銀行が勧める「仕組預金」、金利上昇局面でも預けてはいけないワケ《楽待新聞》

4/13 19:00 配信

不動産投資の楽待

「仕組預金(しくみよきん)」という金融商品をご存じでしょうか。

預金金利が高いことから、そこそこ話題になっている銀行の預金商品の1つです。最近、ネット銀行などからメルマガで案内が来た、という方もいるのではないでしょうか。

金利上昇局面にある現在、「預金」に注目している人もいるかもしれません。今回紹介する仕組預金も、金利上昇の流れで、銀行が個人に販売を強化していく可能性があります。

ただ、銀行に勧められる金融商品が安全である、というのは過去の話です。「預金」と言えば元本保証となりますが、仕組預金はそこまで安心できる商品ではないのです。

今回はこの「仕組預金」を取り上げたいと思います。投資における考え方の参考にもなると思います。

■定期預金を大きく上回る高金利

仕組預金とは、そもそもどのような金融商品なのでしょうか?

例として、あるネット銀行のWebサイトの説明文を見てみると「仕組預金は、デリバティブ(金融派生商品)を組み込むことで好金利を実現した、特約付きの定期預金です」と説明がされています。

ただし注意書きとして「仕組預金は原則として中途解約ができません。解約した場合、大きく元本割れの可能性があります」との記載もあります。

これだけではよく分からないと思いますので、順を追ってご説明していきたいと思います。

仕組預金は一般に「元本保証の円預金」のことです。

ポイントは「金利の高さ」にあります。最大で10年間となる可能性があるものの、ある銀行の、金利が固定されているタイプの商品では金利が「年1.00%」と案内がされています(2024年4月現在)。

この預金金利は非常に魅力的です。例えば、銀行最大手の三菱UFJ銀行の定期預金金利(仕組預金ではありません)は以下の通りです。

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<定期預金金利(金利は期間中固定)>
・1年もの…0.025%
・3年もの…0.150%
・5年もの…0.200%
・7年もの…0.250%
・10年もの…0.300%
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通常の定期預金と比べると、いかに仕組預金の金利が高いかが分かるでしょう。

ちなみに日本国債の場合でも、10年で0.7%程度です。仕組預金は、長期国債よりもレートが高いということになります。

当然ながら預金ですので、元本は保証されています。リスクが少ないので資産運用に不慣れな個人にとっても安心して投資できる商品ではないかと考える方は多いかもしれません。

ただし、美味しい話には「落とし穴」があります。

■仕組預金の「仕組み」はどうなっている?

仕組預金には注意すべき商品性があります。

以下は、某ネット銀行がWebサイトに掲載している、円仕組預金のリスクなどについての説明文を抜粋したものです。

預金の細かい説明書きを読んだことがある方は、銀行員でもない限り極少数でしょうが、仕組預金の仕組みを知る上では参考になります。

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【商品の特徴】
この預金は、預入期間の延長の可能性があり、当初の預入時点では最終的な預入期間は確定していません。預入期間は募集時に当社が定める期間とし、募集要項にて提示します。預入期間の延長は、期間延長決定日到来の都度、当社で決定します。すなわち、当初の預入から最初に到来する期間延長決定日において、当社が、預入期間の延長を決定した場合には、預入期間が次回延長後満期日まで延長されることになります(以後、期間延長決定日到来の都度、同様の取扱いとなります)。お客さまは、この預金の預入期間の延長を任意に決定する権利を当社に付与することになります。(お客さまに、この預金の預入期間の延長を決定する権利はございません)。
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この仕組預金は(上記では触れていませんが)1年ごとに預入期間が到来します。その際に銀行側が、この預金を1年延長するかどうかを決定します。これを毎年繰り返し、最長で10年間は解約ができない可能性がある商品となります。

なぜこのような商品性としているのでしょうか?

