営業利益5兆円超えトヨタ、減益予想で示す覚悟、EV・AI・ソフトウェアに1.7兆円投じ変革を加速

5/13 7:02 配信

東洋経済オンライン

 向かうところ敵なしの様相になった。

 トヨタ自動車が5月8日に発表した2024年3月期決算は売上高に当たる営業収益が前期比21%増の45兆0953億円、本業の儲けを示す営業利益は同96%増の5兆3529億円だった。いずれも過去最高で、営業利益は日本企業でも前人未到の数字となる。

 トヨタ・レクサスブランドの販売台数は同7.3%増の1030万台と過去最高となった。ダイハツ工業や豊田自動織機の出荷停止影響があった日本を除き、すべての地域で販売台数が増加。子会社のダイハツと日野自動車を含めたグループ総販売台数は同5%増の1109万台と初の1100万台超えとなった。

 「長年のたゆまぬ商品を軸とした経営と、積み上げてきた事業基盤が実を結んだ結果だ」。佐藤恒治社長はこう評価する。

 今回際だったのが稼ぐ力の強さだ。営業利益率は11.9%に達した。自動車業界では8%が高水準とされるが、フォルクスワーゲン(7.0%)やテスラ(9.2%)といったライバルにも差をつけた格好となる。

■高価格車種が好調、値上げも寄与

 世界的に人気が高いSUV(スポーツ多目的車)を数多くラインナップしグローバルに投入。「クラウン」や「レクサス」といった好採算の高価格車種の販売が増えた。北米や欧州を中心とした値上げによって大幅に採算が改善したことも貢献した。

 トヨタによるとこうした「営業面の努力」による利益押し上げ効果は2兆円あった。円安による増益効果が6850億円あったことも追い風となった。トヨタ幹部は「新年度に入っても『造れば売れる』状況が続いている」と手応えを語る。

 電動車戦略の柱に位置づける「プリウス」などHV(ハイブリッド車)の販売が絶好調なこともトヨタにとっては大きい。欧州や北米ではEV(電気自動車)市場の拡大ペースが鈍化。実用性に優れるHVの人気が拡がっている。“本家”であるトヨタのHV販売は北米や中国、日本といった主力市場で増加し、2024年3月期は前期比32%増、過去最高となる359万台になった。

 宮崎洋一副社長はHVについて「メインプレーヤーとして認知されるようになった。乗り心地、加速性能といった点でも魅力ある車になっている」と自信を示す。「北米におけるトヨタの平均在庫日数は15日程度だが、HVでは5~8日しかない」(宮崎副社長)。これはディーラーに入荷されるとすぐに売れる状況だ。

 電池やモーター、インバーターといったコストがかさむHVの採算性は、通常のエンジン車よりも劣った時期が長かった。が、近年のトヨタではHVとエンジン車の台当たり利益は同等、車種によってはHVが上回るという。

 2022年に営業利益率16.8%を叩き出したテスラ。だが、EV販売が伸び悩むうえにBYDなど中国勢との競争で値下げを強いられたことなどから、直近の2024年1~3月には5.5%まで低下した。気がつけば、営業利益率でトヨタはテスラを上回り、時価総額の差も縮まっている。

 盤石に見えるトヨタだが、2025年3月期の業績予想を見ると危機感がうかがえる。

■2割減益の予想を出した意図

 この日、トヨタが示した2025年3月期の営業利益予想は4兆3000億円と19.7%減益を見込んでいる。これは成長領域の研究開発などにかかる費用を3200億円、仕入れ先や販売店への還元を3800億円積み増すことによる影響が大きい。

 「大きな事業構造改革が必要になる」「従来の大量生産、大量消費のビジネスモデルは持続的ではない」。佐藤社長が繰り返したのは、従来のビジネスモデルからの脱却だ。

 自動車業界ではEVシフトや自動運転技術の開発に加えて、ソフトウェアサービスによる新たな価値が新車の商品性を左右する「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」と呼ばれる考え方が広がりつつある。さらに、希少資源を多く使う電池の生産コストが重いEVは、現状のエンジン車に比べて価格上昇が避けられない。今までより新車が売りにくくなることが予想される。

 このため、新車の購入後もソフトウェアを通じた性能・機能向上によって対価を得たり、EVを通じた充電サービスや蓄電池を使ったエネルギーサービスなど新たな収益の種を育てる必要がある。EVをより廉価に造るための、生産技術改革も欠かせない。ビジネスモデルや生産手法といった事業そのものの転換に迫られており、部品メーカーや販売店を含むバリューチェーンの構造変化も同時に促さなければならない。

 電池事業を祖業とするBYDは、電池に加えて半導体も内製化するなどコアコスト競争力を磨くビジネスモデルを構築。テスラは自動運転・ソフトウェアサービスに加えてEVに特化した効率的な生産体制を追求する。中国のスマホメーカー小米(シャオミ)など異業種参入も相次ぐ。こうした新たなライバルたちとトヨタは戦っていかなければならない。

 トヨタはこうした変革に備えて、今期を「足場固め」と位置づける。このためEVを除いた新型車開発のプロジェクトも含めて計画の点検を始めている。トヨタ幹部も「サプライヤーや販売店も含めて一度落ち着いて、事業を改めて見つめ直す」と強調する。

■巨額利益に儲け過ぎに批判も

 「例えば某自動車は何兆円儲けて、本当はその実儲けの中に、もう経費として下請けに値増し分を払ってやる分が1兆円ぐらいあってしかるべきだ」。日本商工会議所の小林健会頭は、会見で暗にトヨタを批判する異例の発言をした。自動車業界全体でサプライヤーや販売店へのさらなる支援へのプレッシャーが強まっており、きめこまかな目配せが求められそうだ。

 販売好調のトヨタにあってEVはまだ助走期間が続いている。2024年3月期のEV販売は11万台と、期初に掲げた20万台とした計画に届かなかった。2026年に150万台、2030年に350万台というEVの「販売基準」を掲げるトヨタだが、宮崎副社長は自動運転やソフトウェアといった先進領域を含めて「我々が遅れている領域があるのは事実」と認める。佐藤社長は需要動向を踏まえて、2026年のEV150万台販売目標にPHV(プラグインHV)も含まれるとの考えを初めて示した。

 幸か不幸か、足元のEV市場は拡大ペースが鈍化。EV化で先駆けた欧米の自動車メーカーは戦略を見直し始めた。トヨタはエンジン車やHVで得た利益をEVやソフトウェア、AI(人工知能)への投資に回す。今期のこうした先進領域に関連した設備投資と研究開発費は、前期比5000億円増の計1兆7000億円を計画している。

 トヨタ幹部は「今の環境なら4兆~5兆円を稼ぐ実力はある。しっかりと種まきを進めているところ。地に足をつけて、地道にコツコツとできるかどうかだ」と語る。トヨタは2026年以降に次世代EVと位置づける主力の新型EVを続々と投入する計画だ。

 2020年代後半以降もトヨタが勝ち続けられるか、ここでの足場固めの巧拙にかかっている。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:5/13(月) 7:02

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング