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「2000万人」「108%」「600人」「52期連続」圧倒的王者のアパホテル、業界人も震撼する、4つの”ありえない数値”とは?

3/26 10:11 配信

東洋経済オンライン

男性はもちろん、昨今は女性や外国人観光客など、多くの人が利用しているビジネスホテル。各ホテルはそれぞれに、代名詞とも言えるサービスや設備を持っている。けれど昨今のホテル選びでは価格ばかりが注目され、提供側がこだわっているポイントにはスポットライトが当たっていないこともしばしばだ。
この連載、「ビジネスホテル、言われてみればよく知らない話」では、各ビジネスホテルの代名詞的なサービス・設備を紹介し、さらにその奥にある経営哲学や歴史、ホスピタリティまでをひもといていく。第6回は前回に続き、全国1位の客室数を誇るアパホテル。その強さの理由を4つの「ありえない数値」から分析する。

■2000万人超え!  ポイント還元率最大15%の会員制度

 名実共に、ビジネスホテル業界のトップランナーであるアパホテル(以下、アパ)。同グループと他ホテルは、一体何が違うのだろうか。それを表す、4つのありえない数値がある。

 まず1つめは、「2000万人」を超える会員数だ。アパは1971年の創業当時から会員制度をスタート、1号店から会員カードを発行している。

 「通常オーナー企業がホテルを作る際には、社長好みのホテルを1つ、2つ作って終わることが多いものです。ですが弊社は最初から、『ホテル』ではなく、『ホテルチェーンを作ろう』と考えていました。そのため、会員カードは必須だったのです」とは、社長兼CEO元谷一志氏の弁。そこから53年の歳月が流れ、会員数は2000万人以上に膨れ上がった。

 会員数が増えた最大の理由はキャッシュバックにある。ホテルの会員サービスは「ポイントが貯まれば1泊無料」などの形式が多いなかで、1ポイントにつき1円相当、現金でキャッシュバックを行っているのだ。

 しかも、2022年5月に還元率を大きく改定。最大11%だったところを、アパ提携のクレジットカードを使用するなど諸条件をクリアすれば、最大15%に引き上げた。

 また、会員には5段階のステイタスがあり、還元率も各段階で最大9~15%まで階層化されている。利用泊数が増えるほどにステイタスが上がるのはもちろん、付与されるポイントには、前回紹介した「1秒チェックイン」や「オンライン予約」など、省人化サービスを利用するほどにボーナスポイントがつく。

 「ゲストがビジネスで利用いただき会社が料金を支払っても、ポイントはゲストご自身に付与されます。ある程度ポイントが貯まれば現金に交換できますので、貯金感覚で何度も泊まってステイタスを上げているお客様が多いですね。5段階のステイタスが、リピーターを呼んでいるのです」(元谷氏)。

 加えて4段階目の階層からは、アーリー・チェックインが無料で利用できるなど、サービス面でも差別化が図られている。

■日帰りプランで“2度売り”し、稼働率108%を実現

 2つめのありえない数値は「108%」。まさかの100%超えの稼働率だ。

 その要因となっているのが、「日帰りプラン」の存在。アパには、11時~17時までと、13時~19時まで利用できる2種類の日帰りプランがある。この日帰りプランが、稼働率と売り上げに大きく貢献しているのだ。

 なぜなら日帰りプランは、1日24時間のうち11時~15時など、客室がほぼ使用されない空白時間を減らし、有効活用できる。アパは客室のリメイクも自社で行うため、「早めの時間にチェックアウトした客室を、1時間後に再販売する」といった“2度売り”が可能なのだ。

 しかも昨今、リモートワークやフリーランスなどの働き方が増加する中で、日帰りプランへのニーズは高まっている。もちろん、コワーキングスペースなども人気だが、ホテルの客室なら、ベッドに寝転んで休憩も可能。さらに大浴場併設なら、汗を流してリフレッシュもできる。

 極めつきに、宿泊よりも滞在時間が短いため、料金も割安。コワーキングスペースの1日利用料金とほぼ変わらないことも多い。

 このニーズの高まりを受けて、2024年に開業した『アパホテル〈上野 御徒町駅前南〉』が初日に出した稼働率が108.8%だった。満室の100%からさらに8.8%底上げし、RevPAR(客室1室当たりの収益)も上がったのだ。

 元谷氏は、「日帰りプランがあることで、本来の客室数が持つポテンシャル以上に売り上げが増加します。だから当社では“2度売り”を推奨しているんです」と手応えを語る。

 けれど他ホテルでは、「日帰りプラン」を実施しているところは少ない。客室のリメイクをアウトソーシングしていたり、人員配置、従業員人数、オペレーションなどの面で、実現は簡単ではないからだ。そのため、大きな差別化につながっている。 

