“光る君へロス”の人も…NHK新大河ドラマ『べらぼう』が『光る君へ』を超えて刺さるワケ 「異色ビジネスドラマ」にハマる人、続出!? 

1/5 12:02 配信

東洋経済オンライン

 大河ドラマ史上2番目に古い、平安の世を描いた「光る君へ」から一転して江戸時代へ。1月5日夜、横浜流星さん主演の「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」がスタートします。

 そのコンセプトは、「日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築き 時にお上に目を付けられても面白さを追求し続けた人物 “蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯。笑いと涙と謎に満ちた“痛快”エンターテインメントドラマ!」。

 「蔦屋重三郎って何者?」「どんな物語か想像がつかない」という人も少なくないでしょう。その説明は徐々にしていきますが、ここまではっきり「エンタメ」と言い切った大河ドラマはあったでしょうか。さらにその前提となる「笑いと涙と謎に満ちた」という物語は“日曜20時のNHK大河ドラマ”というより“日曜21時のTBS日曜劇場”のように見えます。

 時代劇で選ばれることの多い江戸時代中期を描きながら、その主人公に有名人を選ばず、なじみの薄い蔦屋重三郎を選んだ理由は何なのか。また、なぜ「光る君へ」に続いて戦のない時代を選んだのか。それらを掘り下げていくと、「べらぼう」への期待感が否応なしに増していきます。

■作家の次は「出版プロデューサー」

 基本的に大河ドラマは史実をベースに実在した人物の人生が描かれるため、今回も主なあらすじはネタバレ済み。まずは下記に制作サイドがくり返し発表しているあらすじをあげてみましょう(「知りたくない」という人は飛ばしてください)。

 18世紀半ば、人口は100万を超え、天下泰平の中、世界有数の大都市へと発展した江戸。蔦重こと蔦屋重三郎は、江戸郊外の吉原の貧しい庶民の子に生まれ、幼くして両親と生き別れ、引手茶屋の養子となる。血のつながりをこえた人のつながりの中で育まれた蔦重は、貸本屋から身を興して、その後、書籍の編集・出版業をはじめる。

 折しも、時の権力者・田沼意次が創り出した自由な空気の中、江戸文化が

 花開き、平賀源内など多彩な文人が輩出。蔦重は、朋誠堂喜三二などの文化人たちと交流を重ね、「黄表紙本」という挿絵をふんだんにつかった書籍でヒット作を次々と連発。33歳で「江戸のシリコンバレー」こと、日本橋通油町に店を構えることになり、“江戸の出版王”へと成り上がっていく。

 蔦重が見いだした才能は、喜多川歌麿・山東京伝、葛飾北斎、曲亭馬琴、十返舎一九といった若き個性豊かな才能たち。その多くは、のちの巨匠となり日本文化の礎となっていく。

 しかし時世は移り変わり、田沼意次は失脚。代わりに台頭した松平定信による寛政の改革では、蔦重の自由さと政治風刺が問題になり、財産の半分を没収される処罰を受ける。周囲では江戸追放や死に追いやられるものもあらわれる……。蔦重は、その後も幕府からの執拗な弾圧を受け続けるが、反権力を貫き通し、筆の力で戦い続ける。そんな中、蔦重の体を病魔が襲う。

 命の限りが迫る中、蔦重は決して奪われない壮大なエンターテインメント「写楽」を仕掛けるのだった……。

■令和の“いま”に通じるビジネスドラマ

 脚本を担う森下佳子さんが制作統括・藤並英樹さんから企画を持ちかけられたとき、「合戦もない、もちろん天下も取らないし、非業の死を遂げるわけでもない、畳の上で、脚気で死ぬ本屋のおっちゃんの人生」が選ばれたことに驚いたそうです。

 「光る君へ」の主人公・紫式部が作家・歌人なら、「べらぼう」の主人公・蔦屋重三郎は版元(出版社)であり出版プロデューサー。知る人ぞ知る人物であり、歴史の真ん中にいるわけではありません。しかも活躍のジャンルは政治・統治ではなく文化・教養であり、「NHKは2作連続で異色の物語を選んだ」と言っていいでしょう。

 前述した主なあらすじを見ると、当作が通称“蔦重”の一代記であるだけでなく、ビジネスドラマの要素が濃いことに気づかされます。

 蔦重は吉原の案内係を務めるかたわら貸本屋を行い、さらに吉原を変えるべく出版業に進出。女郎たちを救うために当時のガイドブックやファッションカタログを企画するほか、若き才能を見出してプロデュースしていく。さらに、権力者の圧力によって苦境に陥りながらも、世の中に面白いものを送り出そうと奮闘する……。

 蔦重が普通の庶民であることも含め、現代のビジネスシーンに重ねて見られる物語であり、同時に「エンタメはどうあるべきか」を問いかける作品になるでしょう。また、2025年が放送事業開始から100年の節目であることも、国内メディア産業の礎を築いた蔦重をフィーチャーする必然性と言っていいのかもしれません。

 主人公やジャンルの選択だけでなく、江戸時代中期や遊郭・吉原が舞台の作品は大河ドラマ初であるなど、挑戦的な作品である様子がうかがえます。

■人間ドラマ重視の作風は「光る君へ」からの継続

 そして忘れていけないのは、脚本家・森下佳子さんの存在。これまで「世界の中心で、愛をさけぶ」「白夜行」「とんび」「天皇の料理番」「義母と娘のブルース」「天国と地獄~サイコな2人~」(すべてTBS系)、「ごちそうさん」「おんな城主 直虎」(NHK総合)などのヒット作を手がけてきた、業界人・視聴者ともにファンの多い脚本家であり、「べらぼう」にとって何よりの“品質保証”と言っていいでしょう。

