東京で「二次相続ラッシュ」? 2030年から「家余り」加速の可能性《楽待新聞》

10/11 11:00 配信

不動産投資の楽待

お盆や年末などの長期休暇期間は、東京から地方に帰省する人で新幹線や飛行機がごったがえすのが風物詩ともいわれてきた。

だが近年はその様相がやや異なってきている。相変わらず駅や空港が大勢の客で賑わっている姿に変わりはないものの、中身をよく観察すると、外国人旅行客や帰省ではなく、国内や海外に旅行する人の姿が目立つ。

現在、1都3県の人口は約3690万人。日本の総人口1億2430万人(総務省、2025年1月時点)の約3割相当が首都圏人になっている。

盆や暮れに地方に帰省する人は減り、1都3県生まれの人が主流となったことで、そうした時期に実家に戻るのは、首都圏内での近距離移動が主体となったのである。

■東京の人気住宅街で増加する空き家

戦後以降、地方から大量の人が東京に流入して住宅を購入してきた。そして膨れ上がった人々は着実に高齢化している。

2000年と2020年とで東京都の状況を比較してみよう。

人口は約1200万人から1400万人へと約16%増加したが(総務省統計局「平成12年国勢調査」、同「令和2年国勢調査」)、同期間中に65歳以上の高齢者人口は191万人から310万人と、約63%増加している。死亡者数、つまり相続件数では8万4千人から12万人へと約45%の増加だ(東京都保健医療局「人口動態統計」)

相続の発生につれて空き家数も増加することが予想されるが、総務省が5年ごとに実施する「令和5年住宅・土地統計調査」によれば、東京都内の個人住宅空き家数は2003年の14万戸から2023年には21万戸と、53%の増加となっている。

そして東京都は空き家率こそ全国平均(13.8%)を下回る10.9%だが、空き家数は89万6500戸と全国ダントツの1位である。さらにこれを都区部別にみると、驚くべきことに世田谷区がトップにランクインする。

世田谷区は都内でも人気の住宅地が広がるエリアだ。世田谷区に家を持つことは一種のステータスともされ、資産価値も高いと評価されてきた。そんな世田谷区内で空き家数は5万8850戸。個人住宅空き家数はそのうちの40.5%を占める2万3840戸にも及んでいる。

ちなみに同調査によると、世田谷区の空き家率は10.9%。東京都平均と同率だが、空き家数の多さが際立つ。なお、個人住宅空き家の数は、東京都全体数の11.1%を占め、これを都区部に絞るとなんと15.8%に相当する。都区部の個人住宅空き家の6軒から7軒に1軒は世田谷区に存在する。これが世田谷区における空き家の実態だ。

同様に空き家は、やはり住宅地として評価が高い大田区(4万8880戸)、練馬区(3万9770戸)などに多く、個人住宅空き家数は江戸川区、足立区、台東区などの下町エリアにも広く分布している。

世田谷区や大田区、練馬区も古くから住宅地として開発されてきたエリアで戦前から戦後、高度成長期にかけて都心部に通うエリートサラリーマンが家を構えた。

戦前・戦中世代までの多くが鬼籍に入りつつある現在、これらのエリアで相続が多発し、相続人が放置している状況が推察される。エリアとしては比較的売却や賃貸が容易と思われるエリアでさえ、かなりの空き家が発生しているのである。

■都内なら価格は上がり続ける…?

空き家の発生は相続を契機に発生する確率が高いとされる。国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」によれば、空き家を所有することになった理由の約58%が相続による取得とされる。

つまり、自らの意思で取得した住宅が空き家化しているのではなく、親などが持っていた住宅を相続したものの自らが住むことはなく、だからといって賃貸などで運用することもできず、売却もせずに放置している結果、空き家化しているというのが実情だ。

ではこれからはどうなっていくのか?

都内の不動産マーケットは好調で、新築マンション販売では坪単価で1000万円を超える物件も陸続している状況だ。空き家は所有者が勝手に放置しているだけで、これからも都内であれば不動産価格は社会のインフレを背景にまだまだ爆上がりするとの説を唱える人も多い。

中には空き家の存在自体を「調査の仕方が悪くデータは誤り」「実際は空き家など存在しない」と強弁する人もいる。

だが事態を冷静に考えると、これからの都内の不動産マーケットは活況を呈する投資マーケットとは異なる側面が見えてくる。「高齢おひとりさま」の激増だ。

■二次相続ラッシュで東京の未来はどうなる

相続には夫婦のうちの片方が亡くなる「一次相続」と、残された方が亡くなる「二次相続」がある。

実はこれまで都内で多く発生してきたのは一次相続である。多くの場合平均寿命が短く、配偶者より高齢の場合が多い男性が先に亡くなり、女性がひとり残されることが多いが、現在都内では高齢単身世帯が激増しているのだ。

その数は2000年に38万8千世帯であったものが2020年には81万1千世帯と2.1倍に急増。75歳以上の後期高齢単身世帯になると17万5千世帯から46万3千世帯へと、2.64倍にもなっている(総務省統計局「平成12年国勢調査」、「令和2年国勢調査」)。

つまりこれから都内をはじめ首都圏で発生する相続の多くが二次相続になる可能性が極めて高いことが予測できる。

そして彼らの資産を相続するのは現在の50歳代から60歳代の相続人たちだ。最近は子供がいない、または持たなかった人も多いので、相続人がいない相続もあるだろう。

相続人の多くはすでに都内のマンションなどに家を構えている人も多く、親がいなくなった戸建てやマンションを引き継いで住む人は限られる。

地方の家とは異なり、都内の戸建てであれば、家の維持費に加えて固定資産税の負担も小さくない。最近は地価の上昇に伴い、固定資産税評価額もうなぎ上りの状況だ。マンションであれば、毎月発生する管理費、修繕積立金の負担は相当な額にのぼる。

結論は今後、相続財産である戸建て、マンションを賃貸するまたは売却することになるだろう。

■2030年に「家余り」が顕在化する?

こうした物件が増えてくると、東京ではまだたくさんの人が地方からやってくるから需要は固いだろうという昭和時代からのテンプレ思考は通用しない。

東京都の人口増で大きなウエイトを占めるのはもはや地方からの転入ではなく、外国人だ。また投資用に不動産を爆買いする外国人が果たして都内の戸建て住宅を投資用として購入するだろうか。投資需要に耐えられる家はごくわずかだろう。

ということは一般実需層を頼りにするこれら多くの家、土地、マンションが大量にマーケットに出現してくれば、都内の不動産マーケットに少なからず影響を及ぼすこととなるだろう。

可能性として、2030年頃からこうした事態がかなり顕在化してくることが予想される。

不動産投資は投資マネーが流入しやすいエリアに限定される。一般実需は今後の大幅な人口増、たとえば移民の激増などに期待するほか術はなく、都内でさえ相続物件の扱いに苦労する人が増える可能性が高い。早期の対応策を立てておくことが求められるのだ。

牧野知弘/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待 編集部

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最終更新:10/11(土) 11:00

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