木更津駅前の「生きた廃墟」、スパークルシティ木更津が衝撃的すぎた《楽待新聞》

4/23 11:00 配信

不動産投資の楽待

こんにちは、全国のチェーンストアを研究している、ライターの谷頭和希です。今回も、ショッピングモールを巡りながら見えてくる日本の都市の「いま」をお届けします。

連載第4回の舞台は、千葉県・木更津。実は木更津、2023年の東京圏における公示地価上昇率で1位になった都市なのです。

その要因の1つが、ショッピングモールかもしれません。木更津と言えば「三井アウトレットパーク木更津」がある場所で、賑やかなイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。

一方で、木更津駅前は全く違う顔をしています。「生きた廃墟」と揶揄される「スパークルシティ木更津」もあり、寂しい雰囲気が漂います。

実際に訪れた私も、まるで同じ街とは思えず、アウトレット周辺との落差に驚きました。

今回は、「三井アウトレットパーク木更津」の様子をレポートしつつ、近隣の商業施設との関係性にも目を向けながら、木更津の姿をお伝えしたいと思います。

■三井アウトレットパーク木更津と東京湾アクアライン

木更津周辺には、ショッピングモールが数多くあります。

これまでの連載で訪れた「イオンモール」や「イオンタウン」もありますが、今回、最初に注目したいのは「三井アウトレットパーク木更津」。いわゆる「アウトレットモール」です。

まずは、その基本情報から見ていきましょう。

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所在地:千葉県木更津市金田東3丁目1-1
敷地面積:約21万5000平米
専門店数:約310店舗
延床面積:約6万4000平米
開業年月:2012年04月
駐車場台数:約6000台
アクセス:
東京湾アクアライン 木更津金田ICより約1分
JR内房線 袖ヶ浦駅よりバスで約12分
JR内房線 木更津駅よりバスで約25分
その他、首都圏より直通バス路線複数あり
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アウトレットモールとして、日本では最大級(店舗数は日本最多)の大きさで、モール内を1周するだけでかなり歩きます。アウトレットモールは商圏が広いことも大きな特徴です。

では、なぜ木更津にこんな巨大な施設ができたのでしょうか?

それには、1997年に開通した「東京湾アクアライン」の存在が関係しています。

東京湾アクアラインは、川崎と木更津を結ぶ、海上・海中を通る有料道路です。道路の途中には「海ほたる」という、海に浮かぶパーキングエリアもあります。

当初は高額な通行料金がかかったために利用者数が伸び悩みましたが、2009年に大幅な値下げを実施。首都圏から木更津方面に行く人も増えていったのです。

ちなみに、日本のアウトレットモールは1990年代に初めて登場し、2000年代にはその数が大きく増加しました。

そうした流れの中、東京湾アクアラインの利用者増加も相まって、2012年にこのアウトレットモールが誕生するわけです。

実際、駐車場に停まっている車のナンバーを見ると、近隣の「袖ケ浦」ナンバーはもちろん、アクアラインで繋がった横浜や品川、さらには大宮ナンバーの姿も。首都圏から多くの人が訪れていることが窺えます。

■老若男女が行き交う理由は?

アウトレットモールの中に入って行きましょう。

モール内は家族連れやカップル、若者などで賑わっています。

一方、お年寄りも多くおり(お孫さんと来ている人が目立ちました)、老若男女さまざまな層の人が訪れています。ペット連れのお客さんも見かけます。

そして何より、人が多い! 私が訪れたのは、日曜日の昼間でしたから、ただでさえ人が多い時間帯。11個ある駐車場は、ほとんどが埋まっていましたし、レストランやフードコートはどこも大行列。

一体、何がここまで多種多様な消費者を惹きつけているのでしょうか?

