77歳で「住宅ローンが返せない」、マイホーム売却しても残債ある現実《楽待新聞》
日本銀行は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利を0.25%に利上げするとし、15年ぶりの高水準となった。3月のマイナス金利解除から金利上昇の圧力は高まっており、今後は住宅ローン金利の引き上げも予想される。
さらに、世界的なインフレにより国内物価も上昇。ローン金利との二重苦になれば、返済に行き詰まる人は増えることが懸念される。
債務者にとっては厳しい状況が予想される中、そのリスクを抑える方法はあるのか。実際に住宅ローンの返済に苦しむ人や、住宅ローンの専門家に話を聞いた。
■年金だけでは払えない…任意売却を検討
マイホームを購入して27年になる佐々木さん(仮名、77歳)。収入事情の変化により住宅ローンの返済に行き詰まってしまったうちの1人だ。
佐々木さんは当時、北関東に木造2階建て・5LDKの新築マイホームを約4000万円で購入。変動金利1.5%、返済期間30年で住宅ローンを組んだ。ボーナス払い「あり」としたが、佐々木さんが定年を迎えたころ、ボーナス支給がなくなったことで返済計画の見直しを迫られることに。
ローン期間を35年に延長したものの、年金だけでは完済までの道が見えないという。現在の残債は1250万円。月々の返済は11万円だが、これが佐々木さんと妻の生活を圧迫していた。
「銀行に相談したけど、門前払いだったね。マイホームを手放そうにも『とにかく全額返済しないと売却もできない』と言われたよ」(佐々木さん)
この状況を心配した佐々木さんの娘が任意売却の相談窓口に連絡。「家に執着せずに余裕をもってほしい」との思いから、インターネットで情報収集を進めていたのだという。
この日は佐々木さんの状況を確認するため、「任意売却119番」の相談員・柴野茂之さんが自宅に訪れていた。
「今後は銀行と金額を話し合って、ご自宅を売り出していく形になるかと思います。現段階では佐々木さんが価格を決めることになるので、例えば『1200万円で売ってほしい』との依頼も受けられます」(柴野さん)
ただ、買い手が見つかるまでの間、ローンは変わらず返済することになる。柴野さんの話を聞きながら、佐々木さん夫妻は「どっちみちローンは残るのか」と呆然としていた。
この日は一旦、自宅の任意売却やリースバックなどの選択肢を含め、家族で話し合うことに落ち着いた。
■「売っても完済できない」現実に驚く人も
佐々木さんのように、マイホーム購入後、予想外の出来事で住宅ローンの返済が滞るケースはよくあるのだろうか? 任意売却119の代表・富永順三さんに話を聞いた。
「相談件数は、今のところ年間3000件くらいを推移しています。非常に困っている方が多いですよね。何らかの形で収入事情が変わり、住宅ローンを支払えなくなった方が多いです」(富永さん)
住宅ローンもしくは事業ローンを組んで不動産を購入した場合、本来は全額返済をしないと売却をすることができない。一方、残債を抱えた状態でも、金融機関との話し合いによって任意に抵当権を外し、売却することも可能なのが任意売却だ。
また、リースバックという選択肢もあるだろう。自宅を売却して所有権を他人に移転しつつ、同時に買主と賃貸借契約を結ぶことで自宅に住み続けることができる。
「住宅ローンは家計の中でも大きな固定費と言えます。収入が減ったからと言って減額することもできない。会社都合、転職や離婚、病気などの何からの理由で収入が減り、返済苦に陥ってしまう方が多いです」(富永さん)
富永さんによると、共働き夫婦が一緒にローンを組んで(ペアローン)都内のタワーマンションなどを購入する、いわゆる「パワーカップル」も多いという。離婚をしてしまった際に「1人では払えない」となるケースが増えてくるのではないか、と富永さんは予想している。
「もし払えなくなったら最悪売ってしまえばいい、と思っている方が多い気がします。実際に査定をしてみて、家を売ってもローンを完済できない現実を初めて知る方がたくさんいます」(富永さん)
不動産価格の動向など、なかなか予想できない部分もある。さまざまな可能性を想定しつつ、ローン設計をすることが重要だと注意を呼びかけた。
■住宅ローンは借りすぎに注意
一般的に、住宅ローンの延滞率は0.1%程度と言われている。1000人に1人の割合だが、実際にはどのような人が返済苦に陥るのだろうか。住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」の取締役・塩澤崇さんに話を聞いた。
「よく見られるのは、高額な借入をしてしまっている場合や、ボーナス払いをしている場合ですね。それ以外では、病気や離婚などで売却を余儀なくされるケースが挙げられると思います」(塩澤さん)
自宅を売却するとなれば、日常生活への影響は避けられない。思い出が詰まったマイホームを手放すだけではなく、場合によっては子どもの学区や通勤先を変える必要性も出てくるだろう。
「事前に手を打つことが大切」と語る塩澤さんに、借入金額の目安を聞いてみた。
「一般的な住宅ローンの審査基準は年収の7~8倍程度とされています。私が考える安全水域としては年収の5倍程度、最大でも7倍程度が目安です」(塩澤さん)
金融機関によっては年収の9~10倍まで貸付ける場合もあるそうだが、そこには物件の売却によって担保が回収できるとの判断も一部入っているとのこと。「借りられること」と「返済可能であること」は同義でないと注意を呼びかけた。
ペアローンについても、夫婦の覚悟が必要だと塩澤さんは話す。
「『何があっても夫婦2人で返す』と強く思っていることが大切です。2馬力での返済を前提にしていると思うので、配偶者が育児や介護などで一時的に戦線離脱しても、短期で復帰するような方策が必要になるかもしれません」(塩澤さん)
塩澤さんのモゲチェックでも、ペアローンのユーザーは1年前で15~20%だったところ、25~30%に増えてきたという。
近年の不動産価格上昇も影響しているのか、年収倍率としても少し高めのローンを組む人が増加傾向にあるようだ。
「ひとことで言うと、借りすぎないことが重要です。返済額が家計を圧迫しすぎないか、金利が上昇したらどうするか、家を購入する前に考えるようにしてほしいです。基準より少し高めのローンを組むなら、あらかじめリスクへの備えや方策を家族で話し合っておくと良いでしょう」(塩澤さん)
また、病気にかかるリスクに関しては、「疾病団信」への加入が有効だという。3大疾病(がん・急性心筋梗塞・脳卒中)などで一定の要件に該当した場合、住宅ローン残高に相当する保険金を受け取ることができる。
塩澤さんは、「ボーナス払いをせず毎月一定額を返済するとよい」としている。長期的な目線でリスクを織り込んだ返済計画を立て、返済に行き詰まることがないよう、きちんと対策を考えたい。
■経験者が語る「計画性」の大切さ
最後に、佐々木さん夫妻に現在の心境を聞いた。
「住宅ローンは35年とか長期間にわたるものが多いですよね。その間に子供が生まれたり、病気をしたり、当初の計画と変わってしまうこともある。老後に必要な資金もありますし、先のことまで計算しておかなくてはならなかったのに、私たちはあまり考えていなかったんです」(佐々木さん妻)
佐々木さん自身も、長期的な計画ができていなかったと後悔をにじませる。
「これから家を購入する人は、とにかく計画性を持つよう伝えたい。無理をすると後々しわ寄せが来るから『いつまでに返済する』と決めて考えるようにしてほしい」(佐々木さん)
不動産投資の楽待
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最終更新:8/4(日) 19:00