「働かずに家賃収入」は幻想に過ぎない、それでも不動産投資をしたい人へ《楽待新聞》

5/11 11:00 配信

不動産投資の楽待

不労所得で安泰な生活を─。

多くの人は、資産運用を「不労所得」と考えて始めるだろう。特に、家賃収入が見込みやすい不動産投資は、不労所得の典型のように語られることもある。

しかし、本当に不動産投資は簡単なのか。

疑問を呈するのが、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などマネー関連書籍のベストセラー作家、橘玲氏だ。

橘氏は、数ある投資の中でも不動産投資は素人にとって勝ちにくい市場だと語る。

素人が始めるには、必死に勉強してプロ並みの知識と人脈が必要だ、と。

前編に続き、その真意を聞いた。

-------------------------
プロフィール
橘 玲(たちばな・あきら)作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、2002年『マネーロンダリング』(幻冬舎)でデビュー。2006年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補となる。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬社文庫)、『テクノ・リバタリアン』(文春新書)など多数。橘玲公式サイト:http://www.tachibana-akira.com
-------------------------

■不動産投資で勝つ「条件」

─情報がオープンな株式市場に対して、インサイダーもなく情報の非対称性が高い不動産市場は歪みが生じやすいというのが前回のお話でした。

不動産市場では効率的市場仮説が成り立たず、情報も公開されていないので、プロに有利で個人投資家にとっては難しい市場です。

有利な物件情報は不動産業者やインナーサークルのセミプロ投資家の中でしか流通せず、アマチュアが知る前に買い手がついてしまいます。ネットや不動産雑誌などに掲載されるのは、不動産のプロやセミプロが選ばなかったものだけということです。

私は不動産を購入したことがありませんが、不動産投資で成功しているのはこうした市場の歪みを利用できる人、つまりは業界コミュニティの中に入っている人ではないでしょうか。

その立場を得るためには、ある程度のアセットが必要でしょう。不動産会社からすれば、マンションを1部屋ずつ売るのは手間がかかります。同じ労力なら、1棟丸ごと買い上げてくれる投資家を優先するのは当然です。

私は以前、都内に十数棟のマンションを保有する個人投資家と話をしたことがありますが、「一棟買いだからこそよい物件を安い価格で買えるし、銀行も有利な金利で融資してくれる。あちこちのマンションの部屋を買うなんて、管理が面倒だし、ぜったいにやらない」といってました。

─しかし、世の中には「物件を持っていたら値上がりして儲かった」などという景気の良い話が溢れています。

もちろん、投資には運もあるのでそうしたラッキーは起こり得ます。私の知人にも、六本木の古いマンションを気に入って買ったら、すごく上がったという幸運な人がいますから。

でもこれは、失敗を無視して、成功して生き残ったケースばかりに注目する典型的なサバイバルバイアス(生存者バイアス)です。湾岸のタワマンが億を超えたとか、六本木や麻布の地価はこんなに上がったと言いますが、その一方で価値がマイナスになっている負動産もたくさんあります。

この理屈は、「サトシ・ナカモトの論文が発表されたときにビットコインを買ったら、ピザ2枚=1万ビットコインが1兆円になった」というのと同じです。ビットコインは10年あまりで大きく値上がりしましたが、だからといって今から買っても同じような奇跡は起きないでしょう。

■不動産投資のメリット

─そう考えると、素人がうまくやるには勉強が必要で、不労所得にするのは難しそうです。

どんな業種でもそうですが、不動産投資の世界にも、1年365日、1日24時間、寝食を忘れて没頭している投資家がいるはずです。そんなプロやセミプロの投資家と競争しなければならないのに、仕事の片手間に不動産会社から紹介される物件を買ってうまくいくのか、私は懐疑的です。

ここで考えるべきは、人生の優先順位です。不動産投資に大きな時間資源を割いて勉強すればそれなりのリターンを期待できるとしても、それによって仕事、勉強、趣味、家族や恋人、友人との交遊など、人生の大事なことに費やす時間資源がなくなってしまいます。

はたしてそれだけの価値があるのか。私は株式の銘柄研究も不動産市場の勉強もしていませんが、それはほかにやるべきこと、やりたいことがあるからです。もちろん不動産市場にほんとうに興味があって、ほかのことを犠牲にしてでもその仕組みを探求したいというのであれば、私がなにかをいう立場ではありませんが。

今年の1月からNISA(少額投資非課税制度)が大幅に拡充され、非課税保有限度枠が1800万円になりました。NISAでは投資の配当・分配金や売却益に税金がかかりません。

これは投資家にとって法外に有利な条件なので、個人にとっては、いまやNISA以外の投資戦略は意味を失ったのではないかと思います。

不動産投資では、家賃収入や売却時の利益に対して、所得税と住民税で最高55%の税金がかかります。

それに対してNISAでは、長期投資で30年後、40年後に仮に1億円の利益が出たとしても、受取時の税金はゼロです。特定口座での株式投資であれ、不動産投資であれ、個人が課税取引でNISAの非課税メリットを上回るパフォーマンスを実現するのは、そうとう幸運なケースでなければ難しいでしょう。

─そうした中で、あえて不動産投資のメリットを挙げるとすれば。

不動産投資の最大の魅力は、金融機関からの融資で大きなレバレッジがかけられることでしょう。頭金を20%にして5倍のレバレッジをかければ収益率も5倍になり、不動産価格が2倍に上がれば、当初の投資資金は10倍に増えます。

しかしこれは、ハイリスク・ハイリターンの法則から当たり前のことで、不動産価格が下落すると損失は10倍に膨らんでしまい、融資を返済できなくなって破産してしまいます。

レバレッジはターボチャージャーで、プラス方向にもマイナス方向にも投資の結果を増幅しますが、それ自体は有利でも不利でもありません。もしレバレッジをかけた投資が必ず儲かるのなら、不動産の購入などという面倒なことはせず、先物やオプションなどのデリバティブでもっと大きなレバレッジを簡単にかけられます。

もうひとつ、不動産にメリットがあるとしたら、すぐに売れないという点でしょうか。

個人投資家が株式投資で失敗する大きな理由は、上がっても下がってもすぐに売ってしまうことです。これだと複利の効果が無駄になってしまうし、取引回数が増えると売買手数料ばかりかかります。

それに対して不動産は、スマホやPCのワンクリックで簡単に売れるものではありません。結果的に長期で保有することになりやすく、人間の心理を考慮すると、それが最大のメリットかもしれません。

世界的にミリオネアの数が増えていますが、その大きな理由は、ニューヨークやロンドン、北京や上海などこの20年あまりで地価が大きく上昇した都市部に、住宅ローンを組んで(レバレッジをかけて)マイホームを買った人が、それをずっと持ち続けたからです。

「住宅ローンを払わないと住む家がなくなってしまう」という心理的な圧力は強力なので、不動産価格が上昇すれば、長期投資がよい効果をもたらすでしょう。こうした成功者がたくさんいるからこそ、日本だけでなく世界のいたるところで「不動産神話」が形成されるのだと思います。

■不動産にあって株式にないもの

─他には、もうメリットと呼べるものはないのでしょうか。

もう1つ、不動産投資にメリットがあるとすれば、ロマンがあることでしょうか。

株式市場はコンピュータやAIによってどんどん効率化しているので、一人の天才投資家が市場の歪みを見つけて大成功するような機会はなくなってしまいます。ジョージ・ソロスのような投機家は、もう現れないかもしれません。

それに対して不動産市場は、非効率で歪みが大きいからこそ、個人でも一攫千金が狙えるのではないかという夢が持てるのかもしれません。

売買情報が即座に市場に公開され、インサイダー取引が禁じられるなど、制度の大きな変更がないかぎり不動産市場の歪みはこれからもなくならないでしょう。肝心のデータがなければ、どんな高性能のAIも役に立ちませんから。

─つまるところ、夢を掴むためには成功したければ猛勉強が必要な分野だということですね。

ビジネスとして人生のすべてを賭けているプロがいるところに、アマチュアが入っても簡単に勝てないのは当然です。プロと戦おうというのだから、それと同じくらいの努力をしないことには、スタートラインにすら立てないでしょう。

かつて「週末起業家」が流行りましたが、すぐにブームは去りました。

考えてみれば当然で、デザイナーでもコーヒー豆の焙煎でも、どんな仕事にもそれを本業とするライバルがひしめいています。趣味の延長で始めても、その仕事に若い時から人生の大半のコストを投じているプロに太刀打ちできるわけがありません。

逆に、週末だけの仕事でプロと同じような成果が出せるなら、その仕事の方が向いているのだから、本業を変えることを考えるべきです。

不動産投資も同じで、いかに不動産会社と交渉して物件を安く購入するか、どういう条件なら金融機関から融資を受けられるか、あるいは物件をリノベーションして魅力的にするにはどうすればいいかのノウハウを持った人が成功するのでしょう。

■「普通の人」のための資産運用術

─話を聞くほど、資産運用を考えることは、生き方、時間の使い方を見直すことのように思えてきました。

突き詰めると、何に時間を使いたいのか、何をすると達成感を得られるのか、幸福度が上がるのか、ということです。

物件を適切に管理して借り手に満足してもらったり、改築して利回りを上げることで達成感を得られる人にとっては、不動産投資は良いものだと思います。私は、それを否定する気は全くありません。

株式だって、埋もれた銘柄を発掘するのを生きがいにする人もいれば、中小企業の株式の5%を保有して経営に影響力をもてることに価値を見出す人もいます。

お金を増やす方法は、原理的に、人的資本を労働市場に投資することと、金融資本を金融市場に投資すことの2つしかありません。現代社会では、すべての人が労働者であると同時に投資家でもあるので、自分や家族の幸福度を高めるために、それぞれが自分が一番気に入った資産運用戦略を見つければいいと思います。

ただ、あなたが普通の人で、老後のための資産形成で投資を考えているのであれば、非課税という大きなメリットのあるNISAで世界市場に投資するインデックスファンドを長期に積み立てることが、コスパ、リスパ、タイパを含めもっとも合理的な投資戦略であることは間違いありません。

NISAの積み立て枠は月10万円(年間120万円)で、非課税枠の上限は1800万円ですが、夫婦なら月20万円、子どもが18歳になれば口座を開設してさらに積立額を増額できます。家族4人なら非課税枠の上限は7200万円なので、個人の資産運用には十分すぎるパワーがあります。

株式投資をしていると、リーマンショックのような金融危機で一時的株価が大きく下落することがあります。

こういう時にパニックになって損失覚悟で売ってしまうことが、個人の投資パフォーマンスを引き下げる大きな要因になっています。長期の積み立てでは、株価の下落は同じ資金でより多くの株式を購入できる投資のチャンスなのだから、若い時は相場に一喜一憂せず、積み立てしていることを忘れているくらいがいちばんいいのではないでしょうか。

株式投資でも不動産投資でも、メディアのあおりや一部の成功体験、知人からの情報などに惑わされずに、冷静な頭で判断したいものです。

不動産投資の楽待

関連ニュース

最終更新:5/11(土) 11:00

不動産投資の楽待

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング