エレベーターで医師や看護師がポロリ…「不適切な会話」を盗み聞きした“悪趣味”調査が暴露した実態とは?

4/19 20:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 「悪口」はどこまで許される? 「ここだけの話」のセーフ/アウトの境界線は? イトモス研究所所長の小倉健一氏が、身近な疑問を紐解く。

 私は東京の下町、錦糸町で育った。錦糸町は東京の他の地域から、ガラが悪いと思われているような気がしている。ライバルの街はどこかというと、たぶん、赤羽や蒲田といったところではないか。今でも錦糸町、赤羽、蒲田によく出かけるが、何か街の雰囲気が似ている。

 言葉づかいも、本音がむき出しにされるというか、荒っぽい人も多い。よく東京人が関西へ行くと、関西弁になってしまうと聞く。私は5年ほど関西にいたのだが、一切そんなことはなく、むしろ私の周りが東京の言葉を使うようになっていた。東京の下町の言葉は、関西弁よりもアクが強いのだろうか。

 酔っ払うと「クソ」とか「くたばれ」といった言葉が口をついて出てしまう人も多い。私も気づくと罵詈雑言が止まらなくなる。そんな私であるが、最近、「クソ」という言葉に関連する面白い裁判のニュースを目にした。

● 「クソ」に寛容な判決

 2019年12月19日、れいわ新選組共同代表の大石晃子衆院議員が、ジャーナリストの山口敬之氏に対して「クソ野郎」とXに投稿したことが名誉毀損に当たるのかが争点の裁判だ。

 報道によると、東京高裁(相沢真木裁判長)は3月13日の判決公判で、次のように結論づけた。

 《判決では「クソ」という言葉が直ちに人糞を意味するとは解されず「クソじじい」や「クソまじめ」、「クソ忙しい」などとののしりや強調の意味で用いられるとして「『クソ野郎』という表現は、いさささか品性に欠けるきらいがあるものの、他人に対する最大限の侮蔑表現であるのかは、疑問を差しはさまざるを得ない」とした》

 《さらに「『クソ野郎』との表現部分を含む記載部分については公共性及び公益目的が認められ、前提となる事実について真実であることの証明があり、意見ないし論評としての域を逸脱したとはいえないことにも照らすと、『クソ野郎』との表現が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるまでとはいえない」とした》(3月13日、よろず~ニュース)。

 ずいぶん「クソ」という表現に対して寛容な判決が出たものである。

 日常生活の中で、私たちは友人や同僚と話しているときに、ただの悪口だけでなく、時には他人の秘密を話すこともある。例えば、「あの二人、付き合ってるらしいよ」とか「あの課長、いつも上司におべっかを使ってるよね」といったことが、あちこちで話されている。ひょっとすると、「私はそんなことを話していない、証拠を見せて」と反論する人もいるかもしれない。

● 医師や看護師がエレベーターでポロリ

 1994年に提出された、ペンシルベニア大学などによる『エレベータートーク:公共空間における不適切な発言に関する観察研究』という研究論文がある。

 4人のオブザーバーが5つの病院のエレベーターに乗り、病院職員による不適切と思われる発言を聞き取り続けると言う、趣味の悪い調査ではある。この調査は非常に反響を呼んだようで、その後、多くの論文に引用されている。

 《結果:片道259回のエレベータでの会話を観察した。うち36回(13.9%)の乗車で不適切な会話を耳にした。最も頻度が高かったのは、患者の秘密保持に対する違反(18件)であった》

 《次に多かったのは(10件)、臨床医が自分自身について、適切なケアを提供する能力や意欲に疑問を投げかけるような発言をした場合であった。その他のコメントには、病院のケアの質について軽蔑するような発言(8件)や患者に関する軽蔑的な発言(5件)があった》

 《このうち15件は医師が、10件は看護師が、残りはその他の病院職員が関与していた。これらの発言は、患者の守秘義務違反に限ったものではなく、医療従事者が避けるよう注意しなければならない様々な議論を含んでいた》

● 「クスリでもやってたのだろう」

 エレベーターでの発言は、たとえばこうだ。「ある乗客は入院患者を“提督”と呼び、別の乗客は“X社の経営者”と表現した」「昨日は16時間働いて、家に帰ってビールを飲んだら、いつの間にかここに戻っていた。一晩中働けるとは思えない」

