金融のプロ、香港で再就職困難-5年前の引く手あまたから一転

3/26 8:30 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 勤めていたファミリーオフィスの経営者が香港を去った時、エリック・リーさんは再就職が厳しいことは覚悟していた。しかし、これほど大変だとは想像していなかった。

1年5カ月が経過した今も、リーさんは職探しを続けている。月6万香港ドル(約116万円)近い家賃に加え、年100万香港ドルに上る子供の教育費が重くのしかかるが、一番苦しいのは就職難がまだ峠を越していないかもしれないという恐怖と、その事実を徐々に受け入れつつあることだという。

わずか5年前は、リーさんのような中国の専門知識を持つ金融プロフェッショナルはUBSグループやシティグループなどの金融機関から引っ張りだこだった。

小米や美団などの新規株式公開(IPO)により、金融の中心地としての香港の地位はニューヨークと張り合うレベルまで高まった。こうした金融プロフェッショナルの努力が寄与し、香港と米国に上場する中国本土企業の時価総額は計6兆米ドル(約908兆円)を超えた。

米中の地政学的緊張が資本市場に大きな打撃を与えている現在、株価低迷と経済の見通し悪化で香港のIPOは干上がっている。また中国共産党の習近平総書記(国家主席)が推し進めるデータセキュリティーと金融市場規制の強化により、中国企業による資産取得や海外上場は難しくなっている。

かつてシティでも働いていたリーさんは、「中国の上昇軌道や国内外の金融市場緊密化を当然のことと思っていたが、今は一時的な現象に過ぎなかったと理解している。恐ろしい」と述べた。

金融ディール仲介の中心地だった香港は、最大級のダメージを受けた。さらに米国の大手銀行で相次いだレイオフやグローバル資本の対中投資引き揚げが、国際金融センターとしての香港の役割低下に追い打ちをかけた。

人員削減「続く」

人材あっせん会社ロバート・ウォルターズのマネジングディレクター、ジョン・ムラリー氏によると、香港で求職中のエントリーレベルより上の金融専門家は同氏が扱う求職者数に基づくと「数百人」に達する。同氏は「香港は非常に脆弱(ぜいじゃく)な市場であり、人員削減はまだ続くだろう」と語った。

ゴールドマン・サックス・グループやJPモルガン・チェース、シティはここ1年半の間にアジアで数度にわたり人員削減を行ってきた。

ゴールドマンの元従業員は、解雇をきっかけに自分と同僚は香港にとどまるべきかだけでなく、業界にとどまるかどうかについても考え始めたと話した。

中国・香港市場のIPO減少は、膨れ上がった従業員数を正当化できなくなり、各行がアジア全域でリストラを検討せざるを得なくなることを意味する。

実際に業界を離れたバンカーもいる。昨年、グローバル投資銀行のアナリストの職を失ったヤンさん(24)は求職活動を数カ月続け、コンサルティング会社やベンチャーキャピタル、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社の面接を10社ほど受けたが採用には至らなかった。

ヤンさんは結局、月2万香港ドルの賃貸契約更新が迫っていたため、中国本土の実家に戻り、従来型金融以外のキャリアを目指すと決めた。

「競争は以前よりはるかに激しくなっている。PEの求人が1件あれば、数百人の元銀行員から履歴書が殺到する」とヤンさんは語った。ヤンさんら取材に応じた一部の人々は重要なキャリアに関する問題だとの理由で、フルネームを明かさない条件で話してくれた。

香港の金融専門家数を反映する香港証券先物委員会(SFC)の昨年12月時点の免許取得者数は4万4722人と、2021年末から600人余り減った。

金融業界が22年域内総生産(GDP)の約23%、雇用の7.5%を占めていたことを考えると、金融サービス活動の鈍化は香港経済を圧迫しそうだ。

20%の報酬減

ブルームバーグの集計データによれば、昨年の香港IPO規模は前年比56%減の460億香港ドルと、20年余り前のドットコムバブル崩壊以来最低となった。上場件数も約20%減の67件で、10億香港ドルを超える規模のIPOは13件にとどまった。

PE投資会社やベンチャーキャピタルの投資家も打撃を被っている。コンサルティング会社プレキンによると、中国を重視するドル建てファンドが昨年調達した資金は、21年と比較して81%減少した。

中国に特化したバンカーは、セルサイド、バイサイド共に就職難だ。管理職人材紹介会社ウェルズリーのエグゼクティブディレクター、シャーリーン・ヨン氏はスキルが転用しにくいとして、投資家向け情報提供(IR)マネジャーも大きな影響を受けたと話した。

ヨン氏は「センチメントは厳しい」とした上で、「今年が峠のように思えるし、そうであってほしい」と語り、バンカーは最低でも20%の報酬減に備えるべきであり、場合によっては「非常に極端」な報酬カットもあり得ると指摘した。

「国運」

香港の中国系証券会社デットファイナンス担当バンカーのヘンリーさんは元同僚が1年余り職を見つけられないことから、たとえ報酬が30-40%カットされても受け入れるとし、「いつ解雇されるか心配だ。収入の原動力は全て機能していない」と述べた。

こうした状況の中、一部のバンカーは生活習慣を変え、出費を抑え、自分の価値を見直している。

エグゼクティブディレクターのワンさんは毎日残業しているにもかかわらずIPO案件をほとんど得られず落ち込んでいたため、昨年1年間、友人から「陰気に見える」と言われ続けたという。実際、自身のキャリアが「時代の終わり」とともに早々と終わってしまったような感じだったと彼女は話した。

ワンさんはドバイやシンガポールに好機があるとみているものの、自分がどのような付加価値を与えられるか確信を持てないでいる。

また、香港で解雇されて中国本土に戻った人は特に、年齢の高さが不利に働いている。

ただ香港最良の時代が終わったと全員が思っているわけではない。

CLSAの最高経営責任者(CEO)を務めていたジョナサン・スローン氏は、好況と不況は香港で生活する上で予想されることだと言う。

同氏は最近、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のコラムで、「そう、直近の強気相場のフロス(泡)は今のところ終わっている」としながらも、「しかし香港は生き残るだけでなく、これまで通り繁栄するだろう」と主張した。

香港は、人口流出に歯止めをかけ、優秀な人材を呼び込むビザ(査証)制度「トップタレントパス」を導入。2月末時点で約5万9000人を承認した。人口は昨年0.4%増加した。

しかし香港の大きな変化は、一部の人の世界観を一変させた。就職活動を続けているリーさんは「以前は自分には才能があり、絶好調だと思っていた。しかしそれは『国運』だったと今は理解している」と吐露し、「国運がなければ無価値だ」と述べた。

原題:Hong Kong’s Formerly High-Flying Bankers Become Lost Generation(抜粋)

--取材協力:Heng Xie、Krystal Chia.

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最終更新:3/26(火) 8:30

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