ホンダの新型「WR-V」と一部改良を受けて新しくなったトヨタの売れ筋「ヤリスクロス」SUV買うならどっち?

3/21 10:32 配信

東洋経済オンライン

 近年、需要が伸びているコンパクトSUV市場へ、本田技研工業(以下、ホンダ)が2024年3月22日より新型「WR-V」を投入する。メーカー各社がさまざまな車種をリリースする同ジャンルには、同モデルのライバル車も数多い。そんななかで、とくに強敵となりそうなのがトヨタ自動車(以下、トヨタ)の「ヤリスクロス」だろう。

 2020年の発売以来、好調な売れ行きをみせ、コンパクトSUVシーンを牽引する代表格の1台といえるのがヤリスクロス。しかも、2024年1月には一部改良を受け、外観や安全運転支援システムなど各部の熟成を図り、より商品性をアップさせている。

 果たして、新型WR-Vは、強敵ヤリスクロスに対し、どのような優位性を持ち、どのようなユーザーに最適なのだろうか。両モデルを比較することで浮き彫りにしてみる。

■ホンダの新型SUV「WR-V」について

 新型WR-Vは、ホンダがインドで生産・販売する「エレベイト(ELEVATE)」の国内仕様車だ。外観は、大型のフロントグリルやスクエアの分厚いボディなどにより、SUVらしいタフなフォルムを採用。クラストップレベルの広い荷室空間を持つことや、200万円前半~250万円以下という比較的リーズナブルな価格帯などが主な特徴だ。

 ラインナップには、エントリーグレードの「X」、中級グレードの「Z」、上級グレードの「Z+」という3タイプを用意。いずれも1.5L・ガソリン車の2WD(FF)のみという割り切った設定となっている。そのぶん、価格(税込み)は、Xで209万8800円、Zが234万9600円、Z+が248万9300円と、全タイプを250万円以下に設定する。

■一部改良で新しくなったトヨタ「ヤリスクロス」

 対するヤリスクロスは、コンパクトハッチバック車「ヤリス」のSUV版だ。外観には、ヤリスが持つ凝縮感を継承しつつ、フロントビューや前後フェンダーなどに立体感を出すなどで、よりSUVらしさや精悍なイメージを強調している。

 2024年1月17日に発売されたヤリスクロスの一部改良モデルでは、アッパーグリルのパターンを変更し、より力強さを加味した顔付きとなっている。また、運転席と助手席の間には、フロントソフトアームレストも採用。コンソールボックス付きとすることで、快適性や利便性を向上している。

 さらに先進の安全運転支援システム「トヨタセーフティセンス」も改良を施した。衝突被害を軽減する「プリクラッシュセーフティ」の検出対象範囲を拡大し、交差点での出会い頭時の車両にも対応。また、従来の車両や歩行者、自転車に加え、バイク(自動二輪車)も対象とするなどのアップデートを行っている。ほかにもメーターに採用するTFTカラーマルチインフォメーションディスプレイに、7インチタイプを標準装備するなど、細部にわたる熟成が図られている。

 ラインナップには、1.5Lガソリン車と、そのエンジンに走行用モーターを組み合わせたハイブリッド車を用意する。グレード展開は、ガソリン車とハイブリッド車の両方に、エントリーモデルの「X」、中級モデルの「G」、上位モデルの「Z」を設定。ルーフレールなどでアウトドア感をアップした「Zアドベンチャー(Z“Adventure”)」、スポーティな内外装を備える「GRスポーツ」も用意し、豊富なラインナップを展開する。

 また、一部改良モデルからは、トヨタが展開するサブスクリプションサービス「キント(KINTO)」専用として「U」グレードも設定。2WD(FF)のみのGRスポーツ以外は、全タイプに2WD(FF)と4WDを用意することで、さまざまなニーズに対応する。価格(税込み)は、ガソリン車で190万7000円~278万2000円、ハイブリッド車は229万5000円~315万6000円だ。

