新築市況低迷の余波… LIXILが約100億赤字、住宅関連企業の未来《楽待新聞》

5/15 11:00 配信

不動産投資の楽待

企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは、株式会社LIXIL(リクシル)です。

LIXILは、住宅建材や住宅機器の企業として知られており、水回りやタイル、窓など、住宅のいたるところで同社の製品が使われています。

4月22日には、2024年3月期通期の連結業績予想を下方修正し、最終損益が140億円の赤字(非継続事業を含む)となる見込みであることを発表。翌日の株価が大幅に下落して話題となりました。

そんなLIXILの決算から、住宅関連の事業を行っている企業の現状を見ていきましょう。

■メインは水回り事業、国内が6割超を占める

それでは、まずは事業内容から見ていきます。LIXILの主な事業セグメントは以下の2つです。

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1.ウォーターテクノロジー事業
衛生機器やシャワートイレ、浴槽やユニットバス、洗面カウンターなど水回りに関する事業、INAXブランドなど

2.ハウジングテクノロジー事業
サッシや玄関ドア、窓枠やカーテンウォールなど住宅建材の事業、TOSTEMやアイフルホームブランドなど
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水回り中心の事業と、住宅建材中心の事業で区分されているということが分かります。
なお、2022年度のそれぞれの事業ごとの売上構成は以下の通りです。

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・事業セグメントごとの売り上げと比率
ウォーターテクノロジー事業:9153億円、60.5%
ハウジングテクノロジー事業:5982億円、39.5%

LIXIL 『統合報告書2023』より
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両事業とも一定の規模がありますが、水回り関連の規模が大きく、主力事業だということが分かります。とはいえ、どちらとも住宅の需要に業績が左右されますから、住宅市場の動向に業績は大きな影響を受けることになります。

続いて市場別の売上構成は以下の通りです。

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比率にすると、日本が65%と多くを占めています。続いてアジアが12%、欧州10%、北米12%、その他が1%となります。LIXILの事業は国内が中心で、特に国内の住宅市場の影響が大きいことが分かります。

とはいえ、海外比率も35%ほどありますから、グローバルの動向も業績には一定の影響があります。LIXILの業績を考える際には、グローバルでの住宅需要の動向にも注目、ということです。

■直近の業績は苦戦

さて、事業内容についてある程度分かったところで、業績の推移を見ていってみましょう。

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2012年3月期~2023年3月期までの売上の推移を見ると、2016年3月期をピークに、それ以降は減少傾向にあります。ただし、2022年3月期以降は若干の増加傾向という状況です。

住宅需要の大きな拡大が難しい国内事業が主力ですから、近年は売上は伸び悩んでおり、コロナの影響も大きかった2021年3月期を底に多少の改善傾向だったということでしょう。

続いて、近年の利益面の推移を見てみます。

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売上について、2019年3月期~2022年3月期までは増加傾向でした。というのも、規模の拡大が難しくなる中、LIXILは2017年3月期以降は経営効率の向上に動いていました。収益性の低い事業の売却などもあり、売上が伸び悩む中でも収益性は改善しています。

ところが、2023年3月期は、売上(上図左)は増収だったものの、利益面(上図右)が大きく悪化しています。事業利益率は、2022年3月期の4.5%から1.7%まで下落しました。

近年、収益性改善に向けた取り組みを進めていたものの、2023年3月期は収益性が悪化しており、苦戦しています。

■資材高や円安の影響で減益に

ではどうして、2023年3月期の利益率が大きく悪化したのでしょうか?

これは、国内では資材高や原燃料高、さらに円安の影響が大きかったためです。資材を輸入して国内で販売する規模が大きいですから、円安も業績にはマイナスの影響があります。

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価格転嫁を進めたことで、値上げによるプラス333億円の好影響がありましたが、原材料・資材費、物流費の高騰などの影響がマイナス475億円となっており、十分な価格転嫁には至らずマイナス142億円と収益性が大きく悪化しています。

さらに海外事業では、ロシア・ウクライナ問題によってサプライチェーンの混乱が起きコストが高騰。米国では金利上昇が進んだことで住宅需要が減少し、在庫調整による価格改定の浸透遅れもあってマイナス209億円の減益に繋がりました。

国内外ともに苦戦したことで、利益面の悪化につながったということです。

とはいえ2024年3月期に関しては、国内ではコスト高を上回る価格転嫁が進むことでプラス259億円、海外ではサプライチェーンの改善が進むことによってプラス52億円の業績の改善を見込んでいました(2023年3月期時点)。