その理由の1つ目には、テナントの多さがあるでしょう。ここには、アパレルから日用品、食料品まで、300店舗以上の店が並んでいます。

2025年夏開業予定の第4期開発計画によって、店舗数をさらに増やし、店舗数日本一を誇る圧倒的なスケールに拡大します。それほどの多さです。

また、低価格で商品が買えることも見逃してはいけません。

アウトレットモールとは、ブランドショップなどで扱えなくなった商品を低価格で販売する店舗を1箇所に集めた施設で、その起源は1980年代のアメリカに遡ります。

店舗側にとっては、本来売ることができなかった商品を扱えること、消費者にとっては、通常よりもお得に買い物ができることが魅力となっています。

つまり、「低価格で高品質なブランド品が買える」ことがウリなわけですね。

■アウトレットモールの「空間的」な魅力

一方、私が実際に施設を見ていて感じるのは、テナントの多さや商品の安さだけがその魅力ではない、ということ。

アウトレットモールが持つ「空間」としての魅力も消費者を惹きつける要因になっていると思います。

ここを歩いていて感じるのは、「座る場所の多さ」です。レストランやカフェが充実しているのはもちろん、ベンチや椅子などもたくさん用意されているため、子どもからお年寄りまで過ごしやすい印象を受けます。

また、芝生になっているエリアもあり、子どもがそこで遊んでいる様子も見られました。そこに座ってくつろぐ人の姿も。

この連載で、さまざまなショッピングモールを見てきてわかったのは、「座る場所があるかどうか」は、商業施設にとって、とても重要な要素だということです。

特にファミリーで来た場合、小さな子どもやお年寄りなどが「ちょっと休憩したい」という場合にすぐに座れる場所があると、施設としての魅力も向上するわけです。

また、私が考えるもう1つ重要な要素が「アウトレットモールのワクワク感」です。

特に、多くの日本のアウトレットモールは、外国風の街並み(どこの国かは分かりませんが)が再現されており、ディズニーランドのような非日常空間が演出されています。

例えば、木更津のアウトレットモールの場合、ただの通路にも「Passage」などの名前がつけられています(英語ならパッセージ、フランス語ならパサージュと読み、どちらも「通り」という意味)。

わざわざ、ここが木更津ではない「どこか」であることを匂わせようとしているのです。

こうした空間演出は、特に日本の場合、イオンモールなどの一般的なショッピングモールよりも、アウトレットモールの方が顕著に感じられます。

商圏が広く、たまにしかそこに訪れない人もいるからこそ、ある意味でテーマパークに行くような特別な気分にさせることを目指しているのかもしれません。

そうした「非日常感」も、アウトレットモールの人気の理由の1つだと思います。

■日常使いの「イオンタウン」

このように、三井アウトレットパーク木更津は活況を呈しています。

では、木更津の他の商業施設はどうなっているのでしょうか?

木更津駅の周辺には、アウトレットモール以外に、「イオンタウン木更津朝日」「イオンモール木更津」「駅前商業施設」があります。

それぞれの様子を見てみましょう。まずは、イオンタウン木更津朝日から。

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所在地:千葉県木更津市朝日3丁目10-19
敷地面積:?
専門店数:約30店舗
延床面積:約2万2193平米
開業年月:1982年11月
駐車場台数:約1200台
アクセス:
JR木更津駅より徒歩約15分
JR木更津駅よりバスで約6分(無料シャトルバス、路線バスあり)
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イオンタウンを覗いてみると、そこはモールというより、地域密着型のスーパーマーケットという印象。核テナントは、茨城県に本社を置く「カスミ」というスーパーです。

際立って大規模というわけではありませんが、フードコートにはエスニック料理の店舗があったり、ハラール対応(イスラム教徒が宗教上食べられないものを避けている)の中東系スーパーがあったりと、地元のニーズに応えた個性的な店が並んでいます。

お客さんを見ると、普段使いのスーパーに来ているような感覚の人が多い印象を受けました。

■週末に出かける場所「イオンモール」

一方、イオンモール木更津は、これまでの連載で紹介してきたような「ザ・モール」そのもの。基本情報を見てみましょう。

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所在地:千葉県木更津市築地1番4
敷地面積:約28万3500平米
開業年月:2014年10月
駐車台数:約4000台
駐輪台数:約850台
アクセス:
JR木更津駅よりバスで約10分
館山自動車道木更津南ICから約5分
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フードコートやゲームセンター、有名ブランドの店、学習塾、映画館まで、生活に必要なものが全てここに集約されています。

