超一等地なのにスカスカな「東急プラザ銀座」…現地で知った苦戦のワケ《楽待新聞》
全国各地のショッピングモールを巡り、そこから見えてくる都市の「いま」をお届けする本企画。今回は、東京都中央区銀座にやってきました。
ハイブランドのショップが建ち並び、その地価の高さは日本一。しかし、都心の超一等地であるこの街に「寂しげ」な商業施設があるというのです。それが「東急プラザ銀座」です。
その名の通り、東急不動産が手がけていた商業施設で、2016年にオープン。しかしその後、コロナ禍のテナント撤退など、経営面での苦境が続き、今年2月には香港の投資会社に買収されることが発表されました。
銀座という土地での苦境はなぜ起こったのでしょうか? さっそく私は現地に足を運んでみることにしました。
■外には観光客が多いのに、施設内は静か
地下鉄の駅を降りて銀座の街へ。目に入ってきたのは、「銀座三越」や「和光」の時計台などがある銀座四丁目交差点です。私が訪れたのは平日の夕方前でしたが、そんな時間帯でも人はたくさんいました。
中でも目立つのがインバウンド観光客です。体感で、6割ほどが外国の人で、欧米系、アジア系問わず、さまざまな国籍の人が交差点を行き交っています。
右手には抹茶味のお菓子をぎっしり詰め込んだビニール袋、左手には高級ブランドのショッピングバッグ……。彼らの購買力が銀座を潤しているのでしょう。
「東急プラザ銀座」へは、この銀座四丁目交差点から歩いて数百メートルほど。近づくと見えてくる、真っ黒でガラスが乱反射しているような外観が目を引きます。この外観は「江戸切子」をモチーフにしているデザインだそう。
同施設が立つ交差点は「数寄屋橋交差点」といって、多くの人が行き交う交差点です。周りを見渡すと、やはりインバウンド観光客が多くいます。
黒光りする建物へ、さっそく入っていきましょう。メインの入り口は3階で、地上から伸びているエスカレーターで向かいます。エスカレーターに乗り込むと、それはずっと遠くまで続いているようで、宇宙船をも思わせます。銀座にいながら銀座ではない場所に行くかのよう。
さあ、エスカレーターを降りて中に入ります。外にいたインバウンド観光客がここに入っているだろうな……と思ってフロアを見ると驚きました。
かなり、静かなのです。3階も4階も5階も。人がいないわけではありませんが、賑わっている状態からは、ほど遠い。エスカレーターの軋む音をこんなにも聞くことはありません。
同じタイミングでフロアにいるお客さんを数えてみたところ、10人程度でした。そのうち半分ぐらいはインバウンドの人ではありますが、彼らが店舗をじっくり見ているかといえば、そうでもない。エスカレーターなどを使って館内を流し見している印象です。
確かに入っているテナントを見ると、ショップだけでなく整体やパーソナルジムなどもあり、インバウンド向けというよりも国内消費者向けの店舗になっているかも、と感じます。
空きテナントも目立っています。特に7階は一部エリアにシャッターが下されていて、立ち入りさえできないようになっています。フロア全体もスカスカになっていて、仮設店舗のようなものだけが営業を行っています。
他のフロアでも不自然にスペースが広がっている場所があり、これだけ見ると誰もここが銀座だとは思わないでしょう。地方の寂れた百貨店のようにさえ見えてしまいます。
■「免税店」と「回転寿司」には多くの人が集まる
とはいえ、館内の盛り上がりがまったくないかといえば、そうでもない。
例えば、8階と9階。ここには「ロッテ免税店 東京銀座店」があります。
ロッテが展開する免税店で、都内最大の広さです。医薬品やブランド品、アルコールなどの定番の免税商品から、日本のアニメキャラクターなどのIPのグッズ、プラレールなどのおもちゃまで幅広く売っています(また、なぜか韓国系アイドルのショップもあります)。
銀座に多くいるインバウンド観光客を集客するためのテナントでしょう。
実際、プラレールの周りには多くの観光客が集まり、それを珍しそうに見ていましたし、化粧品コーナーではアジア系の観光客が「爆買い」をしていました。
8階よりも下は外国の人が少ないのですが、上層階に行くにつれて、だんだんとインバウンド濃度が濃くなっていく。それはさらに上のレストランフロアでも同様でした。
そこにある回転寿司「根室花まる」の前は多くの人がおり、順番を待っています。タブレットで確認してみると22組・54分待ちとのこと。時間は平日の16時半。食事にしては中途半端な時間です(実際、レストランフロアの他の店はほとんどが閉まっていました)。
それにも関わらずこの混み具合なので、夜や休日の人の入りは推して知るべしでしょう。同店は近年、北海道以外にも積極的に店舗を広げており、かなりの人気。それは東急プラザ銀座でも健在なのでしょう。
同じレストランフロアにあるうどんチェーンの「つるとんたん」も、店内はほとんど埋まっているようでした。
もう1つ、人を多く見かけたのが地下です。地下2階に広がるデパ地下のような空間には人、特に日本人が多くいます。
実は東急プラザ銀座、地下2階が地下鉄の駅とつながっていて、ご飯を食べる人や買い物をする人がそこそこいるのです。ただし、人がいるのは地下2階がほとんどで、1フロア上がると人は激減します。
これらを見ると、「免税品」や「食」といった、それ単体でも十分にお客さんを呼べる圧倒的に「強い」コンテンツがある場所に、局地的に人が集まっていることがわかります。
