ロランDG争奪戦が問う特別委の役割、買う側か買われる側か

5/9 13:22 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): ローランドDGを巡るブラザー工業とタイヨウ・パシフィック・パートナーズの争奪戦で、ロランDGの特別委員会が果たす役割に疑問が投げ掛けられている。タイヨウが株式公開買い付け(TOB)価格を引き上げた直後、同取締役会の意見表明が「応募推奨」に変わったことで、特別委が適切に責務を果たしているのかが問われている。

タイヨウはMBO(経営者が参加する買収)を目指してTOBを実施しているが、4月26日、ブラザー工の提案する1株5200円を上回る5370円へと買取価格を引き上げた。その前の取締役会の意見は「中立」だった。

企業のガバナンス問題に詳しい東京霞ヶ関法律事務所の遠藤元一弁護士は「タイヨウが当初のTOB価格から引き上げたことについて、特別委は見解を出すべきだ」と指摘する。特別委は、タイヨウが引き上げた価格について答申で「少数株主に対して適切なプレミアムを付した価格」と評価したが、当初価格との差額には言及していない。

今年1月、取締役会がTOB価格5035円の引き上げを要請し、タイヨウがそれを拒否した際には、特別委員会が答申で「価格提案の妥当性を確認」と記していた。

公正性の確保

経産省が2019年に公表した「公正なM&Aの在り方に関する指針」では、MBOのような構造的な利益相反が生じる取引では、公正性を確保する措置の一つとして取締役会を補完する、独立した特別委の設置を挙げている。

遠藤弁護士は「特別委はタイヨウが当初の価格を抑えていた可能性がなかったのかをきちんとヒアリングして判断するべきだ。沈黙を保つことは資本市場に対する役割を十分に果たしているとは言いがたい」と話し、少数株主の利益を図る役割を担う特別委の責任を問う。

同社の特別委は独立社外取締役3人で構成される。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長を務める牛島総合法律事務所の牛島信弁護士は「外形的には独立している」と評価する。しかし、特別委は3月にリーガルアドバイザーを雇ったものの、フィナンシャルアドバイザー(FA)は採用していない。牛島弁護士は「慎重な特別委であれば、会社側の情報に依拠するのではなく、独立したFAを付けるのではないか」とした。

ディスシナジー

買収価格とは別に論点に挙がっているのが、ロランDGがブラザー工の提案に対して示しているディスシナジー(負の相乗効果)の懸念だ。ロランDGは、コンサルティング会社に依頼し、ブラザー工の傘下入りとなった場合、26年12月期決算に営業利益を50億円押し下げる恐れがあるとの調査結果を得たとする。

特別委はこの報告を引用しつつ、答申でディスシナジーの懸念に関する「当社執行部の説明は合理的」と結論付けた。だが、遠藤弁護士は「特別委は会社から独立し、業界の専門的知見を持った人が含まれるアドバイザーと独自に委任契約を締結して、ディスシナジーについて特別委として検証することが必要だったのではないか」と対応を批判する。

東京都立大学大学院の松田千恵子教授は、取締役会は本来少数株主(一般株主)の側に立つべきだとしたうえで、「現在の取締役会は多数株主、すなわちタイヨウの側に立って判断しているように見える」と語った。特別委についても「より企業価値が向上できると考えられる戦略の選択と、それに見合った企業価値の説明を公平中立に行うのが筋」だと指摘した。

ロランDGの広報担当者は、特別委としてブラザー工とのディスシナジーに対するロランDGおよびブラザー工と双方の見解を聴取したうえで中立な立場で慎重に検討してきたとした。

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最終更新:5/9(木) 13:22

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