第1には、現在の金融環境では高い金利で預金を集めておいて、将来さらに金利が高くなった時には期日を延長させ、結果として低いコストで資金を調達することがメリットになる可能性が、銀行側にあるからです。

1%という預金金利は、現在の金融情勢では高い金利かもしれません。しかし将来金利が上昇していく場合には、普通の定期預金金利が5%といった水準になっているかもしれません。

その際に、解約ができない預金であるからこそ、この仕組預金は銀行にとって低いコストで資金を調達できることになります。通常は5%で調達しなければならない預金を1%で調達できるということです。

そして第2に、金利が想定通りに上昇しなければ銀行はこの仕組預金を一方的に終了させることができます。

例えば1%で預金を集めていても、1年後も日本は低金利が続き、通常の定期預金の預金金利が、先述した三菱UFJ銀行の定期預金の水準と同じだったとします。

そうすると、銀行はその時の経済情勢から言って高いコストで資金を調達しているわけですから、仕組預金の延長を行いません。銀行はそれ以上のコスト負担を免れることができることになります。

すなわちこの商品は、「金利が上昇する場合には銀行が得するので期間が延長される一方、金利が低い場合には銀行が損をするので延長されない」ということになります。

要するに、銀行が経済条件によって期間を選択できる商品なのです。

この銀行が選択できる権利を持つ代わりに、預金金利が高くなっているというわけです。これだけ見ると、仕組預金は銀行に有利であり、預金者が損をさせられているように思うかもしれません。

■補足説明:「デリバティブ」について

少しだけ道を逸れますが、「仕組預金にはデリバティブが組み込まれている」と冒頭でご説明しました。

先ほどご説明した銀行の選択権は、デリバティブの世界では「オプション」と呼ばれています。

少し専門的で複雑な話ですが、銀行がオプション(選択権)という価値のあるモノを預金者から買い、その対価としてオプション料を預金者に支払っている形となる商品であるため、預金金利が高いのです。

これは預金者から見ると、預金者はオプションの売り手としてオプション料を受け取る代わりに、買い手である銀行が権利行使した場合、それに応じる義務が発生しています。

通常の預金にデリバティブ(ここではオプション)を組み合わせている仕組であるから「仕組預金」と呼ばれているというわけです。

ただ、誤解を恐れずに言えば、オプションの権利は、売り手にとっても買い手にとっても、価値は等価です。金利は上昇するかもしれないし、上昇しないかもしれないからです。

オプション料はその時点で選択権と等価の価値であると金融マーケットが判断している水準であり、得も損もないと考えておけばよいでしょう。

要は、銀行が選択権を持っていたとしても、今は預金金利が高いわけですから預金者は得しているわけですし、金利が上がらずに銀行が預金を終了させたならば預金者は長い期間の運用は出来ませんでしたが高い預金金利を享受できたわけです。

ただ、それはその時になってみないと得したか損したかは分かりません。オプションというデリバティブは、そのようなものなのです。

某ネット銀行では、このような内容を以下のように説明しています。

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【金利上昇メリットの放棄について】
経済情勢の変動等により、個々の期間延長決定日における次回延長預入期間の実際の市場金利が、当初の預入時に決定した該当預入期間の適用利率よりも高い場合、満期日が延長される可能性が高くなります。従いまして、預入期間の延長が行われた場合、お客さまは、この預金に預入れいただいた資金を、預入時に決定した該当預入期間の適用利率よりも高い市場金利で運用する機会を失うことになります。

逆に、個々の期間延長決定日における次回延長預入期間の実際の市場金利が、当初の預入時に決定した該当預入期間の適用利率よりも低い場合、満期日が延長される可能性が低くなります。この場合、お客さまは、この預金に預入れいただいた資金を、預入時に決定した該当預入期間の適用利率での運用はできなくなります。
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上記は預金者の立場からの説明ですが、この預金は預金者が金利上昇メリットを放棄する代わりに預金金利が高くなっています、と説明していると考えれば良いでしょう。

■銀行はなぜ仕組預金を集めるのか

では、銀行の選択権と預金者の上乗せ預金金利が等価であるならば、なぜ銀行はこのような仕組預金を集めたがるのでしょうか。

これには大きく2つの要因があります。

1つは、日本銀行の政策変更がついになされ、金利が上昇していく可能性が高くなってきたからです。金利が上昇していくのであれば、仕組預金は銀行にとって将来的に安い調達手段となるかもしれません。

もう1つは(こちらが本命ですが)、デリバティブを組み合わせることで、デリバティブの収益を計上できるからです。

仕組預金は顧客から販売手数料を取るのではなく、内部に組み込まれたオプションで預金者から直接的に手数料を貰わなくとも利益を得ることが銀行には可能です。

一般的な仕組預金は、元本は保証されていますし、販売手数料もとられません。ただ、預金内部に組み込まれたオプションで銀行側に利益がもたらされてます。言葉を換えると、仕組預金に組み入れられたオプション取引でマージン(手数料)を銀行側に取られた後のオプション料を、預金者は貰っています。

そんなことはどこにも書いていないのですが、以下の文面を読めば想定できます。これも、あるネット銀行が提供する仕組預金の商品説明です。

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【中途解約時に想定される調整金(想定調整金)について】
観測期間を2000年4月1日から2017年9月30日までの間とし、当社が合理的に取得できるデータを用いた一定の前提条件を基に算出された中途解約時にお客さまに生じると想定される調整金(以下「想定調整金」といいます。)について、ご案内いたします。

以下の例では、最長10年(当初預入期間1年+各延長預入期間1年を最大9回延長)の商品をお申込みいただいたと仮定します。

預入直後に中途解約され、かつ、市場金利の変動が無かった場合この預金への預入れ直後にこの預金の中途解約をした場合の想定調整金は、元本の3%程度(元本が100万円の場合、3万円程度)となります。
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この商品説明を見るとよく分かるのですが、銀行側は、仕組預金元本の3%相当にあたる収益を、この預金販売時に得ています。だからこそ、預入直後に中途解約する場合の想定調整金が元本の3%程度となっているのです。

したがって、預金者は100万円を仕組預金に預けた場合、本当は3%分余計にもらえる利子(最大で10年となるので年間では最低0.3%以上)を銀行にマージンとして先に渡してしまっていることになります。

これでは等価な取引とは言えないと筆者は考えています。仕組預金というのは、仕組みが分かりづらいからこそ、銀行は儲けられるチャンスがあるのです。

ただ、銀行の店頭で販売している投資信託や変額保険も、数%の販売手数料を徴収する商品は珍しくありません。

つまり、どうしても欲しいものでない限り、「銀行では運用商品を買わない」が正解だと言えます。

■仕組預金のメリット

このような仕組預金ですが、一応メリットもあります。

それは円建ての場合だけですが、預金保険の対象であるということです。したがって満期まで預けるのであれば元本は保証されることは間違いありません(利息部分は通常の定期預金の利息の範囲までしか保護されません)。筆者が考えるメリットはこれぐらいです。

■個人は「仕組預金」に預けるメリットがない

以上、仕組預金について、その仕組みを簡単に見てきました。筆者の意見でしかありませんが、個人が仕組預金を買う必要はないと思います。

銀行を儲けさせているだけのようなものですし、実際には多額のマージンを取られているのですから、資産運用としてはマイナスからスタートしているようなものです。

そして、仕組預金は最大で10年ぐらいは解約できない状態が続きます。10年といえば1つの時代です。経済の状況がどのようになっているか分かりません。

また、人間の寿命を80年とした場合には、その8分の1の期間、貴重な資金が拘束されることになります。預金のような形で資産運用したいのであれば、日本国債を買っていた方がマシだと筆者は考えています(そもそも預金で運用すべきだとは考えていませんが)。

今回は仕組預金の中でも最も簡単な仕組みの商品を例に挙げました。このような商品でも金融商品というものは理解しづらいと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

理解しづらいからこそ、購入者が適正な価格が分からず金融機関は高値で売り付けることが出来るのです。商売だけでなく資産運用の肝は、安く買って高く売るです。仕組預金は高く買ってしまうだけの商品でしかありません。これが銀行員である筆者が見た仕組預金です。

旦直土/楽待新聞編集部

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最終更新:4/13(土) 19:00

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