逆に言えば、それ以外の場所へ人が波及するような、「プラットフォーム」としての役割はこの施設には薄そうです。「根室花まる」には行きたくても「東急プラザ銀座」に行きたい人は少ない、ということです。
■施設の「色」がわかりづらい、ハード面の課題も
けれども、どうしてこのような「テナント頼み」の状態になってしまったのでしょう。建物を訪れて感じたのは、2つの理由です。
1つは「ハード」、つまり建物そのものに問題があると思います。
先ほど触れたように、東急プラザ銀座、建物自体は独創的で目立つのですが、入り口がわかりづらい。交差点に面しているところに大きく入り口があるのではなく、その横に控えめにエスカレーターがあるだけです。
さらにそこから進んだところに小さな別の入り口もあるのですが、こちらは入口かどうかもわかりません。一見すると「入っていいかどうかわからない」建物なのです。
また、交差点の角地はプラダのショップになっていますが、私が訪れたときは改装中なのか、真っ白な壁に覆われていました。角地の視覚的効果が生かされていないのです。
それ以外の部分も、路面に接するとこにはアルマーニ(今年5月25日に営業終了、移転予定)などのショップが並んでいますが、ここが「東急プラザ銀座」だとはほとんどわかりません。
銀座の他の商業施設はどうでしょうか。入り口でいえば、インバウンドからの人気も高い「銀座三越」は、交差点に面するようにして大きな入り口があります。どちらが入りやすいかは、一目瞭然でしょう。
さらにハードの問題は外観だけでなく、内部でも同様です。上の階に上がるエスカレーターとエレベーターは、数はあるのですがその配置が分かりづらい。
例えば、一部のエスカレーターは5階までで止まっていて、そこからは別のエスカレーターに乗らなければならなかったり、特定のエスカレーターを使うと2階の一部テナントに行くことができなかったり……と、あまりにもわかりづらい。
エレベーターも何機かあるのですが、免税フロア専用のものとそうでないエレベーターが全く別の場所にあったりして、ふらりと訪れただけでは、ほとんど全貌がわかりません。
実は私はこの建物を何度か訪れているのですが、それでもいまだにその構造を完全に理解できているとは言い難いです。
建築デザインにこだわるあまりに実用性が著しく低下することはしばしば耳にしますが、この建物もどこかデザインを重視しすぎて、消費者目線に立ったときの使いやすさが低下していると思うのです。
2つ目の理由は「施設の『色』がわかりづらい」ということです。
先ほどから述べている通り、ここは、地下にインバウンド向けの店舗もあれば、日本の昔ながらの百貨店のような店舗もありますし、施設が全体としてどの方向を向いているのかがわかりづらい。
免税店は、都内最大規模ではありますが、そうであればいっそ建物全体をインバウンドの人が楽しめるようにすることもできるはずです。全体的にいろいろなものを詰めた印象が拭えません。
気になって、東急プラザ銀座のコンセプトを見てみると、次にように書いてありました。
当施設は、「Creative Japan~世界は、ここから、おもしろくなる。~」という開発コンセプトのもと、伝統工芸である江戸切子をモチーフに取り入れた外観デザインをはじめ、高い格式と最新のトレンドを兼ね備えたショップ等、伝統と革新が共存する銀座エリアの魅力を受け継いだ銀座の新たなランドマークとなります。
「伝統と革新の共存」がどこにあるのか、単に「いろいろなものを詰めただけ」の言い換えのようにさえ思えてしまいますが、こうしたふんわりしたコンセプトこそが、東急プラザ銀座の「色」をわかりづらくしてしまっているのではないでしょうか。
建物自体の「色」が無ければ、いかに中に入るショップが魅力的であろうと、話題が広がりづらい。実際、銀座は他にも多くの商業施設があり、よほどのことがない限りそちらに人は流れてしまうでしょう。
このようなハード面と建物自体のイメージの問題が作用して、どこかいまいちパッとしない建物になってしまったのではないでしょうか。
■香港ファンドによる買収で生まれ変わる?
こうした苦境を反映してか、今年2月、同施設は香港の投資会社ガウ・キャピタル・パートナーズに買収されました。
今後も運営は東急不動産が行うそうですが、新会社主導のもと、施設の名称変更や建物のリニューアルなどを行うようです。「東急プラザ銀座」の建物名称は、今年11月30日で終了することが発表されています。
この買収によって、先ほど述べた問題点が解消されるかもしれません。
建物のリニューアルで動線が変わることもあるでしょうし、ガウ・キャピタル・パートナーズは香港の会社で、ここをインバウンド需要に対応した施設へと変貌させ、「色」を出していく可能性が高いからです。
私が訪れたときも、免税店に向かう団体の中国人観光客が目に入りました。もしかすると、すでに新会社が現地の旅行会社などにその存在をアピールしているのかもしれません。
免税店は都内最大の広さであり、日本でショッピングをしにきたインバウンド観光客にとって、魅力的な施設であることは間違いないはず。また、銀座という立地もあるので、さまざまな工夫を凝らせばテナントが繁盛しない道理がありません。
ガウ・キャピタル・パートナーズのもとでの改装が始まるのは2026年から。今後、施設の変更も含めてどのようにここが生まれ変わっていくのか、じっくり観察を続けていきたいと思います。
チェーンストア研究家・谷頭和希/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:6/15(日) 11:00