息子を「世界一の金持ちにする“実験”」の意外な効能 子供には「投資」ではなく「ビジネス」を教えよう

5/17 8:02 配信

東洋経済オンライン

「お金の本質を突く本で、これほど読みやすい本はない」
「勉強しようと思った本で、最後泣いちゃうなんて思ってなかった」
経済の教養が学べる小説『きみのお金は誰のため──ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』には、発売直後から多くの感想の声が寄せられている。本書は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリ第1位を獲得、20万部を突破した話題のベストセラーだ。

著者の田内学氏は元ゴールドマン・サックスのトレーダー。資本主義の最前線で16年間戦ってきた田内氏はこう語る。

「みんながどんなにがんばっても、全員がお金持ちになることはできません。でも、みんなでがんばれば、全員が幸せになれる社会を作ることはできる。大切なのは、お金を増やすことではなく、そのお金をどこに流してどんな社会を作るかなんです」
今回は、先日ネットで話題となった「世界一の金持ちを作る実験」から、あるべき「お金の教育」の姿について解説してもらう。

■寝る前にかける呪いの言葉

 「息子が3歳のときから毎晩、呪いの言葉をかけているんです」

 と彼は嬉しそうに話していた。

 その言葉とは、「世界一のお金持ちになりなさい」。

先日、ゲスト出演したABEMA Prime(アベプラ)でお会いしたIT系サラリーマンのソーリムウーハーさんは、11歳になる息子さんを「世界一の金持ち」にするための“実験”をしているそうだ。

 お金持ちになるための教育を受けている息子さんは、商魂たくましく5歳のころから自宅の敷地内にガチャガチャを設置してビジネスを始めている。

 自分の子どもの教育を“実験”と呼ぶことや、目標を“世界一の金持ち”に置くことには賛否があるとは思う。

 しかしながら、この教え方には、お金の教育という点で最も重要な要素が含まれている。

 新NISAも始まり、子どもへの金融教育が盛り上がっている。

 資産形成のための投資教育を始める人も多いが、圧倒的に大切なのは「お金がもらえる理由」を知ることだ。

■お金がもらえる本質的な理由

 このガチャガチャというビジネスを通じて、息子さんはただ商品を売ることでお金がもらえることでなく、誰かの役に立つことでお金がもらえるという重要な教訓を学んでいる。

 人々が商品やサービスにお金を払うのは、それが自分にとって価値があると感じたとき。誰かを喜ばせることができれば、それに見合った報酬を得ることができる。

 より多くの人々の幸せを考えることで、その対価としてより多くの収入を得られることを自然と理解できる。

 当たり前だと思うかもしれないが、それを実感できる子どもはどれほどいるだろうか。サラリーマン人口の多い現代では、会社で朝から晩まで仕事をするからお金がもらえると考えるのが一般的だ。学生時代にアルバイトをしても、賃金は働いた時間に対して支払われる。

 こうした生活を送っていると、自分の労力がどのように社会に役立っているかを考える機会が生まれにくい。

 「時間を使うからお金がもらえる」という認識から、「誰かの役に立つからお金がもらえる」という実態に気づくには、大きな思考のジャンプがある。これを早いうちから知っているかどうかで、働くことへの向き合い方が大きく変わる。

 会社で働く際も、「自分の時間を売る」だけでなく、「誰かの役に立っている」という意識で仕事をすることが、自分にとっても社会にとってもより幸せにつながるだろう。

 その意味では、家庭内でお手伝いさせてお駄賃を払うのも有効かもしれない。しかし、家族や友人に対して、損得勘定で行動する考えを育てかねない。それに、実社会で求められるのは、知らない人が喜んでくれるには何をすればいいのかを想像する力だ。

 ガチャガチャのような小さなビジネスを通じて、子どもたちに経済活動を体験させることは、実践的で価値のある学びになる。アメリカで子どもたちがレモネードスタンドでビジネスの基本を学ぶのも同じだ。

