Z世代の40%は勧誘された経験あり~大手求人サイトが開発「闇バイト」を検知するAIツールとは

4/18 10:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 「闇バイト」が広がりを見せている。簡単に高収入を得られるとうたい、振り込め詐欺や薬物の運搬といった犯罪行為に加担させるこの手の求人は、SNSを中心に蔓延。Z世代の約40%が「闇バイトに勧誘された経験あり」と回答するなど、深刻な状況が続いている。そんな中、「バイトル」などの求人サイトを運営するディップは、「闇バイトチェックAI」の運用を開始した。どういった求人サイトに闇バイトの情報が多いのか。また、大手求人サイトがこうした取り組みを行うことにデメリットはないのだろうか?(ノンフィクションライター 酒井真弓)

● 投稿型の求人サイトなどで闇バイト業者が暗躍

 人材サービス大手のディップは、「バイトル」をはじめとする自社求人サイトで、生成AIを活用した「闇バイトチェックAI」の運用を開始した。インターネットやSNSで公開されている闇バイトの事例やユーザーからの申告情報を機械学習させ、危険性の高い求人を検知。目視の場合と比較して、80%程度の審査時間削減を見込んでいるという。同社執行役員商品開発本部長の進藤圭さんに狙いを聞いた。

 実は2年ほど前から、求人系アグリゲーションサイトや有名掲示板にも闇バイトの求人が紛れ込むようになった。背景には、警察によるSNS上のネットパトロールの強化などが挙げられるが、イタチごっことはまさにこのことだ。ディップをはじめ、全国求人情報協会に加盟する企業は、サイトに求人情報を掲載するまでに一定の審査体制を設けているのだが、審査がない投稿型の求人サイトなどは、大手であっても闇バイト業者が暗躍しやすい状況にある。

 ディップが運営する求人サイトでは、これまで闇バイトの掲載は確認されていない。何重もの審査が功を奏しているようだ。取り引きを始める企業に営業担当者が訪問し、事業内容や社内の四隅を目視確認している。例えば、一般的に企業のオフィスにはないもの、神棚や床の間がある、逆にあるはずの固定電話がないなど、さまざまな特徴を基にチェックしていくという。加えて、与信審査や反社チェックを徹底することで、危険性のある企業との取り引きを水際で排除してきた。

● ディップが「闇バイトチェックAI」を開始した理由

 求人原稿に関しても、掲載前に審査チームが違法性の高いワードがないか精査。加えて、自社開発したAI「KENSER(ケンサー)」を活用し、法律違反の最低賃金設定や年齢設定、差別表現がないかなどを確認している。

 それに加えて、さらに「闇バイトチェックAI」の運用を開始したのは、人の眼とAIの眼で、より確実にユーザーを守るためだ。一度与信を通った企業が、後から犯罪に手を染めるケースも考えられる。こうした潜在的な闇バイト検知にも対応するため、「面接で怖い思いをした」「掲載されている業務内容と違っていた」など、ユーザーからの申告情報も受け付けている。

 「闇バイトチェックAI」について公開すれば、システムの隙を突こうとする闇バイト業者に悪用される恐れがある。また、「自分たちの求人サイトに闇バイトが載ってしまったから対策を急いだのでは?」と風評被害を受ける可能性もあった。それでも公表に踏み切ったのは、被害を防ぐのはもちろん、犯罪者に「ディップに載せるのは面倒くさい」と思わせることで、犯罪行為そのものを抑止したい思惑があるからだ。

 昨今、闇バイトと呼ばれるようになった悪質な求人の問題は、人材業界にとって決して新しい危機ではない。実態を隠して「楽して稼げる」と近づくのが犯罪者の常套手段だ。「闇バイト」と呼ばれていなかっただけで、人材業界は常に悪徳求人と戦ってきた。「今だけ無料」などの言葉でモニターを募集し、高額な商品やサービスを契約させる商法。ユーザーをだます出会い系サイトのサクラのバイト。こうした求人に応募してしまう若者は、昔から後を絶たなかった。

