東武野田線が新型車両を導入へ「6両→5両化」で朝ラッシュに懸念も

5/6 9:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 東武鉄道は4月16日、東武野田線(アーバンパークライン)に新型車両「80000系」を2025年春から導入すると発表した。一方、この新型車両の導入とあわせて、野田線に大きな変化が訪れる。現在、全ての車両が6両編成の野田線であるが、「80000系」は5両編成で登場し、継続して使用される「60000系」についても5両編成に改造される。コロナ収束で需要が回復する中、5両化で混雑率がコロナ前を上回る懸念もある。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

● 新型車両の導入とあわせ 野田線に大きな変化

 東武鉄道は4月16日、東武野田線(アーバンパークライン)に新型車両「80000系」を2025年春から導入すると発表した。

 まだ実車はお披露目されていないが、イメージ図では近年流行りのスクエアな前面デザインに、シックで落ち着いた内装を備えており、2013年に登場した「野田線史上初の新車」である「60000系」とは異なる印象の電車だ。メカニズム面も最新技術を採用し、1960~1980年代にかけて大量生産された旧型車両「8000系」から消費電力を4割削減した。

 野田線には現在、3種類の車両が走っている。現在最新の「60000系」が18編成108両。次いで1980年代から1990年代にかけて製造された「10000系」が9編成54両。さらに1970年代から1980年代にかけて製造された「8000系」も16編成125両残っている。「80000系」は「10000系」と「8000系」の計25編成を置き換える計算だ。

 新型車両の導入とあわせて野田線に大きな変化が訪れる。現在、全ての車両が6両編成の野田線であるが、「80000系」は5両編成で登場し、継続して使用される「60000系」についても5両編成に改造される。

 「60000系」から抜き取った1両は、改造の上「80000系」18編成に流用し、残り7編成は5両全てが新造される。東武鉄道は「サスティナビリティの観点から」転用するとしているが、これまでも山手線「E235系」の10号車が先代「E231系」から流用された事例がある(「6ドア車」廃止のため後に新造された車両だったため)。

 また、東急電鉄は大井町線への座席指定車両「Qシート」導入で、余剰となった車両を目黒線の8両化に転用した例もあるが、いずれにせよ、置き換えや増備(増結)目的がほとんどで、野田線のように既存車両を減車して新型車両に流用するのは珍しい。

● 6両から5両への減車で 懸念される混雑率の上昇

 しかし、東武鉄道の輸送人員は他の関東大手私鉄と比較しても回復傾向にあり、2023年度第3四半期(10~12月)の輸送人員は、定期が2018年度同期比で12%減、定期外が3%減だった。

 現在公表されている最新データである2022年度の野田線各駅の乗降人員を見ると、三大ターミナルである大宮は14%減、柏は9%減、船橋は7%減、伊勢崎線と合算される春日部を除く全駅の合計では9%減だった。

 2022年度の全線の輸送人員は、2018年度比で定期が16%減、定期外が10%減だったので、各駅の乗降人員もさらに回復していると思われる。

 6両から5両への減車は約17%の輸送力削減になるので、輸送人員の減少率を上回り、混雑はコロナ前より悪化する計算になるが、問題はそう単純な話ではない。

 鉄道が輸送力を最大に発揮するのは朝ラッシュである。その主要顧客は通勤・通学定期利用者だが、国土交通省が毎年行なっている混雑率調査を見ると、コロナ禍以降、いずれの路線もピーク1時間輸送量の減少率は、定期輸送人員のそれを上回っているのである。

 2019年の野田線の混雑率は大宮方面が124%、柏方面が132%、船橋方面が139%だったが、2019年から2022年で輸送量は、大宮方面が26%、柏方面が32%、船橋方面が11%減少。その結果、2022年の混雑率は大宮方面が98%、柏方面が90%、船橋方面が112%となった。

 大宮、柏方面は定期全体の減少率を大きく超えており、定期利用の減少とは別に、ピークシフトも進んでいることが分かるが、やはり、混雑率がキーワードになるのは間違いなさそうだ。

 車両更新は数年がかりで準備するため、80000系の導入計画自体はコロナ前から存在したのだろうが、コロナ前の野田線を5両化すると、三大都市圏通勤路線の混雑率の目安である150%を超えてしまう。「5両編成の新型車両導入」が発表されたのが2022年4月のことなので、5両化の決定はコロナの早い段階でなされたはずだ。

 利用が最も少なかった2020年の混雑率は大宮方面が91%、柏方面が84%、船橋方面が101%だったので、輸送力を17%削減して計算すると、混雑率はコロナ前から20ポイント近く下回る102~121%に収まる計算だ。2022年に当てはめると118~136%となり、さらに利用が回復していることを考慮すれば、コロナ前と同等か上回る混雑になりかねない。

● 輸送量がコロナ前の水準まで 回復しなければ問題はないが…

 現状の輸送状況で5両化して問題ないのか、東武は「150%以下に収まる計算」と説明するが多くを語らない。平均混雑率が150%を超えるには、コロナ前とほぼ同等まで利用が回復する必要があるため、確かにその点では問題ないのだろうが、コロナ以前は混雑率120~130%だった路線の基準値としては疑問が残る。

 また、野田線は各駅の階段や改札の配置の関係上、先頭車両に利用が集中する傾向があり、平均混雑率では局所的な混雑を計りにくい。当然、社内では外部非公表データや現業からの聞き取りをもとに計画を立てているのだろう。そうであれば堂々と「問題ない」と判断した根拠や条件を明らかにしてほしい。もし混雑率の目標を150%にまで後退させなければならない理由があるのだとしたら、丁寧に説明すべきだろう。

 野田線沿線で生まれ育ち、今も暮らしている筆者は、仕事を差し引いても野田線にそれなりの愛着を感じている。フリーランスになって電車通勤こそしなくなったが、日常的に利用する現役のユーザーでもある。

 同時に「アーバンパークライン」という(ご立派ながら少々恥ずかしい)愛称を付与し、ダイヤ、車両、駅など各方面で改良・改善を進める東武が、野田線を軽視していないことも重々承知である。

 野田線では柏~船橋間の複線化工事完了や、野田市内の連続立体交差化工事など千葉県内の動きが目立ったが、ようやく埼玉県内の刷新も動き出した。

 今年3月31日に筆者最寄りの七里駅の橋上化工事が完了し、待望の北口が使用開始。伊勢崎線とのジャンクションである春日部駅では高架化工事が本格化しており、まもなく仮ホームへの切り替えが始まる。

 また4月22日にはさいたま市が、野田線大宮駅の大規模改良を含む「大宮グランドセントラルステーション構想」の検討状況を公表し、設計や工事の詳細について東武鉄道と協議中であることが明かされた。

 東京都心30キロ圏は人口減少社会においても一定期間、人口規模を維持すると予測されており、その境界線上を走る野田線にはまだ発展の余地が多く残されている。東武の期待の大きさは、「ソライエ」ブランドで自ら沿線開発を推進していることからも明らかだ。

 沿線から愛される存在であり続けるために、東武には利用者、自治体とのコミュニケーションの重要性を、今一度認識してほしい。

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最終更新:5/6(月) 9:02

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