インバウンド需要に全振り? 他店舗とは明らかに違うイオンモール成田《楽待新聞》

5/19 11:00 配信

不動産投資の楽待

こんにちは、全国のチェーンストアを研究している、ライターの谷頭和希です。今回も、ショッピングモールを巡りながら見えてくる日本の都市の「いま」をお届けします。

連載第5回目は「成田市」に来ました! 成田と聞いて、皆さんが真っ先に思い浮かぶのは成田国際空港ではないでしょうか。昨今のインバウンド需要回復によって、成田を訪れる外国人観光客も再び増加しています。

今回は、この成田にある「イオンモール成田」を訪れ、これまでとは異なる角度から日本のショッピングモールに迫っていきます。

■インバウンドシティ・成田

なぜ、成田のイオンモールを訪れるのか。それは、成田が日本の中でも有数のインバウンド観光客を抱える街だから。

その背景には冒頭で述べた通り、成田空港の存在があります。日本の玄関口ともいえ、世界各地からさまざまな飛行機が降り立つのがここ。

千葉県の観光統計によれば、県の外国人宿泊客数のうち55%を成田市が占めているといいます。おそらくその多くが、飛行機の時間調整のための宿泊でしょう。市もこの特性を活かさない手はないと考えているようです。

2023年に市が発表した「第2次成田市観光基本戦略」には、その基本施策の1つとして「外国人が気軽に訪れることのできる受入れ環境を整備し、訪日外国人旅行者の『来成』を促進します」とあります。

市内には、全国的な知名度を誇る成田山新勝寺があり、その門前にはいかにも日本らしい街並みが広がっています。歌舞伎役者の市川家の屋号が「成田家」であることからもわかるように、市川家ゆかりの寺としても知られています。

こうした観光資源を生かしつつ、国際空港に最も近い観光都市を目指しているわけです。

■インバウンド対応のイオンモール?

そんなインバウンド需要の流れの中で、興味深い存在の1つが「イオンモール成田」なのです。

成田の特性を生かすため、イオンモールも、成田の店舗をインバウンド対応店舗としてオリジナリティのあるものにしています。

もともと、このイオンモールは2000年に誕生していましたが、2019年に改装。当時は、訪日外国人旅行者数が右肩上がりに増えていて、その数は年間3000万人を超えていました。過熱するインバウンド需要に対応するためのモールへと大胆に作り変えたのです。

まずは、いつものように基本情報から見ていきましょう。

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所在地:千葉県成田市ウイング土屋24
敷地面積:約13万5000平米
店舗数:約170店舗
駐車台数:約4000台
駐輪台数:約700台
アクセス:
東関東自動車道成田I.Cから3キロメートル
JR成田駅・京成電鉄京成成田駅からバスで約10分
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さて、このインバウンドに特化したというイオンモール、中はどのようになっているのでしょうか?

■店内はタイ語だらけ、祈祷室も

まずは入口から。普通はスルーしてしまいますが、入口にいきなり、インバウンド狙い感が表れていました。

英語はもちろんのこと、中国語、さらにはタイ語まで。店内に入るとさらによくわかるのですが、このモール、至るところにタイ語での表記がなされています。

トイレの注意書きに、フードコードの案内、商品を説明する札まで。なぜタイなのでしょう?

実は成田、タイの寺院である「ワットパクナム」の日本別院があり、在日タイ人の心の拠り所の1つとなっているのです。

イオンモール成田からは少し外れた場所にあるのですが、それもあって、ここまでタイ語が溢れているのだと思われます。

さらに、モール内にはイスラム教に対応した「祈祷室」も。2013年以降、イオンモールは全国数店舗にこうした祈祷室を設けています。インバウンド需要が高い場所や、そもそも外国人在住者が多い場所に作り始めたといいます。

今やサービスエリアや駅など、さまざまなところに祈祷室を設置する動きが広がっていますが、イオンモール成田も、その流れの中にあるわけです。

アラビア文化圏にも対応している様子が、まさに「インバウンド対応感」を醸し出しています。

■インバウンド向けのフードコート

このようなハード面でのインバウンド対応はもちろんのこと、そこに入居するテナントの特性も目立ちます。インバウンド対応が徹底された店舗が多いのです。

例えばフードコート。マクドナルドなど、ショッピングモールではおなじみの店舗に加え、海鮮丼がウリの「いなせ庵」などもあります。私が訪れたときも、東南アジア系の観光客がこぞってこの店の海鮮丼を食べていました。

「いなせ庵」自体は他のショッピングモールにも店舗がありますが、やはり外国人が多い成田だからこそ人気の高いメニューになっているのでしょう。

また、フードコードだけでなく、「満福参道」と表された食物販コーナーやレストラン街など、食べ物の取り扱いが多いこともこのモールの特徴かもしれません。

特に、北海道の物産館「北海道うまいもの館」があるのも面白い。日本人からすれば、成田に来てどうして北海道のものを……となるかもしれませんが、インバウンド向けだと考えるとわかりやすいでしょう。

