのままアップした投稿まであり、SNSは今や情報記者にとって重要な情報源のひとつとなっている。

また、近々に倒産の可能性がありそうな会社のホームページ(HP)も、定点観測を続けている。その会社に何か動きがあれば、最初に自社HPに「お知らせ」をアップするケースが多いからだ。

どんな会社かを見極めるうえで、HPはきわめて有用なツールだ。「自社サイトの有無」のほか、「見せ方」や「更新の頻度」からも、その会社の情報公開姿勢が推し量れる。

個人的には、HPに社長の顔写真があるかどうかを必ずチェックするようにしている。穿った見方かもしれないが、これまでに取材してきた「問題企業」には顔写真がないケースが少なくなかった。

■金融機関の「適時開示」も注視

情報記者は日中、原稿の執筆や社内外からの電話問い合わせに応じながら、上場企業のリリース情報をリアルタイムでチェックしている。

近年は上場企業の倒産自体が年間1~2件にとどまるものの、その瞬間に備えて警戒を怠らない。日本取引所グループの「適時開示情報閲覧サービス」のサイトは誰でも閲覧できるが、すべてのリリース資料を精査している組織はそうそうないはずだ。

開示資料の中で最近目につくのが、金融機関による「(取引先に対する)債権取り立て不能・遅延の恐れ」に関するリリース。

資料を見て、当該取引先が倒産した事実を把握することもあるうえ、各地の地銀・第二地銀が融資先の粉飾決算を見抜けないまま、多額の焦げ付きを発生させている事例が目立つ。

企業取材を進めるうえで必要不可欠な資料が「登記情報」で、情報記者であれば、毎日さまざまな登記に目を通しているものだ。

事前に登録が必要だが、「登記情報提供サービス」のサイトを通じて、不動産登記、商業登記、動産・債権譲渡登記などが有料で取得できる。

登記関連の最新トピックといえば、「代表者住所の非公開化」だろう。これまでは株式会社の登記時に原則記載されていたが、今年6月からは希望すれば非公開にできるようになる。会社との商談前や与信判断の際に、代表者の住所を確認したいという一定のニーズがあったが、今後は非公開化が広がりそうだ。



倒産可能性のある「危ない会社」かどうかを判断するうえで大事なのは、「些細な変化」を見逃さないことだ。

2024年の企業倒産は11年ぶりに1万件を超える可能性が高く、取引先の倒産被害に何らかの形で巻き込まれないためにも、本コラムも参照しつつ、情報に対する感度をさらに高めていただければと思う。

帝国データバンク情報統括部・内藤修/楽待新聞編集部

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最終更新:3/22(金) 19:00

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