 この考えを持っていると投資との向き合い方も変わる。

■「投資=お金を増やすこと」では失敗する

 先ほども書いたが、いま話題の金融教育も資産形成にスポットがあたりがちで、多くの子どもが「投資=お金を増やすこと」と認識している。

 そもそも、金融教育の“金融”とは資金に余裕がある人から必要としている人へお金を融通する仕組みのことだ。

 投資が社会を成長させるのは、みんなの役に立つアイデアを持っている人のところへお金が流れて産業が発達するからだ。教える側でさえも「投資=お金を増やすこと」だと思っている現在の教育では、「投資される側」になろうとする発想は生まれそうにない。

 投資商品を買ってくれるお客さんが育てば、銀行や証券会社は喜ぶだろう。しかし、それだけだ。

 これから社会に出ていこうとする若い人たちまでもが、お金もないのに「投資する側」に回っていては、社会は成長しない。成長しなければ、投資する側にとってもリターンは望めない。

 その意味でも、先ほどのガチャガチャのように、ビジネスを通じて経済の仕組みを理解することが重要になる。ビジネスを広げるために投資してもらおうという発想も生まれてくる。

 「預金でお金を眠らせておくのはもったいないです。投資しましょう」

 銀行などでよく聞く言葉だが、これは非常に無責任な発言だと思っている。

 預かったお金を活用して融資を行うのが銀行の主な業務だ。預金者のせいでお金が「眠っている」わけではない。銀行に貸出先がないから、お金が「眠っている」のだ。

 事実、都市銀行の預貸率(預金を貸出に回している割合)は過去20年でほぼ100%から約50%にまで大きく下がっている。世の中の資金需要が足りないから、投資商品を勧めて稼ごうとしている構図になっている。

資金需要がないのだから、受け皿となる投資先が国内にあるはずがない。資金需要のない日本の金利は当然低い(資金需要が強ければ、日銀はとっくに利上げしている)。結果的に資金が海外に流出し、現在の円安を招いている。これは、前回の記事(止まらぬ円安の「1200兆円の借金よりヤバい」現実)にも書いたとおりである。

■お金を投資するか、若い時間を投資するか

 小説『きみのお金は誰のため』の中でも、投資の実態を理解しない銀行員(七海)に、先生役のボスが苦言を呈しているシーンがある。

ボスは学習支援AIへの投資を例に、投資の真髄を語り始めた。
「彼らの会社には、僕や他の投資家が3億円を投資しているんや。投資に失敗してお金を損するのは僕ら投資家だけの話。その3億円は事業のために働いてくれた人たちに支払われていて、世の中のお金の量は減らへん。社会にとってお金は損失にはならんのや」
優斗は、ビリヤードの話を思い出した。
「払ったお金は必ず誰かが受け取っているんですよね」
(中略)
「投資の目的は、お金を増やすことだとばかり思っていました。そこまで社会のことを考えていませんでした。大切なのは、どんな社会にしたいのかってことなんですね」

苦笑いで恥ずかしさを隠す彼女に、ボスが優しく声をかける。
「そう思ってくれたんやったら、僕も話した甲斐があったわ。株価が上がるか下がるかをあてて喜んでいる間は、投資家としては三流や。それに、投資しているのはお金だけやない。さっきの二人は、もっと大事なものを投資しているんや」
ボスは七海と優斗を順に見つめてから、ゆっくりと続けた。
「それは、彼らの若い時間や」
『きみのお金は誰のため』151ページより
 投資を否定しているのではない。投資することは、資本分配を受け取るという意味では有効だ。しかし、それが本当に社会を成長させているのかは別問題だ。新NISA枠で投資されているお金のおよそ8割が海外に流れているという話もある。

 「日本の個人資産は預金ばかりで、もっと投資に回すべきだ」という批判もあるが、こんなに多くの割合を外貨に投資する国も少ない。外貨への投資は言うまでもなく大きな為替リスクもある。

 岸田政権の「資産所得倍増プラン」は、聞こえはいいが、国内の成長をあきらめて個人に外貨のリスクを取らせているという現状がある。

 国内で資金を有効に活用するためには、誰かの役に立とうと考える意欲的な子どもたちを育てないといけない。それは、投資教育をすることではないはずだ。

 そして、大人たちも「預金でお金を眠らせておくのはもったいない」という言葉に安易にうなずかないために、投資の実態を知っておいたほうがいいと思うのだ。

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最終更新:5/17(金) 8:02

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