オーストリア鉄道「新型レイルジェット」の大進化 特急車両も「低床化」でバリアフリーを徹底

4/6 4:32 配信

東洋経済オンライン

 オーストリア鉄道(ÖBB)と車両メーカーのシーメンスは2024年3月22日、ウィーン中央駅に隣接するカートレイン発着ホームにて開催されたプレス向けイベントにおいて、同国の優等列車「レイルジェット」の第2世代となる「レイルジェット・ジェネレーション2(Railjet generation 2)」を同日から運行すると正式に発表した。

 2018年にシーメンスへ発注された第2世代の新型客車は、当初2022年から営業を開始する予定だったが、約2年遅れでようやく運行開始にこぎつけることができた。2008年に誕生した初代レイルジェットから約16年、大きな進化を遂げた第2世代はどのような車両なのか。

■初代より2両多い9両編成に

 レイルジェットはÖBBを代表する優等列車で、2008年に運行を開始。7両編成の客車に電気機関車を連結した形の列車で最高速度は時速230kmを誇り、現在はオーストリア国内都市間のほか、チェコやドイツなど周辺6カ国の主要都市を結んでいる。

 新型レイルジェットは、初代で採用されたシーメンスの客車プラットフォーム「ヴィアッジョ(Viaggio)」の次世代型にフルモデルチェンジしている。そのため、新たに認証試験を行う必要があり、それに時間を要したことが運行開始の遅れにつながった。

 初代と同様、編成の一端に運転室付きの制御客車を連結しており、もう一端に連結した機関車が牽引・推進するプッシュプル運転を行うことが可能だが、制御客車を先頭にした推進(プッシュ)運転の許可は下りておらず、2024年4月の時点では機関車が先頭となる牽引のみ、もしくは編成の両端に機関車を連結しての運行となっている。同じプラットフォームを採用した新型夜行列車「ナイトジェット」も同様の措置を取っている。

 編成は、初代レイルジェットの7両から2両追加されて9両となり、編成長は約240mとなった。

 欧州のTSI(相互運用性の技術仕様)の規定では、2編成を併結した際の編成長は最大約400mと定められており、近年製造された多くの車両はこの規定(1編成あたり約200m)に収まるように設計されている。初代レイルジェットもこの規定に収まる(185m+機関車)が、新型レイルジェットは当初から国際運用で併結運転は行わず、単独運用を前提とした設計であることがわかる。

 9両の内訳は、ビジネスクラス(特等)を含む1等車が2両、半室2等/食堂車が1両、車いす対応2等車が1両、ほかの5両が一般の2等車だ。

■ホームに合わせて車両を「低床化」

新型車両の最大の特徴は、9両編成のうち前後の各1両を除く7両の車体中央部分(台車間)が低床構造となっている点で、以前の記事でご紹介した新型ナイトジェットの座席車(2023年12月29日付記事「欧州『新型寝台車』需要拡大だけでない導入の理由」)とまったく同一の構造だ。

 低いホームが多い欧州では、バリアフリー化のために低床構造の車両を導入する国が増えており、レイルジェットもそれにならった格好だ。とはいえ、ホームの高さは各国でバラバラのため完全な段差の解消は難しく、実際に同型の新型ナイトジェットを利用した車いすユーザーの乗客からは、ドイツのハンブルク駅で下車する際に少々難儀した、という声を聞いた。このあたりは最大公約数でカバーするしかないと言えよう。

 技術的な特徴としては、旧タイプとの比較で30%も軽量化された新型台車が挙げられる。軽量化によって乗り心地が向上したほか、エネルギー消費量の削減にもつながっている。

 また、窓ガラスはシーメンスが開発し特許を取得した、電波の透過性が高い特殊ガラスを採用している。これは標準的なガラスとの比較で約50倍もの電波を通し、車内で携帯電話(欧州では通話可能な車両がある)やインターネットが快適に使用できる環境を提供している。このほか、自己診断システムの導入によって車両の状態を常時監視し、適宜データを車両工場へ転送することでメンテナンスを効率的に行い、故障を未然に防ぐことが可能となる。

■食堂車に加えて軽食自販機も

 車内は、ビジネス(特等)と1等はこれまでと同様の構成で、ビジネスは最大定員4人の個室、1等は横2+1列のオープン座席となっている。

 個室は車端部に2部屋が設けられているが、興味深いのはこの2部屋は完全に壁で仕切られているものの、その壁がガラスとなっていて、隣の部屋が見えるという点だ。欧州のコンパートメントは死角が多いことから犯罪の発生確率が高く、近年は日本の特急車両などと同じオープンスタイルの車両が主流となっているが、一方で個室というプライベート空間を確保できるため人気もある。ÖBBの答えは、2つの部屋をガラスで仕切ることで死角を減らすというところにたどり着いたようで、2等車に設けられた個室も同様の構造だ。

 座席は、従来車では2人がけの場合2席が完全に分割した構造だったが、新型は1等、2等ともに2人がけ席が一体となっており、一見するとベンチのようにも見える。隣に誰も座っていない場合、ひじ掛けを収納すれば座席を広く使うことができるのが特徴だ。

 前席の背の部分にあるテーブルは上下2段で、上段は小物を置くスペースとして活用できるほか、NFCワイヤレス充電器を内蔵している。電源は通常の230Vコンセントのほか、携帯電話充電用のUSBポート、NFCワイヤレス充電の3つがある。車端部の荷物スペースはナイトジェットと同様にチェーンロックを装備している。

 車内設備で興味深い点としては、初めて飲み物の自動販売機とコーヒーマシンが車端部の数カ所に設置されたことだ。

 これまでは車内で食料や飲料を調達しようとすると食堂車まで行かなければならなかったが、ペットボトル飲料やサンドイッチなどの軽食、コーヒーなどは自席近くの自販機で調達できるようになった。

 食堂車は1両のうち半分を2等客室とした合造車で、車体中央の低床部分に調理場と食堂の座席を設けている。向かい合わせのテーブル席だけではなく、窓側にテーブルを配置したカウンター席も用意された。

 2等車は、車いす対応車両を除いて構造はほぼ同一で、横2+2配列の座席が並ぶオープン席と、6人部屋個室の車端部コンパートメントで構成される。2等車のうち1両は車いす対応車両で、車体中間の低床部分に計3台の車いす積載スペースを確保している。他の車両も低床にはなっているが、ドア開口部の寸法や、車いす対応トイレの有無などが異なる。

■新型登場で何が変わる? 

 新型レイルジェットは8編成が納入されており、19編成が追加発注されたため、合計27編成が発注されたことになる。最初の編成はイースター休暇が始まる3月22日、プレスへのお披露目イベント終了後にそのまま営業運転を開始。まずはウィーン―フェルトキルヒ間の臨時インターシティで慣らし走行を行った。しばらくはこの臨時列車で運行を続ける予定で、編成が出揃った4月以降は、ドイツのミュンヘンとイタリア各都市との間を結ぶ国際列車への投入が予定されている。

 新型レイルジェット投入により、もともと高い品質で評判のオーストリア鉄道は、より充実したサービスを提供できる体制が整えられたことになる。地方都市方面へ残っていた特急インターシティをレイルジェットへ置換えることで、サービスの充実化を図ることが可能となり、古いインターシティ車両を退役させることが可能となる。一方で昨年末に問題となった、故障離脱による運休や遅延を解消する意味でも、新型車のさらなる投入が待たれるところだ。

 レイルジェットのブランドは、名実ともにオーストリア鉄道の顔として、今後もオーストリアおよび周辺各国での活躍が見られることだろう。

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最終更新:4/6(土) 4:32

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