外国人観光客に一定以上の引きのある「北海道」のコンテンツを巧妙に入れ込んでいるわけです。

■「日本」を押し出すテナントたち

食べ物だけではありません。お店のラインナップも、通常のイオンモールでは考えられないような並びになっています。

例えば、面白いのが「倭物やカヤ」。日本の伝統工芸品にちょっとだけアレンジを加えたような、いわゆる「和小物」が所狭しと並んでいます。いかにも外国人観光客が好きそうです。

また、玩具を中心に販売している「Hobby Zone」もあり、日本のIPコンテンツ(アニメやゲームなどの知的財産権を持つ創作物)を押し出したプラモデルやフィギュアなどの玩具が取り揃えられています。

IPコンテンツでいうと、ハローキティーなどで知られる「サンリオ」の公式ショップ「サンリオ ギフトゲート」もあります。イオンモール成田はサンリオとのコラボには積極的で、館内にはハローキティーをモチーフにしたトイレもあり、訪れた人が楽しめる空間を作っています。

また、呉服を取り扱う「きもの やまと」もテナントとして入っています。地元住民だけでなく、外国人にも興味を持ってもらう狙いがあるのでしょうか。

さらに面白いのが、2階の中央に堂々と鎮座する「ウエルシア」。そう、あのドラッグストアです。通常のショッピングモールの場合、ウエルシアのようなドラッグストアがこんな中心的場所にあることは、そう多くありません。

では、なぜイオンモール成田ではこのようなフロア配置になっているのか?

それは、店頭を見ればわかります。「免税」という大きな旗が掲げられているのです。外国人観光客の多くは、日本の薬やコスメを求めてドラッグストアで買い物をします。その需要を見込んだ出店・配置なのです。

実際に店内に入ってみると、コスメ広場は大きく、また、普通の医薬品でも外国語での説明が書かれているものが多くなっていました。

イオンモール成田は、まさに「インバウンド・ショッピングモール」だと言ってもよいほど、外国人観光客向けコンテンツが充実しているのです。

■グローバルなだけじゃない、ローカルな一面も

しかし、このモールは周辺住民が使うことも確か。特に最近は「インバウンドばかりを相手にして、日本人がないがしろにされている!」という批判もよく耳にするところです。

では、イオンモール成田はどうか。私が現地を見たところでは、イオンモール成田は、こうした観光客向けの部分と地元の住民が利用する部分がしっかり分けられているような印象を受けました。

その証拠の1つが、先ほども紹介したドラッグストア。実はイオンモール成田、ドラッグストアがウエルシア以外にもあり、そちらはインバウンド需要というより、地元の人が普段使いできる店舗になっています。

また、イオンモール成田の核店舗となっている「イオンスタイル成田」も、どちらかというと普通の地元スーパーという感じ。かまびすしい外国語表記も、こちらでは比較的鳴りを静めています。

このモールの中には、「ミスタードーナツ」や「モスバーガー」など、日本の代表的なチェーンストアもたくさん入っています。イートインスペースでは、地元のおじいちゃんおばあちゃんが集まってコーヒーを飲んだり、食事をしたりしています。

まさにローカル。地方のモールでよく見かける姿です。その横を外国人観光客が通り抜けているから、面白い。

そして、普段の生活で使えるテナントとしては、大きな「BOOK OFF」と「ザ・ダイソー」、「ケーヨーデイツー」も隣り合ったテナントとして入居しています。これらも主なターゲットは地元に住んでいる人々でしょう。

イオンモール成田は、観光客向けの区画と地元向けの区画が適切にゾーニングされている、という印象を受けました。

■適切なゾーニングが「多様性」を生む

ゾーニング、と言うとあまり良くない印象を持たれがちです。

ただ、外国人観光客と地元住民の双方が楽しくショッピングをするためには、ある程度のゾーニングも必要なのではないでしょうか。

また、そのように適切にゾーニングがなされ、それぞれの集客も見込めると、逆に、その両者が混じり合うことも起きてくるのです。

実際、イオンモール成田では、地元の高齢者がミスドを食べながらゆっくりしている横を外国人観光客が賑やかに通り過ぎて行ったり、ハラールフード(イスラム教で食べることを許されているもの)を扱うレストランで地元ファミリーがイスラム系料理を食べていたり、観光客と日本人が混じり合っている姿が見受けられます。

それはもしかしたら、真の意味での「多様性」と言えるかもしれません。

このような状況が生まれているのは、観光客と地元住民それぞれに刺さるモール作りをすることで、より多くの人が楽しめる店舗になっているから。結果的に相乗効果を生み、両者が混じり合うのです。

つまり、ある意味、適切なゾーニングをすることが、逆にこうしたゾーニングを壊すことにもつながっている。

外国人観光客が増えていくのは、コロナ禍が明けた現在の日本において必然的な流れと言えます。

その中で、外国人観光客にも対応しつつ、地元住民もないがしろにすることのない、「グローカル」(グローバルとローカルの造語)なショッピングモールの姿の1つとして、イオンモール成田を捉えることができるのではないでしょうか。

谷頭和希/楽待新聞編集部

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最終更新:5/19(日) 11:00

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