メタにとって詐欺犯は"クライアント"…詐欺広告を流す輩に"加担"して「社会全体のせい」で逃げる噴飯声明

4/19 17:17 配信

プレジデントオンライン

Meta社の著名人になりすました詐欺広告に関する声明が大きな反発を呼んでいる。特殊詐欺などの取材を長年続けてきたジャーナリストの多田文明さんは「今、詐欺被害の多くは、Meta社のSNSの広告から誘導されて騙され、その被害は拡大の一途だが、同社はほぼ何も対策をしてこなかった」という――。

■前澤氏「詐欺広告なんてすぐ判別できるでしょ? なめてんの?」

 Meta社は「著名人になりすました詐欺広告に対する取り組みについて」の声明を4月16日に出しました。しかしそれを見て、筆者は愕然としました。

 〈2016年以降、チームと技術に200億ドル以上を投資してきました。これには詐欺対策も含まれ、プラットフォーム上の利用者を詐欺から守るための多面的な対策を講じています〉

 本当でしょうか?

 筆者はSNSの広告から誘導されて詐欺被害に遭った方々の聞き取り取材を長くしてきて、この言葉には大きな疑念を覚えます。

 実業家の前澤友作さんがMeta社の声明を受け、Xにて「まずは謝罪の一言は? 社会全体のせい?『審査チームには日本語や日本の文化的背景を理解する人を備えている』なら、俺や堀江さんや著名人が利用された詐欺広告なんてすぐに判別できるでしょ? なめてんの?」と言っていますが、その通りです。被害者を見ようとせず、寄り添おうともしない声明と受け取られてもしかたないでしょう。

 SNS上では前澤さんや同じく実業家の堀江貴文さんといった有名人の名前や写真を無断で使用して本人になりすまし、投資を呼びかけるニセの広告を信じた結果、金銭をだましとられる被害が続出しています。

 Facebookなどに出てくる、著名人になりすました広告からニセの投資サイトに誘導されての詐欺被害の拡大。それは結局のところ、プラットフォーム側が詐欺的広告に対して、ほぼ何も対策をしていなかったためです。

 SNSに出てくる広告から誘導される形での被害が多く起きているのを筆者が明確に認識し始めたのは、4年ほど前の2020年です。被害者から次々に報告が寄せられたことがきっかけでした。

 当時は、偽の通販サイトにアクセスさせて、商品の代金やクレジットカード情報を詐取されるという被害が中心でした。

 それまでもネット検索などをして出てきた通販サイトを通じて騙されることもありましたが、急にSNSの広告から誘導されての被害事例が多くなったのです。

 たとえば、こんなウソ情報がありました。

 「高島屋傘下の免税店はコロナウイルスの影響で、全体売り上げは去年より90%も落ちており、免税店を閉店する」ので「在庫商品のスーパーセールを行う」……そんなニセ広告がSNS上に出てきました。

 その頃は、コロナ禍ということもあり、多くの方がネット通販での商品購入をしていたので、そこを狙って有名企業になりすまして、ブランド品を格安で販売するという広告を出したのでしょう。

 実際にニセ通販サイトの業者の住所に直撃したこともありますが、まったくの架空の住所を記載していたことが判明しました。(参照記事:“銀座三越の偽サイト”をとっちめに記載住所へ…現場で仰天した本物「銀座三越」の神対応 ネット通販+代引きの騙し売り多発 2021/10/24)

■Meta社にとって詐欺グループはいわば“クライアント”

 当時、有名ブラントをかたるなどのニセ通販サイトが横行するなか、お金の騙し取り方も変遷していきます。

 ひと昔前は、ニセ通販サイト上に詐欺につながる銀行口座を記載してお金を振りこませていましたが、それだとすぐに不正口座として通報されて、銀行口座が凍結されたからでしょう。商品の注文をした後に、メールでお金の振込先を伝える手口も出てきました。

 この他にもニセ通販サイトでは、クレジットカード情報を入力させて、その情報を詐取することも多いですが、それだけではなく、商品の注文をすると偽ブランド品などを「代引き配達」で届けて、商品と引き換えにお金を支払わせる手口も登場して、被害は拡大していきます。中身を開けてみたら、偽物で問い合わせようにも相手の業者に連絡が取れない状況で、泣き寝入りしなければならないという被害です。

