「食品値上げ」が6月に家計を直撃!インフレ経済の“深刻なデメリット”とは?

4/17 6:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 4月、わが国の主要な食品メーカー195社は、2806品目の商品価格を引き上げた。7月までの価格改定予定を含むと、年間の平均値上げ率は19%にも達する。実は、6月に再び値上げを予定する企業も多く、その分野は対企業向けの資材から食品まで幅広い。円安の進行や原油価格の上昇リスクが増しているため、今後も国内企業による値上げは増えそうだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

● インフレは社会全体の格差を拡大する傾向

 2024年も「値上げの4月」が到来した。ハムやソーセージなど加工食品、調味料などの飲食料品を中心に、約2800超の品目の値段が引き上げられた。異常気象や地政学リスクなどもあり、原油や穀物などの原材料価格は上昇している。また、円安も輸入物価を押し上げている。

 さらに人手不足も深刻だ。規模の大小を問わず、企業は賃上げに取り組まざるを得ない状況に直面している。働き方改革の一環で物流に支障が出るなどの、いわゆる「2024年問題」も人件費を押し上げる。増えたコストを販売価格に転嫁する企業は増え、広い範囲でモノやサービスの価格が上昇している。

 わが国の物価は当面、上昇圧力がかかる可能性が高い。堅調な米国景気を反映して、ドル高・円安が続くことも予想される。中東情勢の混迷や一部産油国の自主減産などもあり、原油などエネルギー価格はさらに上昇する可能性が高そうだ。

 わが国経済がデフレから脱却するのは良いことだが、短期的には、物価が賃金を上回って上昇すると、私たちの生活は苦しくなる。特に、所得水準が相対的に低い世帯では生活の負担感が増すだろう。一般的に、インフレは社会全体の格差を拡大する傾向がある。デフレ脱却に伴い政府は、“持たざる者”の生活苦が過度にならないようセーフティーネットの構築が急務である。

● 食品で値上げラッシュ!値上げ率平均19%

 24年4月、わが国の主要な食品メーカー195社は、2806品目の商品価格を引き上げた。7月までの価格改定予定を含むと、年間の平均値上げ率は19%にも達する。背景にはまず、原材料コストの上昇が挙げられる。

 欧州では異常気象でオリーブの不作が深刻化し、オリーブオイルの価格が高騰した。葉物野菜などの値段も高い。また、中東情勢の緊迫化も物価の上昇につながった。原油価格は、サウジアラビアが自主減産を延長などにより上昇した。紅海では武装組織フーシ派による商船への攻撃が激化し、スエズ運河の航行が困難になったことから、喜望峰を経由する船舶が増えている。異常気象による水不足でパナマ運河の通航制限も続いていて、タンカーの運搬コストは上昇の一途だ。

 また、4月から国内ではトラックドライバーの時間外勤務時間の上限が、年960時間に規制された(いわゆる物流の2024年問題)。物流大手企業はドライバーの賃金水準の維持、コスト転嫁のために配送料金を引き上げたことも食品価格の上昇要因につながった。

 春闘で多くの企業が賃上げに踏み切ったのも、モノやサービスの価格を押し上げた。24年春闘でベースアップ(基本給の底上げ)を表明する企業は増え、全体の賃上げ率は5.28%に達した(連合の第1次集計)。中小企業や非正規雇用者の賃上げも進みつつあり、人件費の価格転嫁を強化する食品メーカーも増えた。

 わが国の消費者物価指数を構成する品目において、食料品の価格上昇率は高い。総務省によると、3月中旬時点で東京都区部の消費者物価は前年同月比2.6%上昇したが、食料の上昇率は同4.9%と全体を上回った。

 電力料金も値上がりする。4月使用分の電力料金は、一般家庭で前月から441~579円高くなる見通しだ。これは、再生可能エネルギーの普及に向けて政府が電気代に上乗せする「再生可能エネルギー賦課金」の上昇によるものだ。

● 6月には再び大規模な値上げが…

 実は、6月に再び値上げを予定する企業も多く、その分野は対企業向けの資材から食品まで幅広い。一例として、神戸製鋼所は6月納入分から溶接材料を10%程度値上げする方針だ。また、カルビーは「じゃがりこ」などスナック菓子68商品を値上げする。店頭での価格は3~10%程度上がる見込みだ。

 原材料やエネルギー、物流費が上昇した分の価格転嫁は依然として十分ではない。24年問題に対応するために全国各地でバスの運賃も上昇している。外国人観光客(インバウンド)需要が旺盛なこともあり、飲食や宿泊分野でも値上げの勢いは強い。円安の進行や原油価格の上昇リスクが増しているため、今後も国内企業による値上げは増えそうだ。

 食品や日用品の価格が値上がりする一方、実質ベースの賃金は伸び悩み気味だ。2月の実質賃金(速報)は前年同月比1.3%減少し、23カ月連続のマイナスとなった。賃金の上昇ペースは物価上昇に追い付いていない。

 24年春闘で大手企業を中心に賃上げの機運が上昇し、一部で大幅なベースアップが実現したことは、個人消費を下支えする重要な変化だった。しかし、中小企業の賃上げは容易ではない。また、基本的にわが国の大幅な賃上げ交渉は年1回だ。賃上げの持続性を判断するには時間がかかる。

 短期間で名目の賃金上昇ペースが食料品と同程度か、それを上回る水準に到達する展開は期待しづらい。6月に再度、大幅な値上げが起きると、節約志向を強化する家計は増えるだろう。すると、個人消費の停滞や景気低迷への懸念が高まる。現在のわが国経済にとって、値上げの負の側面が、賃上げ効果を上回る可能性は高い。

● デフレ脱却のプラス面とマイナス面

 現在、わが国は本格的にデフレから脱却する重要な局面を迎えている。それに伴い、経済にプラス面とマイナス面、両方の影響が出ている。

 短期的には、家計の負担が増加することによるマイナス面の影響が懸念される。食料品の価格や電気料金の上昇で、家計は旅行や外食などの支出を減らすことが想定される。所得水準が相対的に低いほどその傾向は顕著だろう。そうした結果、消費が伸び悩み、景気の本格的な回復が遅れることが懸念される。

 一方、長い目で見ると、デフレからの脱却によって景気回復の可能性は上がる。株式や不動産などの資産価格が上昇することへの期待も高まる。また、デジタル技術の導入や新商品開発などで企業の収益性が上がり、賃金上昇の持続性が高まれば個人消費は活発化するはずだ。

 安定した所得の基盤を持ち、不動産や金融資産などを“持つ者”のメリットは増す。資産価格の上昇は“持つ者”の支出意欲を高め、高額商品の売れ行きが伸びるチャンスを増やす。

 反対に、“持たざる者”にとっては、マイナス面の影響が増大する。特に、非正規雇用者など、賃金水準が低位の層にとって食料品や家賃の上昇は大きな痛手だ。

 4月からは高所得の高齢者の介護保険料が増えた。高齢化の進行により、家計の社会保険料負担は増加しており、その中で物価上昇が定着すると、これから社会に出る新卒者などの生活苦が増す懸念がある。

 インフレのマイナス面の影響が大きくならないよう、政府は、低所得層への経済的な支援や、社会保障制度の改革を強化することが必要だ。また、政策を駆使して、多くの国民が自律的に高所得を目指す環境を整備すべきである。それらが、わが国全体でインフレの経済環境に対応するために不可欠な要件だといえる。

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最終更新:4/17(水) 6:02

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