中山秀征が志村けんから学んだ「バカでいろよ」 “師匠”から教えてもらった明るく生きるヒント

5/25 14:02 配信

東洋経済オンライン

日本テレビ系列の情報番組『シューイチ』で、絶妙な緩急で番組を仕切っているテレビタレントの中山秀征さん。共演者の魅力を自然に引き出す巧みなMC術は、“師匠”と慕う志村けんさんから学んだと言います。本記事では中山さんの新著『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』から一部を抜粋し、志村さんから学んだ「明るく生きるヒント」についてお伝えします。

■出会いはまさかの「逆オファー」

 僕が「師匠」と呼び、最も尊敬するコメディアンが、2020年に亡くなった志村けんさんです。

 高木ブーさんが追悼番組の中で「志村は死なない」と言った通り、師匠は今も、コントの中に生き、所属事務所の公式 YouTube や映像配信サービスなどを通じて、世界の人々に「笑い」を届けてくれています。

 僕は師匠が50歳から70歳までの間、毎年、誕生日パーティーの幹事をやらせてもらっていたこともあり、数え切れないほど酒席をご一緒しました。お酒を愛する志村師匠からは、数々の「金言」を頂いて……。

 出会いのキッカケも「お酒」でした。

 1997年、『DAISUKI!』の日本酒を飲みながら居酒屋トークをする名物企画に、なんと、志村さんから「あれ何かいいよな。俺、出たいんだけど」と“逆オファー”があったのです。

 当時、志村さんがバラエティ番組にゲスト出演することはほとんどなく、当日は、僕と松本さん(松本明子)とナオちゃん(飯島直子)はもちろん、スタッフ全員が“ド緊張”状態でした。

 大先輩をお出迎えするため、僕が入り時間の30分前に現場に行くと……志村さんは1時間前に現場入りしていて、既に「変なおじさん」のメイクが仕上がっている状態でした。

 僕は「しまった!  大先輩を待たせてしまった」と“バカ殿”の如く顔面蒼白。

 思わず、「志村さん、どうしてそんなに早いんですか?」と尋ねると、師匠は「遅刻すると『すみません』から1日が始まるだろ。それが嫌なんだよね」と、あの照れた笑顔で一言。

 大御所の「金言」に触れた僕は、思わず「すみません」と謝ってしまいました……。

 この日が志村師匠との出会いとなりました。

■師匠と“竜ちゃん”との忘れられない思い出

 ロケはお酒を飲みながら和やかに進み、そこから、プライベートでも飲みに行かせてもらうように。

 師匠が行くのは、麻布十番の大衆居酒屋や、六本木の目立たない場所にあるおでん屋など、飾らないお店ばかりで、メンバーも決まって少人数でした。師匠と竜ちゃん(ダチョウ倶楽部の上島竜兵)と3人で、何度杯を交わしたことか……。

 酒席では、ドリフ時代の思い出話や、コメディアンとしての哲学など、本当に貴重なお話を聞かせてもらいました。

 それだけではなく「この間、ウンコ漏らしちゃってさぁ」なんて、しょーもないエピソードから始まる下ネタを聞きながらゲラゲラ笑い合ったりも……。

 3人で過ごす夜は、いつも、あっという間に時間が過ぎていきました。

 ただ、師匠が50代からライフワークにしていた舞台「志村魂」の前になると、酒席での様子も少し違っていて……。

 あれは「志村魂」が始まった最初の年でした。稽古を終えた師匠と竜ちゃんに僕も合流して、六本木のクラブで飲んだ帰り、「最後に、軽くおでんでもつまんで帰ろうか」と、いつものおでん屋へ。時刻は午前3時になろうとしていました。

 店に入っても師匠はどこか落ち着かない様子で、突然、竜ちゃんに「お前、それはどうなんだよ⁉︎」と大声で突っかかりました。

 焦る僕を差し置いて、竜ちゃんも「いやいや、そうは言いましてもね!」と、結構マジなトーンで言い返す。

 「言い訳すんでねぇよ!  お前ェは!」と師匠も応戦し、延々とラリーが続きます。そう、突然舞台の稽古が始まったわけです。

 長い長い2人のやり取りが終わって時計を見ると「ご、5時⁉︎」。あの志村けんの舞台を特等席で観られる贅沢な時間ではありましたが、さすがに朝5時までは厳しかった(笑)。

 当時すでに、日本で最も多くコントを演じたコメディアンと言っても過言ではなかった志村師匠でも、やはり生の舞台のプレッシャーは相当のものだったのでしょう。

 「志村魂」の時期が迫ってくると「どきどきするよ。ヒデ、俺だって緊張するんだよ」と言っていたのを思い出します。

■「バカでいろよ」

 師匠の言葉には他にも忘れられないものがたくさんあります。

 志村さんは、お酒の席で、いつも「バカでいろ」と言っていました。

 最初は謙虚だったタレントも、人気者になり、技術も知識も身についてくると、次第に「自分を偉く見せよう」「利口に見せよう」と、振る舞いが変わっていきます。

 周りに持ち上げられる環境が続くと、尊大になりがちで……。師匠は、“偉く”なって“堕ちて”いく同業者をたくさん見てきたのでしょう。

 「俺たちなんて、もともと何もなかったわけだから、利口ぶるなよ」。「『バカだなぁ』ってのは、俺たちにとって最高の誉め言葉なんだよ」と、「バカでいる」大切さを繰り返し説いてくれました。

 その言葉の深さを、現場で初めて体感したのは、ゲスト出演した『志村けんのバカ殿様』のスタジオでした。

 志村さんはコントの収録が始まる前に、セットの建付けから、小道具の一つ一つに至るまでくまなくチェックし、その後、カメラマンに細かくカット割りの指示をしていました。

 「いいか、俺たち(出演者)が上から覗くような画にするなよ」

 「テレビを観ている人たちが、俺たちを“上”から見ているように、そう、この画角で撮ってくれ」

 カメラアングル一つにさえ決して気を抜かない。しかも、「観客を見下ろしてしまう可能性」を意識しているのか、と驚きました。白塗りのバカ殿メイクでありながら、その姿は、巨匠の映画監督のように見えました。

■志村流「利口ぶらない」MC術

 今では有名な話ですが、志村師匠はとても勉強家で、流行りの映画や音楽をほとんどチェックし、自分のコントにどんどん取り入れていました。

 そして、あまり知られていなかったのですが、実は、政治や経済にもとても詳しかったんです。でも、その知識を決してひけらかしたりはしません。

 その時、世の中で何が起きているのかを捉えたうえで、自分が作るものは、世の中にとって丁度良い“下”のスタンスを目指す。師匠は、時代に合った「バカ」でいるために、あらゆる情報を貪欲に吸収していたように感じました。

 そんな志村師匠の姿勢を、僕は、情報番組のMCをしている時に意識します。

 たとえば、経済の話題で、専門家に「物価対策」の質問をする場面。質問の仕方は、MCによっていくつかのパターンに分かれます。

 よくあるのが、「物価高騰が続く中、賃金が上がらない現状があります。ここは、減税も含めた強い対策が求められますが、〇〇さん、いかがでしょうか?」。

 MCが、ある程度、背景や筋道を説明してから質問する方法です。

 このテクニックを使うと、MC自身がカッコよく見える。MCは台本や打ち合わせで、専門家の話の方向性も、ある程度わかっているから、そこを少し“先回り”して聞けばいいだけで、そんなに難しいことではありません。

 僕もたまに、このテクニックを使いたいな、と誘惑にかられます。でも、その度、志村師匠の「バカでいろよ」「利口ぶるな」の声が聞こえてきて……。

■「上から目線」にならないように聞く

 僕の聞き方はこうです。

 「最近、『物価対策、なってないんじゃないか!』という声をよく聞きます。〇〇さん、これって、どういうことでしょうか?」

 物価上昇の背景や、今考えられている対策なども含めて専門家に解説してもらえるよう、なるべく、オープンな聞き方をします。

 「情報を全く知らない」はMC失格ですが、「私は知っています。知っている上で、皆さんのために聞いているんですよ」と“上から目線”のアピールは絶対にしたくない。「利口ぶらない」ことを常に心掛けています。

 正解かどうかはわからないけれど、これが、僕なりに貫いている“志村流”です。

 志村さんが僕の誕生日会を開いてくださった時に撮った、ポラロイド写真があります。

 この時、師匠が写真に書き添えてくれた言葉も「バカでいろよ」でした。今も、テレビタレントとしての「座右の銘」にしています。

 とはいえ、こんな話をしていると、「バカでいろよ」の“種明かし”をしているみたいで……これって、「利口ぶってる」のでは……?  

 酒の席で志村師匠に聞きたいです。「師匠、俺はバカでいられていますか?」と。

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最終更新:5/25(土) 14:02

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