 そうした詐欺はほぼすべてがSNS上の広告を使って、ニセ通販サイトに誘導する形でした。この時、筆者が感じたのは、ついに詐欺グループは広告料というお金を払って(投資をして)も、消費者を騙す手に出てきたのかということでした。言ってみれば、Meta社にとって詐欺グループは“クライアント”というわけです。

 当時は、ツイッター(現X)の広告からということもありましたが、ある時期からはMeta社の運営するSNSの詐欺的広告を通じて被害に遭ったという報告ばかりが寄せられるようになります。

 2021年12月、ある女性が電動機付き自転車をクリスマスのプレゼントで買おうと思い、Instagramの広告に出ていた「超お買い得! 【一人当たり一台限定】先着60名様限定価格:1万400円」をみて、ニセ通販サイトにアクセスして被害に遭っています。

 ニセ通販サイトでは、有名メーカーの定価14万3020円の電動自転車が大幅に値引きされて、1万490円になっており「お得だ」と思い、注文画面をタップしてクレジットカード情報を入力しています。

 しかし商品はしばらくたっても届かず、詐欺ではないかと思い、クレジットカード会社に連絡します。しかしカード会社からは「カード決済が正式に済んでいる」といわれて、すぐには止められないといわれます。つまり、カード会社としては今の段階では「詐欺」とは確定できないので、様子を見てくれと言われたのです。このように、単にカード情報を盗むだけでなく、実際にそのカードでの決済もさせる手口も出てきました。

 今も、ニセ通販サイト詐欺の手口はありますが、より悪質化したのが前出の前澤さんらが激怒している有名人をかたった投資詐欺広告です。

 これが増えている理由は、日本人を狙う悪質な詐欺グループの台頭と、「日本では多額のお金を騙し取れる」という共通認識があるからでしょう。

 これまでのニセ通販サイト詐欺では、クレジットカードでの決済は1万円ほどで、カード情報がもし不正に使われても数十、数百万円の被害です。しかしニセ投資サイトに誘導すれば、ケタの違う数千万円、数億円もの多額のお金を奪うことができるのです。

 つまり、多くの人から少額を集めるよりも、ターゲットを絞り、本人が騙されたと気づくまで、多額のお金をとり続ける形のバージョンも駆使してきたわけです。今回の有名人をかたる詐欺広告は、これまでの有名ブランドをかたったニセ通販サイトの延長線上に出てきた手口といえるわけです。

■“カモ”にSNSに集中砲火する詐欺犯に“加担”しているも同然

 警察庁によると、SNS型投資詐欺(SNSの広告から偽投資サイトに誘導されての被害)における、令和5年の認知件数は2271件で、被害総額は約277億9000万円にも上り、1件あたりの平均は1200万円を超えている状況になっています。

 なぜ、著名人をかたる詐欺が起き続けているのかといえば、長年にわたり、SNSのプラットフォーム側において、対策がなされてこなかったことが大きな要因になっていることは間違いありません。

 今、筆者のFacebookに表示される有名人になりすます広告は、詐欺広告の撲滅の声をあげている前澤友作さんをかたる広告はさすがに少なくなっているように思いますが、その分、堀江貴文さんやひろゆきさんなどの著名人をかたったものが次々に出ています。

 こうした調査を長くしているからか、筆者のところにはその種の誘導広告しか出てこない状況です。その勢いは止まる気配は一切ありません。これではMeta社は、“カモ”にSNSに集中砲火する詐欺犯に“加担”していると言われる可能性さえあります。

 まれに正規の大手企業サイトの広告も出てきますが、まったく信用できずクリックすらしません。おそらく多くの読者も、詐欺広告の間に、通常の広告が出てくる状況が続いているのではないでしょうか。それは結果として、SNSの信用を失うことにつながっています。

 今、前澤友作さんが先頭に立って声をあげてくれているのは、彼は自分がなりすまされたことに加え、日本に住む多くの方々が被害に遭っている実情に胸を痛めたからこその行動でしょう。

 それに対して、16日のMeta社の声明は自らのSNSに出た広告を通じてどれほどの多くの被害者を出したかの責任に対する自覚のない言葉であり、誰が見ても薄っぺらな内容です。

 Meta社は絶対にこうした詐欺につながる広告を出さないようにするために、まずは過去において、どれだけ多くの被害を生み出してきたのかという実情に向き合い、今も多額のお金を騙し取られて苦しむ多くの被害者の側を向いた対応をするべき時を迎えています。



----------
多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。
----------

プレジデントオンライン

関連ニュース

最終更新:4/19(金) 17:17

プレジデントオンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング