武蔵小杉タワマンの悲劇を繰り返すな、「都市型」災害への備え《楽待新聞》
昨今、日本では大規模災害が連続して起きている。今年元旦に能登半島地震が発生、また9月には大雨によって地震被災地で更なる被害が発生し、いわゆる複合災害となってしまった。
宮崎県沖での地震により南海トラフ巨大地震準備情報が出るなど、南海トラフ巨大地震や首都直下地震はいつ発生してもおかしくない事態になっている。
災害の多い日本で、事業経営者の場合は組織そのものの安全対策が求められる。とりわけ不動産を扱う者は、建物と利用者の安全をも確保していく必要があるなど、難しい対応が迫られる。
不動産オーナーは、いち経営者として普段からどのような災害対策が必要になるのだろうか? 今回は特に「水害」対策について、被害を少しでも抑えるために普段から行うべきことや、備えとして必要な設備などを確認していく。
■水害対策に必要な設備
特に今の台風シーズンなどは、水害対策に注目が集まる。水害対策においては、まず止水版や土嚢などのハード用品を準備できているかどうかがポイントになってくる。
またマンション全体などを保有している場合、発電機・カセットコンロ・充電器・消火器、消火剤・土のう・人命救助用品・レスキューセット(シャベル・ハンマー等)などの備品を揃えておくと、活躍の機会が多いだろう。
ただ、保管場所が要るうえに経費もかかるため、必要なものを絞って揃えるという判断もある。土嚢などは運搬や設置に人力もいるため、サポート役を入居者などに依頼できるよう、関係を事前に構築しておく必要もある。
もちろん居住者には、各自で災害時に必要なものを考えて用意してもらうよう推奨することも重要だ。用意すべきものとして、飲料水や食料、下着や衣類、簡易トイレ、住宅用消火器、懐中電灯、マッチやろうそく、ラジオ、スマホ用バッテリーなどが挙げられるだろう。
また高齢者など要配慮者向けには薬(お薬手帳)、感染症対策にはマスクといった衛生用品など、標準的な備品以外でも自分にとって必要なものを準備しておいてもらい、非常時の負荷を下げる努力も忘れてはならない。
そのほか、大雨被害が予想される際に建物のエレベーターを1階ではなく上層階で止めておくよう、業者に手配しておくことも水害対策になるだろう。
必要に応じて加入している火災保険の補償範囲や補償内容を見直し、いざという時に対応できるかを確認しておくことも大切だ。
■即効性のある「減災」の取り組み
最近、都市部ではいわゆる内水氾濫により、マンション最下部の駐車場が浸水被害にあうなど「都市型」の災害影響が目立つようになってきた。
たとえば2019年10月は、台風19号で武蔵小杉(神奈川県川崎市)の駅周辺が浸水し、タワーマンション群が停電などの大きな被害を受けて機能不全に陥った。
都市部の河川は、明らかに最近の線状降水帯やいわゆる「ゲリラ豪雨」に対応しきれないのが現状だ。本来ならば地盤面を高くするなど大がかりな対策も望まれるが、費用が大きくかかるうえ、すぐに対応できないという場合も多い。
そうした中、大がかりな災害対策ではなく、現状の災害を減らす「減災」への取り組みは即効性が期待できる。
減災の取り組みとしてはまず、先述した止水版や土嚢、防水扉などの配置が効果的だ。また、出入口などをマウンドアップして床面の位置を対策目標浸水深(建物のハード対策において目標とする浸水深)より高い位置に上げることで、水の浸入を防ぐことができる。
ただし建築計画との調整が必要であり、段差が生じることからバリアフリー面の配慮も必要となる。
出入口以外では、窓などの開口部を高所にすることも減災害の取り組みになる。窓や換気口などの開口部を、対策目標浸水深に照らして十分な高さのある位置に設置すれば浸水を防げる。こちらも、敷地条件や建築計画上の制約との慎重な調整が必要だ。
また、地下階の採光・通気・運搬などのために設けられる「からぼり(ドライエリア)」(建物の周囲の地面を掘って作ったスペース)は、洪水などの発生時には地下階への浸水経路となりうる。
からぼりの浸水を防ぐためには、浸水深や土地の形状などを踏まえて、塀や止水板、土のうなどを設置する必要がある。
1階に住戸や開放廊下を有するマンションの場合は、バルコニーや開放廊下からの浸水も防止しなければならない。外部と接する柵を隙間の無い壁状のものにして直接水の浸入を防いだり、バルコニーや廊下から敷地外への雨水の排水経路に逆止弁を設けるなど、排水溝の逆流対策を行うことを検討すべきだろう。
建物内に配線や配管を引き込むための貫通部など、壁に設けられた小さな開口部も浸水経路になる。浸水を防ぐため、管路口防水装置やガスケットの設置、止水処理材の充填などを行い、適切にメンテナンスをすることが求められる。
最近の「都市型水害」を見ると、マンホールから水が噴き出す光景も多くみられる。対策としては、建物付随の貯留槽の上部のマンホールを、耐水圧のロック式のマンホールにするなど、溢水のおそれのある部分を塞ぎ、貯留槽の溢水を防ぐことなどが考えられる。
下水道からの逆流の可能性も高まるため、普段から異物の詰まりがないかを見るなど、排水設備の平時のメンテナンスも不可欠だ。可能なら貯留槽に溜めた雨水・汚水・雑排水などをポンプアップして排水し、排水設備に流入を防止するバルブをつけると良いだろう。
また、浸水深以上の高さまで排水管を立ち上げるなどの措置により、下水道からの逆流を防ぐことも検討したい。元々の貯留槽への流入経路に止水バルブを設置して、貯留槽が満水となる前に水の流入を止め、溢水を防ぐ。
ただ、洪水などの発生のおそれがある場合に、あらかじめバルブの閉止措置が必要であることを忘れてはならない。
■情報伝達の仕組みづくりも
「想定外の水害」対策として、建物の一部でも防水の区画(例えば電気室など)を講じて、その中に浸水すると困るものを入れておくことも有用だ。
万が一の災害時には、電力確保が非常に重要となる。ソーラーシステムを設置し、自力で電力を確保するマンションなども増えてきたが、非常用電源が確保できる体制を整えておく必要がある。
あわせて、非常時の情報伝達に関しての整備と訓練を加速化すべきだろう。SNSなどの利用を促すほか、万が一の連絡先を把握しておくことが重要だ。
とりわけ高齢者など、避難に支援や時間を要する居住者がいる建物においては、より迅速な情報提供と行動を促すことが必要となる。今後も高齢社会は進展するため、利用者の階層にも目を配った対策が常に求められるだろう。
助けが必要となる人たちがどれくらいいて、そのサポートにマンパワーがどれくらい必要で、通常よりも時間がどれくらい余分にかかりそうか。普段から把握しておくことで、対策の動きがとりやすくなる。
水害などの災害に際しては、情報伝達の動きが重要だ。非常時に居住者などの安全を確保し、適切な指示を出して行動を促すためには、普段からの訓練が必要である。平時でも危機管理意識をもった対策が求められる。
■リスク管理として重要な「BCP」
企業経営者にとっては、ここまで見てきた水害対策を含め、いわゆる「BCP(Business Continuity Planning)」と呼ばれる業務継続計画にもとづく組織そのものへの安全対策は欠かせない。
BCPとは、自然災害などの危機的状況下でも重要事業を継続・復旧させるために、平常時や緊急時のさまざまな対策や方法をまとめた計画を指す。
企業のリスク管理のひとつとして重要なものだが、現状、BCPを策定している中小企業や個人事業主の割合は低い。
限られたマンパワーでの災害対応は、普段からの備えが必要であり、関連して従業員の教育や演習・訓練などが不可欠だ。BCPの重要性を認識しつつ、関係者(ステークホルダー)とともに対応していく柔軟性が必要だろう。
BCPを考える際には、企業が管理している建物やその利用者の安全を確保することが欠かせない。建物に関しては、経営者が事前に老朽化や耐震性を確認し、必要な備品を検討することなどが求められる。
建物や外構の管理・メンテナンスを行い、防災対策をすることは、物件オーナーや管理者の義務ともいえる。老朽化が見られるにもかかわらず、適切なメンテナンスを怠ったことで通行人や入居者に被害が出た場合、オーナーの責任が問われる可能性もある。
災害対策の第一歩として、まずは所有する建物の防災力をしっかり管理する必要があるだろう。
参考文献
・横浜市建築局「浸水対策の手引き」
・政府広報オンライン「災害時に命を守る一人ひとりの防災対策」
古本尚樹/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:11/5(火) 19:00