10両が主力の首都圏私鉄に「短い編成」が残る事情 「ホームの長さが足りない」以外にも理由はある

5/18 4:32 配信

東洋経済オンライン

 首都圏の通勤路線では、10両編成やそれを上回る長さの電車が行き交っている。JR山手線は11両編成、中央線快速や中央・総武線各駅停車、京浜東北線、埼京線などは10両編成だ。

 都心に発着する私鉄の主要路線も同様で、例えば東急田園都市線や東武東上線の池袋発着列車はすべて10両編成だ。一方で、10両編成の列車が走る路線でも8両編成などのやや短い列車が交じって運行しているケースもある。ホームの前寄りや後ろ寄りで電車を待っていたら「短い列車」がやってきて目の前には停まらなかった……という経験がある人もいるのではないか。

 利用者数が大幅に減る区間はともかく、都心寄りなら編成両数を統一したほうが効率がよさそうに思えるが、あえてそうしていない、そうできないのはなぜかを探ってみた。

■ホームの長さは10両分あるが…

 全列車が10両編成でもよさそうな主要路線ながら、8両編成が混在しているのが東急電鉄の東横線である。東急の大看板である東横線は、新横浜線や東京メトロ副都心線などに直通する大動脈として渋谷・横浜方面ともに終日利用者が多い。特急などは10両編成で運転しているものの、各駅停車はすべて8両編成である。

 一般的に、列車の編成両数が制限される理由の1つとしてはホームの長さが足りないということがある。だが、東横線の駅のホームは、各駅停車のみの駅でも10両分の長さがあるように見える。実際のところはどうなのだろうか。

【写真】「8CARS」のステッカーを貼った東急東横線の8両編成車両、京王線の8両編成各駅停車、西武池袋線の8両編成各駅停車など(9枚)

 東急電鉄によると、すべての駅で10両編成の列車が停車できるようにホーム有効長を確保しているが、各駅停車しか停車しない駅での延伸部は非常用の通路であって、緊急時の臨時停車などを想定しているという。これらの駅に10両編成を停車させるためには、ホームドアや信号装置などの設備増強工事が必要になるという。需要動向も理由にあり、各駅停車を含む全列車の10両編成化の計画はないという。残念ではあるが、しかたがない。

 京王電鉄の京王線・相模原線も10両編成と8両編成が混在している。だが、両線に8両しか停車できない駅はない。利用者が多いだけに10両編成に統一してもよさそうだ。

 そこで京王電鉄に、「運用の効率性を考えるとすべて10両編成でもいいのでは?」という疑問をぶつけてみると、利用状況(混雑具合)と車両運用(8両編成・10両編成)の検査周期を考慮しているとの返答があった。「細かな分析をしながらダイヤと車両の運用適正化を図っています」といい、混雑している時間帯や優等列車には10両編成の車両を優先して活用し、郊外区間での各駅停車では利用状況に合った8両編成を運用しているという。

 2024年3月改正のダイヤでは、混雑が集中する17時台から18時台の各駅停車で10両編成を運用するとともに、ピークから外れた16時台と19時台以降は、8両編成の各駅停車を新宿発として運行しているという。けっこう細かいことをやっているのだ。

■乗り入れ先の都合もある

 ホームや設備の面で8両編成が残るのが、西武鉄道の新宿線と池袋線だ。新宿線は下落合―都立家政間、下井草―上井草間でホームの長さが8両までしか対応していない。このため、基本的に各駅停車は8両編成で運転している。

 一方、池袋線はかつてホームが8両分だった椎名町―桜台間も10両に対応するようになった。しかし、西武鉄道によると保谷近くの電留線(電車を一時的に留置する線路)で8両しか停車できないところがあるため、各駅停車に8両編成が残っているということだ。

 以前はホーム長さの制約があったが、10両編成の運転が可能なように改良を図ったのが小田急電鉄だ。2019年3月に代々木八幡駅のホームを10両対応に切り替えたことで、新宿駅発着の各駅停車10両運転が可能になった。現在も各駅停車は8両編成が主体だが、ラッシュ時を中心に10両編成も増えている。

 小田急は小田原線の新宿―開成間がすべて10両対応で、快速急行や新宿発着の急行、東京メトロ千代田線直通列車はすべて10両編成だ。ただ、江ノ島線の各駅停車や町田以遠には6両編成が存在する。

 自社線の設備でなく「乗り入れ先の路線」が理由の例もある。例えば相模鉄道。相鉄線内用の車両は一部(10000系5編成)を除き10両編成で、JR直通列車も10両だ。だが、相鉄・東急新横浜線を経由して東急線方面への乗り入れ用に導入した車両は、東横線方面に直通する20000系が10両編成なのに対し、外観は同じでも目黒線方面に直通する21000系は8両編成である。これは目黒線や東京メトロ南北線、都営三田線が8両までしか対応していないためだ。

 東武スカイツリーラインは10両・8両・7両・6両編成が走るが、東京メトロ日比谷線直通列車は7両編成、半蔵門線直通列車は10両編成だ。一方で、東武スカイツリーラインのターミナルである浅草駅のホームは8両編成が入れるのは1つだけで、ほかは6両までの対応だ。自社線内を走る区間急行や区間準急は6両編成または8両編成、普通列車は主に6両編成という形になっている。

 東武の浅草駅は堂々たる建築であるものの、特急と近距離の普通列車が発着する比較的小規模なターミナルで、通勤輸送の主力である10両編成は半蔵門線に乗り入れて都心に直通する。長編成の列車が入れるかどうかはターミナルの性格も左右するといえる。

■車体の短い京急・京成は? 

 ここまで挙げた関東の大手私鉄は1両の長さが20mの車両を使用しているのに対し、京成電鉄と京急電鉄はやや短い18m車両を使用している。

 京急は私鉄最長の12両を運転しているが、京成は最長でも8両編成で、車両のサイズを考えれば関東大手私鉄の主要路線中ではもっとも短い。さらに6両編成もある。京成によると、これは一部の駅で8両編成の停車に対応できないためだ。京成中山と海神が対応していないため、普通列車は6両で運転する。宗吾参道―芝山千代田間の区間列車では4両編成も見られる。

 ホームが短いことが廃止につながったケースもある。京成上野―日暮里間の地下区間に位置し、現在は東京都選定歴史的建造物になっている博物館動物園駅(2004年廃止)はホームが4両までしか対応していないという事情も廃止理由の1つとなったのを思い浮かべる人も多いだろう。

 10両などの長編成が走る一方、短い編成の列車も走る(残る)路線には、それぞれに固有の事情があるのだ。

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最終更新:5/18(土) 9:17

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