水素を大幅値上げ、エネオスに続き岩谷産も-FCV普及に冷や水

4/17 9:59 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 国内で燃料電池車(FCV)の燃料である水素を大幅に値上げする動きが相次いでいる。政府や自動車メーカーが脱炭素化に向け水素の利用拡大の取り組みを進めているが、内燃機関を使うハイブリッド車(HV)よりも割高となる燃費が普及の足かせとなる恐れがある。

岩谷産業は17日、6月1日から同社水素ステーションでFCV向けに販売する水素価格を1キログラム当たり1650円(税込み)と現行の1210円から約36%値上げする予定であることを明らかにした。エネルギーコストや保安費など諸経費の上昇で著しく採算が悪化しているため値上げを決めた。同社が水素ステーションで販売する水素価格を値上げするのは今回が初めてだという。

この日午前の取引で同社株は一時前日比1.7%安の8842円まで下げていたが報道を受けて急速に下落幅が縮小、一時はプラスに転じる場面もあった。

これに先立ちENEOS(エネオス)もインフレによる運営コストや設備メンテナンス費用上昇などを受け、4月1日から水素価格を33%値上げし2200円としていた。

燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を巡っては、地球温暖化対策の一環として各国政府が支援を行っているほか、トヨタ自動車などの自動車メーカーが水素を燃料に走るFCVや水素エンジン車の開発を続けている。拡大には供給インフラ整備に加え価格の引き下げが不可欠で、日本政府は水素価格を30年に1キログラム当たり約334円とすることを目指しており、足元の値上げはそれに逆行するものだ。

政府は水素基本戦略の中で水素ステーションを30年度までに1000基程度を整備することを目指すとしているが、次世代自動車振興センターによると、昨年12月時点では4大都市圏を中心に161カ所にとどまっている。その中のシェアで計約6割を占める両社が値上げに踏み切ったことで、FCVはエネルギーコストの面でEVはもちろんHVに対し不利になる。

ブルームバーグ・ニュースの計算では、トヨタが販売している新型「クラウン(セダン)」のFCV仕様に岩谷の新価格の水素を充填した場合、1キロメートルを走行するのに必要な燃料代は約11.15円となる。対するHV仕様のガソリン代は約9.72円だ。一方、国内で販売される主なEVを家庭用電気で充電した場合は同3.72-5.92円となっている。

もっとも燃料代でHVが優位となるのは政府が延長を繰り返している補助金でガソリン価格が抑制されているおかげでもある。経済産業省の発表によると、4月8日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売販売価格は175円だったが、補助金がなければ203.5円となっていた。

水素価格上昇の背景には、現在供給量の大半を占める「グレー水素」の原料である化石燃料の価格上昇や世界的なインフレなどがあるとみられ、海外でも同じような値上げが起こっている。

S&Pグローバル・プラッツによると、米カリフォルニア州における水素の小売り価格は同社が21年9月に価格調査を始めてから2倍超上昇した。また、韓国では現代自動車などが株主となっている水素ステーション運営大手が3割超の値上げを発表し、消費者の反感を買っていると昨年7月に報じられた。

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最終更新:4/17(水) 11:58

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