■パワートレイン比較

 WR-Vと比較して、ヤリスクロスの大きな優位点といえるのが、選べるグレードやパワートレインが豊富なことだろう。とくにハイブリッド車を設定している点は大きい。ヤリスクロスのハイブリッド車には、1.5L(1490cc)・直列3気筒エンジンと走行用モーターを組み合わせたシリーズ・パラレルハイブリッド方式を採用する。発進時や低速走行時などはエンジンを停止して電気モーターのみで走行、車速が上がり通常走行する際は主にエンジンを使用する。また、急加速時などアクセルを強く踏み込んだときや高速道路走行時は、モーターの動力が必要に応じてエンジンをアシストする。

 ヤリスクロスのハイブリッド車は、こうしたシステムの採用により、高い燃費性能が魅力となっており、WLTCモード値で2WD(FF)が25.0~30.8km/L、電気式4WD機構のE-Four搭載車でも26.0~28.7km/Lを誇っている。

 一方、1.5L(1496cc)・直列4気筒エンジンを搭載し、2WD(FF)のみとなるWR-Vの燃費性能は、WLTCモード値16.2~16.4km/L。ちなみにヤリスクロスのガソリン車でも、WLTCモード値で2WD(FF)が17.6~19.8km/L、4WDが17.1~18.4km/L。ハイブリッド機構がなくても、WR-Vを凌ぐ燃費性能を実現している。

 走行性能では、WR-Vのエンジンは、最高出力87kW(118PS)/6600rpm、最大トルク142N・m(14.5kgf-m)/4300rpm。対するヤリスクロスでは、ガソリン車が最高出力88kW(120PS)/6600rpm、最大トルク145N・m(14.8kgf-m)/4800~5200rpm。4気筒のWR-Vに対し、ヤリスクロスは3気筒だが、出力やトルクは同等かやや上だ。

 なお、ヤリスクロスのハイブリッド車は、ガソリン車と同じ1.5L・3気筒を搭載するが、最高出力67kW(91PS)/5500rpm、最大トルク120N・m(12.2kgf-m)/3800~4800rpmとやや抑え気味。ただし、これに走行用モーターの駆動力が加わるため、よりスムーズな走りを味わえる。なお、走行用モーターのスペックは、フロントモーターが最高出力59kw(80PS)、最大トルク141N・m(14.4kgf-m)。E-Four車に搭載するリアモーターは最高出力3.9kW(5.3PS)、最大トルク52N・m(5.3kgf-m)だ。

■安全運転支援システム比較

 ヤリスクロスの装備では、安全運転支援システムがより充実していることがポイントだ。たとえば、高速道路などで、適切な車間距離を保ちながら前車を追従する「ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)」。トヨタでは、「レーダークルーズコントロール」と呼んでいるが、機能的にはWR-Vと同じ。両モデルともに、長距離走行などでの疲労軽減に貢献する。

 ただし、ヤリスクロスは「全車速追従機能付き」だ。渋滞で先行車が停止した場合は自車も停止し停止状態を保持。その後、先行車が発進したときはドライバーの操作で再び発進し、追従走行を自動で再開する。対するWR-Vでは、車速が25km/h未満になったときに機能が自動解除される。先行車が再発進しても追従走行は再開しないタイプだ。渋滞がつきものといえる日本の高速道路で、ドライバーの負担をより軽くしてくれるという意味では、ヤリスクロスのほうが上だろう。

 加えて、一部改良を受けたヤリスクロスの最新モデルでは、前述のとおり、衝突被害を軽減するプリクラッシュセーフティの検出対象範囲を拡大。また、「発進遅れ告知機能(TMN)」も追加している。交差点などで信号が赤から青に変わったときなどに、先行車が発進したことに気づかなかった場合に、ブザーやメーターのマルチインフォメーションディスプレイで知らせる機能だ。

 さらにハイブリッド車には、「プロアクティブドライビングアシスト(PDA)」も標準装備されている。これは、運転の状況に応じたリスクの先読みを行うことで、危険に近づきすぎないよう運転操作をサポートするシステムだ。歩行者や自転車、駐車車両に近づきすぎないようにステアリングやブレーキ操作をサポートするほか、先行車や隣接車の割り込みを検出したとき、ドライバーのアクセルオフに応じて、車間距離が近づきすぎないように緩やかに減速するなどの機能を持つ。