 「私たちはユーザーインタビューなどを通し、アルバイト先で嫌な経験をしたことがある方にもお会いします。媒体の宿命として、誤った情報や犯罪性のある情報を掲載してしまえば、悪徳業者の片棒を担いでしまうことになり得るのです。人の眼でもAIでも、可能な限りチェック機能を強化することが重要だと思っています」(進藤さん)

● 最も苦労したのは、闇バイトに関する学習データの収集

 「闇バイトチェックAI」の開発で苦労したのは、データの収集だったという。AIの学習には、できるだけ多くの闇バイトに関するデータが必要だが、前述の通り、ディップが運営する求人サイトではそもそも闇バイトの掲載が確認されていない。最も連携したいのは警察だが、一民間企業が捜査情報などの提供を受けるのは現実的には難しい。また、警察のウェブサイトに掲載されている闇バイト関連の資料も、機械判読性の低いPDF形式が多かった。

 そこで、過去のSNSやネット掲示板の投稿を掘り起こし、独自にデータを収集。闇バイトの「本質的な特徴」をAIに学習させるための工夫を重ねた。「面接不要」「誰でもOK」「高収入」といった特徴的なフレーズはもちろん、言葉の意味を分岐させ、さまざまな言い換えに対応できるようにした。また、「興味があればDMください」が「メールください」に変わることがあるなど、闇バイト業者にありがちな動きも学習させ、予測して対応できるようにした。

● 高校生への啓発活動にも注力

 AI開発と並行し、ディップは、ユーザーインタビューも兼ねた高校生への啓発活動にも力を入れている。学業とアルバイトの両立を応援する「高校生アルバイト応援プロジェクト」では、出張授業を開始。勤務条件や雇用契約書など、アルバイトを始める前に確認すべきこと、健全な求人と闇バイト求人の判別方法など、安全な仕事選びに必要な観点を伝えているという。

 授業は録画され、保護者にも公開される。傾向として、一度でも闇バイトに手を染めてしまうと、その後も繰り返し勧誘されることになるという。保護者が闇バイトの実態を知ることで、家庭の中で子どもの異変を察知するきっかけにしてほしいという。

● 新たなターゲットは「孤独な高齢者」

 闇バイトへの誘いの手口は巧妙化している。コロナ禍では、「家にいながら名簿に電話をするお仕事。トークスクリプトを支給します。時給5000円」といった一見判断が難しい闇バイト求人が横行した。警察や報道機関などを通して啓発が進み、「携帯電話を受け取るだけの仕事=飛ばしの携帯の購入」「荷物を運ぶだけの仕事=薬物の運搬」など、危険を察知できる人は増えただろう。しかし、知らずに犯罪の片棒を担がされ、逮捕されたケースも少なくない。

 さらに最近増えているのが、普通の求人に見せかけたパターンだ。例えば、コールセンターのアルバイトを装った振り込め詐欺のかけ子募集などがあるという。注意が必要だ。

 進藤さんが懸念しているのは、「孤独なシニア」をターゲットにした闇バイト求人の増加だ。オレオレ詐欺の被害などと根っこは同じで、シニアは職についても周囲に相談する機会が少ない。若者と比べ、スマホでのやり取りにも慣れていない。少し違和感を抱いても、「そういうものか」とそのまま応募してしまう危険性が高いという。

 X(旧Twitter)が北米で始めた求人掲載機能も、新たなリスクとなり得る。人の集まるところ、新しいサービスが登場するたびに、犯罪者側は新たな手口を編み出してくるだろう。サービス提供側はもちろん、ユーザー側もさまざまな可能性を警戒する必要がありそうだ。

● 与信審査プロセスにも、担当者の知見を学習させたAIを

 進藤さんは、「闇バイトチェックAI」の今後を、どう考えているのだろうか。

 「与信審査プロセスにAIを導入し、求人原稿より早い段階で悪質業者を検知すべきだと考え始めました。今も営業や審査担当部門が知見を集約し、独自のチェックリストを運用していますが、AIによってそれらを補助・高度化できれば、さらに水際で阻止できると思っています」

 担当者の経験則をAIに学習させ、客観的な指標で顧客をスクリーニングし、犯罪の芽を摘む。進藤さんが目指すのは、そんな「人とAIの融合」だ。

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最終更新:4/18(木) 10:02

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