<単独インタビュー>日本製鉄森高弘副会長が断言「巨大市場の成長を取り込むためには”米国のインサイダー”になる以外ない」

5/21 5:02 配信

東洋経済オンライン

日本製鉄の森高弘副会長兼副社長が2024年度の決算発表を受け、5月中旬、東洋経済の個別インタビューに滞在先のワシントンDCからオンラインで応じた。日鉄をめぐっては、USスチール買収計画を認めるかどうか、トランプ大統領が判断する期限が6月5日に迫る。今後の業績見通しや、森氏が「買収の重要性が増している」と語った理由とは。

■コンサバすぎると言われるかもしれないが…

 ――2025年3月期の決算が公表され、事業利益は前期比2割以上減の6832億円となりました。

 全世界の鉄鋼業界の事業環境は、極めて厳しい。原因は中国による過剰輸出だ。今回の決算は、そうした世界的な事業環境の悪化や、インド、アセアンを含めたマーケットの悪化で説明できる。

 そうした中、やれることは全部やっている。例えば原料事業。最近では、EVR(エルクバレーリソーシズ)というカナダの石炭会社に出資し、収益貢献につなげた。

 ――今2026年3月期は、さらに厳しい見通しを計画しています。

 コンサバに見すぎではないかと受け止められるかもしれないが、最大限マイナス要因を見込み、在庫評価差等を控除した実力ベースの事業利益の見通しを6000億円以上(事業利益見通しは4000億円以上)とした。

 その理由も前期同様、マーケットの悪さの影響が大きい。

 鹿島(茨城県)の高炉休止による構造改革効果や、通常のコスト削減効果、品質向上対策などの成長政策により前期比1000億円ぐらいのプラスになると従前は見ていた。実際、これらの効果は出ている。しかし、それを飲み込んでなお悪い方向にマーケット環境が進んでいる。

 前期から悪い環境が継続しているなら、そんなに変わらないと思われるかもしれない。だが、前期は下期から厳しくなった。その下期の状況が通期で続くため、全体ではより厳しくなる。

 加えて、トランプ関税影響によってさらに最大1000億円落ちる可能性がある。それでも「6000億円以上」は確保できるという確信を持ち、今回の会社計画として発表している。

 ――決算説明資料には、「世界の鉄鋼需要は未曾有の危機的状況」で「改善の兆しが見えない」と記されました。

 悪い要因は大きく2つある。1つ目は冒頭でも少し触れた中国の過剰生産の問題、2つ目はトランプさんが醸し出す不透明感だ。

■年間30兆円が蒸発している

 中国の方は構造的だ。中国の過剰生産の影響で、世界全体で鉄の1トン当たりのマージンが100ドル落ちている。世界の鋼材生産は年間18億トンあるので、年間およそ30兆円が鉄鋼業界から蒸発している計算になる。影響は甚大だ。

 過剰輸出が続くのかどうかという目で中国経済を分析すると、人口減少が始まり、対中投資が減る中、中国は鉄を作り続けると思う。中国からの輸出増加はまだ始まりにすぎず、これからもっと増えていく可能性がある。

 中国政府は、かつては各国からの見え方を気にして、ある程度秩序のある生産を考えていた。だが今は経済悪化で、それどころではなくなっている。鉄鋼業を止めると雇用に響くため、政府はむしろそちらの方の影響の大きさを考えている。この問題は構造的に続き、中期的にも好転するようには見えない。

 ――もう1つの要因であるトランプ大統領関連はどうですか。

 トランプさんについては、彼の一存で政策判断が決まっていて、いつ、どこで、どういう方向に行くかがわからない。

 関税というものについて、彼はとても良い政策だと思っていて、税率の高低は別として必ずやり続けると思う。そうしたときに、アメリカという巨大市場、われわれが得意とする高級鋼の世界最大のマーケットの成長を取り込むためには、インサイダーになる以外にない。USスチール買収の重要性が増している。

本記事はダイジェスト版です。東洋経済オンラインでは森副会長がUSスチール買収の意義をさらに語る、「日本製鉄の森高弘副会長が語った業績見通しとUSスチール交渉の行方「100%子会社化はトランプ大統領の狙いと一致する」を掲載しています。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/3(火) 9:52

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