 森下さんが手がける以上、単なるビジネスを舞台にした人物一代記ではなく、見応え十分のヒューマン作になる可能性が高そうです。

 蔦重だけでなく、遊郭・吉原で生きる女郎や主人、一筋縄ではいかない出版人、喜多川歌麿(染谷将太)ら才能あふれる若き文化人、成り上がった田沼意次(渡辺謙)、サラブレッドの松平定信(寺田心)、「怪物」と言われた一橋治済(生田斗真)ら幕府関係者、報われぬ天才・平賀源内(安田顕)。

 横浜さんが「商いの中で色濃く人間ドラマが描かれている」と語っていたように、これらの人物が織りなす人間ドラマこそが最大の強みと言っていいかもしれません。

 戦がない時代だからこそ、フィーチャーされるのは人間の本質的な感情。生きがいと誇り、夢と欲望、地位と金……。これらを満たすためにそれぞれの立場で葛藤・選択していく様子は、やはり「天下泰平」「文化隆盛」ながらどこか閉塞感が漂う現代と通じるところがあり、視聴者を引きつけるでしょう。

 その戦よりも人間ドラマ重視の作風は「光る君へ」からの継続であり、そこに史実を絡めていくという構成のバランスも同様。森下さんにとっては大先輩の大石静さんが作った流れを引き継げることがプラスに働きそうです。

 さらに言えば、「光る君へ」は身分の高い平安貴族がメインの物語でしたが、「べらぼう」のベースになるのは庶民。現代人にとっても自分に重ね合わせやすい暮らしや文化であることも支持につながるのではないでしょうか。

■貴重な「JIN」「大奥」の経験値

 脚本を森下さんが手がけるもう1つの強みは、「JIN -仁-」(TBS系)や男女逆転版「大奥」(NHK総合)を手がけた実績。

 時代劇の経験が豊富で、江戸時代の知識もあり、「大奥」で中期を描いたことも記憶に新しいところです。「入手した文献をすべて読み込む」という森下さんだからこそ、NHKならではの時代、文化、風俗、言語などの考証を消化した脚本が期待できるでしょう。

 もう1つ、「べらぼう」の魅力としてあげておきたいのが、蔦屋重三郎という人物と、演じる横浜流星さんが醸し出す強烈な“陽”のエネルギー。

 もともと大河ドラマは“日本唯一の年間ドラマ”だけに、どの作品の主人公も1年間見続けてもらえるほどの魅力を放つキャラクターが求められています。その点、蔦重は21世紀の大河ドラマでもトップクラスの好感度と共感度を持つ主人公になる可能性大。

 蔦重は「親なし、金なし、画才なし……ないない尽くしの生まれ」「『べらぼう! (たわけ者)』と言われ、ときに妨害を受けながらも、目上の人々にぶつかっていく度胸」「地元の吉原を愛し、立場の弱い女郎を思いやる優しさ」「若き文化人たちに寄り添おうとする姿勢」など好感と共感が目白押しのキャラクターなのです。

■「クールなイケメン俳優」からの脱皮

 演じる横浜さん自身、「底抜けに明るいキャラクター」「自分ではなく人のために考え、動ける人間」「度胸もあって責任感もあり、でもダサさもあって、とても人間くさく、共感できることがたくさんあります」などと語っていました。

 少なくとも第1話の放送を見れば、「いかに蔦重が明るくエネルギッシュで魅力的な人物なのか」「いかに横浜さんが蔦重になり切ろうと努めているか」がわかるでしょう。明るく温かいから、人が集まってくる太陽のような主人公であり、日本中の人々に活力を与えるような存在になるかもしれません。

 また、横浜さんが「自分の中での大きな挑戦」と語っていたことから、「クールなイケメン俳優」というこれまでのイメージとは大きく変わったと感じる人が多いのではないでしょうか。

 その横浜さんを取り囲むキャスティングは、やはり大河ドラマらしい豪華な顔ぶれ。

 大御所の渡辺謙さん、石坂浩二さん、里見浩太朗さんらを筆頭に、高橋克実さん、飯島直子さん、水野美紀さん、山村紅葉さん、かたせ梨乃さん、片岡愛之助さん、風間俊介さん、安田顕さん、尾美としのりさん、中村蒼さん、伊藤淳史さん、井之脇海さん、市原隼人さん、生田斗真さん、冨永愛さん、宮沢氷魚さん、染谷将太さん、橋本愛さんらが名を連ねています。

 さらに吉原の遊郭で働く女郎を小芝風花さん、福原遥さん、小野花梨さん、久保田紗友さんらが演じること、「語り」を綾瀬はるかさんが務めることなども話題を集めるでしょう。

■「江戸の町人文化」ブームが起きるか

 現存する神社仏閣でのロケに加えて、実寸大で作られた吉原の街並み、着物、所作、書物、芸能など、江戸中期の再現度にも強いこだわりが見られます。

 当時は「町人文化が花開いた」と言われる時期ですが、制作サイドはそれらの描写を現代の漫画やアニメなどの原点として注力しているだけに、令和の世にちょっとした洒落本、黄表紙、浮世絵のブームが起きるかもしれません。

 市井の人々にスポットを当て、喜怒哀楽を描いた娯楽時代劇が好きな人。江戸の町人文化に関心がある人。森下佳子さんが脚本を手がける作品が好きな人。少なくともこれらの人々にとっては間違いなく楽しめる大河ドラマになるでしょう。

東洋経済オンライン

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最終更新:1/5(日) 12:02

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