「株式の相続」急増!トラブル回避のためにやっておくべき対策とは?

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ダイヤモンド・オンライン

 金融庁は2024年8月30日に「令和7年(2025)年度の税制改正要望について」を公表した。先月の記事で、筆者は相続税の滞納の増加について触れたが、今後現行の物納制度について見直しが図られる可能性が高くなった。上場株式などの売買によって長期的な資産運用を行っている方にとって、本制度の見直しは知っておきたいところだ。また、衆議院選挙の結果なども踏まえると、今後どのように資産形成を進めるべきか不安な人もいるだろう。そこで今回は、物納制度の見直しが求められた背景と株式相続の対策について、市場動向のゆくえにも触れながら詳しく解説する。(税理士・岡野相続税理士法人 代表社員 岡野雄志)

● 衆議院選挙での与党の大敗で 懸念される市場の流動化

 24年10月27日に投開票が行われた第60回衆議院選挙(小選挙区・比例代表の合算465議席)は、与党の自民党・公明党が過半数の233議席を大きく割り込み、大敗と言える結果となった。国会運営は今後選挙前の98議席から148議席へ躍進した立憲民主党、38議席を獲得した日本維新の会など野党の協力が不可欠だ。

 荒波の中へと出航した第二次石破内閣の下で株価や円相場はどのような動きとなるのか、多くの投資家たちは「流動化」を懸念している。一方でアメリカ大統領選ではトランプ氏が再選し株価は急上昇、ビットコイン市場も歓迎ムードだ。しかし、ロシア情勢や中国との外交など不安要素は尽きない。

 24年11月18日、日銀・植田和男総裁が講演の中で利上げについて「リスクとなる要因」に関して慎重に点検する必要があると発言、円相場は一時値下がりを見せた。利上げはインフレの抑制にはつながるものの、株式市場や住宅ローン利息に影響を与えやすく、国民への影響は小さくない。

 スキャンダルで揺れる国民民主党は日銀の早期利上げには否定的な見方を示している。一般的に政局が不安定になると、先行きの不透明さから市場は荒れやすくなる。今後どのように資産を動かしていくべきか悩んでいる読者も多いだろう。

 日本国内ではNISAの利用が拡大しており、個人の資産形成は預貯金から株式へと少しずつ移行し始めている。株式運用を始めたばかりの人も多く、特に現在の市場動向に不安を感じているのではないか。しかし、長く低迷していた日経平均株価が今年7月にバブル期を超える4万2000円台に付けたことを忘れてはならない。

 株式以外にも手堅く分散投資をしながら、政局の安定を待つこともおすすめだ。

● 金融庁が要望した 「上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し」とは

 NISAの誕生をきっかけに、株式投資に関心を持った人は多いであろう。活況な株式市場を眺めていると、投資額を増やしたくなるものだ。しかし、株式を保有したまま自身が亡くなった時には相続税の課税対象となることは押さえておくべきだろう。

 株式を相続人が相続したら、そのまま保有するか、売却するか選択できる。相続税が発生する場合には、原則現金で納税を行う必要がある。相続税は株式以外にも預貯金や不動産なども対象となるため、驚くほど高額の課税が生じる人もいる。そのため、現金の用意に頭を抱える人も少なくない。

 そこで、金融庁は24年8月30日に発表した「上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し」の中で、相続税の「物納」に係る手続きについて、納税者が利用しやすいよう特例措置を検討するよう要望した。先月コラムで触れたように相続税は滞納者が増加しており、物納制度の見直しで改善をはかる構えだ。

 現在の物納制度はさまざまな条件が課せられており、利用しにくい。「老々相続」も多くなっている今、相続税の納付に手間取っているうちに更なる相続が発生するケースもある。仮に上場株式であれば国が物納で受け取っても容易に換金できる。株式を保有する人は年々増加しており、相続税の滞納を少しでも抑制・解消するために上場株式などを物納に使えるようにしたい、というのが金融庁の狙いだ。