■減収減益で赤字転落へ

ではそういった見通しの中で、直近の2024年3月期の業績は実際どうだったのか見ていきましょう。

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売上高:1兆4832億円(▲0.9%)
事業利益:232億円(▲10.0%)
営業利益:164億円(▲34.3%)
純利益:169億円→▲95億円
※▲はマイナス、()内は前期比
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減収減益と苦戦し、特に純利益に関しては赤字転落となってしまっています。想定通りの業績回復とはならなかったことが分かります(なお、冒頭で触れた140億円の赤字というのは非継続事業を含めたものです。将来予想をするに当たっては、継続事業に絞った方がわかりやすいのでこちらでは継続事業のみについて触れます)。

このような苦戦を強いられた背景を見ていきましょう。

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国内事業では、原材料・資材費の高騰の影響はマイナス147億円となりつつも、価格転嫁を進めたことによってプラス330億円の好影響があり、国内事業の収益性はプラス183億円ほど改善しています。

プラス259億円という当初の見通しにはおよびませんが、2023年3月期の国内事業の事業利益は前期比でマイナス142億円でしたから、利益面が堅調だった2022年3月期を上回る水準までは国内事業の利益面は改善していたということです。

実はLIXILの国内事業は、価格転嫁によって堅調だったんですね。

一方で大きく業績が悪化したのが海外事業です。

欧米の需要低迷を主要因に195億円のマイナスにつながっています。金利の高止まりと、インフレ長期化による欧米市場の住宅関連商品の需要低迷が続いているとしています。

顧客側の在庫レベルは減少する中でも、需要回復には至っていないとしており、苦しい状況が続いています。海外の需要低迷が想定を大きく上回ったため、業績は悪化していたということです。

現在も欧米の金利は高止まりが続いており、2025年3月期以降も苦戦が続くことが想定されます。そういった中で構造改革に着手するとしていますので、その成果がどうなるかには注目です。

ちなみに金利上昇に関しては、金利費用の増加にもつながっています。支払利息は48億円増加し、純利益が赤字転落となっています。

金利に関しては需要面にも金利負担にも影響がありますから、業績への影響が大きいです。金利動向にも注目です。

■今後の業績は改善の見込み?

さて、改めて国内事業に目を戻してみると、当初の想定通りの改善には至っていませんでした。その要因は新築による影響です。

着工戸数は当初計画を大きく下回り、持ち家・分譲ともに大きく減少してたとしています。新築住宅市場は悪化していますから、その影響があったことが分かります。

今後もまだ新築市況低迷が続くことが予想されますので、国内事業も一定の苦戦は想定されます。

とはいえ、今後国内事業の大きな業績悪化が想定されるのかというと、そうではありません。

実際に、新築が苦戦する中でも2024年3月期の業績は2022年3月期の水準を上回り堅調でした。そこには、リフォーム商材比率の高さが影響しています。

国内売上に占めるリフォーム商材の比率を見てみると、2024年3月期は44%、2023年3月期は41%となっています。実はLIXILの売上の4割以上は、リフォームによるものです。

そしてリフォームの需要は堅調でした。窓リフォーム補助金の影響も大きく、補助金の対象商品は前年同期比3倍以上に伸びたようです。

人口減少や高齢化が進む中で、新築住宅の需要が伸びていくとは考えにくいですが、日本の人口規模自体は大きいです。高齢化と共に老朽化した住宅が増えていくことが考えられますから、リフォーム市場に関しては期待されます。

さらに近年はハウスメーカーも、売り切りで新規の顧客を獲得するというモデルは成長が難しくなる中、LTV拡大を重視して定期的に販売後も接点を持つことでその後のリフォーム需要獲得にも力を入れています。

ハウスメーカーなどの営業力の活用によっても、需要獲得が期待できるということです。

直近は補助金だよりというのは懸念点ですが、今後もリフォーム需要によって一定の安定した業績が期待できると考えられます。

そういった中で2025年3月期に関しても、価格転嫁の継続やリフォーム強化によって、国内事業は原材料資材高の影響を打ち返した増益を見込んでいます。

新築市場の悪化は懸念されますが、リフォーム需要によって大きな業績悪化とはならない可能性が高そうです。

また、海外事業では構造改革効果による改善を見込んでいます。海外市況の推移に業績が左右される状況が続きそうですから、海外市況には注目です。

妄想する決算/楽待新聞編集部

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最終更新:5/15(水) 11:00

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