 《エレベーターに乗っていた医師が、大金を手にするまでの時間稼ぎをしていることが明らかになったことが2度あり、彼らの主な動機が質の高い医療を提供することなのかどうか疑問が呈された。ある医師が言った。「そうだ、私はここを出る。大金を稼げるところに行くんだ。もう患者を追いかける必要はない」。別の医師はこう答えた。「給料を見るには虫眼鏡が必要だ」》

 《ある看護師は、別の看護師について「昨夜はクスリでもやっていたのだろう」》《2人の病院管理者が、死亡した患者を診察するために検視官を呼ばなければならなかったのは「彼の死は病院のせいだからだ」と話し合った》

 モラルが高い職業とされる医者や看護師でさえこれである。さすがにこの論文の結果もあって、注意喚起がなされた状態にあるとはいえ、エレベーターで話をしなくなっただけで、本音はこのあたりにあるということだろう。内輪の飲み会などでは同様の会話をしているのは間違いない。

 これはあらゆる人々にも言えることだ。こうした悪口や秘密の暴露は、たとえば友人同士の会、職場の飲み会などではどこまで許されるのか。

● 有料サロンなら何を言ってもOK?→弁護士の見解は

 つい先日、動画配信に力を入れている元有名経営者が「ヤバいことは有料サロンでやることにしています。有料サロンは内輪の飲み会と一緒で、何をいっても名誉毀損にはならない」旨、述べていた。

 こんな話は初耳だったのでビックリしてしまったが、果たして本当なのだろうか。ネット上の誹謗中傷問題等に詳しい城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士に見解を求めた。

 「『有料サロンであればどんな話をしてもいい』といった理屈は、裁判所では通じません。オフレコだったなどといった主張は受け入れられず、伝播可能性(不特定多数の者に対し情報が伝わる可能性)が重視される結果、民事・刑事両分野で名誉毀損が成立します」

 「とはいえ、民事裁判分野で懲罰的な賠償を認める制度は日本では存在しておらず、名誉毀損の証明は難度が高く手間もかかるため、慰謝料請求等する人が少ないのが実情です。刑事裁判分野でも、警察段階で被害者の提出書類などがそもそも受理されないことや、受理されたとしても検察段階で起訴猶予になるケースはよくあります」

 「結局、無料で誰でもアクセスできるYouTubeの動画などと比較すると、参加人数がそれなりに制限された有料サロンでの誹謗中傷行為が表面化することはあまりなく、特に被害者が政治家、芸能人、大企業経営者のような公人・準公人の立場にある方の場合、『有名税』として我慢を強いられていることも多いだろうと思われます」

● 飲み会での悪口もダメ?

 それでは、仲間同士のコンパや職場の飲み会などで、悪口や暴露話をするのはどうだろうか。野澤隆弁護士はこう解説する。

 「フランスの哲学者パスカルの名言に『人間は考える葦(あし)である』という言葉があります。葦とは川辺に生えている長くて細い植物であり、転じて『人間とは物理的には弱いが思考力を持つ個人である』といった意味です」

 「この例えは、聖書で、葦が『集団で揺れるしかないか弱い植物』として描かれていたことが背景にありますが、人間とは愚かであり、仲間内でお酒も入るストレス発散の場となればその傾向は一層強まります」

 「昭和の会社では、偉い立場の人が『今日は無礼講(ぶれいこう)だ』などといった(建前かもしれない)発言を宴席でよくしていましたが、令和のネット社会では『あの発言はパワハラ・セクハラ事件発生の重大原因だった』などとSNS上で糾弾されかねません」

 「江戸時代最強のインフルエンサー松尾芭蕉の名句に『物言えば唇寒し秋の風』というものがあります。余計な発言はいつの時代も大炎上の原因だったようです」

 エレベーターに他人がいるのに悪口をいうのは避けたいところだが、仲間内しかいなければ止まらないよな、と思う。酔っ払って他人への悪口が言えないというのでは、偉くなるというのも考えものだ。

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最終更新:4/20(土) 12:11

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