過去に死亡事故も、エレベーター「安全装置」設置義務化も導入進まぬ現状《楽待新聞》

4/4 19:00 配信

不動産投資の楽待

エレベーター付き賃貸物件は入居付けにプラスに働くことがあるが、導入やメンテナンスに大きなコストを要するマイナス面もある。

突発的な故障が発生し閉じ込めといった事故が起こった場合、所有者や管理者が責任を問われる可能性もある。安全性には常に気を配らなければならず、このことはオーナーの負担となる。

また、エレベーターの導入当初は不要だった安全装置が、その後の法改正によって設置が義務化されるケースもある。2009年9月には「戸開(とびらき)走行保護装置」(UCMP)の設置が義務化された。

しかし、同装置の認知度は低く設置費用もかかるため、設置されているエレベーターは少ないのが現状だ。本記事では、戸開走行保護装置義務化の背景や、設置率が低い理由について解説する。

■戸開走行保護装置とは?

エレベーターの「戸開走行保護装置」とは、エレベーターのドアが開いているときに、人を乗せるかごが動かないようにする安全装置だ。

2009年9月に建築基準法が改正され、同年9月28日以降に設置されたエレベーターに対して戸開走行保護装置の設置が義務付けられた。

エレベーターが正常に動作した状態であれば、ドアが開いたままかごが動くことはまずない。

しかし、運転制御装置やブレーキなどが故障すると、ドアが閉じる前にかごが昇降する可能性があり、事故につながる危険性がある。

ここで役立つのが、戸開走行保護装置だ。具体的には、「2個の独立したブレーキ」「かごの移動を感知する装置」「通常の制御回路とは独立した制御回路」の3つの要件をすべて満たした装置のことを指す。

運転制御回路やブレーキが故障しても、独立した回路によって戸開走行を検出し、エレベーターを停止させる機能を持つ。

戸開走行保護装置は、国土交通省の認定を取得しているため、安全性が保障されている点もメリットの1つと言えるだろう。

■エレベーターで相次ぐ事故

戸開走行保護装置の設置義務化に至った大きな要因は、2006年に東京都港区の共同住宅で発生した事故だ。

高校生がエレベーターから降りようとしたところ、ドアが開いたままかごが急上昇。これにより、高校生は乗降口の上枠とかごの床部分に挟まれ命を落としてしまったのだ。

非常に痛ましく衝撃的なニュースとだけあって、エレベーターの安全性確保に関して一石を投じる事故となった。

また、2009年の建築基準法改正では、地震によるエレベーター内の閉じ込め対策として、「初期微動(P波)感知地震時管制運転装置」の設置も義務化された。

これは、2005年7月に発生した千葉県北西部地震でエレベーターの閉じ込め事故が起こったことを受けて講じられた対策だ。

初期微動(P波)とは、強い揺れを起こす本震(S波)前に発生する小さな揺れのことである。

この装置には、初期微動(P波)を感知すると強制的にエレベーターのかごを最寄り階に停止させ、ドアを開放する機能がある。利用者の閉じ込め防止に効果的とされている。

上記とあわせて「停電時自動着床装置」の設置も義務化されている。

これは、停電が発生するとエレベーターの動力電源をバッテリー電源に切り替え、自動的に最寄りの階まで運転し扉を開放するする装置だ。地震時と同様、かご内での閉じ込めを抑止する目的がある。

その後、2011年に起こった東日本大震災を受けて、2014年にも建築基準法が改正されている。

地震などの震動で、かごを効率よく昇降させるための「釣合おもり」が脱落するケースが多発。この脱落が発生しない構造方法を用いるよう定められるなど、耐震性強化措置が義務付けられた。


■国や地方自治体による設置補助金も

安全性を担保する上で設置が求められるエレベーターの安全装置だが、設置はあまり進んでいないのが実情だ。法改正前に設置された「既存不適格」のエレベーターがまだまだ多く存在する。

国交省の調査によると、直近の2022年度に定期検査報告が行われた全国のエレベーター約76万台のうち、戸開走行保護装置が設置されていたのは約35%に過ぎなかった。

エレベーターの安全装置の設置を推進すべく、国や地方自治体では既設エレベーターの防災対策改修工事に対して、さまざまな支援を実施している。下記の工事に1台あたり最大で950万円の補助金が支払われる。

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(1)地震時管制運転装置の設置

(2)主要機器の耐震補強措置

(3)戸開走行保護装置の設置

(4)釣合おもりの脱落防止措置

(5)主要な支持部分の耐震化
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対象となるエリアは、三大都市圏、人口5万人以上の市、および地方公共団体が指定する区域。延床面積が1000平米以上あることや、長期修繕計画等を作成していることなどが要件となっている。

また、地震などの発生によりエレベーター内に閉じ込めが発生してしまった場合に自動で最寄り階に着床する「リスタート運転機能」の追加や、運転停止をした際の「自動診断・仮復旧運転機能」の追加も補助対象だ。

地方公共団体と協定を結んだ避難場所等以外の建築物の場合は、先述の5つの防災対策改修工事を完了させた上で、1台あたり最大で250万円の補助金が支払われる。

■所有者・管理者の意識改革は必要

筆者は不動産管理業務に携わっており、エレベーター付きビルのオーナーと接する機会が多い。

築年数の経過した物件のオーナーに対しては、エレベーターのリニューアルを推奨しているが、高いコストがかかることから、資金に余裕のあるオーナーでなければ設置について前向きな考えを持ちづらいのが実情だ。


違法ではないことやコストの観点から「使えるうちは使いたい」という考えのオーナーは多く、耐用年数を大幅に超過したり、メーカーからの部品供給が終了したりと差し迫った状況になったところで、ようやく改修工事を決断するといったケースも少なくない。



しかし、そのようなやむを得ない事情ではなく、使用上問題なくても安全性の観点から進んでエレベーター改修を実施していくことが望ましいのは言うまでもない。



特に地震や台風などの災害が増加している昨今、エレベーター付き物件の所有者や管理者は、安全への意識を一段と高める必要がある。

同時に国や自治体も、戸開走行保護装置が必要な理由や設置する際の支援制度について、さらに積極的な情報発信をし、認知度向上に努めるべきだろう。

伊野文明/楽待新聞編集部

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最終更新:4/4(木) 19:00

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