 ヤリスクロスのハイブリッド車では、ほかにもXを除くグレードに、トヨタ チームメイト「アドバンスト パーク」という機能もオプション設定している。これは、駐車時に役立つアシスト機能のひとつ。スイッチを押すだけで、車両がステアリングやアクセル、ブレーキの操作をアシストし、ほぼ自動で駐車スペースへ入る機能だ。とくに、せまいスペースや並列駐車などが苦手なドライバーにはありがたい。こうした機能はWR-Vにはないため、より先進性が高く、利便性に富む点でも、ヤリスクロスに軍配が上がる。

 ちなみに、WR-Vの安全運転支援システムでは、独自の「ホンダセンシング」を全車に標準装備する。車両や人、自転車との衝突回避を支援する「衝突軽減ブレーキ(CMBS)」や、不注意による急発進を防止し注意喚起する「誤発進抑制機能」、不注意による急な後退を防止し注意喚起する「後方誤発進抑制機能」などを搭載。壁など障害物の見落としに起因する衝突回避や被害軽減を支援する「近距離衝突軽減ブレーキ」も装備する。また、ブレーキとアクセルペダルの踏み間違いによる急加速を抑制する「急アクセル抑制機能」も採用。より最新のモデルだけに、例えば、同じホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」よりも機能自体は充実している。

■車格や外観などの比較

 WR-Vの魅力としては、コンパクトSUVクラスとしては、かなりボリューム感あふれるボディが挙げられるだろう。もちろん、デザイン的な好みはわかれるだろうが、大型のフロントグリルや厚みあるボディは、ひとクラス上の車格を思わせる。最近人気のアウトドア・レジャーにもマッチするワイルドなスタイルを好むユーザー向きだ。一方のヤリスクロスも、SUVらしい精悍なフェイスデザインなどを持つが、どちらかといえば都会的なテイスト。街中にマッチするスタイリッシュさが好みのユーザーに最適だといえるだろう。

 WR-Vのボディサイズは、全長4325mm×全幅1790mm×全高1650mm。一方、ヤリスクロスのボディサイズは、全長4180~4200mm×全幅1765mm×全高1580~1590mm。寸法的にも全体的にWR-Vのほうが大きい。それでいて、最小回転半径は、ヤリスクロスの5.3mに対し、WR-Vは5.2m。細い路地やUターン時での取りまわしのよさは、ヤリスクロスと同等かそれ以上だ。車格的には大きいWR-Vだが、幅広いユーザーが運転しやすいという、コンパクトSUVらしい魅力も十分に備えている。

■室内・荷室の比較

 車内が広いこともWR-Vの優位点だ。室内サイズは、長さ1945~1955mm×幅1460mm×高さ1280mm。一方、ヤリスクロスの室内サイズは、長さ1845mm×幅1430mm×高さ1205mm。全体的にWR-Vのほうに余裕がある。とくにヤリスクロスの後席は、足元スペースがせまい。前席に背の高い大人が乗り、シートをかなり後方へスライドさせてしまうと、後席乗員は足を入れづらくなり、かなり窮屈となる。ヤリスクロスは、一応5人乗りだが、大人で長距離移動であれば4人乗車が現実的かもしれない。大人が5人乗る際は、近距離移動などに限ったほうがいいだろう。

 対するWR-Vの後席は、このクラスではかなり広いほうで、足元スペースにも比較的余裕がある。また、厚みのあるセカンドシートはクッション性も高く、乗り心地は快適だ。これは、WR-Vの海外仕様となるエレベイトが販売されているインドでは、オーナーが運転手付きで後席に座るケースも多いことが関係しているようだ。現地では、VIPなどが乗る高級車としてのポジションなのだ。そんな背景もあり、後席の乗り心地をより追求しているといえるのは、WR-Vのほうだろう。

