ブラタモリ終了、たけし卒業昭和の大物司会者たちの交代にプラスしかない理由

3/16 10:11 配信

東洋経済オンライン

 3月9日夜、タモリさん(78歳)の冠番組「ブラタモリ」(NHK総合)のレギュラー放送が終了しました。事前告知がなく、番組ホームページで「今のスタイルでの放送は3月9日の回をもって、いったん区切りをつけることになりました」と発表されたことでネット上は騒然。「寂しい」「喪失感凄い」などと突然の終了を惜しむ声があがっています。

 実はその3日前の6日にも、ビートたけしさん(77歳)が「奇跡体験! アンビリーバボー」(フジテレビ系)のストーリーテラーを卒業。「たけしじゃなかったらアンビリーバボーちゃうやん」「アンビリーバボー感なくなりそう」などと違和感を訴える声が目立ちます。

 さらに1986年のスタートから草野仁さん(80歳)が番組の顔となってきた「日立 世界ふしぎ発見」(TBS系)も30日のレギュラー放送最終回まで残り2回に。また、1987年のスタートから現在まで総合司会を務めてきた関口宏さん(80歳)が今月で「サンデーモーニング」(TBS系)を卒業します。

 今春はタモリさん、ビートたけしさん、草野仁さん、関口宏さんというベテラン司会者に大きな動きが集中していることに気づかされますが、これは何を意味しているのでしょうか。それを掘り下げていくと、テレビの現実と未来に求められるものが見えてきます。

■2020年の激変で急がれる世代交代

 77歳から80歳という4人の年齢を見れば、番組終了や卒業を「世代交代」とみなすのは自然な流れでしょう。長きにわたる実績や熟練した話術があっても、反応速度や情報処理能力など身体面での低下は避けられず、時に「トークがズレる」「共演者のコメントを聞き取れない」「発言が聞き取りづらい」などの指摘があがっていました。

 その世代交代に拍車をかけたのが、2020年代に入ってからの視聴率調査リニューアルとコロナ禍。2020年春にビデオリサーチの視聴率調査がリニューアルされ、民放各局はこれ以降コア層(主に13~49歳)の個人視聴率を獲るための番組制作を進めています。「ベテランMCで2回り以上年下のコア層を獲るのは難しい」ことから出演者の若返りが求められるようになり、この数年間は実績に敬意を表しながらも、ゆるやかな世代交代がはじまっていました。

 また、コロナ禍に突入してコンテンツの配信視聴が急速に進んだことも、ベテラン司会者にとっては逆風でした。現在では「テレビ画面でTVerを見る」という中高年層も増えるなど、「いつもの時間にいつものチャンネルをつける」という人が減り続けていることも世代交代が求められる理由の1つです。

 さらに長年最前線で活躍してきた大物だからこそ、制作費削減という理由も避けられない現実。現在、民放各局は「低下する放送収入をどのように配信収入などに移行していくのか」というステップを踏みはじめたところであり、台所事情が厳しいタームであることは間違いありません。実際、「アンビリーバボー」が、たけしさんの後任を置かないのは、単に代わりが利かないからだけではなく制作費の問題もあるのでしょう。

 ともあれ、一歩引いてビジネス的な目線で見れば、「この世代交代はベストタイミングか?」と言われたら疑問が残るのも事実。「80歳まで最前線に立たせるなんて遅すぎる」と感じられても仕方がないところがあります。

■テレビの企画・制作力を示す絶好機

 特に視聴率の低下が叫ばれた2010年代はその流れを止めるべく、リアルタイム視聴の多い中高年層に向けた番組を量産。そのため世代交代はせず、昭和時代から出演を続けるベテランに頼るという状況を続けていました。目先の世帯視聴率を獲るために、録画視聴やネットコンテンツを好む傾向の強い視聴者層を軽視していたのです。