駐車場を見ると、車は地元ナンバーの「袖ケ浦」が目立ち、周辺住民の利用者が多いことが窺えます。

といっても、先ほど見た「イオンタウン」に比べると、週末の利用が多いかもしれません。さまざまな娯楽が揃っているだけに、近隣住民の週末のお出かけ場所としてはぴったりです。

連載第2回で、千葉県の柏を取り上げながら、現在国道16号線エリアが、若いファミリー層を中心に人気が高いことをお話しました。

実はこの「イオンモール木更津」も国道16号線に面しています。モールの中には子ども用の遊び場なども設けられ、小さな子どもたちが遊んでいる様子も見受けられます。

ファミリーにとって、使いやすいお出かけ場所なのでしょう。

先述の通り、木更津は東京圏における公示地価の上昇率で1位になりました。東京湾アクアラインの開通によるアクセスの向上と、こうしたモールたちの存在が、その人気に拍車をかけていると考えられます。

そして、そんな木更津の中心地の1つが、この「イオンモール」だと言えそうです。

■シャッター通りと化した駅前

その一方で、厳しい状況に置かれているのが駅前エリア。

駅前の商店街を歩いてみると、ほとんどの店がシャッターを下ろしており、人通りもまばらです。アウトレットモールやイオンモールとの落差が激しすぎて、同じ街とは思えません。

日曜の昼間だというのに、駅前にはほとんど人がいない。唯一活気があるのは、部活でしょうか、学校から帰ってくる制服を着た高校生たちぐらいです。

自動車を運転せず、電車に乗るしかないので、駅を使うわけです。逆に言うと、駅前にいるのはそれぐらいの人だけ。

特に衝撃的だったのが、駅前の商業ビル「スパークルシティ木更津」の状況です。

中はほぼ空きテナントで、空洞が広がっています。

テナントらしいテナントは2階の呉服店のみで、1階にはコンビニがあるだけ。3階と4階に至っては閉鎖されたままです。

調べてみると、ここは1988年に「木更津そごう」としてオープンした場所でした。房総半島唯一の百貨店として、1991年の最盛期には大きな売上を誇っていたそうです。

しかし、東京湾アクアラインの開通などで客足が遠のき、経営が悪化。そごうの経営破綻に伴って2000年に閉店し、現在のような状態に。ネット上では「生きた廃墟」などとも呼ばれているのです。

■駅前から郊外へ、急激に変わる街の姿

駅前から郊外への商業の移り変わりは、特に地方都市でよく見られる現象ですが、木更津はその変化が非常に顕著に表れている街と言えるでしょう。

日常の買い物はイオンタウンで済ませ、週末にはイオンモールへ。たまにはアウトレットモールで楽しむ。そんな生活スタイルの中に、もはや駅前商店街は選択肢に入っていない。

木更津の街の中心は、完全に「ロードサイド」に移ったわけです。かつての「駅前=中心地」という図式は崩れ去り、「駅前=僻地」のような状況すら生まれているとも言えるでしょう。

東京湾アクアラインの開通やロードサイド商業施設の充実など、さまざまな要因が絡み合った結果とはいえ、駅前からロードサイドへのこの変化はあまりに急激で、あまりにドラスティック。

木更津の場合、その変化はわずか10年から20年の間に起きました。驚くべき速さです。

かつての中心地が一気に寂れ、これまで何もなかった場所が突如賑わいを見せる。そうした街の変遷とダイナミズムが、木更津からはわかるかもしれません。

そして、そうした街の変化を作り出す1つが、ショッピングモールなのかもしれません。

谷頭和希/楽待新聞編集部

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最終更新:4/23(火) 11:00

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