 また、株式の相続税評価方法も見直しを進め、相続人が相続した株式を売り急ぐ現状を改善したいという要望も行われた。

● 相続財産に占める有価証券の割合は 過去9年間で約1.73倍も増加

 「上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し」では、被相続人の「相続財産の構成」が変化している点についても触れている。現金や預貯金は依然として相続財産の多くを占めているが、上場株式を含む有価証券も相続財産に多く含まれるようになった。相続財産のうち、有価証券の割合は2013年では2兆676億円だったが、2022年は3兆5702億円にまで伸びており、過去9年間で約1.73倍増加へしている。

 NISA拡充などをきっかけに、株式を使った資産運用は増えていると考えられ、相続時には株式相続をする人も増加しているのだ。

 現在株式を運用しており、長期的に保有する可能性がある人は、相続対策を進めておくことをおすすめしたい。ロックをかけたスマホを使い、ネット証券を介して運用しているケースは多い。その場合、相続人が被相続人の保有株式を見落としたまま相続税申告をしてしまう可能性がある。

 仮に税務調査から指摘され、追加で納税が必要となった場合には、最大で納付税額のうち300万円を超える部分に対して30%が課税されてしまう。相続税申告・納付の遅れや漏れは何のメリットももたらさないため、注意してほしい。

● 株式の相続に備えて やっておくべき対策とは?

 今後市場が流動化したとしても、株式運用が資産形成の選択肢の1つであることは変わらない。そこで、株式相続に備えて「やっておきたい対策」について紹介しよう。

 まず、上場株式と非上場株式では、相続手続きが大きく異なる。上場株式は評価しやすく、換金もスムーズにできるが、非上場株式は相続時の評価方法が複雑であり、売却しにくい。両方の株式を保有しているなら、相続対策を2つに分けて考えて欲しい。

 まず1つ目に、非上場株式を保有している場合だ。自身や親族が経営する中小企業の非上場株式を保有している場合、生前からできる対策には、相続税評価を下げる、生前贈与で保有数を減らすなどの方法が考えられるが、経営状況や家族構成なども踏まえながら対策を進める必要がある。専門知識が不可欠であり税理士に相談してほしい。

 2つ目に、上場株式を保有し相続対策を進める場合は、相続税の試算から始めてほしい。相続税は株式以外の資産も含めて計算するため、保有株式は少なくても、不動産などが多いと相続税が発生する可能性がある。生前から試算しておくことで、納税に必要な現金がいくらなのかも把握できる。

 また、非上場株式と上場株式のいずれの相続対策にも有効なのは、遺言書の作成と生前贈与だ。遺言書があるとトラブルの回避につながる。上場株式は資産として魅力的であり、非上場株式は企業経営に欠かせないものだ。だからこそ、遺産分割協議時に家族内で奪い合いになりやすい。遺言書で誰に渡すのか決めておけば遺産分割協議をする必要がなくなり、スムーズに次世代へ承継できる。

 生前贈与で早めに相続人へ株式を贈与することもおすすめだ。生前贈与は相続対策の効果が高い。株式市場が下がっている時、資産運用としては悩ましいものだが、生前贈与のチャンスとも言える。贈与後に株価が上がっていけば受贈者の財産が増え、結果として相続税の圧縮につながる。

 資産運用は今後も国内外の政治・経済情勢を分析しながら行う必要がある。資産運用の答えは1つではないため、株式以外にも分散投資させながら行うことが賢明だ。

 同様に、株式の相続対策にもさまざまな方法がある。重要なのは、専門家とともに情報を収集し、自分に合った方法を見つけることだ。

 不動産を多く所有している人は生前から相続対策として税理士に相談することが多いが、株式運用をしている人も生前に贈与や資産運用について税理士に相談してほしい。インターネットで気軽に見つかる相続対策が、自身に合っているとは限らない。税のプロフェッショナルを資産運用のパートナーに選んでみてはいかがだろうか。

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最終更新:12/5(木) 4:02

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