 しかし、そんな目先の数字を追う編成戦略が長く通用するはずがありません。スポンサーが「どういう人がどれだけ観ているのか」「自社商品の広告効果はどれだけあるのか」を追求するようになり、その結果“コア層に向けた番組制作”という現時点での答えが浮かび上がってきたのです。

 番組が終了すれば別の番組を始め、司会のポストが空けば別の人物を起用して活性化させる。長きにわたってメディアのトップに君臨してきたからか、テレビはそんな当たり前の新陳代謝が大の苦手。これまでは目先の視聴率獲得が求められるうえに、芸能事務所とのつき合いもあって、新たな番組やスターを育成することに消極的でした。だからこそ世代交代が加速した現在の状況は、「やっと業界をあげて前に進める」「今こそ再びテレビに注目を集めるセカンドチャンス」という感があるのです。

 その点、見る側の私たちにとって大物司会者を見る機会の減少は寂しさこそあるものの、別の番組や新たなスターを楽しむチャンスがあるということ。もしテレビ局が大物司会者を外しただけで世代交代や番組と司会者の育成を躊躇していたら、声をあげて背中を押すくらいの姿勢を見せていいのかもしれません。

 テレビ業界にとって大物司会者が相次いで去る今春は、2010年代の苦しい時期を経てようやく訪れたセカンドチャンス。人々にテレビ局の企画・制作力を示すような番組を手がけ、その象徴として新たな司会者を据えて育てていけたら、視聴率・配信再生数ともに一定以上の結果が得られるのではないでしょうか。

 逆にここで目先の視聴率を獲るために、どこかで見たような横並びの番組ばかりを作っていたら、「やっぱりテレビはつまらなくなった」と言われかねません。1つの節目だけに、人々の印象をどう変えていけるかが問われているのです。

■「ロス」を呼ばない大物の去り際

 そしてもう1つ、テレビの印象を左右しそうなのは、大物司会者たちの去り際。テレビを象徴する大物司会者だからこそ、「どのように次の番組や司会者にバトンを渡すか」によって、テレビそのものの印象を左右しかねないのです。

 その点、「ブラタモリ」のレギュラー最終回は「鹿児島・指宿」でしたが、タモリさんのコメントどころか番組のテロップなどもなく、すべてがいつも通りのまま終了。これは「特番での復活という可能性がある」にしても、“いつも通り”というタモリさんらしい去り際であり、大物司会者らしさを感じさせました。

 一方、「アンビリーバボー」は今春で同じくMCを卒業する剛力彩芽さんの11年半を振り返るVTRとコメントを流しましたが、ビートたけしさんのそれらはなし。26年半もの長期にわたって出演し続けたにもかかわらず、タモリさん同様に「黙って番組を去る」というスタンスに気づかされます。

 何か言えば「必要以上に“ロス”などの感情を呼び起こしてしまう」、あるいは「未練や嫌みのように聞こえかねない」とでも思ったのでしょうか。その去り際はまさに「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」であり、次の番組や司会者がスッと入れるようなムードを作っている様子がうかがえます。

 残る草野さんと関口さんは、どんな姿と言葉で最後を締めくくるのか。草野さんは38年、関口さんは37年、番組出演を続けてきましたが、近年は「いてもいなくても変わらない」「失言が多い」などの厳しいコメントが飛ぶこともあっただけに、そんな心ない声を吹き飛ばす去り際を見せてほしいところです。

■レジェンドとしての価値は高まる

 これで地上波のレギュラー番組は、タモリさんが「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)のみ、たけしさんが「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)と「世界まる見え! テレビ特捜部」(日本テレビ系)の2本。草野さんと関口さんの地上波における出演は不定期特番のみになりそうです。

 しかし「一線を退く」という形になることでレジェンドとしての価値は高まるだけに、まだまだ「ここぞのスペシャルゲスト」として元気な姿を期待できるのではないでしょうか。

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最終更新:3/16(土) 10:11

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