 荷室の積載量という点でも、WR-Vのほうが上だ。荷室の容量は、後席の背もたれを起こした5名乗車時で458L。荷室最大幅は1350mmを確保し、21インチと25インチのスーツケースを2個ずつ搭載することができる。対するヤリスクロスの荷室は、5名乗車時で390L。このスペックは一部改良前の数値だが、内装に大きな変更はないため、最新モデルも同様だろう。また、荷室幅は1400mmでWR-Vよりやや広いが、荷物を積載できる容量自体では、ヤリスクロスは多少劣るといえる。

 さらに、両モデルのセカンドシートは可倒式のため、いずれも背もたれを前に倒せば、より広い荷室空間を作ることが可能だ。WR-Vでは、6:4分割可倒式を採用し、アレンジ次第でさまざまなタイプの荷物を載せることができる。一方、ヤリスクロスのセカンドシートは、エントリーグレードのXやキント専用のUはWR-Vと同じ6:4分割可倒式。より上級の3グレードには、4:2:4分割可倒式を採用する。中央にあるリアセンターアームレストのみを前に倒せば、4人乗りのままで、スキーの板など長尺物の積載もできることが特徴だ。

 加えて、ヤリスクロスは、荷室に備える「6:4分割アジャスタブルデッキボード」もかなり便利だ。載せる荷物に応じて、荷室床面の高さを2段階で調節することができる。荷室高は、デッキボード下段時で850mm、上段時で732mm。また、6:4で左右を分割できるため、背の高さの違う荷物を運ぶときに役立つ。荷室の広さ自体はWR-Vのほうが上だが、後席や荷室のアレンジがより豊富なのは、ヤリスクロスのほうだといえる。

 ほかにもヤリスクロスには、XやGを除くグレードに「ハンズフリーパワーバックドア」もオプション設定する。スマートキーを携帯していれば、リアバンパー下へ足を出し入れするだけで、リアゲートが自動開閉する機能で、両手が荷物でふさがっているときなどに便利だ。挟み込み防止機能を備えることで安全性も高く、停止位置の記憶、自動クローズ中の予約ロックなども設定し、高い利便性を誇る。

■気になる2車種の価格は? 

 このようにヤリスクロスは、WR-Vと比べ、とくに先進の安全装備や利便性の高い機能などが、より充実しているといえる。ただし、そうした優位点は、主にハイブリッド車を選んだ際に恩恵を受ける場合も多い。ヤリスクロスのガソリン車では、オプション設定だったり、そもそも設定がない機能なども多いからだ。

 そう考えると、ヤリスクロスでは、やはりハイブリッド車のほうが魅力的だが、価格帯(税込み)は、前述のとおり、229万5000円~315万6000円。WR-Vの価格帯(税込み)209万8800円~248万9300円よりも上になる。一方、ヤリスクロスのガソリン車で、WR-Vと同じ2WD(FF)車ならば、価格帯(税込み)は190万7000円~257万1000円だから、プライス面では十分に競合となる。

 ホンダによれば、WR-Vの主なターゲットは、20~30代のミレニアル世代だという。そうしたユーザーには、子育てや生活などに必要なお金が、収入に対し高い比率を占める層だといえる。おのずと、クルマにかけられる金額も限られる。WR-Vは、そうした背景もあり、グレードやパワートレインを絞り、価格帯を決めたといえる。

■ハイブリッド車が人気のヤリスクロス

 他方、ヤリスクロスは、トヨタの某販売店によれば、「ハイブリッド車を選ぶユーザーが圧倒的に多い」という。価格帯がより高いハイブリッド車のほうが人気だということは、おそらく、クルマにかけられる費用などに、ある程度余裕がある層がメインなのだろう。例えば、子育てを終えた中・高年層などが考えられる。また、最近は、買い替えなどで愛車を売却する際のリセールバリューも、ハイブリッド車のほうが高い傾向だ。比較的若い世代でも、そうした先々を考慮し、ハイブリッド車を購入しているのかもしれない。

 いずれにしろ、ガソリン車2WD(FF)のみの3グレードという、かなり思い切った設定で、価格を抑えているのが注目のWR-V。ホンダのそうした戦略に対し、熾烈な激戦を繰り広げるコンパクトSUV市場が、どのような反応を示すのかが今後注目だ。

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最終更新:3/21(木) 10:32

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