都内にある「巨大無人駅」東武大師前駅の裏側 スカイツリーラインの西新井駅から乗車2分、「改札機がない」終点

3/28 4:32 配信

東洋経済オンライン

 東武鉄道は東京、千葉、埼玉、栃木、群馬の1都4県に広大な路線網を広げている。浅草から延びる伊勢崎線と、その途中から分かれて日光・鬼怒川エリアへ向かう日光線は有料特急が走る。伊勢崎線の浅草・押上―東武動物公園間の路線愛称名が「東武スカイツリーライン」だ。

 また、池袋から北西に走る東武東上線と、大宮から春日部を経て船橋まで至る東武アーバンパークライン(野田線)も通勤通学の足として欠かせない主要路線だ。

■無人駅にしては多い乗降人員

 東武鉄道の旅客駅は全部で205駅。スカイツリーラインは竹ノ塚まで、東上線は成増までが東京都内に位置する。亀戸線(亀戸―曳舟間)などを含め、都内29駅のなかで唯一の無人駅が東武大師線の大師前駅だ。大師線は西新井と大師前を結ぶ1.0kmの単線で、スカイツリーラインとの接続駅である西新井を除くと駅は大師前の1駅のみ。ワンマン運転の2両編成の列車が10分間隔で健気に往復する。

 大師前の乗降人員(2022年度1日平均)は1万1944人。有人駅の東上線の森林公園(1万1719人)や伊勢崎線の羽生(1万1399人)よりも多い。森林公園は10両編成の列車が発着、羽生は秩父鉄道との乗換駅で特急「りょうもう」の一部も停車する主要駅だ。そう考えると大師線とその“終着駅”、大師前はなかなかあなどれない存在と言える。

 東武鉄道は1899年8月27日に北千住―久喜間の39.9kmで営業を開始した。西新井はこの開業時に誕生。駅名は西新井大師にちなんで付けられた。

 西新井大師は、奈良県桜井市の長谷寺を総本山、文京区の護国寺を大本山とする真言宗豊山派の寺院で正式名称は「五智山遍照院總持寺」。その昔、弘法大師が村人のために祈願したところお堂の西側から水が湧いたことから西新井の地名になったという。

 古くから女性の厄除け祈願所として知られ、いまも正月や弘法大師縁日の毎月21日などには多くの参拝客でにぎわう。門前では草団子が名物だ。日暮里駅から北へ延びる東京都交通局の新交通システム、日暮里・舎人ライナーには「西新井大師西駅」がある。

■東上線との連絡線として計画

 かつて西新井駅の構内には同社最大の電車修理工場や変電所などがあった。現在の大師線は1931年、西新井―大師前間が西板線の一部として開業。西板線は西新井と東上線の上板橋を結ぶ路線として計画されたが、土地買収が進まずに完成しなかったという。

 現在の西新井駅は3面6線。大師線はいちばん西側の1・2番線に発着する。下り線(東武動物公園方面)のホーム上では「西新井ラーメン」が営業しており、列車が到着してドアが開くと、匂いに誘われてついつい立ち寄ってしまう人も少なくないようだ。

 西新井駅がユニークなのは同駅の出口改札とは別に「大師線のりかえ改札口」がある点。西新井駅の大師線乗り換え改札は1カ所で、大師線ホーム側に券売機がある。わかりやすく言えば、大師前の自動改札機と券売機が西新井に置かれている。

 改札口には「大師前駅には改札はございません。きっぷはここで回収となります」との案内が書かれている。大師線には途中駅がなく、東武線の他駅から乗り換えても降りられる駅は大師前の1駅のみ。大師前に向かう場合は西新井で運賃支払い処理をし、大師前から乗った場合は西新井で切符を購入(入場処理)することになる。

 一方の大師前駅には使われていない「ラッチ」が並んでいるのみで、ヨーロッパの駅のように出入りは自由。同駅からの乗客に向けては「大師前駅ではきっぷの発売は行っておりません。そのままお通りください。きっぷは西新井駅でお買い求めください」などといった案内がいたるところに掲示されている。

■巨大な無人駅の裏側

 3階にホームがある構造の大師前駅は無人駅にしては巨大だ。1面1線のホームはアーチ状の天井が覆う広い空間となっている。駅事務室の出札窓口はシャッターが閉ざされ、内部が倉庫などとして使われている一方、駅ビルには東武バスセントラルの営業所や耳鼻科クリニックなどが入る。駅前のバス停からは北千住と結ぶバスが日中でも10分に1本以上の頻度で発着する。

 これだけ乗降が多い駅に駅員がいなくて安全面は大丈夫なのだろうか。大師前駅を管理する東武北千住駅管区副管区長の山口忠利西新井駅長は「警備会社の事務所があり、警備員が巡回している」と説明する。一方、西新井駅では「大師前から乗って来るときに改札がなかったんですけど……」と聞かれることがよくあるそうだ。

 山口駅長は本社に勤務していたころ、年初には大師線の初詣客輸送の応援に駆けつけた。「隙間がないくらいの人で混雑するが、着物姿で破魔矢などを携えたお客さまを見ると正月らしい気分になる」と語る。普段の大師線は通勤通学をはじめ日常利用が多く「周辺の都市化が進んだいまでも1駅乗るだけで下町風情が感じられる」という。

■西新井駅西口の再開発

 複々線で通勤電車がひっきりなしに発着する西新井駅と、巨大空間にのんびりした空気が漂う大師前駅。両駅をわずか2分で結ぶ大師線にも変化が訪れている。これまで4色の8000系2両編成が日替わりで運行担当していたが、そのうち深緑の車体に白帯をまとったリバイバルカラーの編成が2024年3月で引退した。もともとは共通で運用する亀戸線沿線をアピールする目的で登場した「緑亀」だったが、大師線では「草だんご列車」として親しまれていた。

 西新井駅の西口は車両工場や日清紡の工場の跡地を活用した再開発で、大型の商業施設やマンションが建ち並ぶようになった。現在はトスカ西館や東武ストアが入っていた駅ビルが解体。駅前広場の整備が計画されている。

 東武鉄道は添乗員付き自動運転(GoA3)の検証を実施、大師線で「2027年度以降の運用開始を目指し準備を加速する」考えだ。1972年8月15日、同社で初の自動改札機が設置されたのが西新井駅(西新井と大師前用)だった。大師線は東武線の中でも、いちばん未来を先取りしている路線と言えるのかもしれない。

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最終更新:3/28(木) 4:32

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