ノースサファリに学ぶ、大家が知らないとヤバい「都市計画法違反」リスク《楽待新聞》
人気観光スポットが窮地に陥っています。2025年2月、札幌市南区の民間動物園「ノースサファリサッポロ」で、156棟の建物が都市計画法に違反(無許可の建築)しているとして、札幌市から撤去を命じられました。
この報道を受けて、「違法建築物とされるのに、なぜ建築基準法ではなく都市計画法なのか?」「そもそも市街化調整区域とはどういったものなのか?」という疑問を持たれた方もいるかもしれません。
こうした疑問を解消するためには、都市計画制度や建築基準法との関係性を理解する必要があります。
そこで、この記事では、不動産投資家が都市計画法に違反しないよう、法制度の仕組みをなるべくわかりやすく解説していこうと思います。
■市街化調整区域では「開発許可」が必要
今回、問題視されたノースサファリサッポロは、「市街化調整区域」に位置している施設です。
この市街化調整区域は、簡単に言うと「市街化を抑制する区域」のことです。市街化とは、住宅や店舗・事務所などの施設に加えて、道路や公園・上下水道などがまとまって街が形成される、または形成されつつある状態のことを指します。
市街化調整区域は、1968年に制定された「新都市計画法」により導入された区域区分の制度です。区域を分けることで、無秩序な市街化の防止や自然環境の保全などを目的としています。
そのため、市街化調整区域では農林漁業に関係する建築物や、公益施設などの、一部に限定された建築物のみ建てることができるとされています。
もともとこの制度は、戦後の爆発的な人口増加に伴う無秩序な宅地開発をコントロールするために制定されたものです。当時は郊外の田畑山林などにおいて質の低い住宅が造成されており、国民生活の質に悪影響を及ぼす可能性があったため制度化されました。
ここで重要なのは、市街化調整区域内で建築を行う場合、原則として都市計画法に基づく「開発許可」が必要となる点です。
開発と聞くと、宅地造成における審査をイメージするかもしれませんが、市街化調整区域内での建築もこの「開発」に該当します。
■都市計画法違反の事例は全国各地でも
通常、市街化区域で建築物を建てる際には、まず建築基準法に基づく「建築確認申請」を行い、建築主事(審査を行う地方公務員)から確認済証の交付を受けなければなりません。
しかしこの手続きは、あくまでも建物が建築基準法などの各種法令に違反していないかを「確認」するものに過ぎません(建ててよい、という「許可」ではありません)。
一方で、市街化調整区域内における開発許可は、行政が「その場所に建ててよい」と判断する処分行為のひとつとなります。
市街化調整区域内で導入されている開発許可制度は、都市の無秩序な拡大や、市街地で適法にビジネス(不動産投資)を行う方の不利益を防ぎ、都市構造全体のバランスを保つために制定されたものです。
市街化調整区域内で開発許可を受けずに建築工事を行うことは、それ自体が重大な違反行為となります。
無許可で建築工事を行うと、都市計画法第43条違反として50万円以下の罰金が科される恐れがあります。さらに市からの監督処分に従わなかった場合、1年以下の懲役刑に処される可能性もあるのです。
ちなみに、市街化調整区域での開発許可に関する事務は、都道府県や政令指定都市、中核市が担います。今回のケースでは、政令指定都市である札幌市が主体となるというわけです。
実は、ノースサファリサッポロのように、長期間にわたって行政指導に従わないというケースは全国的に見られます。先日は、札幌市内に約3000棟に及ぶ違法建築物があることも報じられました。
2023年には、愛知県岡崎市の前市長の政治団体事務所が、市街化調整区域内で許可を得ずに事務所として使用していたり、同じく愛知県の新城市観光協会が、市街化調整区域内の事務所に移転した際に用途変更許可を得ていなかったりした件が取り上げられました。
私自身も中核市で違法建築物に対する行政指導を担当した経験があり、札幌市が対応に苦慮している背景についても理解できます。
行政には警察のような強い公権力がないため、現実的には「建てた者勝ち」の状況が生まれやすいという構造的な課題を感じていました。
市街地で適法に不動産ビジネスを行う人からすれば不公平な状況ですので、個人的には罰則を強化してもよいのではないかと考えています。
■都市計画法と建築基準法の関係
ここからは、都市計画法と建築基準法の関係について改めて整理していきます。そして、不動産投資をする上でどのように関わってくるのかを考えていきましょう。
まず建築に関わる用語として、「建築確認申請」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。これは建築基準法に基づく手続きで、建物が法令に適合しているかを確認するものです。
先述の通り、これはあくまでも関係規定に適合するかの「確認」であって、行政の出す「許可」ではありません。確認申請に対する審査は、民間審査機関でも行うことができるようになっています。
一方で、都市計画法が定める「市街化調整区域」内では、その土地に建物を建ててもよいかどうかを行政が判断します。この許可基準を、専門用語で「立地基準」と呼びます。
市街化調整区域にどのような建物を建てるかは、まちづくりに大きな影響を及ぼすため、各自治体は立地基準に照らして、許可を行うべきかどうかを個別かつ厳格に判断します。
ここからがもう1つの重要なポイントです。
建築確認申請を行う際、対象の土地が市街化調整区域など都市計画法上の開発許可を必要とする区域であれば、許可書の写しを添付する必要があります。
つまり、都市計画法に違反している場合は建築基準法上も必要書類が欠けることになるため、建築確認済証は交付されません。
さらに私の経験上、都市計画法に違反している建物は、建築確認申請自体が行われていないことが多く、構造上の基準にも適合していないケースが多い印象です。
「立地基準に適合しない建物=その場にあってはならない建物」であるため、行政は発見次第、撤去指導を行うことになります。
人が利用する施設で建築基準法上の構造基準などにも違反していれば、人体に危険性が及ぶリスクがあり、使用停止も妥当とも考えられます。
とはいえ、ここまでお伝えしてきた都市計画制度の内容やその背景について学ぶ機会は非常に限られています。都市の規模によって制度も異なり、人口規模の小さな都市ではそもそも市街化調整区域が指定されていないこともあります。
多くの人が、建物や土地を購入する段階になって、その都市計画制度の存在を知ることになるのが現状です。「人里離れた郊外でDIYで小屋を作る」といった場合に、無自覚に違法行為を行っているケースも生じています。
■本当に「お買い得」な物件か?
