日銀の利上げ決定に大家は「家賃値上げ」で対抗、「脱・不動産」選ぶ人も《楽待新聞》

1/24 21:00 配信

不動産投資の楽待

日銀は24日、金融政策決定会合を開き、政策金利を現在の0.25%から0.5%に利上げることを決定した。

日銀は2024年3月にマイナス金利を解除。追加利上げの決定は、2024年7月の会合以来、半年ぶりとなる。政策金利は2008年10月以来、17年ぶりの高い水準となる。

賃金や物価などの見通しが概ね予想通りに推移していることを決定理由に挙げた。

今後の追加利上げ見通しについて、植田総裁は「調整のペースやタイミングについては今後の経済や物価、金融情勢次第であり予断は持っていない」と述べるにとどめた。

金利が上がると、今後の不動産価格や住宅ローンなどへの影響が予想される。

都市部を中心に住宅価格の高騰が続く中、金利の上昇によってこうした傾向に歯止めがかかるとの見方もある。一方で、銀行から借り入れをして不動産を購入している投資家にとっては返済負担が重くなるため、家賃の値上げ圧力が高まる可能性もある。

今回の利上げを、投資家はどのように受け止めているのか。今後の不動産市場への影響やとるべき対策について、専門家にも話を聞いた。

■ローン返済への影響は

借入額が大きいほど、金利上昇に伴う返済負担も重くなりそうだ。不動産投資では、自己資金なしのフルローンで借り入れるフルレバ投資は返済比率が高くなる傾向がある。

投資総額104億円、税引き後CF約2億円にのぼる「フルレバ大家C」さん(以下、Cさん)もそのひとり。地方銀行や信金などからフルローン・オーバーローンを引いて規模拡大してきた。

しかし、意外にもCさんは、「ある程度規模が大きく、かつ返済比率が50%を切る投資家であれば、利上げはさほど影響がないと思います」と語る。

Cさんの現在の返済比率は40%ほど。このくらいの比率であれば、金利が多少上がっても致命的な打撃はなく、家賃の値上げを行っているためCFも確保できているという。

またそもそも資産規模が大きいと利益も大きく、税金負担が重くなる。一方、借入金の返済額のうち利息分は経費として処理できる。金利が上昇すれば、その分経費が増えるため、税負担の軽減になるとCさんは考えている。

■「創業以来初めての利上げ局面」に戸惑いも

現在の金利水準は平成初期や諸外国と比べると低水準にあるとはいえ、金利の上昇局面は多くの投資家にとって未知の領域だ。

「創業から初の利上げ局面で、正直なところ戸惑っています」

こう吐露するのは、不動産投資歴14年目、総投資額170億円の図越寛さん。大阪近郊で新築高層RC物件を保有し、自社ブランドとして展開している。

現在、複数の地方銀行や都市銀行から約80億円借り入れているが、そのほとんどが「TIBOR(※)」だ。政策金利の影響が大きい短期プライムレートよりも市場に敏感な性質があり、先行して昨年から上昇してきていたと語る。

※企業向け貸出金利の指標とされている、東京銀行間取引金利

市場連動金利型(TIBORに一定の上乗せ金利を加える形)の契約で、10カ月前と比較すると0.49%上昇しているという。

「私の場合は昨年からすでに利上げの煽りを受けていたので、今回の日銀利上げでようやく短プラもTIBORに追いつくな、というのが率直な思いです」

図越さんは3億円以上の高価格帯の物件を扱っている。競合である資産家や大企業は現金買いも珍しくなく、利上げによる影響がほとんどない。「私たちのように融資を利用する個人投資家は不利な面もあります」と語る。

利上げで返済額が増えるなか、今後は家賃の値上げを考えているという。家賃の値上げには借地借家法の正当事由が必要になるため特約の有効性は不透明だが、昨年から新規募集分の賃貸借契約書に、金利が上昇したら家賃を改定する旨の特約を入れているそうだ。

「ただ、家賃を上げても物件自体に力がなければ入居がつきません。立地や間取り、デザインなどの目利き力が、今後はさらに重要になると思います」

■賃貸業一筋からの脱却でリスク分散

不動産投資歴30年、総投資額約4億円の「MOLTA」さんは、「来るべき時が来た、という印象です」と語る。

東海・北陸・四国の地方一棟マンションに投資し、都市銀行や地方銀行から融資を引いてきた。

返済額が増えてCFが圧迫されることは「辛いところではあります」と言いつつ、利上げそのものは以前から見込んでいたため、インパクトはそれほど大きくないという。

「そもそもゼロ金利が長すぎたので、反動で利上げが来る時に備えて、ポートフォリオの新たな組成をする必要があると考えていました。1年ほど前から、賃貸不動産業だけに特化した事業戦略から脱却しようと動き出しています」

宅建業務の立ち上げなどに加え、株式や債券への投資に取り組むなど、収入の幅を広げているという。

賃貸不動産は今後家賃を上げられそうなエリアで、資産価値が比較的高い物件や充分なCFが得られる物件に絞っているそうだ。

「そうした準備もあって、多少CFが食いつぶされても耐えられると考えています。また、金融機関ともこれまでの付き合いや返済余力をもとに、利上げを抑えてもらえないか交渉してみるつもりです」

■不動産価格への影響は限定的

金利の上昇が実体経済に与える影響は不透明だ。不動産価格や家賃に今後どのような影響が考えられるのだろうか。

現役銀行員ブロガーの旦直土さんは、金利は依然として低い水準であり、不動産マーケットへの影響は限定的とみる。

「今回の政策金利の上昇は0.25%であり大きな変化ではありません。ただし、今後も金利の上昇が続くと金融マーケットが想定するのであれば、長期国債の金利を指標とする固定金利住宅ローンや投資用不動産向け固定金利ローンは一段の金利上昇が想定されます」

旦さんは、歴史的に見れば金利水準は依然低い状態にあり、物価上昇率を勘案しても実質的な金利は極めて低い水準にあるとした上で「不動産マーケットにはこの程度の政策金利引き上げは大きな影響はもたらさないでしょう」とした。

不動産市場に詳しいニッセイ基礎研究所の佐久間誠・主任研究員も次のように分析する。

「金利の上昇というのは支払い増加につながるため、それだけを切り取ってみると不動産にはマイナスですが、もうちょっとスコープを広げてみると、金利上昇の背景に物価や賃金の上昇があるため、今の緩やかな利上げ水準なら不動産価格への大きな影響はみられないでしょう」

佐久間さんは利上げの背景となっている物価や賃金の上昇に伴って、不動産市場では今後の家賃の動向に注目していると話す。

「日本では30年ぶりにいよいよ『金利のある世界』に移行しつつある状況で、日経平均株価もそれを織り込んで4万円前後で推移しています。一方で、不動産については、例えば賃料の上昇度合いを見ても、そこまで金利ある世界というのを織り込めていない状況だと思います。今年ぐらいからですね、賃料上昇の兆しが見えてくるかどうかという点に注目しています」

■今こそインカム重視の投資戦略を

不動産投資のインカムゲインを考えた場合、金利上昇局面ではローンの利払いが増える分、家賃収入から返済や経費を差し引いた手残りが減る可能性がある。そのような状況で、どのような投資戦略をとればよいのだろうか。

「過去の金利上昇時を振り返っても、インカムゲインが期待できないから、キャピタルゲインを狙おうとする人が必ず出てくるんですけど、一歩間違えると出口で失敗する」

こう警告するのは、不動産市場に詳しい「オラガ総研」代表の牧野知弘さんだ。家賃を上げてインカムゲインを確保していくことが重要だと考えている。

「日本の場合は残念ながら、借地借家法で非常に借主が守られていますので、日銀が金利を上げたから明日から家賃上げますよとはなかなかできませんが、テナントをなるべく入れ替えながら、今よりも高い水準の賃料で入れられるエリアを選んでいくことがポイントです」

牧野さんは具体例として「入れ替えの頻度が高く家賃を上げやすい社宅の需要があるエリア」を挙げ「築浅かつ設備が一定水準以上の物件などを選んでいく必要があるでしょう」と話した。



マイナス金利解除からもうすぐ1年が経つのを前に、2回の追加利上げが行われることになる。

「金利ある世界」がローン返済額の増加やインカムゲインの手残り減少といった形で、ますます現実感を増している。今後、追加利上げが行われる可能性は高く、大家側も家賃の値上げなどに踏み切らざるを得ない状況になりそうだ。

不動産投資の楽待

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最終更新:1/24(金) 21:00

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