 ではアパには、豊富に人材が揃っているということだろうか。次なる3つめの数値は、その人材の採用についてだ。

■ベースアップと福利厚生の充実で内定者が600人に

 3つめのありえない数値は、「600人」。人手不足が叫ばれるホテル業界にあって、アパが2024年4月度に獲得した新卒内定者の人数だ。

 実は、当初採用予定は500人だったそうだが、面接してみると志望者のレベルが高く、結果、100人以上多く内定を出すに至ったという。

 就職希望者が増えた理由を元谷氏は、ベースアップだと分析する。2023年に1万1000円アップし、初任給も2万円アップした。しかもベースアップは2013年度から少しずつ続けており、コロナ禍の2020、2021年は据え置きだったものの、11年で合計4万2000円も増えたそうだ。コロナ禍を挟んでの過去10年で、ここまでベースアップしているホテルチェーンはほかにないのではないか。

■社員の健康にも目を向ける

 また2023年は同時に、福利厚生の見直しにも注力したという。役職連動型の人間ドックを採用し、全オフィスに『置き型健康社食®』を採用。“健康経営”に舵を切った(※「置き型健康社食®」は株式会KOMPEITOの登録商標)。

 【2024年4月3日12時20分追記】初出時、サービス名に誤りがあり、一部訂正いたしました。

 「無添加やグルテンフリーなど、ヘルシーな冷凍メニューを社員が100~200円で購入できるサービスです。それ以上の足が出た価格を弊社が補助しています。従業員はこれを1日2食、月に44食購入できるため、忙しいなかでも健康的な食事を取ってもらえるのではないかと考えています」

 このように、元谷氏は導入の狙いを話す。

 さらに、DXによる業務のオートメーション化で作業負担を軽減していることや、研修制度やOJTによるフォロー体制が充実していることも、就職希望者の増加をあと押ししているという。

 最後のありえない数値は、「52期連続」。1971年の創業からずっと黒字を続ける高収益だ。

 コロナ禍はさすがに苦しかったそうだが、「全国のアパホテルを30連泊できる」サブスクプランを発売するなど、創意工夫で乗り切ったという。ちなみに同プランは9万9000円と絶妙な価格設定で、「自転車1周旅」など、学生の休暇旅行に好評を博した。結果、1億円以上売れたそうだ。

 このようにアパが高収益にこだわる理由は、持続可能な経営を行うためだ。そこにはまず、人材が不可欠。だからこそ確実に収益を上げ、従業員に給料や福利厚生として還元する原資にしている。

 「サービス業界は長く人手不足が続き、他業種からの流入も少なくなっています。ですが、サービス業界で働きたいと考えている人は一定数います。彼、彼女たちに選ばれるためには、サスティナブルにベースアップ、福利厚生を充実していけると判断できる、信頼が必要なのです」(元谷氏)

 それを裏打ちするのが高収益、すなわち財務力なのだ。このためアパは、「トリプルワンシステム」や「1ホテル、1イノベーション」などの姿勢で稼働を高めながら、レベニューマネジメントとダイナミックプライシングでRevPARをアップ。高収益を確保している。

■変形地への出店も、信念に裏打ちされたもの

 加えて、DXによる省人化を進めるなど、さまざまな工夫で削れる経費を徹底削減するのも経営信条だ。出店地の選び方もその1つ。一般的に選ばれる整形地ではなく変形地への出店で、初期費用を抑えている。

 「規格外野菜と同じ感覚です。形は多少いびつでも、同じ駅からの距離と面積の土地を2割は安く買えますから」と元谷氏はほほ笑む。

 これを象徴する特徴的なシルエットのホテルが『アパホテル〈渋谷道玄坂上〉』だ。W型の土地のポテンシャルを独自設計で最大限に生かし、面積に対しての客室数を、整形地と同じ数で維持している。フォーマット化したホテルではとてもできない、設計力が発揮された建物だ。

 客室のコンパクトさも徹底した経費節減を象徴している。ベーシックなアパホテルの客室は基本、ユニットバスを除いてシングル9㎡~だ。9㎡は旅館業法で決められた最低限の広さ。

 そのコンパクトさを揶揄されることもあるのでは……と尋ねたところ、元谷氏は「客室を1.2倍、1.3倍の広さにしたとして、単価を高くとれるのでしょうか?」と問いかけてきた。

 続けて、「とれないならば最低限の広さを遵守して、レベニューマネジメントで最大の売り上げを確保します。だからアパは他チェーンに比べ、1㎡当たりの売り上げが業界でトップだと思います」と語った。

■従業員にとってもサスティナブルな経営を

 ホテルは、利用者目線でサービスを付加することに注力しすぎると、従業員へ還元する利益が減ったり、負荷をかけてしまいやすい業種だ。そのバランスが難しい。

 だが元谷氏は、「従業員が我慢することで成り立つ顧客満足は、持続可能ではありません。その仕組み自体を改善していかないと、業界全体の人手不足はいつまでも解消されません」ときっぱりと言う。

 削れる部分は極限まで削って高収益を確保し、従業員へのベースアップ、福利厚生を充実する好循環を生む。そこを一番に考えるからこそ、「52期連続黒字」は実現し、600人という内定者獲得もかなったのだ。

 まさにサスティナブルな経営。すでに創業から半世紀を過ぎたアパだが、筆者には、次の半世紀も確実に生き残っていく未来が見えてきた。

 次回最終回は、北米への挑戦と、今後の展望について解説する。

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最終更新:4/3(水) 12:18

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