不動産投資先として検討する場合、市街化調整区域は土地利用が制限されている分、市街化区域より割安になる傾向があります。
市街化調整区域が指定される前に建っていたアパートなどは、「掘り出し物」や「高利回りの優良物件」として魅力的に映ることもあるかもしれません。
しかし価格の安さだけに目を奪われると、重要事項説明に記載されたリスクを見落としかねません。このような物件は、特に次のような点を事前に確認しておくことが重要です。
・建築物に違法性があるか(立地基準や建築確認済証があるか)
・将来的に建替えが可能か(現在の建物が既存不適格でないか)
・市町村のまちづくり計画(土地利用計画※)との整合性が取れているか
※国土利用計画(市町村計画)、都市計画マスタープラン、立地適正化計画など
こうした事項は、都市計画法に精通した専門家(建築士、不動産鑑定士、宅地建物取引士など)を通じて確認することをおすすめします。どのようなリスクが存在し、将来的に資産にどのような影響を及ぼすのか、丁寧に調査することが望ましいです。
行政実務の経験から申し上げると、特に宅建業者を介さない個人間取引ではリスクが顕在化しやすい傾向にあり、慎重な対応と情報収集が不可欠です。
■市街化調整区域でも開発できる?
市街化調整区域内であっても、すべての建物が建築禁止というわけではありません。例えば以下のようなケースでは、例外的に建築が認められる場合があります。
・農林漁業に関係する建物(従事者の住宅、倉庫や畜舎など)
・公共、公益施設(市街化調整区域居住者の日常サービス施設、上下水道・送電施設などインフラ系)
・市街化区域に近接する「滲み出し」(※)
・自治体のまちづくり方針と整合した地域(都市計画の地区計画が定められる)
※滲み出し…市街化区域に隣近接し、一体的な日常生活圏を構成している地域で、50戸以上の建築物が連たんする自治体の条例で指定した区域での開発のこと。徐々に市街化区域の外側に建築物が広がっていくため滲み出しと呼ばれる。運用は自治体ごとに異なる。
これらのルールは全国一律ではなく、自治体ごとに独自の基準を設けて運用しているのが現状です。地域によって適用の可否も大きく異なります。
近年では地方創生の観点から、住宅や観光・商業施設に限って規制を緩和する動きも見られます。
一部では、市街化区域と市街化調整区域の区分自体を廃止する動きもあります。地方自治体が持続的な存続と発展を見据えて、更地で開発のしやすい市街化調整区域への開発を誘導したい意向の表れとも言えます。
◇
良識のある不動産投資家であれば、そもそも無許可での建築行為を行うことはないと考えます。現代はSNSの普及により、違法行為はすぐに拡散され、信用の失墜や社会的批判に晒されるリスクが高まっています。
ノースサファリサッポロの事例は、その典型例と言えるでしょう。
しかし、法制度を十分に理解しないまま事業を始めてしまう方が一定数いるのも事実です。特に市街地調整区域については「知らなかった」では済まされないリスクが潜んでいます。
そのため、投資を検討する際はまず「土地・建物に違法性がないか」「自治体のまちづくり計画との整合性が取れている土地利用か」を確認するようにしてください。
不動産投資において、都市計画法を知らないことは大きなリスクにつながります。市街化調整区域制度を正しく理解すれば、リスクの回避と将来的な投資の幅を広げることにつながるはずです。
専門家のアドバイスを受けながら適切な判断を行うことが、投資家には求められていると言えるでしょう。
一級建築士・満山堅太郎/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:6/13(金) 19:00